2020年07月05日

【今週の風考計】7.5─香港の人権を抑圧する「国家安全法」は撤回せよ!

◆「デジャヴ」(既視感)に襲われた。1カ月前に米国の黒人男性が警官に首を膝で抑えつけられ、「I can't breathe」と叫んでいる写真と、まさにそっくりのショットが、香港返還記念日にあたる7月1日に、香港市街で撮影されていた。
 警官がヘルメットをかぶりゴーグルをつけ、スネ宛てなどの重装備で、街頭デモに参加していた男性の首根っこを締め上げ、催涙弾ピストルをデモ参加者に向けている衝撃的な写真だ。
 これは先月30日に中国が強行した「香港国家安全維持法」に抗議する、市民デモへの弾圧現場をとらえた写真である。

◆香港の繁華街や銅鑼湾地区で300人が、即座に「国家安全法」違反の容疑で逮捕されている。荷物検査まで行い「香港独立」と書かれた旗を隠し持っていたとの理由で検挙している。
 こうした深刻な現実を招来させたのは、ほかでもない中国・習近平政権だ。これまで香港の「高度な自治」を認めてきた方針を投げ捨て、香港の人々の人権を抑圧するだけでなく、中国自らが国際的に公約した、「一国二制度」をブチ壊す暴挙である。
 香港議会での審議も抜きにして、中国政府が一方的に押し付けるなど、民主的手続きを無視しての強行は断じて許されない。
◆しかも香港政府内に、中国政府の出先機関「国家安全維持公署」を新設し、香港における市民的・政治的行動を取り締まるため、中国当局が直接介入し、弾圧ができるようにするとは、中国自らが署名・支持してきた国際人権規約にも反する。
 66条からなる「香港国家安全維持法」は、国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国の安全に危害を与えたり、威嚇したりする行為を取り締まる。最高刑は終身刑だ。外国人も含め、香港にいる全ての者が処罰の対象だ。裁判の管轄権は中国政府が握る。

◆香港は英国から中国に返還される際、当時のケ小平国家主席は、2047年までの50年間、香港を社会主義化しない「一国二制度」を守ると約束をし、「高度な自治」が保障されてきた。
 香港市民は自らを「香港人」と捉え、とりわけ若者たちの間では自治と司法の独立を誇りに、「雨傘運動」「人間の鎖」など、強圧的な中国への抵抗を繰り広げてきた。
◆しかし、今や一部の活動家グループは「国家安全法」の対象となることを恐れ、香港離脱や活動停止表明をしている。街中でも商店主らが反政府デモを支持するポスターを撤去する動きがみられる。このまま中国に屈服してしまうのか。
 9月6日には香港立法会議の議員選挙がある。7月18日から立候補の受け付けが始まる。民主派団体や組織は11日〜12日に候補者を決める予備選を行う。だが選挙管理委員会は、施行された「国家安全法」に反対する候補者は受け付けないのではとの懸念が高まっている。
 それにしても中国政府は、30カ国近くの国際的な批判に対し、「内政干渉」だと一蹴するが、基本的人権を踏みにじっての暴挙には、内政も外政もない。謙虚に耳を傾け香港への「国家安全法」は撤回すべきだ。(2020/7/5)
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2020年07月02日

【おすすめ本】矢部 武『アメリカ白人が少数派になる日 「2045年問題」と新たな人種戦争』─人種差別という感染症 「白人至上主義」が行き着く先=山田順(ジャーナリスト)

本書を手にしたとき、アメリカは「コロナ禍」の真っ最中だった。だから、このテーマは著者が長年にわたって追い続けたものだけに、惜しいなと思った。
しかし、その後「フロイド事件」(警官による黒人暴行死)が起こり、全米各地で大規模な抗議デモが続いたので、本書のテーマは今もっともタイムリーなものになった。つまり、本書は、いま真っ先に読むべき本だ。11月の米国大統領選を考えるうえでも、必読の1冊だ。

 人種差別。これは捉え方によっては、新型コロナウイルス以上に人間を蝕む感染症である。この感染症にアメリカは400年以上にわたって悩まされてきた。公民権法ができて半世紀も経つというのに、いまだに差別は続いている。
 著者は、70年代にアメリカに留学し、以来ずっとアメリカ人とアメリカ社会、その“映し鏡”としての日本人と日本社会を見つめてきた。私は著者と同じ世代なので、いつも著者の見方に共感してきた。編集者時代は著者の本を編集させてもらい「多文化主義」を巡り意見交換したこともある。
 もし、多文化主義という人類の理想社会を実現させるとしたら、それは「自由の国」アメリカ以外にない。また、人種差別はアメリカだけの問題ではない。アメリカに「白人至上主義」があるように、日本にも「日本人至上主義」がある。

 本書に詳述されているように、2045年、白人は人口優位性を失う。その前までにアメリカは変われるのか? トランプのような「白人至上主義者」が、あと4年も大統領を続けられるのか? その答を本書から読み取ってほしい。(かもがわ出版1800円)
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2020年06月28日

【今週の風考計】6.28─「BLACK LIVES MATTER」を深く考えるための2冊の本

米国の黒人男性ジョージ・フロイドさんが、20ドルのニセ紙幣を使ったとの疑いで、白人警官に暴行され、死亡した事件から25日で1カ月。
 事件を機に、「黒人の命は20ドルの価値しかないのか?」と起ちあがった抗議デモは、全米50州1700を越える都市に拡大した。差別撤廃や警察の組織改革を訴え、奴隷制など歴史認識の再考も迫る広範な反差別運動に発展している。
 黒人差別解消を求める公民権運動が広がった1950〜60年代以来の規模に膨れあがり、いまや「BLACK LIVES MATTER」を掲げるデモは、欧州やアジアなどにも波及し、国際的なうねりとなった。

米国における黒人差別は、米国社会が宿す根深い腫瘍。南北戦争後の1865年、黒人は奴隷の軛から解放されたとはいえ、「KKK」などの「白人至上主義」組織による<黒人リンチ>が1950年代まで公然と行われてきた。
 木に吊るされて焼き殺されたり、遺体をバラバラに切断されたり、しかも暴徒たちはその遺体の破片を「戦利品」として、持ち帰ったというから恐ろしい。1877年から1950年代の間に、米国南部12州で4084人がリンチで殺害されたことが判明している。
おぞましい<黒人リンチ>の歴史を経て、やっと1964年に差別禁止の公民権法が成立し、黒人は政治制度としては平等の権利を獲得した。しかし実態は安い賃金奴隷という、新たな搾取の罠に陥る犠牲に追い込まれただけである。今もなお白人との格差は歴然とし、深刻さは増している。

警察の暴力を記録する団体の調査によると、2019年に警官に殺された市民は1098人。そのうち白人が406人で37%、黒人が259人で24%という。米国の人口に占める白人の割合は60%、黒人は13%という人口比を考えれば、警官の黒人に対する殺害率は極めて高い。
 刑務所に収容されている囚人の数にしても、人口10万人あたりでは、黒人1501人、ヒスパニック797人、白人268人。これも黒人が白人の5.6倍と異常なほど突出している。マリフアナ所持で逮捕される率は、白人1人に対し黒人4人というデータもある。 警察の捜査や取り締まりは、確実に肌の色に基づいていると言ってよい。

なぜそうなっているのか。矢部武『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)と渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)が、きわめて明快に述べている。
前書は、2045年を境に米国全土で白人の占める割合が50%を切り、白人が少数者になるという怯えのあるところに、黒人初のオバマ大統領が誕生し、米国に根深くはびこる「白人至上主義」が「炎上」し、「白人の米国第一主義」を掲げるトランプ大統領を誕生させた、と分析する。
後書は、さらに「白人至上主義」を唱える「オルトライト」(新極右)というキーワードを軸に、米国社会の潮流を解明する。<ハイル・トランプ!>などとナチス流の敬礼でトランプ大統領を祝福するリチャード・B・スペンサーが、12年前に立ちあげた運動である。
 今や米国の白人の6%近く、約1100万人が「オルトライト」に共鳴している。共和党を排外的な国粋主義政党に変え、スティーブ・バノンやスティーブン・ミラーを送り込み、トランプ政権への影響を強めている。怖いほどに草の根のリアルな動きが迫る。

だが、コロナ禍への対応や黒人暴行死事件への抗議の高まりを受け、トランプ大統領への支持は急降下している。11月の大統領選で勝敗の鍵を握る6州すべてで、民主党のバイデン前副大統領への支持が、6〜11ポイントも上回っている。<哀れ! トランプ>。(2020/6/28)
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2020年06月26日

【焦点】 普及率低迷で 感染接触通知アプリ 無用の長物≠ノ?=橋詰雅博

P1020226.JPGコロナ感染防止策としてわが国が導入した感染接触通知アプリの実用が6月19日からスタートした。試行版とはいえ、不具合が続出し、使えないツール≠ノ陥っている。加藤勝信厚労相は、修正し1カ月後に完全版≠送り出すというが、どうなるやら。ところで多くの人がこのアプリを使わなければ、コロナウイルスの封じ込めに成功しない。どのくらい広がれば効果があるのかについて、英オックスフォード大学の研究では、アプリを人口の6割が使えば地域的流行を回避できるという。
 中国や韓国、台湾など政府が半ば強制的にアプリを利用させた国はともかく、日本のような利用するかは個人の判断とする国ではどのくらいの普及率なのか。普及率が高いとされるアイスランドでさえ4割程度にとどまっている。日本がモデルにしたシンガポールも3割超だ。
シンガポールでは氏名や携帯電話番号の入力が必要で、政府に個人情報を握られるという国民の反発が強かったから普及率が伸び悩んだ。これでは役立たないとシンガポール政府はコロナ追跡端末そのものを6月中に配布する方針である。まずスマホを持たない子どもや高齢者などに配布し、最終的に全国民約570万人への配布を検討している。国民からデジタル監視やプライバシーの侵害だという声が上がり、「警察国家化の 阻 止」を訴えるネット署名が広がっている。
 普及率6割を日本に当てはめると、「LINE」利用者が約8400万人とされるので、それに匹敵する。目下、ダウンロードした人は約400万人だ。広がるかは安倍政権への信頼度が大きなポイントになるだろう。しかし、現政権への批判は根強い。森友・加計疑惑、公選法違反に問われている桜を見る会、首相が昨年の参院選で肩入れした河井前法相夫妻の買収事件など疑惑のオンパレードに加えて、コロナ禍へのおざなりな対策に国民の不満が爆発している。
 こうした事が原因でここにきて内閣支持率急落の安倍政権が提供したアプリに、いくら個人情報を守る仕組みになっているといわれても、疑いは晴れず信頼できないと、利用をためらう人は少なくないだろう。プライバシー侵害や行動制限の恐れがあり、機能が完全でないアプリが6割普及するとはとうてい思えない。安倍政権への信頼度も低く、結局、無用の長物≠ノなりかねない。もっとやるべきことは第2波や第3波に備えた医療態勢の強化ではないか。
橋詰雅博
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2020年06月24日

