2026年05月14日

【Bookガイド】5月に出る“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

西谷文和『なぜ中東で戦争が終わらないのか』かもがわ出版 5/7刊 1800円
「なぜ中東で戦争が割らないのか」.jpg 中東では、2003年のイラク戦争以来、長くテロがテロを呼び戦争が延々と続いてきた。そこへトランプ+ネタニヤフによる両国軍がイランへ侵略の攻撃を、突如始める。なぜ?
戦場ジャーナリストによる現場からの告発。写真約200枚。
 著者は大阪市立大学経済学部卒業、吹田市役所勤務を経て、フリージャーナリストに転身。世界の紛争地を取材し、テレビや新聞、講演で現地情報を伝えている。『西谷文和 路上のラジオ』をネット配信。「イラクの子どもを救う会」を設立、2006年度「平和協同ジャーナリスト大賞」を受賞。

梅田正己『天皇制国家はいかにして創られたか━「尊王思想」の形成から「帝国憲法」の制定まで』高文研 5/13刊 2400円
「天皇制国家」.jpg 江戸時代の二百数十年間、天皇は、幕府による徹底した監視・統制下に置かれ、京都の「御所」から一歩も外に出ることのできない「幽閉」状態にあった。そのため人々は「天皇の存在」を知らなかった。一般国民には全く無縁・無名だった天皇が、幕末の「尊王攘夷」運動の動乱をへて、近代日本の頂点にそびえ立つ「元首」となる、そのプロセスを明快に説き明かしたのが本書。いま話題の「皇位継承」問題をふくめ、天皇制や近現代史に関心をもつ人には必読。
 著者は1936年、佐賀県唐津市に生まれる。出版社勤務を経て、1972年、高文研を設立。著書に『変貌する自衛隊と日米同盟』、『この国のゆくえ』(岩波ジュニア新書)ほか。

神山典士『地方が溶ける━ふるさと再生の光と影』光文社新書 5/20刊 920円
「地方が溶ける」.jpg 地域社会やサービスは、どのように消失するのか。地方には何が残るのか。政治による分断(広島県安芸高田市)、国を活用する経営戦略(北海道東川町)、民間とのチームワーク(宮崎県小林市)、炭鉱の町の現在(福岡県直方市)、子供たちの変化(埼玉県越生町)、記憶の継承(宮城県女川町)。全国各地で「ふるさと作文教室」を主宰し、自らも「トカイナカ」移住生活を送るノンフィクション作家が記す、今日の地方をめぐる光と影。
 著者は1960年埼玉県入間市生まれ。信州大学卒業。ノンフィクション作家。著書『ライオンの夢』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。著書に『トカイナカに生きる』など。ふるさと大好き全国作文協議会事務局長。

東海林さだお『アンコの丸かじり』朝日新聞出版 5/20刊 1800円
「アンコの丸かじり」.jpg 大人気「丸かじりシリーズ」のフィナーレを飾る最新刊。クスっと笑えて、ときに仄(ほの)見えるお色気にドキッとして……。B級グルメとビールを愛したショージ君が、最後にえらんだのは「アンコ」だった!
〈アンコというものは、どうも何かにもぐり込もうとする傾向がある。傾向というより、性癖? 饅頭の中にもぐり込んでいる。大福餅の中にもぐり込んでいる。最中の中にも、もちろんアンパンの中にももぐり込んでいる>。
 1988年刊『タコの丸かじり』から38年、週刊朝日の看板連載「あれも食いたいこれも食いたい」で繰り広げられた東海林ワールドがついに幕を閉じる。

宇野重規『政治とは何か』講談社現代新書 5/21刊 1100円
「政治とは何か」.jpg 権威主義国家の台頭、国際御法の無視などなど、近年の世界の政治状況は、「政治」という営みについての従来の常識を揺るがしかねない事象に満ち満ちている。逆に言えば、そういう時代であるからこそ、「正しい」政治のあり方について、今一度あらためて、その根本から考えてみる必要があるのではないか。本書では、西洋の政治学の基礎を作ったとされるアリストテレスに始まって、様々な思想家達の考えを簡潔明快にひも解く。
 著者は1967年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。現在、東京大学教授。著書に『政治哲学へ 現代フランスとの対話』、『民主主義とは何か』、『保守主義とは何か』など。

宮田 律『イラン戦争━アメリカ・イスラエルの策略』平凡社新書 5/27刊 1000円
「イラン戦争」.jpg イランの最高指導者ハメネイ師が殺害されるなど、2026年2月末に開始されたアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃は、国際法を無視したものであり、現在も対立・混乱が続いている。この両国に対し、日本はいかに対処するべきなのか。世界中を混乱に陥れているトランプとネタニヤフは、はたして何を求めているのだろうか。「イラン戦争」の背景にある相互不信の歴史のほか、宗教イデオロギー、政治・社会構造を掘り下げる1冊。
 著者は1955年山梨県生まれ。現代イスラム研究センター理事長。専攻はイスラム地域研究、国際政治。著書に『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』『黒い同盟 米国、サウジアラビア、イスラエル』『アメリカのイスラーム観』『ガザ紛争の正体』など。

上山 慧『細川嘉六━「河童老人」の生涯とその時代』日本機関紙出版センター 5/28刊 4091円
「細川嘉六」.jpg 昨年「治安維持法」が施行されて100年目。その治安維持法による最大の言論・出版弾圧事件が「横浜事件」だ。本書はその中心にいた人物・細川嘉六の生涯を、「スパイ防止法」制定を目論む現代日本に当てはめ、改めて問い直す。細川が検挙弾圧された容疑は、いずれも神奈川県特高警察による捏造であった。「横浜事件」の犠牲者は、改造社・中央公論社・朝日新聞社・岩波書店など、言論・出版関係者63名、氏名未確認の者を合わせ90名近くにのぼる。特高警察は自白を強要するため被疑者に激しい拷問を加え、その結果、獄死者4名、保釈直後死1名、失神者12名、負傷者32名にも及んだ。
 著者は1992 年大阪府箕面市生まれ。2014 年大谷大学卒。専攻は日本近現代史。治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟中央本部常任理事。著書に『神戸平民俱楽部と大逆事件』。
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2026年05月11日

【焦点】米国でPFAS汚染防止運動 20歳女性が命を懸けて州法成立=橋詰雅博

発がん性物質PFAS汚染
 発がん性物質のPFAS(ピーファス=有機フッ素化合物)汚染が、ようやくニュースとして報じられるようになった。直近では岡山県吉備中央町で活性炭リサイクル事業を行う満栄工業が、自社が放置した活性炭からもれたPFASの一種PFOA(ピーフォア)による町内での水道水汚染の原因は、大手化学メーカーのダイキン工業淀川製作所から引き取った活性炭だとして、4月に岡山県公害審査会に公害調停を申請した。
 昨年12月には淀川製作所がある摂津市などの住民らが、ダイキンに対して大阪公害審査会に公害調停を出している。ダイキンは大阪と岡山で公害調停の一方の当事者になった。ダイキンは1960年代から50年にわたり、PFOAを製造・使用していた。ダイキンは汚染源として認めているが、健康被害については否定している。

摂取量の見直しを求める
 また3月、東京・多摩地域や沖縄、摂津市など、PFAS汚染が深刻な18都道府県にまたがる42の住民団体が母体となった「全国連絡会」が発足。摂津市などで活動する「ダイキンPFAS公害調停をすすめる会」の長瀬文雄事務局長は、耐容1日摂取量の見直しを国に求めた。
 というのは耐容1日摂取量について、米国ではPFASの一種のPFOSとPFOAは、それぞれ1g当たり4㌨グラムと基準値を定めている。これに対して日本は両物質の合計が1g当たり50㌨グラム以下。米国と大きく差があるので、是正を長瀬事務局長は要請したのだ。

