2022年05月22日

【今週の風考計】5.22─バイデン米大統領が持ってくるお土産≠フ中身

何が話されるのか、長時間の日米首脳会談
「アイペフ」や「クアッド」を引っ提げて、バイデン米大統領が20日から24日にかけ、韓国と日本を訪れる。就任して1年と4カ月、初のアジア訪問となる。米国との同盟関係を深め、ロシアや中国への抑止力を強化するのが狙いだ。
東京では23日、岸田首相との日米首脳会談が行われる。目黒・八芳園でのバイデン大統領への<おもてなし>を、どうするか悩んでいるようだが、それはさておき、「日米で中国を共同抑止」するため、8月に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、わざわざ中国に対し異例の核軍縮を呼びかける日米共同声明が準備されているという。
さらに岸田首相は、来年、日本で行われる先進7カ国首脳会議(G7サミット)を、初の被爆地・広島で開催するようバイデン大統領に提案する段取りだ。
 待てよ、1カ月後の6月21日から開催される核兵器禁止条約締結国会議へのオブザーバー参加は、ほったらかしか。首相の地元・広島や7月の参院選に向けてのパフォーマンスといわれても無理はない。

バイデン大統領の最大の目的は「アイペフ」設立
さて聞きなれない「アイペフ」や「クアッド」とは何か。「アイペフ」とは、新たに米国が主導して設立する経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を言う。
 日本、オーストラリアに加え韓国や東南アジア諸国の参加を見込んでいる。データ流通のルール作りやサプライチェーンで連携し、地域包括的経済連携(RCEP)に加わる中国への対抗を念頭にした経済圏の構築を目指す。
 バイデン大統領が来日する大きな目的は、トランプ政権時に脱退した「環太平洋連携協定(TPP)」に代わり、この「アイペフ」の設立である。日本としては「ならば米国が唱えたTPPへの復帰を」と考えるのが常識だが、米国は無視。
いまだに「米国第一主義」が蔓延する現状で、もし関税撤廃や引き下げなど、米国市場の開放につながる動きがでれば、米国内からの大反対は必至。バイデン政権といえども、うかつにはTPPへの復帰など口にできない。
 この「アイペフ」という経済圏構想は、米国の関税引き下げがない以上、日本や東南アジア諸国のメリットはわずか。それでも米国に追随して参加とは情けない限り。

「クアッド」がもたらす余波
もう一つ「クアッド」である。米国・日本・オーストラリア・インド4カ国の協力でインド太平洋地域の外交・安全を強化する体制をいう。24日に首相官邸で「QUAD(クアッド)」首脳会合が開かれる。
 しかし、「クアッド」の一員であるインドは、中国を最大の貿易相手国とし、かつ武器やエネルギーをロシアから購入している。中国やロシアへ一定の配慮をしているだけに足並みがそろうのか、メドが立たない。
 オーストラリアも物価高騰に見舞われ、21日の総選挙でモリソン首相が退陣、野党に政権が交代するという混乱が続く。
どれだけ「クアッド」による安全保障が、東アジアの平和に寄与するのか。しかも「クアッド」を発展させ、韓国や台湾、カナダまで加えた「アジア版NATO」構想すら浮かび上がってきているという。
 こうした中国包囲の色彩が強まる軍事戦略的「クアッド」が進めば、中国はどう対応してくるか、これに参加する日本にも、すぐ難題が迫ってくる。(2022/5/22)
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2022年05月18日

【おすすめ本】高峰 武『生き直す 免田栄という軌跡』─死刑確定囚が再審無罪で生き直した重い人生を追う=大出良知(九州大学名誉教授)

 免田栄氏が2020年12月5日、95歳で亡くなった。死刑確定囚から一転再審で無罪、「自由社会」に帰ってから37年が経っていた。その重い人生が語るものは何か。
 地元熊本の新聞記者であった著者は、判決直後から182回にわたった連載「検証免田事件」の執筆にはじまり、取材を超えた免田氏との折々の交流により、彼の言動を正確に把握してきた。
 生前に寄託された段ボール20箱の資料に向き合い「日本人として初めての軌跡ともなった免田栄という一人の人間の『人生』と『思い』」を辿った評伝である。

死刑執行の恐怖との闘いだった獄中生活。無罪後も強いられた「虚偽自白」の弁明を求める「刺すような視線」に苛まれた日々。その中で初の死刑再審無罪者として死刑廃止と冤罪救済へ「本当の民主主義、人権意識を社会の中にどう根付かせるか」が、「一生をかけた仕事」との覚悟を、著者は見守り続けた。
 この評伝執筆により、あらためて「免田さんが本当に訴えたかったこと」が、「再審というのは人間の復活なんです」の言葉に凝縮されていたことに気づかされたという。
 それは「生き直し」という ことであり「『生きる』ということの普遍的意味の、免田さんなりの心からの気付きではなかったか」と著者は締め括る。 それは「人として認められる」ということでもあったのだろうという。

 ジャーナリストとしては異例とも思える寄り添い方をしてきた著者の「思い入れ」を共にし、 免田氏の稀有な軌跡を振り返ることで、司法のみならず社会の闇が見えてくる。ともかく「生き直し」を不可能にする「死刑だけはなくしてほしい」との遺言は重い。(弦書房2000円)
「生き直す」.jpg
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2022年05月15日

【今週の風考計】5.15─「侮辱罪」が狙う危ない内容・その<罪と罰>

現在、施行されている「侮辱罪」を、さらに厳罰化する刑法改正案が、審議に入って間もないのに、18日にも法務委員会で採決される。
 ネット上で中傷を受けた女子プロレスラーの死を受けて、現行の侮辱罪の法定刑「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」を重くし、「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」などの懲役刑を導入し、法定刑の上限を引き上げるという内容だ。
だが、その審議が進むにつれ、「侮辱」の規定のあいまいさや警察が執行する際の判断基準など、恣意的な運用への懸念から批判が高まっている。
 次第に「政治家への正当な批判を萎縮させ」、“権力批判封じ”に利用したい思惑や<言論・表現の自由>を侵害する改悪案の正体が、明らかになりつつある。
とりわけ怖いのは、「侮辱罪」の刑罰の上限が「懲役・禁錮」に引き上げられることにより、警察による現行犯逮捕は「想定せず」との政府統一見解があろうとも、通常逮捕は広く可能になることだ。今までの「侮辱罪」とは全く異質なものになる危険性である。

この間、国会でなされた政府答弁が、如実に、その正体を暴露している。「総理は嘘つき」との発言は、侮辱罪に該当するか? という野党議員の質問に、法務省刑事局長は「侮辱にあたるかどうかは答えられない」と明言を避けた。
 ということは「総理は嘘つき」との発言は、「侮辱」として判断され、場合によっては逮捕され、懲役刑が科される可能性があることを示している。
3年前、安倍元首相が札幌で街頭演説している際、「安倍辞めろ」などのヤジを飛ばした市民が、北海道警の警察官に排除された問題について、札幌地裁が、道警の違法性を認め88万円の支払いを命じる判決を出している。
 それにも関わらず、「北海道警の対応は適切だったのか」との国会議員の質問に、二之湯国家公安委員長は、「北海道警察のヤジ排除の処置は正しかったと思っている」と明言した。これはヤジを飛ばした市民にも、今回の「侮辱罪」が適用され、逮捕のうえ「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」に科せられる事態がありうるのだ。

「侮辱罪」にあたるかどうか判断するのは、警察・検察の捜査当局だ。時の権力の恣意的な判断により、市民や政治家のヤジ・言説・論評・批判が弾圧され、逮捕・勾留へとつながる危険性が高まっている。
 さらにライターや出版社に対し、「名誉棄損」を理由とした巨額の損害賠償請求訴訟、いわゆる「スラップ訴訟」が増えている。「侮辱罪」の厳罰化によって、本来尊重されるべき「言論・出版の自由」を脅かす刑事告訴・告発が濫用され、捜査対象になる危険が拡大する。
そもそも「侮辱罪」の厳罰化が、ネット上の誹謗中傷対策になるのだろうか。今回の法改正は、ダイレクトメッセージやメール、LINEなどでの誹謗中傷は処罰対象にはならないといわれている。
 日本弁護士連合会はプロバイダ責任制限法を改正し、発信者の情報を開示する要件の緩和、損害賠償額の適正化など、「民事上の救済手段の一層の充実を図るべき」と訴えている。まず政府は救済策の拡充に取り組むべきだ。(2022/5/15)
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2022年05月13日

【出版界の動き】続発する出版ジャーナリズムの根幹に関わる事態

3月の出版物販売金額は1438億円(前年比6.0%減)、書籍944億円(同2.7%減)、雑誌494億円(同11.7%減)。月刊誌419億円(同12.4%減)、週刊誌75億円(同7.5%減)。雑誌の売り上げマイナスは10ヵ月連続、返品率に至っては40%を超える状態が続く。

出版ネッツが「原稿料10%の引き上げを」業界団体に初めて要望─「報酬が30年間上がっていない」事態がある。フリーランスの立場は非常に弱く、報酬引き上げの交渉はしづらかった。
 出版社やネットメディアの社員編集者の給与は上がる以上、フリーランスだから10年前の水準でいいとはならない。また未払いトラブルも続出。口約束の発注が横行し、仕事に関する事前契約のズサンさが一因になっている。

出版協が「侮辱罪の厳罰化に反対する声明」─今回の侮辱罪改正法案は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」と規定しているだけで「侮辱」の判断基準が曖昧で、表現の自由が制限される恐れがある。
 さらに近年、企業や個人が表現者に対して、「スラップ訴訟」といわれる「名誉棄損」を理由とした巨額の損害賠償請求訴訟や名誉毀損罪による刑事告訴・告発の事例が増えている。侮辱罪の厳罰化によって、名誉毀損罪と同様、本来尊重されるべき言論に対して刑事告訴・告発などが濫用され、捜査対象になる危険が拡大する。
 個人に対するインターネット上の誹謗中傷をなくすためには、「発信者情報」の開示手続の簡素化などプロバイダ責任制限法の強化や、SNSなどのサービスを提供している運営者・管理者に対して、発信者情報の保存義務化・侮辱にあたる書き込みの削除要求に対する迅速な対応など、侮辱罪の厳罰化とは別の実効性のある対策を求めるべきである。

ロシア外務省、日本の雑誌編集長2人を入国禁止─「選択」編集人の湯浅次郎氏と「週刊文春」編集長・加藤晃彦氏を、入国を無期限で禁止すると発表。これまでに発表したロシアへの入国禁止対象者である岸田文雄首相ら日本の閣僚のほか、メディア関係者、ジャーナリスト、学者など計63人に追加。