【おすすめ本】吉田千亜『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』─「福島原発」爆発の現場でもがいた消防士66名の苦闘を追う=梶原浩子(出版OB九条の会)

 著者は、現場で住民避難誘導、救助、原発内での火災対応、給水をしていた消防士111名中66名を1年間かけて取材。刻々と変化する事態を追いつつ、消防士から聞き取ったエピソードを巧みに組み込んだルポルタージュである。
「大津波警報発令!」すぐに津波がおしよせる。町がのみこまれる。避難を必死に呼びかける。続いて東京電力から「10条通報」がくる。原子力災害対策特別措置法第10条に基づく事象が発生している知らせだ。つづいて「15条通報」=原子炉をコントロールできていないことを意味する。消防士たちは「まさか」と驚きを隠せない。
 原発構内からの要請により詳しい情報のないまま、彼らが原発内に入るところが怖ろしい。重要免震棟からは化学防護服、宇宙服のようなものを着た人々がどんどん出てくる。まもなく「ドーン」という音。キラキラ光る粒子が降ってくる!

 そもそも「原発は絶対安全」と豪語して、反対者、反対運動を徹底的に抑えこみ原発神話をでっち上げてきた。政府、財界、学者、原発関係者、地元をあげての大合唱。そのなかで「おきるはずのない」事故が起きた。対策は後手後手で、正確な情報がだされないまま時がすぎ災害を大きくしていった。
 消防士たちの「人間がコントロールできないものを作ってはダメ」「すぐ行方不明捜索活動ができていたら助けられていた命がたくさんあったはず」の声が痛い。
 本書は、日本の「原発」史上、災害時に最も危険な場所で苦闘した人々の貴重な行動が記録された書として、後世に残されるべきものだ。(岩波書店1800円)
「孤塁」.jpg
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【今週の風考計】6.21─朝鮮半島の緊迫に乗じ「敵基地攻撃能力」保有を言う愚

6月25日は、朝鮮戦争が勃発して、ちょうど70年目を迎える。北朝鮮と韓国の間で始まった朝鮮戦争は、米国を始め世界20カ国以上が参戦し、韓国・朝鮮人は軍・民合わせて300万、米軍4万、中国軍約100万の犠牲者を出した。
 この悲劇を生みだした朝鮮戦争は、いまだに終結宣言すらなければ平和協定も締結されていない。これが現実なのだ。

そこへきて北朝鮮は、韓国へ軍事的挑発も含む強硬姿勢を、連続して打ち出している。自国内にある開城の南北共同連絡事務所を爆破したうえに、2018年の9月19日に交わされた南北軍事合意による「非武装化された地帯」にまで歩哨所を再設置、黄海上の南北境界地域にも軍の部隊を増強、軍事訓練の再開など、強硬な措置を積みあげている。
なぜ北朝鮮はこのような強硬な措置に出たのか。韓国の脱北者を中心とした市民団体が、北朝鮮の金正恩委員長とその体制を批判するビラを気球に乗せて散布した。
 そこには金委員長の私生活に関する内容が、真偽も不確かなまま記されていた。金与正氏の従来にない厳しい談話に加え、爆破という措置で行動を示したのではないか。

もう一つの背景は、国際的な経済制裁を受ける北朝鮮は、国内の厳しい経済環境を、自力更生・自給自足で正面から突破していくうえで、いまの文在寅政権の経済政策や対米外交は、役に立っていないという強い不満がある。
 2018年以降に行われた3回の南北首脳会談で、さまざまな合意事項が生まれた。しかし北朝鮮からすれば、開城工業団地の再稼働や金剛山観光事業の再開、南北道路・鉄道の連結などの事業合意が、遅々として進まない。
北朝鮮の対韓国政策は「朝鮮半島のことは朝鮮半島の当事者だけで決める」のが原則で、文在寅政権も理解していたはずなのに、アメリカの顔色ばかり覗っている。これでは埒が明かないとみての強硬措置ではないか。
 とはいえ、2010年の天安艦撃沈や延坪島砲撃に見られるような、韓国への局地的な軍事攻撃は許されない。

改めて2018年4月25日に、金正恩委員長と文在寅大統領が署名した南北共同宣言に立ち返ってほしい。
 「核のない朝鮮半島の実現という共同目標」に向け、朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結を目指して恒久的な平和構築に向けた会談の開催を積極的に推進し、さらに非武装地帯(DMZ)を実質的な「平和地帯」とする、こうした事項が盛り込まれている。

いっぽう安倍首相は「朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっている」とし、「敵基地攻撃能力保有」に対する議論を「この夏、国家安全保障会議で徹底的に行い、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい」というのだ。
 「イージス・アショア」の導入計画が吹っ飛んだとたん、平和構築でなく戦争につながる「敵基地攻撃能力」の保有に先走る。憲法9条2項に背くだけでなく、日本が守ってきた専守防衛の原則からも外れる暴挙に血道を挙げるとは、もう点ける薬もない。(2020/6/21)
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2020年06月21日

【今週の風考計】6.21─朝鮮半島の緊迫に乗じ「敵基地攻撃能力」保有を言う愚

6月25日は、朝鮮戦争が勃発して、ちょうど70年目を迎える。北朝鮮と韓国の間で始まった朝鮮戦争は、米国を始め世界20カ国以上が参戦し、韓国・朝鮮人は軍・民合わせて300万、米軍4万、中国軍約100万の犠牲者を出した。
 この悲劇を生みだした朝鮮戦争は、いまだに終結宣言すらなければ平和協定も締結されていない。これが現実なのだ。

そこへきて北朝鮮は、韓国へ軍事的挑発も含む強硬姿勢を、連続して打ち出している。自国内にある開城の南北共同連絡事務所を爆破したうえに、2018年の9月19日に交わされた南北軍事合意による「非武装化された地帯」にまで歩哨所を再設置、黄海上の南北境界地域にも軍の部隊を増強、軍事訓練の再開など、強硬な措置を積みあげている。
なぜ北朝鮮はこのような強硬な措置に出たのか。韓国の脱北者を中心とした市民団体が、北朝鮮の金正恩委員長とその体制を批判するビラを気球に乗せて散布した。
 そこには金委員長の私生活に関する内容が、真偽も不確かなまま記されていた。金与正氏の従来にない厳しい談話に加え、爆破という措置で行動を示したのではないか。

もう一つの背景は、国際的な経済制裁を受ける北朝鮮は、国内の厳しい経済環境を、自力更生・自給自足で正面から突破していくうえで、いまの文在寅政権の経済政策や対米外交は、役に立っていないという強い不満がある。
 2018年以降に行われた3回の南北首脳会談で、さまざまな合意事項が生まれた。しかし北朝鮮からすれば、開城工業団地の再稼働や金剛山観光事業の再開、南北道路・鉄道の連結などの事業合意が、遅々として進まない。
北朝鮮の対韓国政策は「朝鮮半島のことは朝鮮半島の当事者だけで決める」のが原則で、文在寅政権も理解していたはずなのに、アメリカの顔色ばかり覗っている。これでは埒が明かないとみての強硬措置ではないか。
 とはいえ、2010年の天安艦撃沈や延坪島砲撃に見られるような、韓国への局地的な軍事攻撃は許されない。

改めて2018年4月25日に、金正恩委員長と文在寅大統領が署名した南北共同宣言に立ち返ってほしい。
 「核のない朝鮮半島の実現という共同目標」に向け、朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結を目指して恒久的な平和構築に向けた会談の開催を積極的に推進し、さらに非武装地帯(DMZ)を実質的な「平和地帯」とする、こうした事項が盛り込まれている。

いっぽう安倍首相は「朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっている」とし、「敵基地攻撃能力保有」に対する議論を「この夏、国家安全保障会議で徹底的に行い、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい」というのだ。
 「イージス・アショア」の導入計画が吹っ飛んだとたん、平和構築でなく戦争につながる「敵基地攻撃能力」の保有に先走る。憲法9条2項に背くだけでなく、日本が守ってきた専守防衛の原則からも外れる暴挙に血道を挙げるとは、もう点ける薬もない。(2020/6/21)
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2020年06月18日