大手化学メーカー3M相手に提訴
 米国でもPFAS汚染を阻止する市民運動は活発だ。ミネソタ州セントポール市に住むジャーナリストの薄井雅子さんは、4月26日付「しんぶん赤旗」日曜版で、PFASを含む焦げないフライパンやカーペット用防染スプレーなどを生産した、セントポール市の郊外にある、大手化学メーカー3Mを相手とした住民運動を紹介している。
 住民は損害賠償を求める訴訟を提起、汚染地域では新生児の低体重が多く、不妊率・がん発生率も増加したなどがみられると医師が証言。結局、7億7000万円で和解、3Mの負担で水道管に汚染フィルターの取り付けや汚染土の除去の作業が行われた。

肝臓がんで死亡
 同時に製品の同州への持ち込みや販売禁止を求める、州法の制定に向けた運動がスタート。成立に大きな役割を果たしたのは、汚染地域にある高校の卒業生、アマラ・ストランデさん。肝臓がんが見つかった彼女は、闘病中にもかかわらず2023年ミネソタ州議会公聴会でこう証言した。
 「私の高校ではこの15年間で21人が、がんと診断されました。その一人が私です。危険性を知りながら、巨額の利益をあげ続けた『犯罪』で、私や周囲の人たちの生涯が変えられてしまった―その目撃者でもあります。今こそ、命を守り地域を再生する行動を起こすときです」

PFAS販売規制「アマラ法」の成立
ミネソタ州上下院で証言した後、彼女は同年4月に亡くなった。20歳だった。議会は販売規制法を可決。この通称「アマラ法」は2032年までに3段階で禁止を達成する。今年からは企業がPFASを含む製品の情報開示をする規制が開始されている。
 彼女が命を懸けて成立させたアマラ法、この法律ができる前に問題の解決が絶対に必要だった―これが尊い教訓だ。日本も早く手を打つべきではないか。
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2026年05月07日

【月刊マスコミ評・出版】官邸崩壊が噂される高市政権=荒屋敷 宏

 高市早苗首相の官邸内の近況をめぐる『選択』2026年4月号の記事が波紋を呼んでいる。「幹部が嘆く官邸機能の『崩壊』 高市が『退陣』を口にした夜」という記事だ。『選択』は会員だけが読める「三万人のための」月刊誌だ。
 3月24日夜、高市首相は官邸に招集した政府関係者の前で激昂し、「あいつに羽交い締めにされた。許せない。切るつもりでいる」と息巻いたとされる。
 早速、『週刊新潮』と『週刊文春』が4月16日号で『選択』の記事を後追いしている。新潮によると、「目下、永田町は高市氏と内閣官房参与の今井尚哉氏(67)が、大ゲンカした話で持ちきりである」といい、「記者会見に及び腰の高市氏は、自らのSNSアカウントでつぶやくことが増えている」という。
 文春によると、高市氏から嫌われている人物がいて、自民党の石井準一参院幹事長と、もう一人は今井尚哉氏だという。文春が今井氏に官邸を通じて質問状を送付したところ、「本人から編集部に電話があった」という。今号で今井氏の返事を記事にしている。

 今井氏は「高市総理に色々アドバイスを求められた時は、資料も添付してメールでやり取り」すると言い、「あの『選択』の記事は、私が部屋に乗り込んで恫喝したって言ってたでしょ? あれは100%事実ではありません! 乗り込んでいませんし、恫喝した覚えもありませんし、それから自衛隊派遣について、高市さんと直接やり取りしたこともありません」と否定している。
 高市氏の首相官邸の「隠し部屋」に出入りを許されているのは木原稔官房長官、尾ア正直官房副長官、佐藤啓官房副長官という三人の親衛隊しかいないという。
 高市首相は故・安倍晋三元首相と比較されることも増えている。『週刊ポスト』4月17日・24日合併号は、「盟友、ブレーン、番記者、天敵までが語りつくした! 安倍晋三と高市早苗どこが違うか 2人を知る8人の証言」を特集した。元経産官僚の古賀茂明氏は「高市さんと安倍さんの大きな違いは党内基盤」と指摘する。派閥もなく資金力もない高市氏が「支持率」をもとに1年半後の自民党総裁選を乗り切ることができるのか。

 国会前をはじめ日本全国で繰り広げられる市民の反戦デモを雑誌媒体は、ほとんど取り上げていない。後世の歴史家はこの時代の雰囲気をつかむのに苦労するだろう。「支持率」頼みの高市政権を本当に揺るがしているのはデモである。
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2026年05月04日

【出版界の動き】5月 リアル書店の減少と新規開店への模索

3月の雑誌・書籍販売金額1118億円(前年同月比7.4%減)
 書籍は743億5600万円(同8.4%減)、雑誌375億1200万円(同5.4%減)。雑誌の内訳は月刊誌が同5.5%減、週刊誌が同4.8%減。返品率は書籍が同0.4ポイント増の25.6%、雑誌は同1.0ポイント減の40.6%。
 書店店頭での売れ行きは、書籍が約2%減、文芸約2%増、文庫本約2%増、学参ほぼ前年なみ、ビジネス書約3%減、児童書約2%減、新書本約4%増、書籍扱いコミックス約6%減。雑誌は定期誌が約2%減、雑誌扱いコミックスが約21%減。
 なお、出版科学研究所による紙書籍雑誌推定販売金額は取次ルートのみで、近年増加している出版社と書店の直接取引や出版社による直接販売は含まれていない。雑誌にはコミックスの約9割が含まれる。

リアル書店の減少とリニューアルへの模索が続く
 2025年度の登録書店(リアル書店)数は前年から424店減の9,993店。ついに1万店を割り、最盛期の1998年度から差し引き1万4千もの売り場が消滅した。いかに販売拠点の数が紙出版物の売り上げに影響するか如実になっている。
 リアル書店の苦境が続くなか、三省堂書店神田神保町本店が3月19日にリニューアルオープンした。22年5月に閉店した旧神保町本店を地上13階建ての新ビルに建て直し、書店は1階から3階までそれぞれ特色ある売り場を展開、4階には集英社「THEジャンプショップ神保町」が入居した。
 そのほかにも1月31日には紀伊國屋書店新宿本店で初の試みとなるオールナイトフェス「KINOFES 2026」が開催。チケットはXでの告知後わずか4時間で完売し、当日は関係者を含む750人が参加したといわれる。
 “本屋プロレス”など個性的なイベント開催で有名な伊野尾書店(新宿区・中井駅) は、3月末の閉店が決定していたが、「BOOKSHOPトランスビュー大江戸中井店」として6月より再オープンする。店舗の半分は従来型の本屋として書籍・雑誌等を販売し、もう半分はトランスビュー扱いの出版社の商材を中心に、展示・陳列するギャラリーを設け、出版社のポップアップストアとして活用できるようにするという。(「季刊 出版指標」2026年春号巻頭言・原正昭より)

図書館と出版業界が新たな文学賞「本の甲子園」その案内
 全国・47都道府県の図書館員が、地元に「在住」する作家の小説を選び、トーナメント方式で頂点を決める新しい文学賞「本の甲子園」が始まっている。直木賞作家の今村翔吾さんの発案によるものだ。今村さんが理事長を務める一般社団法人ホンミライが、図書館流通センター、日販と共同で開催している。
 日本の小説に属する本で、 発売から1年以内(2024年10月〜2025年9月)に刊行された日本の小説。文庫の場合は文庫オリジナル作品のみ対象となる。 6月 1日に各都道府県の代表作品発表。 7月〜9月 トーナメント戦(1〜3回戦・準々決勝)。10月20日(火)〜22日(木) 準決勝戦・決勝戦にて、頂点に立つ作品の決定。