アマゾンへの社会的批判が高まる─コロナ感染拡大により大幅な収益をあげたアマゾンのジェフ・ベゾスCEOは世界一の富豪となって、引退を発表したが、アマゾンに対する風当たりは厳しくなっている。
 全米書店協会(ABA)は3月、アマゾンが独占企業として、「排他的・反競合的」なダンピング値付けの違反行為に手を染め、出版業の発展に有害な行動に出ていると厳しく告発した報告書を提出した。
 アマゾンだけでなく、グーグルやフェイスブックといったIT企業も独禁法違反で裁かれ、解体か改善を迫られることになる。
 出版業の巨大化を阻む動きも世界中で起きている。ビッグ5の一つであるサイモン&シュスターを最大手ペンギン・ランダムハウスが買収する話は、米国のみならず英国でも反対の声が挙がっている(大原ケイ「アメリカ出版業界」より)。

第3者がゲラ検閲する暴挙─「週刊ダイヤモンド」に掲載する安倍元首相へのインタビュー記事につき、朝日新聞の峯村健司編集委員が安倍氏の意向を受けて、発売前にゲラを見せるようダイヤモンド編集部に要求した。編集部は「編集権の侵害に相当する」と抗議し、それを受けた朝日新聞社は調査の上、峰村編集委員を停職1カ月の懲戒処分にした(4/7付け)。
 インタビューを受けた本人が直接、掲載内容につき当該編集部に問い合わせるのならまだしも、第三者が発売前のゲラを閲読させるよう迫るなど、ジャーナリストとしての取材倫理に違反する行為は許されない。
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2022年05月11日

【おすすめ本】渡瀬夏彦『沖縄が日本を倒す日 「民意の再構築」が始まった』─「基地なき沖縄」に向けて真摯に模索する使命感=鈴木 耕(編集者)

 タイトルはかなり刺激的だが、内容は平易な文章で、政治社会論というよりは、人物に焦点を当てたノンフィクション作品である。著者は本土から沖縄へ移り住んで16年のフリージャーナリスト。だからこそ複眼的なものの見方ができる。
 本書では、とくに翁長雄志前沖縄県知事の無念の死と、彼の志を継いだ玉城デニー現知事に焦点を絞る。翁長氏の魂の継承者としての玉城知事の誕生を、ドキュメンタリー映画の手法で描いていく。翁長知事の鬼気迫る最後の奮闘ぶり、その後継者をめぐり右往左往するオール沖縄陣営。

 著者は書き手としての中立性は完全に無視、その選考過程で何を見たか、そして自身は玉城氏を推すためにどう動いたかを当事者として描く。そこに客観性を重視する類百の評論のような迷いはない。玉城氏を知事にしたい、そうしなければせっかくの翁長氏の闘いが無に帰してしまう。当事者としての使命感である。だからこそ読者を現場にいるように引き込んで止まない。
 しかし、そこで本書は終わらない。著者は沖縄の闘いを領導してきた「オール沖縄」の弱体化に心を痛める。その再生、そして沖縄を真の日本国憲法下の存在とするための「基地なき沖縄」にする道を模索する。

 最終章「少し長めのエピローグ」がいい。そこには、遺骨交じりの土砂を辺野古基地工事の埋め立て土砂に使うことに抵抗する「ガマフヤー」の具志堅隆松さんや名護市長選に立った岸本洋平氏の行動など、現在の沖縄がビビッドに映し出される。近来の沖縄本としては出色である。(かもがわ出版1800円)
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2022年05月08日

【今週の風考計】5.8─「伊東祐親まつり」と世阿弥との不思議な出会い

この連休、伊豆各地をブラリ・のんびり回ってきた。まず伊東駅に降り、バスで小室山へ向かう。海や大島を望む山頂へのリフト乗り場は、すでに長蛇の列。諦めて山の中腹から40種類・約10万本ものツツジを眺める。だが見ごろは過ぎ、北西の方向に富士山が青空を背に雄大な姿を現しているのが、せめてもの救い。
気を取り直し咲き終えたツツジや葉桜の下をくぐり、ツバキが植わった園内にある富士見亭の名がつく庵で小休止すると、姿は見えないがウグイスの鳴き声が聞こえてくる。まわりの木には花もないのに、なぜ木から木へと移って鳴くのだろう、気になった。
市街に戻ると、「伊東祐親まつり」のポスターが目につく。NHK大河ドラマ<鎌倉殿の13人>に登場する伊東祐親だ。すでにドラマでは自害して退場しているが、この14日から15日にイベントが開催される。

伊東祐親について検索してみたら、三女・八重姫が、なんと敵方の源頼朝と恋仲となり千鶴丸を生むものの、祐親の命によって死に追いやられる。さらに頼朝を巡って北条家とも敵対関係に陥る。長男の祐泰は相撲の神様といわれる怪力の持ち主。そしてその子・五郎十郎は父・祐泰および祖父・祐親の仇を討つ「曽我物語」の主人公だと分かった。
この「曽我物語」の由緒にも関わる「伊東祐親まつり」は、有形文化財に指定された東海館を背に、松川の流れに特設舞台を設け、篝火を燃やして伊東祐親を偲びながら、幽玄な「薪能」が繰り広げられる。
 今年の演題は、まず狂言「蟹山伏」、野村萬斎が演ずる。これも検索すると、山伏と強力の二人が山中で蟹の精に出会い、耳を挟まれた強力を助けようと、山伏が懸命に念力をかけるが効かず、山伏まで耳を挟まれるというお話だ。数年前、この舞台で萬斎が演じた「蚊相撲」を見たとき、その軽妙なしぐさが思い浮かぶ。
メインは、能「鵺(ぬえ)」である。またまた調べると、旅の僧が川近くのお堂に泊まった際、源頼政に殺された「鵺」の亡霊が現れ、自らの救いのない滅びへ至る運命を切々と語る。そして「鵺」の亡霊は成仏を願いながら、夜の川波に消え失せる、というストーリー。伊東祐親の運命とも重なる。
 『平家物語』の文章を、ほとんどそのまま生かして作詞がなされ、戦いに敗れた者の悲しみを作曲した、世阿弥の傑作だという。

そして帰宅した翌日の朝刊をめくると、驚くなかれ、世阿弥に触れたエッセイに出会った。愛読している<ねんてん先生の文学のある日々>(赤旗5/6付)である。世阿弥が知られるようになったのは、『風姿花伝』が発見された明治41(1908)年、死後465年もたってからだという。松尾芭蕉も正岡子規も「世阿弥をまったく知らなかったらしい」と、ねんてん先生は驚いている。
筆者もビックリ、伊東で目に入った<祐親まつり>のポスターから、思いが及んだ世阿弥。ますます生涯が知りたくなる。購入しようか迷っていた藤沢周『世阿弥最後の花』(河出書房新社)を、さっそく読んでみよう。(2022/5/8)
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2022年05月06日

【焦点】外苑樹木伐採に反対運動が拡大 厳粛な景観が消える 6月都議会で審議=橋詰雅博

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 年内にも工事が着手される明治神宮外苑の再開発をめぐり樹齢100年を含む約1000本の樹木伐採に反対する運動が広がっている。
 宗教法人・明治神宮が地権者であるこの外苑は、国内外からの献金と約54種3190本に及ぶ献木によって造営された。竣工した1926年(大正15年)には日本で初の風致地区「東京都都市計画・明治神宮風致地区」として指定された。その景観は世紀を超えて継承されているいわば「歴史的環境遺産」と言っていいだろう。
 市民団体「神宮外苑を守る有志ネット」が4月29日に実施したオンライン講座に出演した千葉大学名誉教授の藤井英二郎さん(環境植栽学)は「約1000本の樹木を伐採してしまったら文化財といえるような厳粛な景観が消えてしまう。伐採は論外だ」と話した。

 都心での樹木の大きな役割は過去100年で気温が3度上昇したヒートアイランド現象の歯止めになる。藤井さんがこう語った。
 「都市部のヒートアイランドは悪化する一方で、このままでは今世紀末には4.5度も気温が上昇すると計算されている。これを防ぐには樹木をできる限り残すことが必要です。1000本の樹木の周辺は気温が2、3度低い。夜間に冷たい空気を取り込み冷やす効果が極めて高い。枝葉は直射日光を防ぎ、熱がたまらない役目をしている。ヒートアイランドの低減につながる。数十年先を見越しいまある樹木を大切に扱うことが大事です。伐採はとてつもない無謀な行為そのものです」

 再開発事業者は移植すればいいと提案しているが、これについてはどうなのか。
 「ほとんどが大木ですから根が相当に深く広くはっている。移植作業の際には、根鉢する。つまり根などを切る。邪魔な枝葉も切り落とす。木へのダメージは大きく、水分を十分に取れず、木は育たない。移植では従来の樹形を保たせることは不可能です。移植は避けるべきだ」(藤井さん)
 再開発で高層ビルが建てば、強いビル風で残されるというイチョウ並木の枝葉が落ちる心配もあると藤井さんは指摘した。
 3月下旬に市民団体が神宮外苑の歴史景観と環境保全に関する陳情書を都議会に提出した。6月の都議会で審議される。
 100年近く都民に提供してきた緑のオアシス≠奪ってはならない。
  橋詰雅博
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2022年05月01日

【今週の風考計】5.1─憲法9条をズタズタにする悪乗り提言≠フ怖さ

許すな! 9条つぶしの策動
★今年は日本国憲法が施行されて75年。私たちが守り育ててきた平和憲法、そのなかでも最も大切な<第9条:戦争の放棄、戦力および交戦権の否認>が、ズタズタにされようとしている。
★自民党がまとめた「敵基地攻撃能力の保有」に向けた提言は、専守防衛をかなぐり捨て、敵ミサイルの発射地点だけでなく、国の指導部や軍司令部の「指揮統制機能等」まで攻撃対象に加え、その攻撃能力を拡充するため、軍事費を5年以内にGDP比2%・10兆円に倍増するという。
 戦争を放棄し戦力は持たないとする国が、米国と中国に次ぐ第3位の軍事大国になるとは、正気の沙汰ではない。

★今から8年前の安倍政権時代、なんと臨時閣議で米軍との「集団的自衛権の行使容認」を決めてしまい、さらに翌年には、時の政権が「存立危機事態」と認定すれば、自衛隊が武力行使や米軍などへの後方支援まで可能にしてしまった。
 この現実がある上に、さらに「敵基地攻撃能力の保有」が上積みされれば、日本が攻められていなくとも、自衛隊が米軍と一体となって敵基地や国や軍の中枢部を攻撃できることになってしまう。まさに先制攻撃も可能なのだ。
★ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾有事、北朝鮮のミサイル開発を理由に、外国への先制攻撃をも企てる悪乗り提言だ。これに日本維新の会が「核共有」も含め同調し、国民民主党まで9条改悪を唱えている。
 憲法99条には、<国会議員は憲法を尊重し擁護する義務がある>と明記されている。それを破るだけでなく、憲法破壊に手を出すとは、腹立たしいこと極まりない、許せない!