【焦点】 政官民のもたれ合いの構図は一向に変わらず=橋詰雅博

                    dentsu_200601_L.jpg
 事業委託をめぐる安倍政権と電通のズブズブの関係が大問題になっている。なぜ政府は巨額の事業を電通に丸投げ≠ノ近い形で任せてしまうのだろうか。表ざたになったらメディアや世間からたたかれるのはわかっていながらこういうズサンなやり方をするのはもはや確信犯≠セ。
 自民党と電通の癒着構造について、元博報堂社員で『電通巨大利権〜東京五輪で搾取される国民』(サイゾー)の著者・本間龍さんは、6月初旬講師として招かれたオンラインセミナーで、こんなことを語っていた。
 「電通による20億といった多額の中抜き≠ヘ異常です」と前置きした上で、「ダミー会社を使うのは、電通に直接、巨額なお金が渡るのが明るみに出たら問題化するので、それを避けるためです」といわば電通隠し≠ェ目的だと指摘した。政府はどうして電通任せにするのだろうか。
 「発注する官庁は公金を使うので、もしも事業が失敗したら、国民の批判を浴びます。したがってそうした時、電通ならばしりぬぐいを自社でやるだけの体力や人材があります。何かトラブルが起きた場合でも電通担当者を呼びつけてしかり飛ばせば済みます。そこから末端まで意向が伝わる。発注者はラクですからね」
 欧米の事情について「海外では電通のような一社で全部やれる巨大な広告代理店はありません。だからこんなデタラメなことは起りにくいと思います。政府にとってなんでもやってくれる企業はとにかく便利です」
 巨額な事業の受注の見返りとして電通は警視庁や警察庁、経済産業省などからの幹部職員の天下りを受け入れている。6月17日付しんぶん赤旗では実名入りで、10年間で12人が天下りしていると報じている。
 政官民もたれ合いの構図は昔から何も変わっていない。
橋詰雅博
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2020年06月14日

【今週の風考計】6.14─自民党の河井夫妻・立件へ、検察と官邸の攻防

▼疑惑まみれでも会見すらせず、イケしゃあしゃあと国会に現れる議員がいる。そう自民党の河井克行・前法相と妻の案里・参議院議員である。このご夫妻、広島選挙区の有権者に現金を配った公選法違反(買収)容疑で窮地に立たされている。検察は国会が17日に閉会するのを視野に、立件を目指しての捜査が大詰めの段階に入っている。
▼最大の疑惑は、河井夫妻側が自民党本部から提供された1億5千万円の使いみちである。案里氏の党支部が選挙運動費用として計上したのは2405万円。提供資金のうち、残る1億2千万円余りはどこにいったのか、まったく不明なのだ。
 しかも党本部が改選数2の広島選挙区で、党公認の現職である溝手顕正氏側に出した資金は、選挙対策費と公認料名目で計1500万円。ところが案里氏側に提供したのは、その10倍という、あまりにも公平さを欠く金額である。

▼検察は、河井夫妻が県内の地方議員や首長、後援会幹部や元陣営スタッフなど約100人に、1人当たり数万円〜百万円の幅で、2千数百万円もの現金を配ったのではないかとして、その裏付けを急ぎ疑惑の解明に全力を挙げている。
 1億5千万円の使い道として、他に挙げられているのが、選挙の公示前に大量に作った宣伝物だ。案里氏と菅義偉官房長官との対談を紹介するチラシ、案里氏の経歴を記したカードなどが作られている。
▼党本部が提供した資金の多くは、河井夫妻の党支部による政治活動の費用として、地盤固めや支援拡大に投じられたことになる。党本部から資金提供された分も含め、19年度の政治資金報告は、今年11月下旬に公開される見通しだが、どれだけ明朗・詳細に明かされるか疑わしい。
 そもそも政党の資金には、党費だけでなく税金による政党交付金が含まれている。今回、提供された1億5千万円の多くは政党交付金で占められたとされる。
▼夫の克行前法相は、妻の案里氏を参議院議員に当選させるため、ウグイス嬢への法定枠を倍する報酬を始め、影の参謀として全面的に指揮をとってきた。その安倍首相の補佐官まで務め法務大臣に就いた、お気に入り政治家が、もしも逮捕されるようなことがあれば、<安倍マネー>の捜査にまで波及するのではないか、それを恐れる官邸と検察の争いはし烈を極める。

▼安倍政権の検察官定年延長に絡む、まさに当人の黒川弘務検事長が賭けマージャンで辞職したものの、処罰の軽さに国民からの批判が高まるなか、河井夫妻への立件や逮捕状請求をめぐって、検察も弱腰での対応は許されない。稲田伸夫検事総長は7月末とされる退職を前に、毅然とした検察の権威を示さざるを得なくなっている。(2020/6/14)
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2020年06月11日

【おすすめ本】WiMN編著『マスコミ・セクハラ白書』─「もう黙ることはしない」と決めた25人の覚悟から未来を変える=酒井かをり(MIC日本マスコミ文化情報労組会議副議長)

 ハラスメントは命の問題です。命を絶つほどの苦しさをもたらす行為です。今この瞬間も苦しんでいる人がいます。
 自覚の有無に関わらず、またギャグや笑いを絡めても、自身の言動が相手の心を蝕み、人を殺してしまうのです。たとえ見て見ぬ振り、関わらないことにしようとも、「殺人幇助」になるという認識が不可欠です。
 「私はセクハラをしたことはない」と、あなたは胸を張って言い切れますか?「セクハラをしないよう気をつけているけれど、軽めのセクハラはしてしまったかもしれない」と思う方も、本書を読んでからもう一度、答えてみて下さい。セクハラに重い軽いはありません。

 本書に登場する実名も含む25人の声に、今この書評を書く私自身の経験・感情が重なりました。新卒で入社した私自身の初仕事は、男性向けグラビア誌で初の女性編集者として突撃探検取材でした。連日の残業で年末には血尿まで出る事態でした。それでも私は生きています。だから生きている? 何が違ったのか?
 どの事例も遠い過去ではなく、今目の前で起きている出来事のように温度と匂い、空気感、熱を持ったリアルな情景が、ありありと浮かびます。
セクハラに時効はありません。忘れたくても記憶から消えてはくれません。本書に出てくる<セクハラを受けていた時に揺れていたドラえもんや唇を拭ったツツジの葉>のように、ありふれた日常が、セクハラの記憶そのものになるのだと知ってほしい。(文藝春秋1600円)
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2020年06月07日

【今週の風考計】6.7─コロナ禍での税金「ゴートー」を許すな!

第2次補正予算案32兆円の審議が国会で始まる。とりわけ異常な予備費10兆円のうち、依然として5兆円の使いみちは不透明なまま。
 第1次補正と合わせれば、今年の総歳出は160兆3千億円にふくらむ。発行する新規国債は過去最大90兆円、世界の中でも突出している。
さらに深刻なのは、コロナ禍のどさくさに紛れて、ズサンな予算執行が「税金の浪費」、いや「コロナ禍での焼け太り」を、横行させている事態だ。
 一例が「持続化給付金制度」の運営である。コロナ禍にあえぐ中小企業の経営を助けるため、最大200万円の資金を給付する制度が、食い物にされているのだ。
 経産省は給付手続き業務を、一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」へ769億円で丸投げした。この法人、電話にも出なければ、3年にわたって決算公告すらしていない。役員には広告大手の電通や人材派遣業では大手のパソナから、出向した社員の名が並ぶ。

この法人、経産省の公募に応じて給付事業を落札した。ところが、この法人、20億円を懐にしまい込み、残りの749億円で電通に丸投げ。しかも電通は即座に子会社5社へ645億円で外注している。少なくとも電通本社だけで計104億円の利益を得る見通しだ。
なかでも電通本社から約550億円で、給付金の受付やコールセンター業務などを請け負った電通ライブ社は、本社に倣って、ちゃっかり旨い汁をすする。
 手際はお見事! この業務をまたも500億円で、竹中平蔵氏が関与するパソナやIT企業の大手トランスコスモス社などに外注したのだ。かくして電通ライブ社は50億円を手にする勘定だ。
 まさに外部へ業務を移すたびに、ピンハネ金が懐に入りこむ仕掛け。税金を使った「コロナ肥り」のあくどさ。

政府は、今回の2次補正予算案で、給付対象を広げ1兆9400億円の援助金を積み増し、その業務委託費として850億円を計上している。またもこの公金が「サービスデザイン推進協議会」から電通へ、そこから子会社を経て、お仲間企業へ流れ、そのたびに税金が中抜きされるかと思えばゾッとする。
これだけではない。2年前に経産省が認可した一般社団法人「キャッシュレス推進協議会」も、電通が絡む別のトンネル法人と指摘されている。この5%ポイント還元事業(補助金339億円)の事務局を担う上記法人から、電通は307億円の事業を受託している。

「GoToキャンペーン」にも、不透明な運営に批判が噴出している。観光・飲食業者を支援する事業総額1兆6794億円のうち、2割を占める3095億円が事務委託費に充てられている。
 この金額の大きさや委託先公募への疑問から見直しが決まった。しかし、キャンペーン「GoTo」、これまた税金の「ゴートー」と読み替えたくなるほど、怪しい雰囲気が漂う。
「アベノマスク」ではないが、安倍首相の最側近である経産省出身の補佐官の意向などで、税金が恣意的に使われてはたまらない。
 ちなみに電通は安倍首相が政権に復帰した2012年〜18年に、自民党の政治資金団体へ計3600万円、それ以前には地元の山口県選挙区支部に3回・各10万円の計30万円、献金していた。なお昭恵夫人は、かつて電通の社員でした。(2020/6/7)
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2020年06月04日