2025年出版市場の占有率はコミック44.8%、書籍39.9%、雑誌15.3%
 出版科学研究所が発表した2025年のコミック市場推計を元に、ジャンル別の占有率を算出。コミック6925億円に対し、書籍(コミックを除く)が6173億円、雑誌(コミックを除く)が2364億円。市場占有率はコミック44.8%、書籍(コミックを除く)39.9%、雑誌(コミックを除く)15.3%となった。

デジタル教科書の小学校導入に関する文科省見解への反応
 いま小中学生に無償配布の教科書は紙のみ。政府が正式な教科書として、「デジタル教科書」を、2030年度の小学校から順次導入を計画している。しかしデジタルも教科書に位置付けられると、教科書は紙のみ、紙とデジタルを組み合わせた「ハイブリッド」、完全デジタルの3形態になることが想定される。
 文科省の有識者会議は4月から、デジタルを導入できる学年・教科を示す指針の策定作
業を始めた。認知科学などの知見を踏まえた議論など、10項目の論点が示されている。今後、「ハイブリッド」の教科書に占めるデジタルの比重や適否についても、慎重な検討が必要となる。

Gakken、雑誌「学研の学習」を16年ぶりに復刊
 1946年に創刊し、小学生向けの看板月刊誌として工作教材の付録が魅力だった。最盛期の79年には、月間発行部数が雑誌「科学」と合計で670万部に上った。ただ学校や家庭への訪問販売に陰りが出て、書店販売に切り替えたものの2010年に休刊した。
 7月9日発売の第1号は「はにわの大国宝展」と題し、東京国立博物館が監修。古墳時代の特集で国宝のはにわ「挂甲の武人」を6分の1サイズで再現するキットが付く。石の粉を含んだ素材を使って素焼きのような質感を実現した。インターネットで何でも調べられるデジタル全盛期だからこそ、子供の探求意欲を高めるリアルの体験がより重視されていると判断した。価格は4290円で当面は年1回発行する。

村上春樹さん、新作長編小説『夏帆』(7/3刊)
 新潮社は、村上春樹さんの長編小説「夏帆━The Tale of KAHO」が7月3日に刊行すると発表。「街とその不確かな壁」から3年ぶりの長編小説となる。2024年3月に早稲田大学で開かれたイベントで朗読し、文芸誌「新潮」に掲載された短編「夏帆」が作品の出発点。その後書き継いできた作品群を加えて、新たな長編小説として刊行する。

雑誌の発行部数:「週刊文春」38.8万部、「週刊現代」23.3万部…
 スマートフォンの普及に伴い、一般週刊誌は売上の厳しさに直面している。日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数で確認する。
 「サンデー毎日」が10万部を割り込み、「AERA」も「10万部割れに。特に「AERA」の衰退ぶりは著しい。いまや5万部を割り込み、なお部数を減らし続ける形となっている。また2020年1〜3月期に「SPA!」が10万部を割り込み、それ以降は10万部を超えられず低迷している。
 一般週刊誌の前年同期比でプラス領域にある雑誌は皆無。全誌がマイナス領域。昨今、何かと世間を騒がせている「週刊文春」だが、前年同期比でマイナス7.2%、参考までに前期比はマイナス1.8%。絶対部数の多さに支えられてはいるものの、中長期的な低迷感の中にあることは否定できない。
 大きく落ち込んだ雑誌のラインアップを再確認すると、「SPA!」「週刊現代」「週刊新潮」「週刊アサヒ芸能」といった、男性向けの大衆誌、あるいはゴシップ系雑誌がほとんどを占める。

「コロコロコミック」(小学館) 掲載の「ドラえもん」終了を惜しむ
 1977年4月15日に創刊された月刊漫画誌「コロコロコミック」(小学館)5月号が4月15日に発売された。だが藤子・F・不二雄さんの代表作「ドラえもん」の再掲載が終了しているので、SNS上では惜しむ声が相次いでいる。
 河井質店Xアカウントは「『ドラえもん』がたくさん読める雑誌として1977年に創刊されたコロコロコミック。これまでも『藤子・F・不二雄名作劇場ドラえもん』として再録され続けてきましたが、本日発売の5月号で最終回を迎えました。49年続いた歴史が終わってしまうのは本当に寂しいです。復活してくれることを切に願います」と、15日午前7時18分に投稿。その投稿から2時間強で、23万インプレッションと大きな反響を呼んでいる。
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2026年04月30日

【おすすめ本】町山智浩『裸の王様トランプのアメリカ破壊日記』━トランプ政権の奇天烈な実態を痛烈な皮肉を交えて撃つ=矢部 武(国際ジャーナリスト)

 戦後の自由民主主義体制を主導してきたアメリカは、独裁者をめざすトランプ大統領により、自由、人権、司法、国際関 係など、徹底的に破壊された。その1年間をリアルタイムで報告した連載をまとめたのが本書だ。
 映画評論家として数十年米国に居住している著者は、日本から見えにくい第2次トランプ政権の実態を痛烈な皮肉を交えユーモラスに描く。
 トランプ大統領は復権すると、まず過去に自身を捜査した司法省・FBI関係者を解雇し、米国が長年重視してきたDEI(多様性、公平性、包 括性)施策を撤廃した。
 さらに批判的なメディアを訴訟するなどの圧力や電波法を用いた脅迫、議会未承認のベネズエラ攻撃、これら違法性が疑われる行為を繰り返している。

 「私はやりたいことを何でもできる」と豪語し王冠をかぶった姿をSNSに揚げたトランプ大統領の自己承認欲求は、10歳の子供レベルだというが、さらに問題は閣僚人事が不適格者ばかりで構成されていることだ。
 例えば、ヘグセス国防長官は国軍を指揮した経歴のない元テレビタレントで、しかもアルコール依存症で数々の問題を起こし、レイプで警察に通報されて和解金を支払っている。また史上最年少27歳の報道官として失言やウソの数で歴代最多を更新中のカロライン・レヴィット氏は、大統領と同様に支離滅裂なため、「エアーヘッド・バービー(アタマ空っぽの人形)」の異名を持つ。
 最後に著者は「この破壊はいつまで続くのか? アメリカはこの破壊から立ち直れるのか?」と問いかけているが、50年以上米国と関わってきた評者も、全く同じ懸念を抱いている。(文藝春秋1700円)
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2026年04月27日

【出版トピックス】柚木麻子さん、自著『BUTTER』の版権を新潮社から河出書房新社へ

契機は深沢潮さんへの対応
 柚木麻子さんは22日、自身のインスタグラムを更新し、「この度、拙著『BUTTER』の版権を、新潮社様から河出書房新社様へ移す決断をいたしました」と報告。その内容を紹介する。
 「ここに至るまで、双方の会社と協議を重ね、円満な合意の上での移動となっております。新潮社様には長年にわたりお世話になり、作家として育てていただいたことに感謝しております。これまで支えてくださった各部署の皆様にも、心より御礼申し上げます」と綴った。
 さらに「今回の判断の背景には、昨年、作家仲間である深沢潮さんに著しい苦痛を与える記事が、彼女のデビュー元である新潮社発行の雑誌に掲載されたことがあります」と説明。「その後の状況や、彼女にかかった負担、そして孤立について見聞きし、出版というシステムの在り方を深く考え直す契機の一つとなりました」と振り返った。

 そして「作家として、自分にできる具体的なアクションは何か。検討を重ねた結果、新潮社様における複数の版権のうち、一作を他社へ移動するという選択に至りました。これは現時点での、私なりの最大限の意思表示です」と伝えた。
 また、「『BUTTER』のオーサーズツアーで各国の出版関係者と対話するなかでも、差別や排除に対しどう立ち向かうべきか、自身の立場を厳しく問われる機会がありました。私はいつも迷い、間違えることが多い人間ですので、本件は、国内外の同業者や関係者に相談し、助言を受けながら決断したものです」と心境を表明。