「核抑止論」から核の廃絶へ
★軍事に軍事で対応すればどうなるか。ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻に際し、口にする発言が、はっきり証明しているではないか。プーチンは、他国がウクライナに介入するなら電光石火の対応を取るといい、<核の使用という恫喝>を口にしている。
 しかもプーチン自身が、核使用によってこうむる悲惨が、自国民のみならず世界人類に及ぶことを承知しての発言だから恐ろしい。
★こうした状況を踏まえれば、「核抑止論」に基づく軍事均衡・戦争抑止など、いまや砂中の楼閣であるのがはっきりした。しかも核を持たない日本が、米国と「核共有」して自衛力の強化を図るなど、その結果に対する無責任さは極まりない。
 まず米国の核兵器が日本に置かれ「核共有」となれば、米国の敵対国からは日本が攻撃対象になるのは歴然だ。しかも米国に核兵器使用の決定権が握られ、日本の主権が及ばないとなれば、もろに国民は悲惨な事態に置かれるのは自明ではないか。
★唯一の戦争被爆国である日本こそ、核兵器禁止条約を批准すべきだ。60カ国・地域が批准した核兵器禁止条約の締約国会議が6月21日から3日間、ウィーンで開かれる。批准していない日本は、オブザーバーで参加し核廃絶の声を汲み上げるべきだ。(2022/5/1)
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2022年04月27日

【好書耕読】沖縄タイムス編『庶民がつづる沖縄戦後生活史』─米軍の沖縄占領を考える=謝花直美(沖縄タイムス記者)

 沖縄の占領開始から施政権返還までの27年間は、沖縄の言葉で「アメリカ世(ゆー)」と呼ばれた。その時代を生活史の視点から捉えた、沖縄タイムス編『庶民がつづる沖縄戦後生活史』(沖縄タイムス社1998年)を挙げたい。
 「沖縄タイムス」が戦後50年の節目に、50のキーワードを立てて、読者投稿を募り、紙面に掲載後に一冊にまとめたものだ。
 飢えや物資不足で米軍の食糧や物資を持ち去る「戦果(せんか)」という言葉も、その時代を象徴する。「ライス10俵の戦果を隠語で母艦10隻撃沈と言ったり、洋酒8ケースの戦果は戦艦8隻撃沈と言ったり、大本営発表のような言い回しだった」という。
 また、「戦果」の酒がメチルアルコールではなく、医療用アルコールであったことに安堵し「ヌチヌスージ(命拾い祝い)」をした笑い話もある。厳しい現実にありながらも、占領者への対抗意識からユーモアを交え表現するしたたかさが伝わる。

 いずれの文章も、人々が知恵を絞って歩む様子を生き生きと伝え、喜怒哀楽とともに生活を記録する。
 四半世紀たっても同書が古びないのは、国際政治史や米軍への抵抗を主軸とした沖縄戦後史に登場しない人々の姿が描かれているからだ。
 一方、同書は現在の沖縄と「復帰」の向き合い方にも課題を投げかける。「アメリカ世」を懐かしさや「異文化体験」に留めず、生活史としていかに描くかという課題だ。
 「懐かしい」生活史の事象は占領の現実と共にある。いまだに沖縄戦後史の襞(ひだ)にいる人々と向き合い、米軍占領がもたらしてきた現実と往還しながら書くことが求められている。それは、当時の人々の生存が、いかに占領に規定されていたのかを示し、同時に現在の沖縄に与えている影響を考えることでもある。
 復帰50年、戦後77年の年に、沖縄占領を生活から知るための貴重な書だ。
『庶民がつづる沖縄戦後生活史』.jpg
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2022年04月24日

【今週の風考計】4.24─日本の「敵基地攻撃能力」とロシアの「ワグネル」

先制攻撃につながる悪乗り提案
自民党の安全保障調査会が、「敵基地攻撃能力」の保有に向けた提言をまとめた。いくら「攻撃」を「反撃」と言い換えても本質は変わらない。
 一つは、専守防衛をかなぐり捨て、敵ミサイルの発射地点だけでなく、国の指導部や軍司令部を視野に入れ、「指揮統制機能等」も攻撃対象にして機先を制する。
 二つは、軍中枢部の動向を把握・監視する衛星の拡充、監視範囲外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の補強など、さらにはハイブリッド戦争に備え、新たに膨大な装備が必要になるゆえに、防衛費をGDP比2%・倍増の10兆円にする。

とりわけ中国が人民解放軍の創設100年にあたる2027年までに台湾を侵攻する可能性が高いと判断し、防衛費倍増を5年以内に実現する。財源については全く触れず、財政難でも防衛費を「聖域化」するハラだ。
 三つは、武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転三原則」を緩和し、殺傷力のある「武器・弾薬の輸出」を可能にする。
こう見てくると、ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾有事を利用して、憲法9条の改悪から核共有に始まり、敵基地攻撃、武器輸出など、短絡的な悪乗り提案を行う自民党の策動は、極めて悪質だ。

ウクライナ侵攻の陰で動く「ワグネル」
ロシア軍がウクライナに侵攻して2カ月、やっと南東部の要衝マリウポリを制圧したと誇る。だが今もって市内のアゾフスタール製鉄所を拠点に、ウクライナ政府の直轄部隊となった「アゾフ大隊」が抵抗を続けている。
 この「アゾフ大隊」こそ、2014年にロシアがクリミア半島を併合する際、激しく抵抗し闘った部隊だ。ロシアは「アゾフ大隊」を「民族主義に凝り固まったネオナチ」と決めつけ、ウクライナ侵攻の正当化に利用し、「アゾフ大隊」制圧に躍起となっている。

その陰で、プーチン政権と密接なロシアの民間軍事会社「ワグネル」の汚い動きが、いっそう明らかとなってきた。ロシア軍には「ワグネル」に雇われた傭兵が千人ほどいて、その混成部隊がマリウポリをはじめ、ウクライナ東部・ドンバス地方に移動し戦線に就いている。
 「ワグネル」の正体」とは何か。プーチンの料理人を務め実業家となった親友エフゲニー・プリゴジンが資金提供しているロシアの民間軍事会社(PMC)である。軍事の仕事を請負い、雇った傭兵からなる特殊部隊を組織し、サイバー戦争、プロパガンダ工作、ハイブリッド戦争に従事させている。
アフリカでの人権侵害やリビアおよびシリアでの戦闘にも関与したといわれる。マリやモザンビーク、スーダンにも派遣され、代理戦争を担ってロシアの影響力を行使し、油田などの戦略的利益を手にしたという。
ウクライナでは、ロシア軍正規兵の死を少なく抑えるため、プーチンは<捨て駒>として「ワグネル」の傭兵を投入、人権侵害に対する国際的非難からも、国としての責任はないと距離が置ける。まさに一石二鳥の役を担わされている。
 月給は2,650ドル(29万円)、3カ月任務をこなすと1万5000ドル(165万円)のボーナス。指揮官の給料は3倍。年収に換算すると一戦闘員で1000万円ほどだという。

日本軍が辿った道への反省
日本でも、ロシアに見習い「ワグネル」まがいの民間軍事会社が設立される可能性だって、否定できないのが現実だろう。給料に惹かれて入社する人たちも出てくるだろう。
 加えて、日本政府自体が「敵基地攻撃能力」の保有・開発のために、この民間軍事会社を使うことにでもなったとしたら、どうなるか。
アジア・太平洋戦争へと突っ込む契機となった日本軍の「満州事変」を思い起こすべきだ。「満鉄」や馬賊などの民間組織を活用しつつ、中国東北部・満州にまで関東軍を派遣して満鉄爆破事件を起こし、さらには市民虐殺に奔り、南京政府の「指揮統制機能」を壊滅し戦争拡大へと突っ走った。
 プーチンのウクライナ侵攻のシナリオにそっくりではないか。いま自民党が企てる「敵基地攻撃能力」保有の危険性は、見過ごすわけにはいかないのだ。(2022/4/24)
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2022年04月20日

【おすすめ本】西谷文和 編『自公の罪 維新の毒 次こそ政権交代。7つの解毒剤』─ズバリ今の日本を変える提言!=矢野宏(新聞うずみ火代表)

 編者の西谷文和さんは中東などの紛争地を取材し、戦争の実相を伝えるフリージャーナリストの他に、もう一つの「顔」がある。ネットで「路上 のラジオ」を主宰し、ゲストから本音を引き出すパーソナリティーだ。 大手メディアが発信できない内容に、一家言持った7人が踏み込んだ対談を、まとめたのが本書だ。

 関西学院大の冨田宏治教授は、衆院選結果から維新の「躍進」の謎を解明。「大阪維新の会」結成12年、大阪で強固な地方組織を築き上げたことで「風頼みの政党」から脱却したと分析する。
 政治経済評論家の古賀茂明氏は、原発推進や派遣労働の推進による格差拡大など「自民党5つの大罪」を取り上げ、評論 家の佐高信氏は「共犯者」としての公明党の罪を批判している。
 医学博士の上昌広理事長は、新型コロナ対策の失敗は「厚生労働省の医療技官を中核とする感染症ムラの責任だ」と強調する。京都大の藤原辰史准教授は「加工貿易にシフトしたため食料自足率を下げてしまった」政治の責任を追及している。
 「ご飯論法」の命名で 知られる法政大の上西充子教授は「野党は反対ばかり」という「呪いの言葉」を解く重要性。また 映画「パンケーキを毒見する」の内山雅人監督は「選挙に行かなければ『上級国民』だけがいい思いをする」と強調。

 西谷さんは「夏の参院選のカギは投票率」と指摘し、「それぞれの地域で野党共闘の力を伸ばそう」と訴える。この国を救う「解毒剤」は何か、気づかせてくれる必読書だ。(日本機関紙出版センター1400円)
「自公の罪  維新の毒」.jpeg
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2022年04月17日

【今週の風考計】4.17─国が進める原発・汚染水処理や再稼働へ募る疑問

原発汚染水の海洋放出─政府が、11年前に起きた福島原発事故による放射能汚染水を、海洋に放出すると決めて1年がたつ。汚染水を希釈処理したうえ、海底トンネルを作って1キロ先の三陸沖・水深12メートルの海洋に放出する計画だ。
 漁業従事者の怒りは収まらない。魚介類に対する放射能汚染という風評被害が、再び起きる事態を考え、海洋放出に猛反対している。だが政府は、来年春の実施に向け、一連の海底トンネル工事を進める。その費用350億円、漁業者向けの風評対策基金300億円を大きく上回る。
東京電力は、貯蔵タンクに保管された処理水に、さらに大量の海水を注入してトリチウム濃度を希釈し、排出基準値の40分の1未満に薄めて海へ流すという。
 待てよ、肝心のタンク内のトリチウムは、すでにタンク内に生息するプランクトンなど有機物の体内に取り込まれている。それが海洋に放出され、海洋で他の魚に食べられ濃縮していく。この食物連鎖による生物濃縮まで絶つことはできない。
 海洋放出という浅はかな決断が、さらにトリチウムによる健康被害を広げる結果を招くことになる。