【焦点】 日本政府が韓国市民団体のウガンダ計画を中断に追い込んだ!?=橋詰雅博

 韓国市民団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正議連)の前理事長で与党「共に民主党」国会議員・伊美香氏(ユン・ミヒャン)の同団体不正金疑惑の一つとしてアフリカ・ウガンダでの「金福童」センター設立事業の中断があげられている。事の真相はさておくとして、これを中断させたのは日本政府という見方がある。
 昨年の1月に亡くなった金福童さんは旧日本軍慰安婦被害者で長年、女性人権運動家として活躍。同団体はその功績をたたえ、世界に人権と平和のメッセージを発信する目的で金福童センター設立事業に取り組んできた。内戦下で戦時性暴力被害が起きたウガンダ北部のグル地域に同センターを建設するため昨年6月から募金活動を開始した。2億ウォン(約1700万円)を集め、広さ1万4500坪の土地を購入した。
 日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の粱澄子さん(ヤン・チンジャ)さんは、今年2月24日発行「全国行動ニュース」の中で日本政府の動きをこう書いている。
市長は態度を一変
〈正議連の支援を受けセンター運営に当たる市民団体「ゴールデン・ウィメン・ビジョン」(GWV)をそれまで支援していた市長が、11月の竣工式前から施設内に日本軍「慰安婦」歴史館が含まれることがあったら建設を許可できないとGWVに圧力をかけ始めていたという。2019年上半期にGWVらを訪ねた日本大使館員は正議連について悪宣伝をおこない、連帯するのを止めたら支援するという話をして行ったと聞いていたため、このようなウガンダ行政当局の背後に日本政府の圧力があることは明らかだった〉。
  状況を打開するため正議連とGWV代表シルビアさんが市長室を訪ねた。机の上には日本政府からと思われる文書が置かれていた。
嘘をつくなと恫喝
 市長はセンターの名前は何か、慰安婦問題が含まれるのかなどを質問。シルビアさんらの説明を聞いた後、市長は〈嘘をつくな、自分はメールをもらった、正議連はウガンダに平和の少女像を建てるために来たのだと言い、なぜ日本軍「慰安婦」問題を持ち込んで紛争をつくるのかとシルビア代表を責め立てた。話の途中、日本政府によるウガンダ政府への支援額も飛び出し、グル地域では日本政府が道路建設するなどにお金を出していることも話した。そしてついにGWVの法人登録を取り消すとまで言い出した〉。
 結局、正議連はウガンダでの「金福童センター」計画を中断。伊美香代表は米国に同センターを建てると宣言したが、コロナ禍などによりこの計画は頓挫している。
  粱さんは、このような日本政府の恥ずかしい妨害活動をやめさせなければなれないと訴えている。
 メディアはあまり報じないが、日本の外務省が平和の少女像など慰安婦メモリアル設置をしようとする欧米やアジアの各国で阻止活動しているのは有名な話だ。ウガンダでの出来事もその一例ではないだろうか。
橋詰雅博
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2020年05月31日

【今週の風考計】5.31─パステルナークとヴィソツキーへの想い

ソ連の作家ボリス・パステルナークといえば、筆者が1981年5月、ソ連を旅した時に随伴の通訳女性が、本当にうれしそうな顔をしたのが忘れられない。「ベリョースカ」にまつわる出来事だ。
 当時のソ連で合法的に外貨が使えるのは「ベリョースカ」しかない。ここには外貨を落とす観光客向けの高価なマトリョーシカ、琥珀などの宝石、キャビア、高級ブランデー「アララット」などが売られている。通常ではソ連の一般市民は入れない。
だがブレジネフ政権も1970年代後半になると、「ベリョースカ」には多様な消費財や文化財が陳列され、ある手を使えば買えるようになった。公式には刊行・販売禁止のパステルナークやソルジェニツィンなどの本も密かに並んだ。

通訳の彼女は、ある時「ベリョースカにはパステルナークの本があるはず、あれば買ってほしいの…」と、「Борис Пастернак Boris Pasternak」のメモをくれた。意識的に「ベリョースカ」に入り探してみた。
 ついにペーパーバック版の本を見つけた。著者名は合っている。パラパラめくると、どうも詩集みたいだ。ともかく購入して、彼女にプレゼントした。その時の顔が忘れられないのだ。ニコッとして、すぐにバッグの中にしまった。

今から思えば、もう少し、パステルナークの詩について聞いておくべきだった。後で調べてみると、渡した本は、パステルナークが1922年、32歳のときに完成させた『わが妹人生―1917年夏』(Сестра моя − жизнь)と思われてならない。わが妹とは、パステルナークが5年前に激しい恋をした少女で、その恋愛の一年を連詩にして物語にしたものという。
1940年代以降、パステルナークが詩の発表をやめ、また過去の詩集が絶版にされても、人々はパステルナークの詩を愛し、KGBの目を恐れながらも、手書きの写本やガリ版刷りの詩集を作り、手から手へと渡されて読まれたという。いわゆる地下出版(サミズダード)である。

おそらく1980年代に入っても、ソ連の人々は容易に購入できなかったに違いない。禁書扱いの『ドクトル・ジバゴ』が、正式にソ連で刊行されるのは1988年、ゴルバチョフのペレストロイカ路線が敷かれてからだった。
 晴れて翌年の1989年、パステルナークの息子がソ連政府に父のノーベル文学賞授賞を申し出て承認された。なんと受賞発表から30年後のことだ。今は日本でもパステルナークの詩集・小説は、どれも翻訳され手にできる。
しかし今でも入手しがたいのが、前に触れたヴイソーツキイの歌。死の3年前、1977年に録音の「ウラジーミル・ヴイソーツキイ/大地の歌」(OMAGATOKI SC-4101〜2)とあるレコードが唯一。
 いま奥から探しだし針を落として聴いている。ギターの音に合わせて、地の底から這いあがってくるような、しゃがれた声、ドクトル・ジバゴのうめき声にも重なってくる。昨日30日は、パステルナークの死後60年に当たる。(2020/5/31)
ヴィソツキー.JPG
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2020年05月25日

【焦点】 大量返品を危惧 コロナで追いうちの中小出版社=橋詰雅博

 人口減、書店の激減、消費税率10%の値上げによる出版不況は、コロナ禍で既存の書店の臨時休業や営業時間の短縮でより深刻になっている。コロナで追いうちをかけられた出版社は、どんな状況なのだろうか。
 所属する団体のアンケート調査に応じた中小出版社10数社の回答の集計表では、リモートワークを実施している社は70〜80%。売り上げは前年同期比(3月と4月の2カ月間)で30〜50%減だ。手元資金でどのくらい経営を維持できるのかの問いに対して3カ月間が最も多い。つまり6月以降、経営危機に陥るというわけだ。印刷物が事業の中心である会社は打撃が大きい。
 この団体の世話役は「イベントのチラシや旅行関係のフリーペーパーなどの仕事がなくなったからです。開店休業¥態と言っても過言ではありません」と話す。ほとんどの会社は持続化給付金など公的資金を受ける申し込みを済ませている。これによってなんとか危機を乗り切ろうとしている。
 ある出版社の幹部社員はこうつぶやく。
「取次会社から書店への配本にブレーキをかける要請はなかった。5月分の返品はこらからですが、大量に戻ってくるのではと心配です。恐怖を感じています」
 中小出版社がバタバタ潰れたら、日本の出版文化は先細る。
橋詰雅博
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2020年05月24日

【今週の風考計】5.24─『ドクトル・ジバゴ』に絡むミステリー

★緊急事態宣言が緩和されつつあるとはいえ、“巣ごもり”の続く我が身にあれば、もう読書しかない。ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)を、一気に読んだ。
★昔のソ連では、ボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』が、「十月革命を冒涜している」との理由で、発禁となっていた。だがその原稿を、ある出版社が入手し、1957年、イタリアで刊行した。英米仏でも翻訳されベストセラーとなった。
 そこで米ソ冷戦下にある米国では、CIAが有能な女性タイピストを工作員として使い、その本を密かにソ連の人たちにバラ撒く作戦に打って出る。言論統制や検閲で「出版・表現の自由」を奪っているソ連の現状を、知らしめるのが目的というストーリー。

★メロディー<ラーラのテーマ>が耳によみがえる。デイビッド・リーン監督「ドクトル・ジバゴ」に感動した頃を思い出す。まさか小説『ドクトル・ジバゴ』の本に、CIAが絡んでいたとは思わなかった。
映画「ドクトルジバゴ」LD.JPG 調べてみると、CIAはソ連製の紙とソ連製の活字を使って、ロシア語「ドクトル・ジバゴ」本を作り、スウェーデン・アカデミーに持ち込んで、1958年にノーベル文学賞を授賞させたという。
 これに対しソ連政府は、本書への贈賞は断じて認めるわけにはいかないと、強烈な圧力や脅迫をパステルナークに加え、ついに受賞を辞退させる。その後、彼はモスクワ郊外に蟄居し、2年後の1960年5月30日、肺がんで死去。今月30日は死後60年となる。

★さて今から40年ほど前、正確には1981年、ゴールデンウークを挟んで3週間ほど、モスクワ、レニングラード、キエフなど、仕事と観光を兼ねて回った旅を思い出す。ブレジネフ政権が末期を迎える時期だ。
 モスクワ五輪が前年の1980年7月19日から、米国・日本などの不参加もあったが開催された。その期間中の7月25日、ソ連の反体制歌手ウラジーミル・ヴイソーツキイが42歳の若さで逝った。12月9日にはビートルズのジョン・レノンが米国で凶弾により40歳で死去する。
★とりわけヴイソーツキイは、あまりにも激しい体制批判を重ねるゆえに、生前には1冊の詩集も1枚のレコードも刊行・発売できなかった。
だが、「彼の歌うカセットテープはコピーされ、人づてに回されて聴いたわ。私も持っているの…」と、筆者のソ連の旅に通訳で随伴の若いロシア女性は言い、さらに彼女は悲しみが癒えない口ぶりで、9カ月前を思い出すのか、葬儀の行われたタガンカ劇場には10万を超える人びとが訪れたと語ってくれた。

★このヴイソーツキイは俳優でもあり、パステルナークがロシア語に翻訳したシェークスピアの「ハムレット」を演じている。ともにソ連政権の圧政に苦しんだ者の共感からだろう。(2020/5/24) 次週に続く
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2020年05月20日

【おすすめ本】毎日新聞「桜を見る会」取材班『汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日』─人びとの怒りの声を背に数々の疑惑を追い続けた記録=藤沢忠明(しんぶん赤旗記者)