多様な文化や価値観を大切に
 版権の移動は、「多大な調整が必要となり、関係者の皆様にご負担をおかけしたことをお詫び申し上げます。なお、同様の行動を他の書き手に強制する意図は一切なく、それぞれが置かれた状況下での判断が尊重されるべきだと考えております」と伝え、「同時に、本作を愛してくださっている読者の皆様には、今回の移動後も変わらず作品を楽しんでいただけるよう、環境を整えてまいりますので、ご安心いただければ幸いです」と呼びかけた。

 改めて「出版の世界が、読者や作り手が安心して表現に向き合い、多様な文化や価値観を受け止められる場所であることを切に願っております。なお、本件に関しては、この声明文に記したことが全てであり、長期間の検討を経て出した結論です。そのため、個別のご質問や取材等はお受けいたしかねます。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます」と説明。「海外の版元の皆様、国内の書店員の皆様にもご負担をおかけすることをお詫び申し上げます。サイン等の対応が必要な際は、河出書房新社様を通じてご連絡いただけますと幸いです。なによりも、深沢潮さんの今後の執筆活動が、健やかで安定した環境のもとで続けられることを、一人の作家、そして一人の友人として強く願っております」と締めくくった。

今も新潮社への抗議は続く
 柚木さんらが決断の背景にあるとした問題のコラムは、昨年の「週刊新潮」7月31日号に掲載された。高山正之氏の連載「変見自在」で、1940年、日本が朝鮮人に日本式の姓名に改名するよう強いた政策を引いて「創氏改名2・0」と題し、深沢さんをはじめ俳優や大学教授らの実名を挙げて、「日本も嫌い、日本人も嫌いは勝手だが、ならばせめて日本名を使うな」と書いた。
 深沢さんは、コラムの掲載後、2度にわたり、新潮社にコラムが差別的で人権侵害にあたるかどうか文書で質問した。だが深沢さんの代理人によると、新潮社は回答でコラムの内容に対する認識には言及しなかった。そうした経緯から、深沢さんは、2012年のデビュー作を収めた「縁を結うひと」のほか、新潮社から出ていた計4作品の出版契約を解除する意向を示し、昨年9月に解除が決まった。
 同じ9月には、コラムの内容や同社の対応に抗議する人たちが、「新潮社は差別で稼ぐな」などのプラカードを手に、新潮社前に集合した。

 コラム掲載後の新潮社の対応への批判は収まらず、澤村伊智さんは今年2月に自身のXで、新潮社から出版した「怪談小説という名の小説怪談」の契約を終了したと発表。「週刊新潮」編集部が、「民族差別的な記事を掲載し、その事実を認めないこと」や、文芸編集部も不誠実な対応をし続けていることなどが理由だと記していた。
 また、問題をめぐっては、昨年10月、ワック発行の月刊誌「WiLL」が「女流作家に屈伏した週刊新潮」と題する高山氏のコラムを掲載。11月には「週刊新潮」に掲載したコラムを収録した高山氏の書籍『高市早苗が習近平と朝日を黙らせる』を刊行する。
 深沢さんは今年1月、これらの内容が事実に反し、名誉感情を侵害するなどとして、出版社ワックと筆者の高山氏を相手取り、慰謝料を求める訴えを東京地裁に起こしている。
 なお河出書房新社からは、文庫版が6月15日に発売される。
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2026年04月23日

【おすすめ本】小松由佳『シリアの家族』━過酷な日常を生きる一家 と共に自らの苦闘も描く=高世仁(ジャーナリスト)

 開高健ノンフィクション賞を受賞した本書は、一家族の運命を通じて、シリア内戦を生きた人々の声を掬い取った、スケールの大きな傑作だ
 写真家の著者が、初めてシリアを訪れたのは2008年。ラクダの放牧で生きる四代70人の大家族の伝統的な暮らしと文化に魅せられ、彼女は繰り返し現地へ通った。
 だが2011年、民主化運動とアサド政権による弾圧が、一家の運命を一変させる。政府軍に徴兵された十二男ラドワンは、民衆弾圧を拒んで脱走。民主化運動に加わった兄は、秘密警察に逮捕された。
 故郷パルミラも戦場となり、家族はトルコや欧州へと離散する。著者は国外に逃れたラドワンと結婚し、日本で二児を育てながら一家とシリアの激動を記録し続けた。

 物語は著者自身の家族にも及ぶ。男性優位の文化で育った夫は家事や育児を担わず、さらにはシリアから若い第二夫人を迎えたいと言い出す。
 著者は一人の女性として傷つきながらも、これを「第二夫人騒動」と名 づけ、「貴重な異文化体 験」として記録した。著 者の記録者としての執念に感銘を受けると共に、固有の文化の内在的理解と近代的人権を、どう両立させるのかは、我々が異文化に向き合う際の根本的な課題であることにも気づかされる。
 アサド政権崩壊の報を受け、著者は「大手メデ ィアの報道とは異なる切り口」で伝えようと考える。そこで夫を現場に立たせ「当事者」の目から 激動の歴史的瞬間を描くことで“差別化”を図っ た。本書からはフリーランスとして生き抜く知恵をも学ぶことができる。(集英社2200円)
「シリアの家族」.jpg
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2026年04月20日

【焦点】日本はイランから最も信頼される国 政治的圧力かけない、ソフトパワーも貢献=橋詰雅博

 米国とイスラエルの横暴に立ち向かうイランは、対日感情が「良い」といわれている。イランを対象としたカナダの世論調査会社「Iran Poll」が昨年10月に発表したイラン1000人への主要7カ国と国連の好感度調査でもそれは裏付けられている。好感度ナンバーワンは日本、その後、中国、ロシア、ドイツ、国連、イギリス、フランスの順で、米国が最下位。
 イランと米国との関係が悪化したのは2018年、第一次トランプ政権の時だ。その引き金はオバマ政権下の2015年7月に成立したイラン核合意(安保理常任理事国の米英仏独中露6カ国とイランが締結、ウラン濃縮活動の制限と欧米側の経済制裁解除)からの離脱だ。

 日本AALA(アジアアフリカラテンアメリカ)連帯員会による4月11日の勉強会に出演した現代イスラム研究センター理事長の宮田律氏は、ドイツを始め欧州各国に対する好感度がダウンしていることについて、「トランプ大統領の対イラン制裁強化を受けて、これらの国の企業があっけなくイランから撤退したことも背景にあるだろう」と推測した。
 「Iran Poll」は、日本に対する好感度が高いのは、安倍晋三首相が2019年6月に、日本の首相として41年ぶりにイランを訪問したことを理由の一つに挙げている。
 宮田氏の見方はこうだ。
 「欧州各国のようにイラン核合意を守らないと、再び制裁を科すなどの政治的圧力をかけていないこともある。また日本は歴史的にイランに対し、ネガティブな関与を行わず、信頼関係を構築し、映画・ドラマ・文学・漫画・アニメなど、日本のソフトパワーが良好な対日感情を築くことに貢献してきた」

 イランのアラグチ外相も自著『イランと日本━駐日イラン大使の回顧録A008―2011』(論創社)の中で、笹川平和財団・角南篤(すなみあつし)理事長との対談でこう述べている。
 「日本はイランの人々にとって非常に信頼できる国です。私はいつもイラン人の同僚や友人に、『イランの街に行って一般の人々に、日本を含め思いつく10の国の名前を聞いてみろ。そしてそれらの国でどの国が一番信頼できるか聞いてみろ』と言っています。10人中9人が日本と答えるに違いありません。これはあなた方日本にとっての財産です」
 「イランでも日本の技術への信頼があり、イラン人は日本製品を好んで買い求める。日本が国際社会の安定化に貢献することへの期待もアラグチ外相は著書で語っている」と宮田氏は話した。
 米国とイラン双方にチャンネルを持つ日本は、いまこそ米イラン関係修復に外交手腕を発揮すべきではないか。
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2026年04月16日