執着する原発再稼働─北海道・積丹半島の西側付け根にある泊原発が、運転を3基全て停止してから10年がたつ。いまだに北海道電力は再稼働に執着し、無駄な労力を費やしている。原発が立地する泊地域の活断層の存在を巡って議論が紛糾し、地震や津波への対策が不十分で、再稼働に向けた審査が9年近くにおよび、1年遅れの来年9月に、結論を出すことになった。
いま新規制基準に則った再稼働申請がされている原発は、全国で16原発27基。そのうち審査が続く7原発10基は、想定される地震や津波の大きさを巡る議論が難航し、結論を出せる時期すら見通せない。これも地震多発国である日本で、原発再稼働にこだわった国の思慮の浅さの結果だ。

チェルノブイリ原発への銃撃─26日は、ウクライナのチェルノブイリ原発事故が起きてから36年となる。爆発を起こした4号機は「石棺」で覆われ、さらに「石棺」を覆う巨大なシェルターも設置された。しかし、今もなお大量の使用済み核燃料があり、放射性物質の飛散を防ぐ対策が続いている。
ウクライナに侵攻したロシア軍は市民虐殺に加え、チェルノブイリ原発周辺を1カ月ほど占拠し、高圧送電線を破壊し停電が発生、使用済み核燃料を収めた冷却プールの冷却が停止する危機に陥ったといわれる。さらに同原発から高レベルの放射性物質を盗み出したとの情報もある。
プーチンの国策プロパガンダに煽られ、チェルノブイリ原発に加えたロシア兵の暴挙は、原発へのテロや軍事攻撃に対処する難しさを浮き彫りにした。原発再稼働よりグリーン・エネルギーに力を入れるべきとの声が大きくなっている。政府も原発に頼るエネルギー政策を改めよ!(2022/4/17)
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2022年04月13日

【おすすめ本】リュドミラ・ウリツカヤ『緑の天幕』(前田和泉訳)─ソ連時代を生きた人々の心情や苦闘を描く大河ドラマ=萩山拓(ライター)

 本書は独裁者ヨシフ・スターリンが死んだ1953年から、1991年のソ連崩壊を経て、亡命詩人ヨシフ・ブロツキーが亡くなる1996年までの43年を、綿密に描いた718ページに及ぶ大河長編である。
 ソ連が崩壊へと向かう激動の時代を背景に、カメラ、詩・小説、音楽に傾倒する少年3人組が、ロシア文学をこよなく愛する教師からの薫陶を得て、国家による出版統制のさなか、好きな文学作品を広く読んでほしいと、「サミズダート」(自主的な地下出版)に携わる。
 ソルジェニツィン『収容所群島』を筆写して私製本を作り、友達に回覧したものの、たちまち密告されて家宅捜索、タイプライターなどが没収される。
 また禁書になっているパステルナーク『ドクトルジバゴ』を読んでいたことがバレ、職場を追われる。絶えずKGBの尾行がつき、逮捕、ラーゲリへの収容など、その恐怖にかられる過酷な生活へと追い込まれていく。

 密告と監視の中で挫折を味わい、目標を見失い居場所を求めてもがく。体制に抗う人々は、すべて自由を制限され抑圧された環境に放り込まれる。だが互いに助け合い困難を乗り越えていく。
 長編の構成をとるものの、それぞれ苦闘する人物のエピソードを連作短編にして、細かい叙述を積み重ね、彼らがどのように考え、どう行動したか、その赤裸々な姿を浮かび上がらせている。
 しかも文中には、数多くのロシアの作家や詩人を取り上げ、その作品からの一節が通奏低音のように流れている。
 著者ウリツカヤもまた1943年生まれ、この激動の時代を共に苦しみながら生きてきた。そして今もなお活躍している女流作家だ。
 ソ連時代、KGBに所属していたプーチンが、ウクライナを侵略し市民を虐殺している現在、本書の示唆する意味は、極めて重い。(新潮社クレスト・ブックス3800円)
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2022年04月10日

【今週の風考計】4.10─なぜ日銀は「異次元緩和」をやめないのか?

日本銀行の総裁が白川方明氏から黒田東彦氏に交代したとき、オセロにたとえ「白が黒にひっくり返った」といわれ、その後<い澄んだい泥に呑み込まれた>事態が続き、9年がたつ。
 黒田総裁は安倍元首相の意を汲んで<アベノミクス>の実現を目指し「異次元緩和」へと突っ走った。「異次元緩和」で投資が進み経済が成長すれば、賃金も上がるという「トリクルダウン」理論にしがみついたが、賃金は上がらず、景気は低迷したまま。
「2%の物価上昇」も幻だ。いま日本の全国消費者物価指数は0.8%。来年2023年度の物価指数でも1.0%にとどまる。
 「異次元緩和」を開始した当初、日銀は「必要な施策をすべて講じて、2%の物価上昇を2年以内に達成する」と豪語した。だが一度も達成されず。しかもいまだに「粘り強く金融緩和を続ける」と言うのだから呆れる。

「異次元緩和」は何をもたらしたか。本来、日銀は「物価の安定を図り、国民経済の健全な発展に資する」ため、時の政権からは自立して、正常な「金利」を維持する役目がある。ところがその姿勢を放棄してまで、ゼロ金利政策を23年も続け、6年前にはマイナス金利すら導入した。
 それは大量の国債を発行するだけでなく、株式市場にまで介入し大企業の株式で構成する投資信託(ETF)を買い集め、資金注入するという<アベノミクス>のためだった。
その結果、今や国債の発行残高は1000兆円を超え、先進国では最悪の残額だ。その半分を所有する日銀の返済が国家破産につながりかねない状況にある。
 日銀が保有するETF残高も36兆円に膨らみ、東証1部時価総額の約7%を占める。まさに日銀が日本株最大の株主、「ここまで中央銀行が株式市場を支配する資本主義国はない。企業の新陳代謝が進まず、成長率が低下する一因」とまで指摘されている。

もう一つは、日本経済に投機とバブルをつくり出し、潤ったのは大企業・大株主と富裕層ばかりという事態だ。大企業(資本金10億円以上)は内部留保を、この8年間で130兆円増やし、今や466兆円にのぼる。
 その陰で、政府の進める労働法制の規制緩和により、ギグワークやシフト制などの非正規労働者が増加し、賃金は上がるどころか逆に低下を招き、経済格差は広がるばかり。
また「異次元緩和」のうちでもマイナス金利は、銀行や金融機関の経営を圧迫し、顧客から手数料を徴収するなど、銀行への預貯金の魅力が薄くなっている。年金運用にも支障が生じるなど、副作用が深刻になっている。怖いのは日銀が管理する通貨への信頼が揺らぎ、「仮想通貨」への換金など様々な歪みをもたらしていることだ。

マイナス金利が続く日本の金融市場では、円を売ってドルを買う動きが加速し、さらなる円安が進む。円安は海外進出企業には利益をもたらす半面、輸入に頼る国内産業や国民の食生活に打撃を与え、食料や電気などの相次ぐ値上げが続き、弊害があらわになってきた。
 米国の経済学者が、「金利の低下政策は、いずれ生産性上昇率を低下させ、経済全体の活力を弱める」と述べている。日銀も肝に銘ずべきだ。(2022/4/10)
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2022年04月08日

【出版界の動き】ウクライナの都市名変更に対応が迫られる出版社

★22年2月の出版物販売金額1079億円(前年比10.3%減)。書籍677億円(同5.7%減)、雑誌402億円(同17.0%減)。月刊誌335億円(同18.8%減)、週刊誌67億円(同6.4%減)。雑誌は6ヵ月連続2桁のマイナス。
★21年のコミック全体の販売金額6759億円(前年比10.3%増)の4年連続プラス、その内訳は紙のコミックス2645億円(同2.3%減)、電子コミックス4114億円(同20.3%増)。21年の出版物販売金額1兆2079億円の半分を超える。
★講談社の決算─売上高1707億7千万円(前年比17.8%増)、営業利益217億円(同35.6%増)、当期純利益155億6千万円(同43.0%増)の過去最高。

★出版協は4/1に、「サイバー警察局」を創設する警察法の改正に強い懸念を表明する声明を発表。サイバー領域での市民の個人情報保護の強化を求め、捜査情報の収集・管理・抹消に関する法律と、徹底した個人情報保護の法律を作る必要があり、早急な法律の整備を強く要求する。
★政府がウクライナの都市の呼称を、ウクライナ語読みの「キーウ」「チョルノービリ」に変更したため、地図や教科書の出版社が対応に追われている。その中で平凡社地図出版(東京)が製作する複数の地図では、すでに2019年ごろからウクライナ語読みに続けて括弧内にロシア語を併記するよう順次修正している。

★マンガの聖地・トキワ荘のある東京都豊島区南長崎に、マンガ×学びの拠点「マンガピット」が3/31にオープン。場所は低層の商業施設「味楽百貨店」内。原画を展示する「E Gallery」や書店「マンガナイトBOOKS」が併設されている。
★文庫本は低価格とサイズの小ささから、「ワンコイン」で購入というイメージが出来上がっていたが、この20年で平均価格は25%値上がり。一冊800円を突破。
出版科学研究所の調査によると、文庫本の税抜きの新刊平均価格は2021年に732円、2001年の587円から約25%上がった。税込みでは805円となり、今や1000円を超える文庫も海外ミステリ分野では当たり前になっている。
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2022年04月06日

【焦点】森元首相が暗躍$_宮外苑再開発 緑奪い高層ビル次々 ラグビーW杯・五輪も口実=橋詰雅博

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                 再開発の予想図 

 「この一帯を再開発できたら、スポーツ施設とオフィスビルなどからなる都内有数の一大ゾーンができる」――伊藤忠商事東京本社(港区外苑前)の幹部社員が部屋のガラス窓から見える秩父宮ラグビー場や神宮球場などに視線を移しながらつぶやいた言葉を筆者は20数年過ぎた今でも鮮明に記憶している。
 伊藤忠や三井不動産、日本スポーツ振興センター、宗教法人・明治神宮などが事業主となった明治神宮外苑前地区の再開発案が都市計画審議会で2月に承認された。日本初の景観を守る風致地区に指定され100年近く緑のオアシス≠都民に提供してきた神宮外苑は、樹木が伐採され再開発で一変する。高さ190bと185bのオフィス・商業施設が入る高層ビル2棟や80bの宿泊・スポーツ関連施設ビル、60bのホテル併設の神宮球場、55bの秩父宮ラグビー場などが2036年までに建設される見込み。