 本書は日本共産党の田村智子参院議員の質問に端を発した「桜を見る会」疑惑を、記者自身が怒りや危機感を持って追い続けた生々しい記録です。
 安倍政権の政治モラル崩壊が凝縮された「桜を見る会」は毎年、開かれ、多くのメディアが取材してきました。それが、なぜ問題にされてこなかったのか―。
 本書も紹介しているように、この安倍首相の私物化疑惑をスクープしたのは、赤旗日曜版の昨年10月13日号です。『世界』1月号の「メディア批評」は、「赤旗にあって大手メディアにないものは『追及する意思』ではないか」と書いています。実際、田村質問の扱いは、「毎日」を含め、目立つものではありませんでした。

 毎日新聞・統合デジタル取材センターの記者らが、ことの重大性に気づいたのは、ツイッターにあふれる「モリカケと同じ、税金の私物化だ!」などの怒りの声です。
 一方で、「これほどの問題をなぜ報道しない」とのメディア批判もあり、結成された取材班が「桜を見る会」で何が起きたのか、何が問題なのか―と報道機関への叱咤激励の熱量の大きさも感じながら模索する姿が率直に記述されています。
 その結果、「いつまでやっているのか」というSNS上の批判について、「その批判は違う。桜を見る会には日本という国の根幹に関わる問題が凝縮されていることが、本書を読めばわかっていただけると取材班は信じている」と述べています。
 注目したのは、疑惑追及のさなかに首相側が呼びかけた会食を「毎日」は欠席したことです。メディアはどちらを向いて仕事をするのか、いうまでもないことです。(毎日新聞出版1200円)
「汚れた桜」.jpg
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2020年05月17日

【今週の風考計】5.17─検察定年延長─「天ぷら屋」議員の罪と罰

先週8日に審議入りした検察官定年延長法案は、今週が大きな山場を迎える。これもツイッターでの抗議の声の高まりが、ここまで追い込んだのだ。
そもそも法案提出の根源は、<安倍政権の守護神>黒川東京高検検事長を検事総長に就かせたく、彼が2月8日の63歳の誕生日をもって検察官の定年を迎え、検察庁を去るにも関わらず、わざわざ彼のために定年を6か月間、延長する暴挙を閣議決定したことに始まる。
 しかも、これまで40年近く、政府は「検察官に国家公務員法の定年延長は適用されない」としてきたにも関わらず、国家公務員法の定年延長を適用するという牽強付会な「つじつま合わせ」に加え、検察官の人事権まで内閣が握ろうとする企ての悪ドさである。

「検察庁法改正案」は、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げるほか、63歳の段階で役職定年制が適用されるが、内閣あるいは法務大臣が必要と判断した場合は、最長3年の延長ができるという内容だ。
 つまり三権分立と司法権の独立が脅かされ、内閣が検察人事に介入できる重大な問題なのだ。しかも国家公務員法改正案などを含む10本の法案を一括した「束ね法案」にして、本丸の「検察人事への介入」の狙いを隠す巧みな戦術で、法務委員会ではなく内閣委員会で審議させている巧妙な仕掛けがある。

弁護士ら1500人が法案への反対声明を出したのに続き、ついに元検事総長を含む検察OBが法案に反対の意見書を提出する異例中の異例の行動に出た。その内容の高邁な趣旨を熟読玩味しておきたい。安倍首相の2月13日衆院本会議での発言に対し、
<本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる>
と表明し、<黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動き>と指摘している。

ところが自民党議員からは、「数で押し切れ、時間がたてばホトボリも冷める」の声に加え、「官邸から出されたモノは早くあげるのが仕事」と、「天ぷら屋」の「揚げる」にひっかけて法案処理に急ぐ議員までいる。
 呆れるのは内閣委員会で審議中に、タブレット端末で動画を見たり小説を読んだりしている自民党議員までいる始末。
 果ては「強行採決は自殺行為」と述べる同僚議員を内閣委員から外し、政権に追従する議員に変えるなど、内閣をチェックする国会の責務など、どこ吹く風だ。
公明党も同じ穴のムジナ。山口那津男代表のツイッター<法案の趣旨につき政府として説明責任を>には、批判の声が殺到している。「政権与党の一員として、自ら説明されたら」、さらに「10万円給付の時のように、安倍首相に直談判しないのはなぜ」など、同感だ。
 衆議院内閣委員会に出席している公明党の3議員は、「三権分立」の責務、果たされていますか。どこまで安倍政権に、下駄の雪のようについていくのですか。(2020/5/17)
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2020年05月15日

【焦点】 マスクなしの経営陣に驚く 株主総会で=橋詰雅博

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 東証一部上場企業の株主総会に出席した。3月末のことで、4月7日の緊急事態宣言の発令前だからまだ新型コロナウイルス感染が本格化していない状況だが、総会はどうなっているのか興味があったので、今年は出た。
 事前に株主には新型コロナ感染防止への対応についてと題したハガキが届いた。それには@当日のご自身の体調をお確かめのうえ、マスク着用、会場各所のアルコール消毒液の使用等、ご協力の程お願い申し上げますA混雑緩和の観点から、ドリンクコーナーの設置及びご来場の際のお土産については、今回は中止とさせていただきますと書かれていた。
 会場は都内一流ホテルの大ホールで、ホテルマンによると800人くらい入るそうだ。会場に入る前、両手をアルコール消毒した後、体温を測るサーモグラフィーカメラの前を通る。おそらく37・5度以上と検知されると入場を断られるのだろう。  
 感染防止に協力した後、受付を済まし、会場へ。ガラガラで両側2席を空けて着席。マスクをしているスタッフの方が目立つほど株主は少なかった。僕が尋ねたスタッフは、出席した株主は100人に満たないと返事した。
 ひな壇にそろった10数人の経営陣を見て少し驚いた。全員、マスクをしていなかったからだ。予想を裏切る光景。議長役の社長は、役員は事前に十分に体調をチェックしているので、本日はマスクをしていませんと述べた。株主にマスク着用を強いておきながら一方でこうしたやり方にやや不満を抱く。
 社長はコロナ禍の対応のため遠距離通勤の社員を対象に職場に近いホテルの部屋を用意していると話した。ここの企業は医家向け製薬会社を傘下に持っているので、コロナ感染防止対策事業ついて質問する株主が多かった。
 何か具体的なプランを持っているのかと僕の質問に対して、議長が指名した製薬会社社長は診断できる検査キットの輸入を検討していますと答えた。企業秘密があるのだろうから公の場では明快な事は言えないのは分かるが、あまり納得できなかった。ちなみにスタッフは株主の発言が終わるたびにマイクをアルコール消毒液で拭いていた。
 毎年6月下旬に集中する株主総会だが、今年はそろえる書類などが準備できず延期する企業も少なくない。ネットを活用したバーチャル株主総会も登場した。コロナ禍で株主総会も状況が一変だ。
 橋詰雅博
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2020年05月13日

【おすすめ本】ジェローム・ポーレン著 北丸雄二訳『LGBTヒストリーブック─絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』性的少数者の人権回復の闘いを400人の記録・証言から浮き彫り=北丸雄二(ジャーナリスト)

  エイズ禍最中のゲイ・コミュニティの苦闘を垣間見ながら30年来、私は新聞やテレビの記者仲間に「性的少数者の人権問題はこれから旬のテーマになる。書いたほうがいい」と勧めてきたが、反応の大半は「オカマの話? 興味ないな」というものだった。それが俄かにLGBTブーム。
 日本では「性」は公の議論になりづらい。世界的に広がる同性婚の合法化も、勢い、単なる趣味嗜好の延長線とされる。「今はそんなこと言っていい時代じゃない」と、たしなめる側も、じゃあどんな時代かと問われると、その答えは誠に心許ない。数十年に及ぶLGBT主流報道の不在による、欧米のジャーナリズムとの人権意識・知識のギャップはかなり深く大きい。

 それらを埋める上でも大きな貢献となる本書の魅力は、「For Kids」と謳うものの教科書的な歴史の羅列ではなく、400人近くの有名無名の個々人の記録や証言から100年以上にわたる人権運動の壮大でかつ繊細なパッチワークを紡ぎ出しているところだ。
 私たちは同性愛で有罪判決を受けたオスカー・ワイルドが「私には何の反論もできないのか、裁判長!」と叫んでいた事実を知らない。第二次大戦中にナチスの暗号を解き英国を勝利に導いた天才学者アラン・チューリングが、戦後に同性愛で摘発され自死したことを知らない。09年、英国首相が死後のその彼に「ごめんなさい。あなたはもっとずっと大切に扱われるべきだった」と謝罪したことを知らない。
 そんな過酷な歴史の中で、裁判や選挙などあらゆる手で「絶対に諦め」ずに闘ってきた人々からの感動的な民主主義の実践書だ。(サウザンブックス社2600円)
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2020年05月10日

【今週の風考計】5.10─沖縄の主権と自治は回復されたのか?