【お知らせ】出版労連「出版技術講座」の受講生・募集案内

 この「出版技術講座」は、出版界の新人・若手から経験者の学び直しを対象とし、本づくりの基礎をみんなで学ぶ、毎回好評の連続講座。「企画の立て方」「著作権」「本の制作」「デザイン・レイアウト」「校正」「本の売り方・情報発信」など、毎週水曜日に学べる。
期間:5月13日(水曜)〜6月24日(水曜)
会場:会場 エデュカス東京  東京都千代田区二番町12−1
各回:18時30分〜20時40分
 第1回 5月13日(水曜)「企画の立て方」 島ア奈央(『暮しの手帖』編集長)、山本康一(三省堂 辞書出版部)
 第2回 5月20日(水曜)「著作権」 浜野純夫(著作権情報センター)
 第3回 5月27日(水曜)「本の制作」 市川敬祐(元・岩波書店製作部課長)
 第4回 6月10日(水曜)「デザイン・レイアウト」藤本隆(エディット)
 第5回 6月17日(水曜)「校正」松恭則(元・集英社 校閲室)
 第6回 6月24日(水曜)「本の売り方・情報発信」勝間準(Gakken)
★通し受講者限定のオンラインガイダンス:5月11日(月)18時30分〜(1時間程度)
通し受講(会場+オンライン)と単発受講(オンラインのみ)がある。
 受講料 通し講座(全6回):出版労連組合員および過去の受講生=18,000円、左記以外=24,000円 単発受講(1回あたり):出版労連組合員および過去の受講生=3,000円、左記以外=4,000円
申し込み方法
 受講には事前申し込みが必要。Peatix上の専用フォーム https://43-kouza.peatix.com から通し講座のチケット購入を。単発受講の場合は、通し受講のチケットページの案内をご覧ください。領収証はPeatixからダウンロードしてください。
*注*Peatixで購入できない方に限りメールでの申し込みを受け付ける。氏名/単組名(出版労連組合員以外の方は会社名などを) /メールアドレスを記入し、件名を「技術講座2026申し込み」とし s-kouza@syuppan.net に送ってください。
申込締切
 通し受講・5月8日(金曜)正午まで 単発受講・各講座前日正午まで
募集人数:会場の通し受講の定員40人、全体で80人(先着順、定員になり次第締切)
チラシ 2026kouza_flyer

主催 出版技術講座運営委員会(出版労連内)
問い合わせ:Mail:s-kouza@syuppan.net/Tel:03-3816-2911


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2026年04月13日

【Bookガイド】4月に出る“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

『石牟礼道子━水俣病公式確認70年のために』KAWADE夢ムック増補新版 4/6刊 1600円
「石牟礼道子」.jpg 2026年は、水俣病が公式に確認されてから70年の節目。作家の石牟礼道子(1927〜2018)は、患者たちの運動を支援し、また『苦海浄土』などの作品を通じて水俣病や現代文明の抱える諸問題を問い続けた。石牟礼さん逝去を受け、2018年に刊行した文藝別冊「追悼 石牟礼道子 さよなら、不知火海の言霊」を、多数の増補を行い刊行。
 石牟礼の没後70年、いま世界と日本を見れば、石牟礼が水俣にみた近代の終わりが、確実に現実化しようとしている。一方、石牟礼へのアプローチもこの間、深みと広がりを増している。石牟礼の仕事は、いまこそ読まれなければならない重みをもって輝く。

大石芳野『あすへの記憶』日経BP日本経済新聞出版 4/6刊 2000円
「あすへの記憶」.jpg 広島・長崎、東京大空襲、アウシュヴィッツ、沖縄、ベトナム、コソボ、ウクライナ…。災禍を生きた人たちに向き合い、話を聴き、カメラに収めて半世紀。日本を代表するドキュメンタリー写真家が、これからを生きる人たちと共有したい記憶とは。著者撮影の写真30余点を収録。その対象に向けるまなざしは、人には温かく、戦禍には厳しい問いを投げつつ 写しとる。そこに添える文章もまた、私たちの琴線に触れて重く響く。
 著者は写真家。東京都出身。日大写真学科卒業。日本写真協会年度賞、芸術選奨文部大臣新人賞、土門拳賞、紫綬褒章など受賞・受章多数。

林望『書物を楽しむ━あえて今、紙の本を読む理由』朝日新書 4/13刊 840円
「書物を楽しむ」.jpg 「やっぱ。本は紙だね ぬくぬく冬の床で読む。スマホでは目が痛くなるし、タブレットでは重くて嫌になってしまう」━紙ならではの利便性を説く林先生に、本との付き合い方・読書の醍醐味を、徹底的に語りつくす。70年に及ぶ読書遍歴についても言及。ここで取り上げる本、作家へのウンチクに、読んで堪能すること間違いなし。
 著者は1949年東京生まれ。作家・書誌学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。『林望のイギリス観察辞典』で講談社エッセイ賞を受賞。

西村章『高額療養費制度━ひろがる日本の<健康格差>』集英社新書 4/17刊 1050円
「高額療養費」.jpg 医療費が高額になった場合、自己負担額を一定に抑える「高額療養費制度」。自己免疫疾患の治療で長年この制度を利用してきたジャーナリストは、2024年冬に政府が発表した「改悪」案に不安と憤りをおぼえ、取材を開始する。各分野からの証言が浮き彫りにしたのは、健康に「格差」がある日本社会の現状や、セーフティネットとして十分に機能しない医療保険制度の姿だった。複雑で入り組んだ高額療養費制度の問題を、平明に解明する。
 著者は1964年、兵庫県生まれ。ジャーナリスト。自己免疫疾患の治療で2009年から高額療養費制度を継続利用中。著書に『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』、『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』など。

星野博美『野馬追で会いましょう━相馬の馬文化と震災後の日常』集英社新書 4/17刊 1100円
「野馬追で会いましょう」.jpg 海外で土着の馬に乗り、「馬の地」が紡ぐ歴史と人々の営みをたどる旅をしてきた著者は、日本では馬との暮らしが失われる中、馬文化のいまを知りたい。そう願って2021年夏、福島県相馬地方で行われる祭事「相馬野馬追」を初めて訪れた。浪江町で出会った「平本家」のメンバーは、東日本大震災でほぼ全員が被災し、全国に散らばって生活していた。
 かれらの語り、一人一人の選択から原発事故の影響がいまだ続く現実が見えてくる。日本の馬文化の現在地と震災後の日常を描くノンフィクション。
 著者はノ1966年、東京生まれ。ンフィクション作家、写真家。著書に『転がる香港に苔は生えない』『コンニャク屋漂流記』『世界は五反田から始まった』『みんな彗星を見ていた』など。

米田一彦『家に帰ったらクマがいた』PHP新書 4/17刊 1200円
「家に帰ったらクマがいた」.jpg 「駆除すべきか、人間が喰われるか」━オッと、その前にあなたはクマの真の姿を知っていますか。ある日家の玄関を開けると、黒くて大きな影が潜んでいた。「おいっ」と声をかけると、クマは私の脇腹をかすって逃げた。著者はこれまで3000回以上クマに遭遇し、9回襲われ、何とか生還してきた。人間とクマとの共生は可能なのか。研究を50年以上続ける日本一のクマ研究家が綴る、数奇な科学ノンフィクション。
 著者は1948年、青森県生まれ。秋田大学教育学部卒業。秋田県庁自然保護課勤務。86年に同庁を退職、フリーのクマ研究家となる。環境省の委託でツキノワグマの調査を行なってきた。著書に『クマ追い犬 タロ』『山でクマに会う方法』『熊が人を襲うとき』など。