国策と住民を退去
 引き金は国立競技場の建て替え。ラグビーW杯会場(建設が間に合わず実現できなかったが…)とオリンピックメイン施設という口実で、高さ制限など各規制が大きく緩和された。また都は「国策」を理由に都営霞ヶ丘アパートから強制退去を求めた三百世帯の大半は、16年1月までに別の都営アパートに移った。新国立競技場(高さ49b)の収容人数を8万に広げたのは、邪魔な霞ヶ丘アパートを取り壊すためといわれている。

展開は急速度で
 都が19年に正式公表したこの再開プロジェクトには「森喜朗元首相が深く関与している」と指摘するのは『亡国の東京オリンピック』の著者でジャーナリストの後藤逸郎さんだ。
 「森元首相が日本ラグビーフットボール協会会長のときの09年7月に19年ラグビーW杯開催が決定した。それ以降から物事が速いスピードで動き出した。10年末に都は国立競技場一帯のスポーツ・クラスター構想を発表。JOC(日本オリンピック委員会)は11年に20年オリンピックへの立候補をIOC(国際オリンピック委員会)に申請した。翌年の12年5月に当時衆議院議員の森元首相は都の佐藤広副知事、安井順一技監と議員会館で面談している。面談メモが都議会で暴露され問題になったが、私も情報公開請求で一部黒塗り資料を入手した。この時点で今の神宮外苑再開発案は固まっていた」(後藤さん)

采配するうま味
 面談メモのおよその中身は―。副知事と技監が神宮外苑再整備の概要を森元首相に説明。そして森は「(霞ヶ丘アパートの)住民の移転は大丈夫か?」と質問。副知事は「他の都住に移転してもらえるために国策として計画を進めていく」と答える。さらに森の「(オリンピック招致)が×になったらどうする?」の質問に、二人とも神宮外苑全体の再整備を前提に進めると応じた。最後に森は「すばらしいよ。あと15年は長生きしないと」と述べた。
 森元首相の動きについて後藤さんは「彼は文教族やスポーツ行政のドンとして国会議員時代以上の政治力を発揮してきている。だから『森さん、森さん』と人が寄ってくる。頼み事を受け入れ差配するというのは他には代えられないうま味だと思う。彼自身、権力そのものですから『オレのところに話を通すだろう』くらいに思っている」と話す。
 結局はラグビーW杯もオリンピックも国内最大級の再開発を促進するための道具≠ノ過ぎなかったのではないか。
 橋詰雅博
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2022年04月03日

【今週の風考計】4.3─自衛隊が敵視する「反戦デモ」と国民監視の危険

★今から6年半前の2015年9月19日、安倍政権は憲法9条をズタズタにする「安保法制」を強行成立させた。だが政府は、「武力攻撃事態」に対処する「集団的自衛権の行使」を発動する際、「グレーゾーン事態」に遭遇した時の判断については、法律的な担保や基準もなく、これまできわめて不明瞭だった。
★この間、防衛省は「グレーゾーン事態」の事例につき研究を重ねてきたのだろう。その事例の一つに、市民による「反戦デモ」を挙げて敵視していたことが判明した(「赤旗」3/31付)。恐るべき判断事例だ。すなわち「反戦デモ」は「武力攻撃事態」につながると想定し、テロやサイバー攻撃と同一視していたのだ。

★2年前の2月4日に陸上幕僚監部が、「陸上自衛隊の今後の取組み」と題する資料を、記者を対象とした勉強会に配布した。その中で「1予想される新たな戦いの様相」という章名で、「グレーゾーンの事態」を取り上げ、「武力攻撃に至らない様々な手段により、自らの主張を受け入れるよう相手に強要」する事態と説明し、それぞれ個別に写真付きで「報道」、「テロ等」、「反戦デモ」などの事例を挙げていたのだ。
 さすが参加した記者から「反戦デモを挙げるのは不適切ではないか」と指摘され、翌日に回収、「暴徒化したデモ」と書き換えて再配布した。しかも元の資料は廃棄してしまったという。
★デモなどの集会は、憲法21条「表現の自由」により保障されている。テロと同じように敵視するのは憲法に抵触するだけでなく、「反戦デモ」が「国を脅かす」と考えること自体、極めて危険な内容を持ち許されることではない。
 さらに「報道」も「グレーゾーンの事態」に該当する事例として挙げている。なぜ挙げているのか、その説明がないだけに、権力の恣意的な判断で「国を脅かす」とみなされ、新聞や放送メディアに「安保法制」を適用する危険性は十分にある。

★いまロシアのウクライナ侵攻に抗議する「反戦デモ」は、世界じゅうに広がっている。だがロシア本国では「戦争反対」のデモは弾圧され、市民の反戦行動には新KGBの監視が就く。ウクライナ侵攻に関する「報道」も禁止され、ノーベル平和賞を受賞したムラートフ氏の独立系新聞も停止を与儀なくされている。
 平和を求める「反戦デモ」や「報道」さえ敵視する自衛隊の事例判断は、あのプーチンと同じではないか。日本の自衛隊はロシアを踏襲するつもりか。いや実際は、これが日本の自衛隊のホンネではないか。
★現に自衛隊は、国民を監視する情報保全隊を組織し活動を展開している。2003年に自衛隊がイラクに派兵される際、それに反対する市民の行動を監視し、記録を取り保管していた。裁判所は、情報保全隊による市民監視がプライバシー権を侵害した違法な監視だとして国に賠償を命じている。
 これにも懲りず、昨年7月には沖縄の宮古島と与那国に情報保全隊が配置され、団体・個人の活動を監視し、個人情報を集めている。

★6月に施行される土地利用規制法も、住民を監視する危険な狙いがある。国は自衛隊や米軍の基地・施設周辺200カ所以上を「特別注視区域」に指定し、その区域内の土地建物の利用者情報を提供するよう住民や法人に求め、従わない時は最大で懲役2年以下、または罰金200万円を科す。
 しかも日常的に市民を監視し、集めた個人や法人の調査情報を必要な分析に回すという。人権侵害も甚だしい。市民監視に躍起の自衛隊、その危険性に目を向けよう。(2022/4/3)
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2022年03月30日

【オピニオン】北朝鮮ICBM「火星17」の実験成功が意味するもの=梅田正己(歴史研究者)

 3月24日、北朝鮮が4年半ぶりにICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した。次の一節は27日の朝日新聞社説の冒頭部分である。
 「辛うじてつながっていた米国との関係を壊し、自らを苦境に追いやる愚挙というほかない。」
 はたして「愚挙」の一語で片付けられるのだろうか。

 テレビで見たそのミサイル――11輪の特大のタイヤをもつ移動式発射台に載せられた「火星17」号の大きさにはたしかに驚いた。前に立つ人物たちがまるで子供のように小さく見える。
 全長23メートル、直径2メートルを超すその巨体から、韓国メディアは「モンスター」と呼んだという。

 今回のミサイルは垂直に打ち上げ、最高高度は6000キロまで達したというが、これを通常の角度で発射したとすれば1万5000キロにまで達する飛行能力を持つという。
 最近ロシア軍がウクライナで使ったといわれる極超音速ミサイルは大気中を飛ぶが、大陸間弾道ミサイルは大気圏を突きぬけて真空の宇宙空間を慣性の力だけで飛ぶ。その速度は音速の10倍から20倍にも及ぶという。
 音速は、秒速330メートル(0.33キロ)だから、仮にその10倍だとすると秒速3.3キロ、1万5000キロを約4545秒で飛べることになる。つまり約76分である。
 前回の「火星15」号は飛行距離1万キロで、ようやくアメリカ大陸に達する程度だったが、今回は1万5000キロだから、大陸の東海岸にまで達する飛行能力を持っていることになる。
 つまり、発射からわずか1時間16分でワシントンやニューヨークまで届くことになる。そんな「モンスター」を中途で迎撃して撃ち落とすことなどできるわけはない。
 今回の発射実験を聞いて、ビクター・チャ元米国安全保障会議アジア部長は、「米国本土の安全保障にとって本物の脅威となる」と語ったという(26日付朝日)。それで同記事の見出しも「米本土に『本物の脅威』」となっていた。

 周知のように、北朝鮮と米国は1991年に冷戦が終わったあとも、いまなお潜在的交戦状態にある。北朝鮮とすれば、米国との休戦条約を解消し、平和条約を結んで早く国際的制裁状態から抜け出し、経済の立て直しにとりくみたいが、肝心の米国が交渉のテーブルについてくれない。
 では、どうしたら米国を、交渉の場に引き出すことが出来るか。

 唯一の道は、米国を交渉に応じざるを得ない状況に立たせることだ。
 つまり、米国の尻に火を付けることだ。
 そこで、国力で圧倒的に劣る北朝鮮が考えたのが、ミサイルと核兵器の開発だった。そのミサイルも、米本土にまで届く能力をもつものでなければならない。

 そのため北朝鮮は、国際的な非難を浴びながらも、ノドンから始まってミサイルの開発に全力を傾けてきた。
 そしてついに、米国全土を射程におさめるICBMの開発に成功した。北朝鮮のミサイルがいまや米国の「本物の脅威」となったのである。
 この北朝鮮の「挑戦状」に、どう応えるか。それがバイデン政権にとって、ウクライナ問題とともに避けることのできない問題となった。

 2017年11月、北朝鮮が米国本土に到達できるミサイル「火星15」の開発に成功すると、トランプ前大統領は、金正恩総書記との直接交渉に踏み切った。
 ついに米朝会談が実現、東アジアの「雪解け」がはじまると世界は期待した。
 その後も会談は重ねられたが、結局は尻すぼみに終わった。なぜか。

 かつて「世界の警察官」を自任した米国は、いまも東アジアでは圧倒的な軍事力を保持している。日本に5万、韓国に3万の兵力を駐留させている米国は、いまもって軍事的覇権主義を撤回してはいない。
 その米国を盟主とする軍事同盟の直近の「仮想敵国」が、北朝鮮である。したがって日本政府は、米国の要求に応じて日本海でのイージス艦の配備を増強し、また北朝鮮ミサイルの迎撃用ミサイル基地、イージス・アショアを山口と秋田の日本海岸に設置しようとしたのだった。(先の北朝鮮のICBMのけたはずれの性能からすれば、いずれも笑うべき国税の無駄遣いだったが)

 米国の北朝鮮との和平は、当然、こうした米国の東アジア外交戦略の基本的転換をもたらすことになる。
 しかし、「アメリカ・ファースト!」「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン!」をひとつ覚えのごとく呼号し、一方、日本を含む同盟国に軍事費の増額を求めるだけで、新たな国際秩序を構築する積極的な構想を持ち合わせなかったトランプは、中途で腰くだけとなり、せっかく始めた金正恩との交渉をうやむやのうちに終わらせてしまったのである。