沖縄は15日、1972年の本土復帰から48年を迎える。1945年の敗戦後、沖縄の人びとは戦争放棄を謳う9条など日本国憲法のある本土への復帰をめざし、「基地抜き、即時・無条件・全面返還」を掲げ、ねばり強い闘いを繰り広げてきた。

1967年頃になると、沖縄にある米軍基地はベトナム戦争への軍事支援に向けフル稼働に入った。核兵器すら迅速に輸送・使用できる態勢が敷かれたと言われる。沖縄の人びとは危険や恐怖と隣り合わせの生活を強いられていたのだ。
にもかかわらず日本政府は米国との交渉や駆け引きから、沖縄に米軍基地を残したままの返還でケリをつけてしまった。しかも沖縄の自己決定権は無視され、米軍基地の存続を担保にした復興計画が押し付けられた。沖縄の人びとの落胆は、如何ばかりであったろうか、想像に余りある。

それ以降、いまだに米軍基地は温存され、なんと在日米軍専用施設の7割が沖縄に集中し、県面積の8%超を占める。加えて政府は、米軍普天間飛行場の辺野古への移設を強行し、沖縄県民の7割・43万人の「反対」を無視して、辺野古沿岸部の埋め立てを続けている。
 裁判所までが、国の言い分を丸のみして辺野古移設を容認する。これほどまでに、地方自治の精神を踏みにじっていいのか。欧米では地方自治は基本的人権だとされるほど、重要な権利だという。
 沖縄は国によって地方自治が奪われているのが現実だ。いや沖縄の主権そのものが、回復されたのだろうか。

10日ほど前の4月28日、この日は「主権回復の日」だという。今から7年前に安倍晋三内閣が定めた。1952年4月28日に米国との単独講和なる「サンフランシスコ講和条約」と「日米安保条約」が発効し、日本の主権が回復した日だからという。
 トンデモナイ。沖縄や奄美、小笠原は日本から切り離され米国の支配下に置かれたのだ。とりわけ沖縄は、その翌年の1953年4月、「土地収用令」が発令され、伊佐浜や伊江島などで、銃剣とブルドーザーによる無法な土地拡張が行われた。これは沖縄の人々の心の深い傷となり、この日を「屈辱の日」と名付けるのは当然ではないか。
 沖縄には主権が回復されるどころか、踏みにじられ続けてきた、まさに<屈辱の戦後75年>がある。

コロナ感染拡大で緊急事態宣言が出されている最中の4月28日、自民党・稲田朋美幹事長代行らは、靖国神社に参拝した。稲田議員は、ツイッターで言う。
 「主権回復記念日。平成18年から毎年<伝統と創造の会>で靖国参拝を続けてきました。今年はコロナの影響で<会>として参拝は中止しました。…その代わりコロナ収束を祈願」
 コロナ収束を神頼みするのも驚くが、それ以上に沖縄の人びとの心など、眼中にない神経には呆れる。(2020/5/10)
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2020年05月06日

【おすすめ本】三上智恵『証言 沖縄スパイ戦史』+大矢英代『沖縄「戦争マラリア」』─証言と調査で沖縄戦の真実を抉る2冊=鈴木耕(編集者)

 3月初旬、まだそれほどコロナウィルスの恐怖が広がっていなかったころ、東京・渋谷で「軍隊は命をうばう」というシンポジウムが開かれた。標記の本を出版した記念に、著者お二人をお呼びして開かれたものだった。
主催は、いまも新宿駅西口でスタンディングなどの活動を続ける大木晴子さんたちのグループ。私も司会を頼まれ参加。
 そのとき私は、シンポのタイトルには、言葉がひとつ足りないと思った。「軍隊は“味方の命も”うばう」が正確だろう。2冊の本は、味方の命をも奪うという戦争の裏側を抉ったものだったからだ。
 三上さんの本書は集英社新書史上、個人著作としては最大の752頁におよび、<なぜ味方を殺したか?>を、執念にも似た使命感をもって、生存者の証言から浮かび上がらせている。

住民が住民を“虐殺”
 20人を超える証言者は、著者の熱意に応え、重い口を開く。徴用された少年たちは「護郷隊」として組織された。あどけない年頃の少年たちが、どんな過酷なゲリラ戦を強いられたかが、証言から克明に浮かび上がる。
不思議なのは、指揮指導したスパイ養成機関・陸軍中野学校卒の青年将校に対して、少年兵たちが抱いた思慕のような感情である。戦争というものの一筋縄ではいかない複雑な内実がある。
 スパイと疑われた住民を、同じ住民が“虐殺”する過程も描かれる。これまで秘匿されてきた“住民同士”の殺戮が語られるとき、読む者は粛然として息を飲む。
 殺戮はなぜ起きたか。発端となった「スパイリスト」なるものの存在。「あいつはスパイだ。あいつを殺さなければこちらがやられる」という理屈。疑われたら逃げ場がない。だがそれは、決して沖縄だから起きたわけではない。「ヤツは敵だ、敵を殺せ」。それが戦争の本質なのである。
 あの関東大震災の際も、普段は親しかった朝鮮人を、普通の日本人たちが容赦なく殺していった。戦争の本質は、知人であれ友人であれ、疑惑を持たれたら問答無用の剣が待っているということだ。この証言集の重さは尋常ではない。

青春をかけての探索
 『沖縄「戦争マラリア」』(あけび書房)の著者が「戦争マラリア」という言葉を知ったのは、学生時代に石垣島の八重山毎日新聞社でインターンをしていた時だった。ジャーナリストを目指していた著者は「戦争マラリア」をとことん追いかけようと決意し、ついには沖縄最南端の波照間島に住み込んでしまう。若い女性が島の人たちに受容されるまでの経緯、ことに著者を家族扱いしてくれた浦仲浩おじい・孝子おばあ夫妻との交流は一編の青春小説である。
 島に住み着いての「マラリア」探索は、やがて恐ろしい真実に行き着く。『スパイ戦史』と同じく中野学校の青年将校が絡むのは、波照間島での「強制疎開」による住民たちのマラリア罹患死だ。

恐るべき悲劇の裏側
 著者は島民たちと共に暮らしつつ“なぜ”を問い続け辿り着いたのは、実際の戦闘がなかった島の恐るべき悲劇。それを引き起こしたのが山下虎雄という謎の人物だった。山下は「波照間青年学校指導員」として赴任した体格のいい優しい青年だったが、実はこの山下(本名・酒井清)こそ、中野学校出身のスパイ(離島残置諜者)だったのだ。
 最初こそ優しくて慕われた山下も、次第に軍人としての冷酷さを表す。島民たちは戦争遂行に協力するため食糧の供出から西表島への強制疎開に追い込まれる。そこは恐怖の風土病マラリアが猖獗を極める島だった。その結果、波照間島を含め、石垣島、鳩間島、黒島、新城島などの住民3600人もの島民たちが命を落とした。残酷な事実が次々に描かれるが、著者の筆致は軟らかい。
 この2冊、沖縄戦に新しい視点をもたらす貴重な資料ともなっている。
「沖縄スパイ戦史」.jpg「沖縄戦争マラリア}.png
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2020年05月03日

【今週の風考計】5.3─やっと気づく「名もなき家事」の大変さ

★73回目の憲法記念日、コロナ禍を奇貨として、安倍首相は憲法に「緊急事態条項」を新設せんと躍起になっている。トンデモナイ。まず憲法第25条に謳われている「生存権、国の社会的使命」に従い、しっかり国民の命と生活を守る政策の推進に全力を挙げるときだ。
 国民に外出自粛や休業要請など忍耐ばかりを押しつけ、補償や医療の拡充には躊躇する。何やってるんだ!と、怒りをテレビにぶつける機会が多くなった。

★まず朝は8時からテレビ朝日の<羽鳥慎一モーニングショー>に釘付け。岡田春恵先生の悲痛な訴えに頷き、コメンテイター・青木理さんの深い政治的・社会的な背景への言及、さらに玉川徹さんの「PCR検査を徹底実施せよ」との呼びかけ、ひとつ一つに納得する。
★国会中継があれば、NHK 1チャンに回す。そして昼は家食しながら、7チャン・テレビ東京の<昼めし旅>へ。日本各地を歩いて突然に「あなたのごはん見せてください」と声をかける。その時の戸惑う顔、そして断る人に対しての失望感、それらが交錯しながらも、OKしてくれた家庭や仕事場の日常のごはんが並ぶシーン、見入ってしまう。
 コロナが収まったら、あの地に旅してみよう。そして土地の魚介や野菜を用いた料理を食べてみよう、夢が膨らむ。

★昼のワイドショーは各チャンネル、どこも似たり寄ったり。見る気が起きない。代わりにパソコンを開いてテレワーク、あるいは読書、あるいは遊歩道を使っての散歩。
 そして晩酌前の時間は、BS朝日・5チャンの<新必殺仕事人>に胸おどらす。ついに5月1日、全55話の最終回「主水仕事仕舞いする」で終わりとなった。
 毎回、江戸に生きる庶民が、お役人や家老・豪商らの邪まな欲と金の犠牲になり、理不尽にも殺される。そこへ藤田まこと演じる中村主水を始め、鮎川いずみ演じる加代など、必殺の武具や聞き込みを駆使する個性豊かな仕事人5人が、闇の黒幕をせいばいする。気持ちがスカーッとする。
★NHK・BSテレビ1チャン<駅ピアノ・空港ピアノ>もいい。世界の空港や駅に、誰もが“自由に弾けるピアノ”が置かれている。人々が立ち寄り、自分の好きな曲を弾き、行き交う人が耳を傾ける。一台のピアノから生まれる“一期一会”の感動が、人種や国境の隔てなくジワーッと伝わってくる。

★ここまでくると、テレビ漬け三昧、もうグータラ男の典型じゃないか。妻に「ゴミ捨て当番」は任せたといわれて、分別作業の煩わしさを思い出し、ムカーッとくる場合じゃない。妻のイライラの火種は「名もなき家事」の多さにある、それに気づかない自分の愚かさを知る。
★食べた食器は台所へ、そして洗う。脱いだ服は片づけ、「○○シッパナシ」を止めよう。テレビ見すぎ男の反省しきり。(2020/5/3)
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2020年04月29日