向井和美『ふたりの読書会━無期受刑者との本をめぐる往復書簡』岩波書店 4/28刊 2200円
「ふたりの読書会」.jpg 始まったきっかけは、翻訳家である著者の元に、出版社を通じて届いた一通の手紙。知らない男性の名前があった。「突然申し訳ありません。私は刑務所で服役している者です」とはじまり、整った細かい字で書かれた文章。
 強盗殺人罪で20年以上服役している無期懲役囚からだった。向井さんの『読書会という幸福』(岩波新書)を読んだ感想と共に、自らの生い立ちや贖罪の意識が、7枚の便箋(びんせん)にびっしり綴られていた。そして二人の '魂の交流'がスタートした。その貴重な記録。
 著者は早稲田大学文学部卒。翻訳家。訳書に『100の思考実験』、『イエスの墓』など。
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2026年04月09日

【おすすめ本】豊田直巳/写真・文『消える風景 明日へのねがい それでもふるさと』━放射性物質は消えない 250年以上も残る福島の現実=酒井憲太郎(フォトジャーナリスト)

 本書は、著者の写真絵本シリーズ<それでも「ふるさと」>全10巻の10作目。最初の全3巻は2019年に産経児童出文化賞(大賞)を受賞。カバー写真は「笑」の文字を花で表した木村紀夫さんの庭。彼は父、妻、娘 を震災で失った。3人の名前の慰霊碑を建てた。
 3月11日、まどか保育園では子供たちを保育の先生らが急ぎ避難させ、バンも靴もそのまま残っていた。まるで神隠しにあったようだ。その風景は2021年10月に写されて今も残っている。

 津波の被害とは違う恐ろしさを感じさせる。除染と家屋の解体が進み、残されていたものが全て消え、その場所は更地になった。その先は「復興シンボル軸」と呼ばれる道路が建設中だ。
 双葉町の「原子力 正しい理解で豊かなくらし」の看板は、2019年には残っていたが今は撤去されている。壊れた柱や壁は「特定廃棄物」、敷地の庭や土地は「除去土壌等」と呼ばれる。
 黒い大きなフレコンバッグに詰められ、仮置場に運ばれる。さらに大熊町と双葉町にまたがるエリア「中間貯蔵施設」へ 集められる。中間貯蔵施設に田畑と家の土地を提供して、30年中間貯蔵施設地権者会を立ち上げた門馬幸治さん。
 中間貯蔵施設エリア内で土地を提供しなかった木村紀夫さんは「大熊未来塾」を立 ち上げ、「未来を考える」ための伝承活動を続けている。津波で亡くなった小学1年生の娘、夕凪が眠っている土地でだ。

 「複興でふるさとの風景は消えてしまったが、放射性物質は消えない。あと250年以上残る」と、あとがきで著者は述べる。(農村漁村文化協会2500円)
「消える風景」.jpg
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2026年04月06日

【出版トピックス】作家・綾辻行人さんの作品装う“偽本”がAmazonに出現 本人が注意喚起!

 作家の綾辻行人さんは、4月3日、自身の作品を装った偽の電子書籍がAmazonで販売されているとして、広く注意するよう呼びかけた。
 偽の電子書籍のタイトルは『続・十角館の殺人』『十角館の再訪』。綾辻さんは、「私はまったく関知しておらず、驚きました。誰かが生成AIで勝手に作ったもののようです」と説明している。
 綾辻さんが作家デビューを果たした著書『十角館の殺人』(講談社ノベルス)を想起させるもので、書影には、同書の表紙を手掛けた漫画家・喜国雅彦さんのイラストを模した画像を使っている。
 これら偽の電子書籍を手掛けた著者は「阿津川」を名乗り、作家の阿津川辰海さんの作品を装った電子書籍もAmazonで販売している。阿津川さんも、自身のXアカウントで「もちろん私はまるで関わっておりません……悪質なひともいるものですね」と注意を呼び掛けている。
 綾辻さんは自身のXアカウントで「こんな書影までAIで作って。喜国雅彦さんの絵のパクリもいいところ。あきれます」と指摘。『十角館の殺人』の版元である講談社に連絡し、対処中としている。
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2026年04月02日

【出版界の動き】4月 出版業界に押し寄せる第3の大波

日本書籍出版協会が生成AI使用の指針作成へ
 出版社の業界団体、日本書籍出版協会は出版社が生成AI(人工知能)を使う際の指針作成に乗り出す。出版社が行う翻訳・校正など編集業務にAIを導入する際のガイドラインを作成する。また本の著者が執筆時にAIを使う場合を想定し、契約書に規定を盛り込むといった対応を進める。
 生成AIへの対応を議論する検討会を設置して、381の加盟企業のうち約40社が検討会に参加。専門家からのヒアリングを交えて話し合う。秋にも出版社向けのガイドラインをまとめることを目指す。

26年2月の出版物販売金額、前年同月比2.3%増
 2026年2月期の紙書籍雑誌推定販売金額は取次ルートのみで、911億3700万円で前年同月比2.3%増、書籍は611億1800万円で同3.9%増、雑誌は300億1800万円で同0.6%減。雑誌の内訳は、月刊誌が同2.0%増、週刊誌が同15.1%減。返品率は、書籍が同1.6ポイント減の28.5%、雑誌は同1.8ポイント減の42.2%。
 既存店店頭での売れ行きは、書籍がほぼ前年並みで、文芸約2%増、文庫本約4%増、学参約1%増、ビジネス書約3%減、児童書約1%減、新書本約4%増。雑誌は定期誌がほぼ前年並み、雑誌扱いコミックスが約8%減、ムックが約1%減、書籍扱いコミックスが約2%増。

小学館「マンガワン」原作者が起こした性加害事件への対応
 小学館の漫画アプリ「マンガワン」が男性漫画家の性加害を知りながら、新連載の原作者に起用していた問題について、小学館は謝罪し、第三者委員会の設置を発表。だが漫画家たちからは対応を批判する声が相次いでいる。これを受けて再度3月9日に「お知らせ」と題する声明を発表し、謝罪と今後の取り組みについて報告。
 編集者の見識や漫画家への対応、出版・編集のモラル・責任などが問われている以上、今後の動きが調査報告と合わせ注目される。

出版インフラ担う講談社-関連会社KPSの動き
 講談社の関連会社であった豊国印刷、講談社ビジネスパートナーズ、第一紙業を統合して発足した株式会社KPSは、長年、講談社の印刷や物流、資材調達などの業務を行ってきた。これを再編し、KPSホールディングス傘下に「プロダクツ」「フルフィルメント」「ソリューションズ」「システムズ」の4事業会社を設立した。出版事業を始め物流、システム、各種業務などを、自社グループにとどまらず、他の出版社へも提供するサービスを進めている。培ったノウハウを生かし、多くの出版社に共通する業務を担うことを目指す。
 この発想は、同社の米国出版社が現地で業務委託しているペンギン・ランダムハウス・パブリーシングサービシーズから来ているという。KPSも将来的にはセールスなども含めて全般的な出版業務を請け負うことを目指す。物流部門では、取次出荷にとどまらず、直送など多様な流通に対応する。

KADOKAWA、オアシスが筆頭株主に 議決権比率13.76%
 KADOKAWAは、物言う株主として知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが、筆頭株主になった。オアシスの保有議決権数は総株主の議決権に対する割合が11.89%に達した。それまで筆頭株主の地位にあったソニーグループ株式会社が同位置から外れ、保有割合は10.10%から10.04%に減少した。オアシスは最近になって、さらに買い増しを進め、議決権に対する割合が13.76%となった。
 オアシスは日本でも積極的な働きかけを行っており、今回の大量取得も今後KADOKAWA経営陣に対して何らかの提案を行う可能性がある。