 そしていま、バイデン大統領は北朝鮮の「本物の脅威」と直面することとなった。「本物のモンスター」プーチンとの戦争がどうなるか、予断を許さないが、バイデン大統領が「火星17」の発射実験の成功にも正面からの対応を問われているのはまちがいない。
 新聞報道によると、バイデン政権は、北朝鮮に対しては段階的な非核化をめざす「現実的なアプローチ」をとっているという。
 しかしその実質的な政策は、「現状維持の意味合いが大きかった」と元CIAの上席分析官が語ったという(上記、朝日の記事)。

 近く4月15日、北朝鮮は故金日成主席の生誕110周年の記念日を迎えるという。今回の「火星17」の発射実験も、その日を予定に入れてのデモンストレーションだったにちがいない。
 では、バイデン政権はどうするか。
 少なくとも、毎年、恒例として実施している米韓合同軍事演習を延期するくらいのことは決断できるのではないか。トランプの二の舞いはすまい、と思っているならば、だが。(2022年3月27日記)
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2022年03月27日

【今週の風考計】3.27─見過ごすな! 「教育勅語」を持ち出す政治的潮流

この23日、参議院の憲法審査会が開かれ自由討議が行われた。その中で聞き捨てならない発言が飛び出した。
 自民党の西田昌司議員が、わざわざ戦前の「教育勅語」をもちあげ、「日本人の伝統的な価値観だ」と礼賛し、「日本の文化で一番大事なのは教育勅語に書いてある家族主義、家族と伝統を大事にすることだ」と述べたのだ。
すでに「教育勅語」は、日本が敗戦後3年目の1948年、衆参両院で排除・失効が決議されている。それも当然、戦前の軍国主義教育と結びつき、国家危急の事態では「天皇のために命を捨てるべし」と定め、国家に対する個人の絶対服従と犠牲を求めたシロモノだからだ。
 しかも「教育勅語」に謳われる道徳の内容は、天皇を頂点とする身分序列を維持するため、臣民は天皇に忠義を誓い、家族の間では家長に従えとの習いで固められていたのだ。

もともと西田昌司議員は、現行憲法すらGHQによる「占領基本法」だとして破棄を要求し、明治憲法を復活させる「廃憲論」を唱えているゴジン。
 そのゴジンが憲法審査会の自民党幹事になっているうえに、戦後の平和日本を築いた国民の歩みを、憲法9条だけでなく、「日本国憲法」まるごと葬ろうというのだから怖い。現に「軍事力の一つとして核武装の議論もすべき」などと述べて憚らない。
さらに西田昌司議員は、自民党の京都府連会長を務め、この2月末に“選挙買収疑惑”で刑事告訴されているご本人でもある。当選目的で府議らに選挙運動への報酬として、1人につき現金50万円を配っていたという疑惑である。
 加えて自民党の京都府連に寄付された金が、地元の府議らに還流させる形で選挙資金を渡す、いわば「マネーロンダリング」システムが構築されていたという。
まず自分にまつわるスキャンダルについて、きちんと説明責任を果たすのが先決だろう。政治倫理もへったくれもない不道徳の極みについて、潔く処することもできず、大仰に道徳や家族倫理を持ち出し「家族と伝統を大事にする」も何もあったものではない。よくも恥ずかしく居直っていられるものだ。

31日は、教育基本法が学校教育法とともに公布されて75年になる。戦前の教育の反省から「教育勅語」に代わって、憲法26条に掲げる「教育を受ける権利、教育の義務」に則って、個人の尊厳を重んじ、人格の完成を目ざし、真理・平和・正義を希求する人間の育成を図り、個性豊かな文化の創造を目ざす教育を確立するために制定された。
この教育基本法には、もう一つの重要な柱がある。「教育は、不当な支配に服することなく」(10条)と謳い、国や行政権力が教育に不当・不要に介入することを禁じた。それにもとづき教育行政の目標は、施設整備や教員配置などの教育条件の整備確立においている。
 西田議員の発言は教育基本法の精神を踏みにじるものでもある。再度言おう。戦前の軍国主義教育への深い反省など無視して、「教育勅語」を礼賛する発言が、声高に出てくる政治的潮流を見過ごすわけにはいかない。(2022/3/27)
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2022年03月23日

【おすすめ本】中部 博『プカプカ 西岡恭三伝 』―シンガーソングライターの生涯を綿密な取材で描く評伝の傑作=鈴木耕(編集者)

 評者の私も出版社勤めのころは、誘われれば時折カラオケにもいった。少ない持ち歌のひとつに『プカプカ』があった。「〜俺のあん娘(こ)はたばこが好きで いつもプカプカプカ〜」という歌だ。だから当然、それを 歌っていた西岡恭蔵の名は知っていた。2度ほどライブを見たこともある。でも彼の人生などは知らなかった。本書は、その西岡恭蔵の評伝である。

 他人の人生に分け入るという仕事は、書き手の側にも、大変な負担を強いる。自分の人生に重ね合わせて没入するのか、まったくの他人として冷静に対象を解剖するのか。そのあわいの中で格闘する。読者の視点と重ならなければ遠ざけられる。評伝はノンフィクションとしては、極めて難しい分野だ。本書はそれを見事に成功させた。
 無用な思い入れを排し細部まで取材し尽くし、西岡恭蔵という人物の全体像を、その生い立ちから早逝までを立体的に再生した。曲作りの苦悩は当然、名曲『プカプカ』 の誕生秘話やその実在のモデルとの邂逅まで、筆は及ぶ。西岡に関する驚くほど多くの文献を漁り、知人たちを訪ね歩き、話を聞く。そこから恭蔵の人物像が立ち上がる。

 だが本書の白眉は、実は、愛妻KUROとの出会いから別れ、そして自死へと至る過程なのだ。本当に愛おしくなるようなKUROの描写と恭蔵の献身的な愛情。また共作者としてのKUROの役割。真実の人生の同伴者でもあったKUROの死は、だから胸に迫る。
 鬱という病を抱えながら、最後まで妻の病気と伴走する恭蔵の姿を、著者は静かに描写する。私は久しぶりに涙しつつ読んだ。過剰な思い入れを排した著者の見事な語り口は評伝の傑作である。(小学館1800円)
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2022年03月20日

【今週の風考計】3.20─ゼレンスキー大統領夫妻が心こめて歌う「Endless Love」

ウクライナのゼレンスキー大統領夫妻が、それぞれギターをつま弾きながら、デュエットで歌う映像が、YouTubeやスマホなどSNSで拡散されている。
 しばらく前の映像だが、歌っているのは名曲「Endless Love」(エンドレス・ラブ)。ジージャンを着て、見事にハモッて歌う2人の表情が、なんとも美しい。
 この名曲は、1981年にリリースされたライオネル・リッチーとダイアナ・ロスによるデュエット曲。タイトルと同名の映画「Endless Love」の主題歌である。

いまテレビで見るゼレンスキー大統領は、濃いモスグリ−ンの半袖・丸首シャツを着て、カメラの正面に向かい、ロシアの侵攻に抗して戦う国民や世界の人々に呼びかける姿ばかり。だが、その姿の奥深くには秘めた<限りない祖国愛>が漲っているのだと、いまさらながら気づく。
 コメディ俳優出身の44歳とはいえ、国民の心に響くような語り口で勇気づける「戦時指導者」として、求心力を高めているのも頷ける。「政治信条がないポピュリスト」との批判など吹っ飛んで、いまや支持率は91%、昨年末から3倍に跳ね上がっている。
3年前の春に行われた大統領選の決選投票で、ポロシェンコ前大統領に圧勝。その後ウクライナ東部の紛争が長期化し、また汚職のまん延で支持率は低迷していたが、ロシアの侵攻を受けると状況が一変した。

ゼレンスキー大統領の妻オレナ・ゼレンスカ夫人も44歳、2人の子供を持つ母親として、「ロシアが子どもを含む民間人の<大量殺人>を行っている。あと何人子どもが死ねばいいの!」と、必死にロシア軍の侵攻に抗議の声を挙げ、反撃の闘いへ参加するよう呼びかけている。
 ウクライナはロシアがクリミアを併合した2014年以降、女性も戦闘任務に就くことが可能になり、全体の15%・3万人以上が女性兵士という。
ゼレンスキー大統領と共にキエフに残る国会議員で「声の党」党首、キラ・ルディクさんは、国際女性デーの3月8日、こう述べている。
 「今年、私たちが手にしているのは花だけではありません。銃も手にしています。狂気の独裁者プーチンと彼が持ち込んだ戦争に対し、ウクライナの女性たちに『立ち上がって戦いましょう』と何度もお伝えします」

なぜか昔、仲間と演出・上演したドイツの作家・ブレヒトの演劇<カルラールのおかみさんの銃>に思いが走った。「汝、人を殺すなかれ」の教えに立つ母親が、夫だけでなく愛する息子まで独裁者に殺されたのを契機として、自ら銃をもって闘いに参加するドラマだ。セリフの言い回しや時代背景の解釈をめぐり、議論を重ねたのが懐かしい。
 ひるがえってウクライナに戻れば、銃を手に取り闘いに参加する女性たちがいる一方、国境付近では父や夫らと別れ、悲しみに暮れながら子を連れて逃れていく女性が数多いのも現実だ。
16日にはロシア軍が、南東部マリウポリ市の中心部にある劇場を空爆した。この演劇舞台がある劇場の地下は、住民の避難場所になっていた。千人を超える避難者には多くの子供や女性がいて、多数が生き埋めになっている。プーチンよ、この<罪と罰>は、永久に汝のもとに降りかかるのを忘れるな。(2022/3/20)
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2022年03月16日

【おすすめ本】山岡淳一郎『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』─医師の奮闘をよそに政権の無策!=杉山正隆(歯科医師・ジャーナリスト)

 新しい感染症が人類を脅かす─この警告は、昔から何度もされてきた。SARS(重症呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)は「コロナ」ウイルスだ。コロナが変異する事実は知られていた。スペイン風邪が猛威を振るったのは100年ほど前だ。全世界で5億人が感染し死者は1億人を超す。
 新型コロナの襲来に際し、感染制御に重要な初動に失敗が続いた。今も検査や治療、後遺症への対応など不十分だ。過去の苦い経験や専門家の提言を無視した「失政」が見え隠れする。

 法の解釈を変更して、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客ら3711人を感染者や濃厚接触者として隔離したが、感染者713人と死者13人を出した。政府が事態を過小評価し神奈川県に丸投げし高熱や呼吸困難などの症状を訴える乗客が相次いだ現場では、厳しい判断を迫られた。
 官僚組織や政治の壁が幾重にも妨げになったものの、現場では無症状か軽症の陽性者は自宅かホテル、中等症者は重点医療機関、重症者は救急救命センター等に振り分ける現実的な「神奈川モデル」を作り上げた。

 著者は、安倍・菅政治がコロナとの闘いに敗れた、と断ずる。「小さな政府」を指向し患者負担増と医療効率化など医療削減を進めたツケが、今日の医療崩壊に結び付いたとも。
 本書を評する私も、コロナと闘う医療者の1人であり、「医療は国民 の安全保障」と強調する邉見公雄医師の言葉は胸に刺さる。いのちや暮らしを大切にする政治であるべきだ。(岩波書店1800円)
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2022年03月13日

【今週の風考計】3.13─今もなお続く「3・11フクシマ」の現実を直視せよ!