【焦点】 組織委理事に9億円 カネまみれの東京五輪 電通が背後で蠢く=橋詰雅博

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 新型コロナ禍で東京五輪1年延期の道スジをつけたとされる東京五輪・パラリンピック組織委員会理事で元電通専務の高橋治之氏(76)は、スポーツビジネスの表裏を知りつくす人物だ。その高橋氏に関し、「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会」(招致委)から9億円を受け取り、東京五輪実現のため奔走した疑惑が浮上した。
 招致委の銀行口座の取引明細証明書を入手したロイター通信による3月末のスクープ記事で明るみに出た。ロイターの取材に対し高橋氏はラミン・ディアク世界陸連前会長などIOC(国際オリンピック委員会)委員にロビー活動をしたことを認めた。しかし、9億の使途については「いつか死ぬ前に話してやろう」とうそぶいた。
 東京五輪招致では、贈収賄疑惑で仏検察が捜査を進めている。贈賄側として招致委理事長を務めたJOC(日本オリンピック委員会)前会長の竹田恒和氏が18年に同検察から事情聴取をされている。高橋氏もこの汚職疑惑に深く関与していると見られる。
 高橋氏は竹田氏とは交流が長い。同じ慶応大出身の竹田恒治氏を介して弟の恒和氏と知り合った。話はそれるが、高橋氏の弟はイ・アイ・イ・インターナショナル社長の治則氏(05年7月死去)で、ホテル・リゾート開発などバブル事業≠拡大させて日本長期信用銀行を潰した男と言われた。
 また、高橋氏は02年の日韓共催W杯サッカーでは電通幹部社員として裏面で動いた。
 ところでロイターのスクープ記事の中で招致委による資金の支払いについて、日本の月刊誌「FACTA」が最初に報じたと書かれている。筆者が残しておいた「FACTA」18年3月号の記事によれば、16年3月号の記事がそれだと思われる。
 18年の記事は仏紙ル・モンド記者と本誌取材班が共同取材したもので、タイトルは『電通「東京五輪買収」の物証』だ。仏検察が押収した電通とディアク世界陸連前会長が交わした極秘契約書がその物証としている。1500万j(約16億円)の不可解な金の流れがあると指摘する。
 東京五輪招致の背後で高橋氏を中核とした電通グループがヒト・モノ・カネを投じたのは間違いない。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号
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2020年04月28日

【焦点】 3ショット写真が8億値引きの転機に=橋詰雅博

 近畿財務局OBの喜多徹信さん(71)と電話で話をした。森友学園事件の口火を切った大阪の木村真・豊中市議の紹介。喜多さんの後輩で、森友学園への国有地売却問題を担当し、自死に追い込まれた(18年3月、当時54歳)赤木俊夫さんの手記と遺書が公開され森友事件が再びクローズアップされたので、取材のお願いだった。
 喜多さんは取材の前にぜひ読んでほしいものが二つあると言った。19年春号『季論21』と、昨年10月兵庫県で行われた全国革新懇交流会記録集だ。
 早速入手。前者は2月にインタビューを受け、後者は全体会での発言。ちなみに喜多さんは1967年に近畿財務局に入り、60歳の定年後4年間の再任用を経て13年3月に退職した。46年間近畿財務局で国有地の売却や貸付の仕事に従事した。この間、全財務労組本部書記長も務めた。森友学園が土地取得を申し込んだのは退職3カ月後の6月だから、大阪地検特捜部から事情聴取は受けていないという。
 『季論』の記事によれば、国鉄民営化で近畿財務局に移ってきた赤木さんは正義感があふれ、〈親しく付き合ってきた仲間〉。財務局の審査で9億5千6百万の値段が付けられた土地がわずか1億3千4百万で売却が決まる大きな転機になったのは14年4月28日に持ち込まれた〈安倍首相の昭恵夫人と籠池夫妻が一緒に写った写真〉。そして〈後輩たちは「昭恵事案」とか「安倍事案」と呼んでいたらしいですが、「無理筋の仕事をさせられた」と言っていた〉。
 記録集発言では、公文書改ざんに関わった役人のほとんどが出世していることを指摘。例えば改ざんに抵抗したとされる楠敏志管財部長もナンバー2の総務部長に昇進。〈19年の定年後、神戸財務事務所の特別ポストに再任用され、会議室をつぶして彼の「個室」まで作ったそうです〉。
 喜多さん、森友事件は終わっていないと雑誌と記録集で力強く語っている。
橋詰雅博
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2020年04月26日

【今週の風考計】4.26─今こそ辺野古・工事中止とジブチ撤退を!

韓国・文在寅政権はトランプ大統領の要請を退け、国防費を削減してコロナ禍対策に充てるという。安倍首相も、マスク2枚の配布に466億円使うよりも、「不要不急」の防衛費を削って、休業補償と医療整備に回したらどうか。
 まずはトランプ大統領の一声で爆買いしたF35戦闘機147機の費用1兆7千億円、さらには維持費約4兆5千億円、その一部でもいいから今の緊急事態に使うのだ。
 戦闘で「命」を奪うよりも、コロナから「命」を守るために、コロナ禍対策に充てたら国民は喜び、支持率アップにつながるのは間違いない。

だが防衛省は、米軍の“殴り込み部隊”の海兵隊を拡充する前線基地・辺野古基地建設のため、重ねて沖縄県民の民意を踏みにじり、設計変更を沖縄県に申請した。
 その目的は、辺野古<美ら海>の大浦湾側にある、マヨネーズ並みの軟弱地盤66.2ヘクタールの改良工事である。最深90メートルの海底などに、約4年1カ月をかけ、砂杭など約7万1千本を打ち込む。総経費9300億円、そのうち約1千億円が地盤改良費。当初の見積もり額の2.7倍だ。完成は予定より大幅に遅れ、2030年代前半という。
 戦争で「命」を奪う米軍基地の建設に、日本国民から搾り取った1兆円近くの巨額の血税を投じる。まさに「不要不急」の極みではないか。しかもコロナ感染拡大を防ぐため、沖縄の人々が懸命になっている時期を狙ったとすれば、悪質極まりない。

つい最近、24年前に全面返還が決まった普天間飛行場の格納庫から、またも発がん性が指摘されるPFOS(ピーフオス)を含む泡消火剤22万7千リットルが漏れ、14万リットルが基地外に流出した。
 付近を流れる河川の水質サンプル調査では、汚染を判断する米国の暫定指標値の6倍に当たる量が検出された。他の地点からも多量のPFOSが確認されている。
 沖縄県は基地内の土壌をサンプル調査できるよう申請していたが米軍は拒否。防衛省の要請も効果なし。その後、米軍は格納庫そばの土壌を掘り起こし、除去した土を県外に搬出。米軍基地内は治外法権の好例、県民の「命」など眼中にない。

防衛省・自衛隊は国民の「命」を守るのが仕事。大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号での、コロナ感染防止・水際作戦での活躍は承知の通り。だがジブチを拠点に海賊対処や航行の安全確保に派遣されている、P3C哨戒機部隊60人の「命」は例外なのか。交代要員の派遣が調整できず、3カ月での帰国ができない事態となっている。
さらに2月末から中東海域で情報収集を始めた護衛艦「たかなみ」乗組員180人は大丈夫か。寄港地でもコロナ感染を防ぐため下船ができず、3段ベッドでの生活は「3密」そのもの。もし感染者が出たらクラスターは確実、ストレスは極限にまで達しているという。
 バーレーンの多国籍部隊司令部に派遣されている自衛隊員10人のうちの1人が、コロナに感染しているとのことだ。防衛省・自衛隊よ、いまこそ辺野古建設の中止、ジブチ派遣から撤退の勇気を持て。(2020/4/26)
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2020年04月22日

【好書耕読】戦争責任への私の「問い」に向き合ってくれる本=笹岡敏紀

 2016年8月の前天皇の「お言葉」から、昨年4月の「新元号」制定、10月の「即位の礼」まで、マスメディアは一連の「皇室行事」を延々と報道した。書籍・雑誌においても「天皇賛美」「天皇制肯定」の論調が席巻した。
 その状況は、私に「なぜ私たちは『天皇制』の呪縛から解放されないのか」という「問い」と思いを深くさせた。
 このような思いの中で読んだ一書が、田中利幸『検証「戦後民主主義」―わたしたちはなぜ戦争責任問題を解決できないのか』(三一書房)だ。

 私の父は、1945年4月、太平洋戦争下のフィリッピンで、一片の骨も還ることなく死んだ。父の死は戦争の「被害者」である。同時にフィリッピンの人びとには侵略軍の一兵士としての「加害者」だ。
 このような父の死をめぐり、長じてからの私が常に「問い」として持ち続けているのは、「父の死は、いかなる意味を持つのか?」であった。それは必然的に「天皇制とは何か」を考え、かつ「戦争責任」を考え「問う」ことにつながっていった。
 そのような私の「問い」に、本書は正面から向き合ってくれている。特に「第3章 『平和憲法』に埋め込まれた『戦争責任隠蔽』の内在的矛盾」は、「平和憲法」と言われ戦後民主主義を支えた「日本国憲法」の成立の背後にある、日本とアメリカの権力機構の「隠された意図」を実証的に解明している。
 それは、日本国憲法「前文」における理念と「第1章」(天皇条項)との乖離と矛盾。さらに、「前文」における理念と「第2章」(第九条)は、けっして切り離してはならないこと。この二つを、私に深く考えさせてくれた。
〈天皇制はなぜやめなければならないのか。理由は簡単である。天皇制は戦争の原因であったし、やめなければ又戦争の原因となるかもしれないからである〉(加藤周一)
本書の中扉(第2章)にある警句である。
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2020年04月19日

【今週の風考計】4.19─トランプ大統領! WHOを危機に陥れるな

WHO(世界保健機関)が危機にさらされている。1948年4月7日に設立されたWHOは、2年後、その日を記念して「世界保健デー」とし、今年は70年を迎える。
 しかも新型コロナウイルスが世界中を暴れまわり、感染者220万人・死者15万人となる今、こともあろうに米国のトランプ大統領は、WHOへの資金拠出を一時停止すると表明した。
トランプ大統領は自らのコロナ対応への失敗を糊塗するため、「中国寄りのWHOが多くの過ちを犯し、多くの人が死亡した」などと、責任転嫁の言動を繰り返している。
 WHOへの協力では、民間からの任意拠出金の額が最大のビル・ゲイツ氏が、「世界的な医療危機のさなか、WHOへの資金拠出を停止するのは危険だ」と批判し、「新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかける上で、ますますWHOを必要としている」と、WHOの重要性を指摘している。