書店ゼロの島根県大田市に2年ぶりに書店進出決定
 書店ゼロとなっていた大田市に今井書店が出店することが決まり、6月24日にオープンする。大田市には1987年から地元の人に愛されてきた市内唯一の書店があった。しかしネット通販の拡大や電子書籍の普及なで売り上げが減少、おととし3月に閉店。それ以降、大田市は書店ゼロとなっていた。
 大田市は出店にかかる費用を支援するため、10年間で最大5500万円を助成する独自の制度を創設し、事業者を公募したところ今井書店が名乗りを上げ、イオンタウン大田への出店が決まった。

マンガ大賞に児島青「本なら売るほど」が決まる
 書店員や漫画ファンの投票で決まる「マンガ大賞2026」に、児島青さんの「本なら売るほど」(KADOKAWA)が選ばれた。
 脱サラして古本店「十月堂」を開業した青年が、さまざまな人々と出会いながら、本の持つ魅力や価値に改めて気付いていく連作短編集。繊細な絵柄でリアリティーを感じさせる仕立てで、雑誌「ハルタ」で連載している。児島さんは性別や出身地など、詳しいプロフィールは非公表。

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2026年03月30日

【お知らせ】2026年・第69回 日本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞)応募・推薦の開始

 出版・報道・ジャーナリズム関係のみなさまへ
 ⽇本ジャーナリスト会議(JCJ)は「2026年 第69回⽇本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞)の応募と推薦のお願い」を公表しました。
 JCJ賞は1958年の創設以来、時代を切り拓く優れたジャーナリズム活動を顕彰する場として、みなさまのご⽀援とともに歩んできました。
 ついては、ぜひJCJ賞へ応募・推薦いただけますようお願いします。

出版ジャンルに限って、応募要件を記します
・提出期限までの1年以内に刊行された作品
・提出物:書籍の現物(1冊)
・1作品ごとにエントリーシートを同封し、郵送/宅配便で送付
エントリーシートについて
・JCJホームページ(https://jcj.gr.jp/2026_jcjaward/)からダウンロードの上、記⼊しお送り下さい。
提出期限
・2026年6⽉1⽇(⽉)必着郵送の場合は当⽇消印有効
提出先あて先
・〒101-0061 東京都千代⽥区神⽥三崎町3-10-15 富⼠ビル501号
⽇本ジャーナリスト会議「JCJ賞」応募作品係
注意事項
・応募作品は返却いたしません。
・選考経過、理由などについてのお問い合わせには応じておりません。
・選考結果は、機関紙『ジャーナリスト』やJCJホームページに掲載するほか、各メディアへも公表し、贈賞式の模様とあわせて広く紹介していただく予定です。
・選考結果は9⽉上旬頃に公表を予定、贈賞式は10⽉上旬を予定しています。
問い合わせ先
・JCJ事務所(受付:⽉・⽔・⾦曜⽇ 13時〜17時)電話:03-6272-9781 FAX:03-6272-9782
Eメール:office@jcj.gr.jp JCJホームページ:https://jcj.gr.jp
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2026年03月26日

【オピニオン】イラン軍事攻撃━背景に石油のドル決済から人民元決済への流れ、イランの反政府「市民運動」には、全米民主主義基金(NED)が関与=黒薮哲哉(フリージャーナリスト)

 米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を批判する世論が広がる中で、この攻撃の原因をトランプ大統領の個人的思想に求める見方が広がっている。なかには「狂気」の結果と評する声もある。
 そうした側面を完全に否定することはできないが、わたしはより経済的で個人の意思とは無関係な客観的要因が存在すると考えている。
 結論から言えば、それはこれまで西側諸国が主導してきたドル中心の国際金融体制に対し、中国などが影響力を強めつつある中で、その流れを抑えたいという思惑が背景にある。イランによる核開発の阻止は、あくまでも表面上の建前である。

ペトロダラー体制
 現在の国際金融システムは、いわゆる「ペトロダラー体制」と呼ばれる構造に一定程度依存している。
 この体制は、1970年代にアメリカとサウジアラビアの間で成立した安全保障と石油取引に関する合意を背景に形成されたとされる。米国が軍事支援するみかえりに、石油の採り決済を採用する合意である。確証はないが、一部の報道によると、この取り決めの有効期間は、秘密裡に50年程度とされているという。従って現在が失効する時期である。
 この仕組みにより、アメリカはドルの基軸通貨としての地位を維持し、国際金融において大きな影響力を持ってきた。石油は、全世界の国々が必要とするので、影響力も大きいのだ。しかも、石油を通じて生まれた利益が、そのままドル建ての投資へ投入される現象を生む。さらに燃料として現在の工場に極めて甚大な影響を及ぼす力を持っている。そのことはイランがホルムズ海峡を閉鎖した後の世界経済を見れば明らかである。
 仮に石油取引がドル以外の通貨で広く行われるようになれば、ドル需要の低下を通じてアメリカの経済的影響力に決定的な変化が生じる可能性がある。米国としては、イラン石油を手中に収めなければ、これまでの経済上の秩序が崩壊する危機に直面しかねない。
 というのも、ドル以外の石油取引を模索する動きは、すでに始まっているからだ。その先陣を切っているのが、中国、ロシア、それにBRICSである。中国とロシアはBRICSのメンバーでもある。そのブリックスにイランは2024年に加盟した。サウジアラビアもBRICSに接近している。
 米国にとっては、イランの政権を根本的に変える必要はなく、「親米政権」になれば、それで十分なのだ。が、その思惑は外れて、戦争に巻き込まれてしまった。

ベネズエラに対する軍事介入
 実は、米国によるベネズエラに対する軍事介入(2026年1月3日)の背景にも、同じ事情がある。ベネズエラは、米国による経済制裁の下で、苦境に立たされていたが、最近、中国やロシアへ急接近している。
 仮にベネズエラの石油がドル以外の決済になれば、世界経済の中で米国の衰退に拍車がかかる。それを防止するために、米国はベネズエラに対して軍事侵攻して、石油を「管理」せざるを得なくなったのである。
 このように、トランプによるベネズエラやイランへの軍事介入は、トランプ大統領の個人的な極右思想が引き起こしたものではない。おそらくは財界の要求である。逆説的にいえば、財界にとっては、トランプのような人物が必要だったからこそ、大統領になれたのである。

全米民主主義基金(NED)
 なお、イランの反政府「市民運動」についても、報じられていないことがある。それは「市民運動」の活動資金が米国の全米民主主義基金(NED)から、2025年度は200万ドル(約3億円)もの支援額が提供されている事実である。この事実は、NEDのウエブサイトで確認できる。以下に概要を記す。

 1979年のイラン・イスラム革命は、市民権と経済的繁栄という公約を果たすことができなかった。今日、選挙で選ばれていない個人や抑圧的な機関が権力を握り、治安部隊や司法機関が異議を唱える声を弾圧し、基本的な自由を制限している。宗教団体やイスラム革命防衛隊によって大部分が支配されている経済は、増加する人口、とりわけ若者のニーズを満たすのに苦慮している。
 近年、続く危機が広範な抗議運動を煽っているが、政権は有意義な改革を行う代わりに、弾圧を強化することで国民の不満に対応している。さらに、イランが地域内の国家および非国家の反民主主義勢力への支援を行っていることや、国内の優先課題を犠牲にして対外紛争に注力する政権に対する国民の不満が高まっていることは、国内の民主主義勢力を強化する必要性を浮き彫りにしている。
 これに対し、イランの活動家たちは民主的な変革を求めて一層強く働きかけている。NEDのプログラムは、市民社会や政治活動家の能力を強化し、権威主義に対抗して民主的な未来を推進することに焦点を当てている。主な優先事項には、人権の擁護、説明責任の促進、そしてイランの活動家間の連携強化が含まれる。NEDのイラン・プログラムは、より広範な地域プログラムと統合され、民主主義の抑圧に対抗し、地域全体に及ぶイラン政権の権威主義的な影響力に対処することを目指している。

 米国は、イランを空爆した後、イランの市民運動が政権を掌握すると期待していたようだが、思惑どうりにはいかなかった。(MEDIA KOKUSYO 3/23付)
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2026年03月23日