あの「3・11」が11年目を迎えた。「あの」とは、2011年の福島第一原発の爆発事故である。有識者が津波の襲来を予測し、原発を守る防潮堤のかさ上げを進言したにも関わらず、東京電力は無視した。こうした経過を見れば、「3・11フクシマ」は正に人為災害に他ならない。
現に今もなお「原子力緊急事態宣言」は発せられているままなのだ。忘れてはいけない。原発事故が収拾したわけではない。自然災害の東日本大震災とは区別して考えねばならぬ。

現場はどうなっているのか。敷地内の放射線量はかなり下がったものの、原発の廃炉作業は大幅に遅れ、約30年後に完了させる目標は風前の灯だ。
 炉内で溶けた核燃料が周りの金属などと混ざりあい固まった燃料デブリは、高濃度の放射線を放ったまま、1号機から3号機内に合計880トン、膨大な量が溜まっている。
この2月8日、11年目に入る1カ月前、やっと2号機の内部にロボットを入れ、デブリの量や形状などの調査が始まった。長さ約22メートル、重さ約4・6トンの特殊鋼製ロボットアームの先端に付けた金属ブラシを操作し、年末までにデブリを数グラム取り出すという。
880トンの燃料デブリを取り出すなど、100年かけても無理。1986年のチェルノブイリ原発事故の時に実施したように、原子炉建屋全体をコンクリート製の構造物「石棺」で封じ込めるしかない。
人体に有害な放射性物質セシウム137の半減期は30年、ストロンチウム90の半減期は28年。100年待てば放射能は10分の1に、200年待てば100分の1に減る。福島原発も「石棺」に封じ込めてジッと待つしかない。

さらに原発事故で全町民の避難が続く大熊町、双葉町、浪江町の人びとの苦悩は、極限にまで来ている。ようやく双葉町は6月以降、中心部の避難指示が解除される見込みで、町民の準備宿泊も始まったが、希望するのはわずか15世帯。
いまや多くが避難先での生活を築いている。「帰りたい」と思っても「帰れない」現実に、セメントと鉄で作った「復興ハコモノ」など、なんの役にも立たない。周りに知る人もいない高台にある家に、高齢者が「ぽつんと一人」、どうやって暮らし、生きていったらよいのか。
 「復興」の陰で「棄民」扱いされる住民の苦しみは尽きない。

写真家の豊田直巳さんが『福島 人なき「復興」の10年』(岩波ブックレット)で、被災住民の現実をレポートしている。
 とりわけ第3章<人間としての「生」を取り戻すために>にある「自分らしく生き抜いた酪農家の死」に綴られた15ページは、胸に迫ってくる。放射能汚染がひどい飯舘村で乳牛や肉牛を飼い続けたが、とうとう避難を強制され離村。その後、村に戻り「売ることのできないソバの栽培」で農地保全に邁進する。だが甲状腺がん発覚、そして死…。
いまでも飯舘村の放射線量は高い。小宮字萱刈庭では毎時0.689マイクロシーベルトが観測されている(3月11日8:50現在)。国が決めている放射能汚染の基準である毎時0.23マイクロシーベルトを、いまだに超えている。(2022/3/13)
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2022年03月09日

【おすすめ本】マデリン・チャップマン著+西田佳子訳『ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力』─国民に寄り添う共感力に優れる現代の新しいリーダー=菅原正伯

 ニュージーランドは、国土面積が日本の4分の3、人口は約500万人という南半球の小国だ。
 2017年に、ニュージーランド史上で最年少の37歳の女性首相アーダーンが誕生し、その卓越した指導力が世界の注目を集めている。
 日頃からリーダーにはなりたくないと言っていた彼女が、首相になったのはなぜか。その真相にニュージーランドの作家が迫ったのが、この評伝である。

 アーダーンの言動は、しばしば常識はずれに映る。世界で産休をとった初の首相となり(当初は事実婚)、アメリカ・ニューヨークの国連総会には子連れで参加し、母乳で授乳もした。
 育児と両立させようとすれば、当然の行動であるが、アーダーンは一市民、一議員の目線で政治に相対することを信条としている。
 2019年、史上最悪のモスク乱射事件に対しても、鮮やかな手腕で対処し、犠牲者に寄り添ったのもその一例だ。事件後1週間で銃規制の法改正を実現し、国民には「憎しみではなく愛を、厳しさではなく優しさを」と、結束と連帯を訴え、政府が遺族の生活を支援すると約束した。

 コロナ禍でもSNSで真摯に語りかけ、国民の理解を得てロックダウンを実施し、ゼロコロナを実現したことは記憶に新しい。彼女のコミュニケーション力と国民に寄り添う共感力が、政治への信頼を深めさせている。
 日本の発信力のない前首相や元首相には、敏感に反応する現首相の「聞く力」とは真逆の資質だ。民主主義を根づかせる現代の新しいリーダー像を浮き彫りにしている。(集英社インターナショナル2000円)
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2022年03月06日

【今週の風考計】3.6─「維新の会」は大阪府民の命よりも「核共有」が大事なのか

★ロシアのウクライナ侵略に対する非難決議が141カ国の賛成で採択された。またプーチン大統領が、核戦力の態勢強化を命じ核兵器の使用を示唆した言動にも、13カ国が非難の共同声明を出している。
 4日にはロシアがウクライナの原発まで爆撃した。人類史上初めての暴挙、「ロシア軍の即時撤退」が喫緊になっている。

★こうした世界の国々や人々が、ロシアの暴挙に怒りの声を挙げているさなか、こともあろうに「日本維新の会」は、プーチンが仕掛けた「核の使用」という脅しに呼応し、「日本も『核共有』を論議すべきだ」とぶち上げ、驚くべき内容の提言を政府に提出した。
 要約すれば、@米軍の核兵器を日本に配備し、日米で共同運用する「核共有」へ A防衛費をGDP(国内総生産)の2%まで増額する─これに尽きる。
★ちょっと待て。「日本維新の会」は、日本国憲法の精神や国是としてきた非核三原則について、きちんと勉強したのだろうか。とってつけたようにタブーを廃し議論を促すためだと、強弁してはばからない。その恐ろしさ。

★唯一の戦争による核被爆国である日本で、被爆者団体が怒りの声を挙げている。
 「核兵器は『絶滅』だけを目的とした狂気の兵器。人間として認めることができない絶対悪の兵器。日本国民を核戦争に導き、命を奪い国土を廃墟と化す危険な提言」と。
 さらに田中熙巳代表委員が、「核兵器についての知識、核兵器が使用された惨劇、非人道的な悪魔の兵器であることを知らない政治家集団ではないか。憲法改悪もねらう維新政治の本質でもある」と指摘しているのは痛烈だ。
★国連で採択された核兵器禁止条約が発効して一年。維新の提言は、条約をつくった核廃絶と平和を求める世界中の人たちに敵対する行為であるのは間違いない。

★この慌ただしい「日本維新の会」の動きには、隠された背景がある。まず2月27日朝のフジTV系番組に出演した維新の創設者・橋下徹氏が、対談相手の安倍晋三・元首相に対し、プーチンの「核使用」発言に触れて、日本でも米軍との「核共有」を議論すべきだと提起し、安倍氏も同意し双方の意見が一致した。
 翌28日には維新の松井一郎代表が記者会見で、「非核三原則は昭和の価値観か」と揶揄し、その4日後には提言まで提出する速さだ。

★これこそ、いま検討されている「敵基地攻撃論」を補強する援護射撃ではないか。これまで安部氏は「相手をせん滅するような打撃力を持つべきだ」と主張している。また安倍氏の実弟である岸信夫防衛相は、「自衛隊機が他国領空に入って軍事拠点を爆撃する手段を持つことを排除しない=vと明言している。
 米軍と自衛隊で「核共有」ができれば、専守防衛どころか核を使う先制攻撃すら可能となる。

★いま安倍氏がやるべきことは、27回も会談し仲の良さを誇るプーチン大統領に電話して、「ウクライナへの侵攻はすぐにやめよ」と説得することではないか。
 また橋下氏や松井氏など、「日本維新の会」がやるべきことは、足もとの大阪府・市で広がるコロナ感染による死者増大への対策だ。3/4現在、人口822万人の大阪で死者4048人。日本全国で最多。2位は人口1396万人の東京で死者3767人。コロナ感染者数も人口比で見たら、全国平均の約2倍と最悪だ。
★これも公立病院の病床を削減してきた結果ではないか。「核共有」の提言やカジノ建設に790億円の税金投入など止めて、まず府民の命を守る仕事に専念せよ。(2022/3/6)
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2022年03月03日

【おすすめ本】中谷雄二・岡本有佳編『リコール署名不正と表現の不自由 民主主義社会の危機を問う』─表現行為の規制を狙う共謀罪法そして「日本維新の会」の影=古木民夫(JCJ東海支部)

 「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」 を開幕3日で中止に追い込み、翌年の大村愛知県知事リコール運動で署名の83%を偽造した事件を告発した中谷雄二弁護士や岡本有佳・不自由展実行委員と憲法学者や市民活動家らのリポート集。 
 不自由展中止は、河村名古屋市長が松井大阪市長からのご注進で「平和の少女像」出展を知り、急いで視察し批判したことからネトウヨなどから抗議や脅迫が届いたのが発端である。

 編者の一人・中谷弁護士は、河村市長を事件のカギを握る人物として重視する一方、安倍政権が人間の内心を監視する共謀罪法を制定し、表現行為をも規制しようと狙った、その端的な表れが不自由展中止だったと指摘している。
 リコール署名43万筆も集まったが、それでも成立に必要な法定数の半数。しかも、その大半が偽造で、正味の署名は7万程度に過ぎない、だから犯罪に手を染めたのだろう。当初、メディアはリコール報道に冷ややかだった。それが署名偽造の発覚で一躍、社説にも取り上げられトップ級のニュースになった。こうしたメディアのブレなど報道面の検証に力を注いで欲しかったと思う。

 署名偽造を指揮した疑いで逮捕されたリコール運動を進める団体の事務局長をはじめ、日本維新の会関係者が、一連の事件に大きく影を落としている。リポートの多くがその影響を指摘して警鐘を鳴らしている。
 最後に、岡本さんが不自由展の開催実現に向けて東京展、名古屋展が動き出していると明かし、「封じられた美術展を自分たちの手に取り戻したい」と、頼もしい言葉で結んでいる。(あけび書房 1600円)
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2022年02月27日