WHOの財政は2年期制で分担金と任意拠出金で構成する。全体で約4900億円。分担金は各国の富裕度や人口によって算出され拠出する。分担金の割合は2020年会計で、1位の米国22%、次いで中国12%、3位が日本8.5%となっている。とりわけ中国はWHO分担金の伸び率が断トツで二桁を更新し、日本を抜いて2位の座を固めている。
トランプ大統領は、米中の経済衝突から、報復関税へとエスカレートし、いまだに中国といがみ合う。もちろん最初にコロナの集団感染が確認された中国の初動の遅れ、またWHOへの圧力など、改めて責任が問われてしかるべきだと思う。
 だが自国のコロナ猛威への対処に失敗し、11月の大統領選を視野に支持率低下に悩むあげく、責任をWHOへなすりつけ、「資金拠出の停止」という脅しを仕掛けるのは筋違いも甚だしい。

いまWHOは懸命だ。アフリカ諸国や難民キャンプ、貧困地域など、保健衛生が不十分で医療施設・従事者が貧弱な地域へのコロナ感染拡大は、想像以上の悲劇を招く。新型コロナウイルスの感染を阻止するかたわら、はしかや風疹、肺炎、ポリオ、ジフテリア、破傷風などの蔓延も防がねばならない。
これらの病気はワクチン接種で防ぐことができる。だが実情は、2千万に及ぶ1歳未満の子どもたちが、ワクチン接種を受けていない。WHO は24日から30日の一週間を「世界予防接種週間」とし、ワクチン接種キャンペーンを展開する。
 また25日は特別に「世界マラリアデー」に設定し、年間42万人以上が命を落とすマラリア撲滅に力を注ぐ。まだワクチンは開発されていないが、抗マラリア薬としてメフロキンが内服薬として用いられている。新型コロナウイルスにも適用できないか、その研究が進む。
ともあれワクチンで防げる病気は、コロナ猛威の時期でも、しっかり予防接種を受けて防ぐことが必要だ。外出自粛でいう「不要不急の外出」に、予防接種は含まれないのだから。(2020/4/19)
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2020年04月15日

【おすすめ本】秋田魁新報取材班『イージス・アショアを追う』─記者たちの地道な調査が結実!=鈴木耕(編集者)

 秋田魁新報という地方紙に、ジャーナリストたちがいてジャーナリズムが存在した。その証としての「新聞の役割」が鮮やかに浮かんでくるのが本書。昨年の「新聞協会賞」と「JCJ賞」をW受賞したのも当然だ。余談だが私のふるさとは秋田。少し誇らしい。
 第4章の「展開」がスリリング。松山敦志記者は以前、朝日新聞に在籍していて沖縄での勤務経験がある。そこで実感した米軍基地問題とイージス・アショア(陸上配備型ミサイル防衛システム)は通底する。ここで沖縄と秋田が結びつく。
 結節点になったのが、北朝鮮の弾道ミサイルに対する国の過剰な避難訓練だ。何かイージス・アショアはおかしい。記者たちの違和感。秋田公立美術大学卒業式で、卒業生代表の謝辞に、大学側から「イージス・アショアには触れるな」との圧力も違和感に火をつけた。

 この辺りから、魁新報記者たちの地道な調査への総力戦が始まる。防衛省「適地調査報告書」の捏造が次々と明らかになる。緩衝地帯の疑念、断面図の矛盾、電波障害の問題など、報告書全てが結論ありきのこじつけとしか思えなかった。
 地方紙のスクープがやがて全国紙をも動かす。さらに住民説明会での防衛相職員の居眠りに、秋田県民の怒りは燎原の火の如く燃え広がった。記者たちはヨーロッパへも飛び、イージス・アショアの現状を取材する。新聞記者魂が輝く。記者たちの活躍に胸躍る。
 その後の扱いを見ると安倍政権の沖縄と本土(秋田)への政策差別が、露わになるのが切ない。(秋田魁新報社1600円)
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2020年04月12日

【今週の風考計】4.12─進む「#コロナ差別」と国家統制の怖さ

◆新型コロナウイルス感染が拡大する中、「#コロナ差別」が、ハッシュタグがつくほど世界中で広がっている。インターネット上の差別発言やヘイトを含むデマ、暴行などの「ヘイトクライム」が、頻発している。
 インドではヒンドゥー至上主義のモディ政権下、イスラム教徒がウイルスを拡散しているとのデマが、SNS上の「#コロナジハード」で拡散され、政権の意を受けた警察がモスクに踏み込む事態まで起きている。

◆日本国内でも、コロナをめぐるデマや誹謗中傷が拡大している。「医療関係者の子供は登園するな。卒園式もお断り」など、感染者の出た病院の職員が罵倒される事件まで起きている。愛媛県では、親がトラック運転手の児童に小学校の始業式や入学式を欠席させ、自宅待機を要請していた。親が感染拡大地域へ行き来するという理由からだ。「職業差別につながる」と指摘され撤回した。
 SNSなどから得るコロナ情報も、SNS自体がフェイクニュースの発生源となっているのをわきまえておく必要がある。情報が人為的・ボッド回路を通じてSNS上で拡散し、トイレットペーパーの買い占め騒動や納豆がコロナウイルスに効果があると聞くや納豆が品薄になるまで発展するのだ。
 WHOは新型コロナウイルスの感染拡大「パンデミック」を防ぐとともに、誤情報・偽情報の世界的な拡散「インフォデミック」に強い警鐘を鳴らしている。

◆厄介なのはSNS上での罵詈雑言の投げ合いである。首都圏からは一部の人が“コロナ疎開”で離島や避暑地に避難する動きが出てきて、医療設備の手薄なそれらの地域に感染者が一人でも足を踏み入れれば、途端に医療崩壊が起きかねない。
 そこから「東京の人=コロナ」と決めつけ、やむをえない帰省者にも<トンキン土人>などのレッテルを張り、まるでバイキン扱いの応酬が始まる。コロナへの「不安・恐れ」が「偏見・差別」を増長させ、人々に「負の連鎖」を拡大する。
 何もコロナウイルスは、人種・地域・性別・貧富などを嗅ぎ分けて感染しようと思っているわけではない。誰にでも感染するし、感染したからと言って感染者を非難するのも、感染者が謝罪するのも間違いだ。
 自分も当事者になるかもしれないと意識し、さらに全ての人が感染しているかもしれないという想定で、自分の行動を律することではないか。

◆もっと恐ろしいのは、緊急事態宣言の陰で進む事態だ。イスラエルでは携帯情報が個人隔離の判定材料にされ、台湾でも隔離が必要と思われた人が移動すると政府から警告メッセージが届く。国民の個人行動が全て監視可能になっている怖さである。
 ハンガリーのオルバン首相は、政権に批判的なメディアを抑圧するため、緊急事態宣言を無期限延長し、フェイクニュース対策と称して、政府の承認した事柄を「歪めて」伝えた者を 5 年間投獄することまで可能にした。
 「隠ぺい・改ざん」の安倍政権、大丈夫だろうか。<信なくば立たず>と頻繁に口にする首相だが、動静欄にあるコロナ対策会議の議事録は、いつ公開されるのか。政治的決定のプロセスは明らかにせず、ただ「命を守るため」と称して、基本的人権を制限し、放送を始めメディアへの介入を狙う。緊急事態を理由に報道機関を権力の支配下に置く動きは、まさに戦前の言論・報道統制そのものにつながる。(2020/4/12)
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2020年04月08日

【メディア時評】コロナ脅威で出版界は思わぬ事態が進む=守屋龍一(JCJ代表委員)

 新型コロナウイルスの感染拡大が、出版界にも思わぬ事態を引き起こしている。文学賞の贈呈式やイベントの中止だけでなく、「小中高の一律休校」以降、「小学生向けの学習参考書やドリル」「読みもの系児童書」への特需が勃発。「うんこドリル」シリーズは、通常の4倍を超える注文が殺到しているという。
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』(第19巻)が、集英社から初版150万部で刊行され、シリーズ累計4千万部を超えた。しかもコロナ肺炎の拡大が自宅での読書を喚起し、この2カ月で1500万部の売れ行き、今もなお品切れ店が続出。本屋の特設コーナーには1冊もなく、増刷に追われ、いつ入荷するかも不明だ。
 さらに出版社は、ここぞとばかり自宅待機の子供向けに電子書籍や旧刊漫画誌の無料配信を始めている。ゆくゆくは有料の定期配信へつなげたいのは目に見えている。

 2019年出版界の売り上げは1兆5432億円(前年比0.2%増)。だが紙版は4%減、電子版は24%増、出版社は電子書籍やネット配信などへシフトしている。
 紙媒体では週刊誌の落ち込みが激しく、「週刊現代」「週刊ポスト」は、月に3回刊の健康「旬刊」誌へ変更。高齢者向けだから、サラリーマン対象の地下鉄・JR車内広告は止めた。「週刊文春」「週刊新潮」はネット配信に傾注し、ページビューは2億、広告収入も急増。
 コミックや電子書籍が伸びて、集英社は前年の4倍98億7700万円、講談社は72億3100万円(前年比152.9%増)という 驚異的な利益を揚げている。

 この〈2強多弱〉の出版界に、コロナ脅威のおかげでネット販売が急伸しているアマゾンが、さらなる殴り込みをかける。2019年度アマゾンの日本売り上げは1兆7442億円(前年比15.7%増)。そのうち出版物の売り上げは3000億円と推計され、日本の出版物総販売額の約20%を占める。
 膨張するアマゾンが、出版物を出版社から直接仕入れ、取次・書店抜きで読者にネット販売する事業に乗り出す。今でも出版社との直接取引は、3631社(前年比689社増)に及ぶが、さらに拡大。かつ9カ所の物流拠点を増やし、「買切り」による廉価販売も含め、出版界の「アマゾン支配」へ拍車をかける。

 その余波で、日本の書店は、次々につぶれている。昨年650店が閉店し、今や1万800店、この10年間で最大の減少となった。大型書店の閉鎖も目立つ。昨年9月のフタバ図書MEGA岡山青江店1100坪の閉店、今年2月末にジュンク堂京都店とロフト名古屋店が閉店。状況は深刻さを増している。
 新型コロナの脅威で、にわか特需があるとはいえ、根本的な出版界の危機が、解消されたわけではない。
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