【今週の風考計】2.27─戦火にさらされるキエフとスターリンの亡霊

ロシアはウクライナ侵略を直ちにやめよ! まず怒りをもって抗議する。
 ロシア軍がウクライナの首都キエフ市内に侵攻し、ロシアのミサイルが住宅地を直撃、市中心部を流れるドニエプル川の東岸では、高層マンションが炎に包まれ住民が負傷したという。

今から41年前、ソ連が崩壊する10年前、所用と観光を兼ねて訪れたキエフの市街が思い出される。モスクワから寝台特急に乗り、着いたキエフの町は朝もやに包まれていた。
 ガイドの案内で聖ソフィア大聖堂へ。緑色の玉ネギ型をした鐘楼の上に金色の十字架がそびえる。またペチェールスカ大修道院・洞窟内には美しいイコンが並び、地下墓地には高名な僧がミイラとなって安置されている。
ドニエプルの丘には、10世紀末にウラジーミル公国を建国したウラジーミル聖公の銅像が、ドニエプル川に向かって左手に剣、右手に十字架をもって立つ。市の中心部を通るフレシチャーティク大通りには、レーニン・コムソモール広場があった。
 いまは「マイダン広場」と名前が変わっている。2014年2月、ヤヌコビッチ大統領が率いる政府に抗議する人民デモが行われ、鎮圧する部隊により、多くの人がこの広場で命を落とした。

思い出のキエフが、いま戦火にさらされている。気が気でない。プーチン大統領は、何を考えているのか。彼のフルネームはウラジーミル・プーチンという。
 このウラジーミルになぞらえて、2016年11月、プーチン大統領は、モスクワのクレムリン近くにウラジーミル大公の巨大なブロンズ像を建立し、その除幕式に臨んで、大公はロシアの精神的基盤となったと述べ、国家の結束の重要性を訴えている。
しかし、その独裁・強権政治はとどまるところを知らない。KGB出身だけに国内の反体制派への弾圧はもとより、自由な報道機関への脅迫、独立を目指すグルジアやチェチェンへの侵攻・介入、クリミヤ半島の領有など、旧ソ連大国の復活を目指し、版図拡大に躍起となっている。

図らずもロシア軍がウクライナに侵攻する中、リュドミラ・ウリツカヤ『緑の天幕』(新潮クレスト・ブックス)を読み終えた。
 本書は、独裁者ヨシフ・スターリンが死んだ1953年から、亡命詩人ヨシフ・ブロツキーが亡くなる1996年までの40年を丹念に描いた700ページに及ぶ大作だ。
ソ連が崩壊へと向かう激動の時代を背景に、詩や小説、音楽を愛する少年3人組が、文学の教師からの薫陶を得て、サミズダート(自主的な地下出版)に携わる結果、KGBの尾行や逮捕、ラーゲリ収容など過酷な生活が強いられる。
 自由を制限され抑圧された反体制知識人たちが何を考え、どう振舞ったか、その生きざまが浮かび上がる。女性の著者もまた1943年生まれ、この激動の時代を生き活躍している作家だ。

もう一つ、映画「金の糸」が岩波ホールで、この26日から上映されている。ジョージア映画界を代表する女性監督ラナ・ゴゴベリゼ監督91歳の27年ぶりの最新作である。
 ジョージア(旧グルジア)激動の時代を生きた女性作家とその人生に関わった人々を、過去との和解をテーマに、日本の“金継ぎ”に着想を得て、“未来を見るために過去を金で修復する”という意味がこめられたドラマ作品。
ゴゴベリゼ監督の母もスターリンの大粛清で流刑された経験を持つが、監督自身の経験も投影しながら撮影している。

グルジアといえばスターリンの生地。そのグルジアのゴリ中央広場に建っていたスターリン像が、2010年6月27日、撤去された。ゴリは2008年のプーチン率いるロシア軍によるグルジア侵攻の際に攻撃された都市だ。
こうしてみると、不思議とプーチンとスターリンがタブって見えてくるのが怖くなる。一刻も早くロシアの侵攻をやめさせ、ウクライナとの停戦合意に向け、世界が力を合わせるべきだ。(2022/2/27)
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2022年02月25日

【おすすめ本】森住 卓『浪江町津島 風下の村の人びと』─密着して写し取った心の叫び!=酒井憲太郎(フォトジャーナリスト)

 まえがきで著者は「この本は原告団の心からの叫びと願いをまとめた」と言う。原告とは福島原発事故を起こした東京電力を訴えた人びとだ。
 著者は訴訟以前の2011年3月13日から取材を始めたが、その頃は「浪江町津島」に高濃度の放射性物質が降下した事実を知らなかった。その年の12月、福島県飯館村で野鳥・キビタキの死骸から出る放射線を、東大名誉教授の協力で映像化した。それ以降、高感度・高明細な写真フィルムで撮影している。
 2014年浪江町津島の草むらにある黒御影石を発見、その上に大判の写真フィルムを密着させ3ヶ月後に回収・現像すると、「絆」の文字が浮かび上がった。「汚染の 実態を視覚化し、国の言う嘘を暴かなければならないと思った」という。

 本書の圧巻は最後の「けもの物語─カモシカのつぶやき」だ。裏表紙の写真にあるニホンカモシカは、前著『災害列島・日本』(扶桑社)にも登場するが、カメラをみつめるニホンカモシカを、どのように撮影したのか、その答えが本書にある。
 著者は2019年春から浪江町津島字赤宇木地区の空き家に、承諾を得て無人カメラ数台を仕掛け、野生動物を撮影してきた。
 本書には数多くの野生動物が登場するが、それらを代表してカモシカが「原発事故など絶対起こさないで欲しい」と訴えている。
 2021年7月30日、「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」原告団に対し、福島地裁郡山支部は「東電に10億円支払い命令 原状回復請求は却下」の判決を出した。(新日本出版社2200円)
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2022年02月20日

【今週の風考計】2.20─教科書の記述書き換えと「日本維新の会」の策動

いま学校で使う教科書が危機にさらされている。時の政権が閣議決定すれば、歴史的事実すら、教科書の記述を書き換えることができるからだ。
昨年4月27日、菅政権は日本軍が徴用した「従軍慰安婦」や朝鮮人の「強制連行」について、教科書に「従軍」や「強制」の文字を使うのは不適切との閣議決定をした。「日本維新の会」幹事長・馬場伸幸議員が、政府に提出した質問主意書に対する回答である。
 この経過を見ると、自民党・政府・「日本維新の会」の連携による、保守層が唱える「歴史戦」への同調とあわせ、巧みな<教科書攻撃>が仕組まれていたとみたほうが良い。

それ以降、この閣議決定に基づき、文科省は教科書会社に「従軍」や「強制」の文字を削除するよう指示し、次々と教科書会社が検定済みの教科書の記述を書き換える事態が続いている。
 これまでも領土問題などで執拗に政府見解が書かされ、「改定」検定基準の他の規定を用いて、南京虐殺事件、関東大震災の被害者数など、学問研究の知見に基づいての記述ができなくなっていた。
ここにきて「従軍慰安婦」や「強制労働」など、日中・日韓にかかわる歴史問題について、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解」という教科書検定基準を使いだしたのだ。
 しかも悪質なのは「日本維新の会」と歩調を合わせ、質問主意書に回答するという形で閣議決定に持ち込む。そして、その閣議決定を活用し、政権が望む愛国教科書に改訂する流れを加速させているのだ。

17日には日本弁護士連合会が「教科書の記述内容が時々の政権によって決定できることとなり、事実上の国定教科書に極めて近くなる。その根拠となる2014年の改定教科書検定基準の撤回を、改めて求める」との見解を発表した。

「日本維新の会」は、異様とも思える教育内容への介入を続けている。改憲という政治的意図もあらわに、教育現場へトンデモナイ圧力を加えている。
2日の衆院予算委員会では、山本剛正議員が日教組の教育研究集会で披露された憲法教育にかかわる報告を取り上げ、「意図的に子どもたちに護憲を浸透させようと、各地で授業を進めている」と名指しで攻撃までする始末だ。
 国会議員に課せられている憲法99条の憲法順守義務など、どこ吹く風。「憲法」の意義を伝える教師の活動すら攻撃して恥じない。「改憲」まっしぐら。「敵基地攻撃論」も大賛成。

さらに他の野党議員への懲罰動議や名誉棄損の訴えを乱発し、お笑い芸人への恫喝や批判的言論への強硬措置など、正気の沙汰ではない。しかも今回の懲罰動議を提出した足立康史議員は誹謗中傷発言で過去6回も懲罰動議を受けてきた本人だ。自らの誹謗中傷は棚に上げ、道義礼節を欠き不見識極まりない(東京新聞「こちら特報部」2/19付)。
<佐渡金山の世界文化遺産登録>をめぐっても、戦時に朝鮮人の「強制労働」が行われていた歴史的事実があるにもかかわらず、松井一郎代表は、「『強制労働』とはいえない」と主張。岸田首相が政府内に「歴史戦チーム」を立ち上げたというのは、「聞く力」を発揮したからだという。もうつける薬はない。(2022/2/20)
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2022年02月16日

【おすすめ本】町田久次『木村よしの おんな記者伝』─110年前に福島民友で活躍した女性記者の軌跡をたどる労作=下村満子(元朝日新聞編集委員)

 私が本書の著者・町田久次さんから木村よしのの話を初めて聞いたのは、今から11年以上前のことでした。当時私は福島県男女共生センターの館長を務めており、町田さんは福島民友新聞の取締役で、今からおよそ110年前に福島民友社に入社した女性記者がいると聞いて驚きました。
 古い民友紙の記事をコピーし、彼女の書いた記事をいくつも見せてもらいました。私は当時、女性記者の先端を走っているつもりでいたので、既に100年以上前にこのような女性記者が活躍していたことを知り、大変な衝撃を受けました。

 私の両親はともに福島の出身で、私のDNAは100%福島産、木村よしのも町田さんも福島生まれということに不思議な縁を感じ、町田さんに「ぜひ木村よしのの本を出してください!」とお願いしました。
 しかし、その後東日本大震災・原発事故などが起こり、私も福島で「下村満子の生き方塾」を立ち上げ、町田さんは民友社を退社され、本のことは気になりつつも、今日に至ってしまいました。そこに町田さんから突如、木村よしのの本が出版できそうだと言う知らせが昨年5月に届きました。
 記者・よしのに対する強い思いを11年間抱き続けた町田さんの情熱と記者魂に、ただただ脱帽です。さらに木村よしのは一貫して、弱者・貧しい人々・社会の底辺の人達に目を向け、未だに解決していないジェンダーの視点も、しっかり踏まえて取材していることに改めてよしのの卓越したジャーナリズム精神に強く触発されました。いま読んでも、ちっとも古くない。ぜひ一読をお薦めしたい。(郁朋社1000円)
「木村よしの  おんな記者伝」.jpg
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