【おすすめ本】鶴見太郎『シオニズム イスラエルと現代世界』━ナショナリズムと植民地主義が複雑に絡み合った動きを辿る=大治朋子(毎日新聞専門編集委員)

 イスラエル・パレスチナ紛争の発端であり、その主因のひとつともいわれるシオニズムを、「等身大で精緻に」描写したという本書は、国際社会が直面する課題を浮かび上がらせる一冊だ。
 ちまたにはびこる「粗雑な」歴史認識を排し、 語られるべき問題や責任を次々と照らし出す。
 13万部の大ベストセラーとなった『ユダヤ人の歴史』(中公新書)の著者である、東京大学大学院准教授・鶴見太郎氏による最新刊である。

 著者によると、シオニズムは19世紀終盤のロシア帝国領で生まれた「ユダヤ人の民族的拠点をパレスチナに築くことを目指す思想・運動」。その起源はロシア帝国下のポグロム(ユダヤ人襲撃・迫害)に遡る。「ナショナリズムと植民地主義が複雑に絡み合った動き」だという。
 本書はキリスト教シオニズムの実像にも迫る。それは米国の4人に1人ともいわれる福音派プロテスタントが共有する宗教的世界観であり、米国とイスラエルを結ぶ太い絆となってきた。
 その存在は米中間選挙やイスラエル総選挙が予定される今年、改めて注目を集めそうだ。

 鶴見氏によれば、福音派にとってイスラエルは聖地を守ってくれる「用心棒」だ。だからこそ彼らは、「イスラエル応援 団」の最前線に立つ。だが「パレスチナ人のことはほとんど視野に入っていない」。
 その偏狭な世界観が、ガザ地区やヨルダン川西岸での悲劇をより深化させてきたという。
 本書はシオニズムの軌跡を振り返るとともに、イスラエルの「いま」を読み解く必携の書でもある。(岩波新書1120円)
「シオニズム」.jpg
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2026年03月19日

【マスコミ評・出版】日本列島は強く豊かになるのか?=荒屋敷 宏

 あっという間の総選挙だった。解散から投票まで戦後最短の16日間。『文藝春秋』3月号の赤坂太郎氏「最強の参与・今井尚哉の解散戦略」によると、昨年の臨時国会の後、内閣官房参与の今井尚哉氏ら側近が通常国会の冒頭解散戦略を高市早苗首相に進言したという。 
 1月20日公示・2月1日投開票のシナリオが1週間ずれたのは、高市首相の心の揺れで解散を一度封印したからだという。しかし、結果は見ての通りだ。

 高市政権は「日本列島を、強く豊かに。」を大量宣伝しながら、国論を二分するはずの東京電力柏崎・刈羽原発6号機の再稼働を15年ぶりに容認した。公示前の1月21日に再稼働を開始したが、制御棒のトラブルのため、たった一日で運転停止。総選挙で自民党が大勝したのを見届けるかのように、投開票の翌2月9日に再稼働した。
 2011年3月11日の東日本大震災による、福島第第一原発事故を引き起こした東京電力の驚くべき秘密を暴露したのは、ノンフィクション作家の森功氏「大成建設の天皇、大いに語るD」の「柏崎・刈羽原発『再稼働工作』の内幕」(『文藝春秋』3月号)だ。
 原発事故処理や原発再稼働を進めてきた元大成建設会長の山内隆司氏の話を紹介している。

 福島原発事故から3カ月経過した2011年6月、経済産業省資源エネルギー庁長官から、九州電力川内原発を再稼働第一号にしたいと、山内氏に電話が入る。すぐさま三菱重工と九州電力とチームを組んで対応し、2015年8月の川内原発再稼働となったという。原発事故から5カ月後には四国電力社長が再稼働の相談で山内氏を訪ねたという。
 2012年1月には、東京電力から柏崎・刈羽原発もお願いできないかと、大成建設に協力要請があったと証言している。元施工の鹿島から施工データをもらってくるからお願いしたいと頼まれたという。他社の企業秘密を渡すから教えてほしいという東京電力の執拗な再稼働工作が、今回の柏崎・刈羽原発再稼働となった。民主党政権時代からエネ庁と電力会社は秘密裏に計画を進めていたのだ。

 また『世界』3月号の池内了氏「原発再稼働と『新たな神話』」は、原発の「相対的安全論」と「新たな神話」のねつ造と流布を解説し、「このまま無批判な原発待望論が強まると、再び大事故が起こるのではないか、私はそのことを一番畏れている」と警告している。こんなことで日本列島は強く豊かになるのだろうか。
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2026年03月16日

【出版トピックス】北海道新聞社説「小学館の姿勢 性加害者の擁護許されぬ」 3/15付

 学びや文化の発展を担う出版社として、人権感覚が著しく欠如していると疑わざるを得ない。性加害歴のある漫画家の起用を続けた小学館のことだ。
 札幌市内の通信制高校を卒業した女性が在学中、教員だった漫画家男性からの性被害で精神的苦痛を受け損害賠償を求めた訴訟で、札幌地裁は男性に1100万円の支払いを命じた。
 判決後、小学館は男性の性加害を把握しながら作品を掲載していたと発表した。加害者を擁護していたことになる。女性は深く傷つき今も苦しんでいる。小学館の対応は許されない。
 訴訟で男性側は「同意があった」と反論した。一方、原告は性的目的を満たすため優しく手なずけるグルーミングの手口だったと主張し、判決も「男性が自ら優位に立つ関係を形成し性的欲求に応じさせた」とした。
 同様の犯罪の多発を受け、2022年施行の「教員による児童生徒性暴力防止法」は同意の有無を問わず児童生徒との性行為を禁止した。「同意があった」との弁解は通用しない。

 被害を受けた女性をさらにおとしめたのが小学館の対応だ。
 男性は20年、同じ女性への性加害で罰金刑を受けた。小学館の漫画配信サービス「マンガワン」編集部は男性の作品の掲載を中止した。
 その後、和解協議に加わった担当編集者が性加害の口外禁止などの条件を示した。女性は納得できず22年に提訴すると、編集部は男性を別のペンネームで新連載の原作者に起用した。
 小学館は判決後、「起用判断に瑕疵(かし)があった」として連載の配信を停止し謝罪した。第三者委員会で検証するという。
 性暴力を引き起こした元タレントを擁護したフジテレビ問題とも構図が重なる。人権より漫画家から得られる利益を優先したも同然で悪質だ。
 問題発覚後も後手の対応が続く。当初、社員らでつくる調査委員会で原因を究明するとしたが、複数の漫画家がマンガワンへの掲載中止を求めるなど非難が強まり、第三者委の設置へと軌道修正を余儀なくされた。
 性犯罪で有罪になった別の漫画家を起用するなど、女性の人権を軽視した事案が他にも判明した。検証を要する項目は多い。
 昨年、新潮社の「週刊新潮」に差別的なコラムが載った。大手出版社で人権感覚が問われる問題が続いたことは深刻だ。
 とりわけ小学館は子ども向けの書籍が評価されてきた。高校生の性被害を軽視し、信頼は失墜した。そのことを自覚し、検証を尽くす必要がある。
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2026年03月12日

【Bookガイド】3月に出る“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

高橋和夫『イランとアメリカ、そしてイスラエル━「ガザ以後」の中東』朝日新書 3/13刊 1400円
「イランとアメリカそしてイスラエル」.jpg イランとの間で核開発について討議中に、トランプ大統領は再びイランを奇襲攻撃した。これに参加のイスラエルは、ガザとの停戦合意後もガザ空爆を続けている。ハマスと戦うイスラエル、その後ろ盾となるアメリカ、ハマスを支援するイラン。イランとアメリカの複雑な関係にイスラエルが加わり、ますます混迷を深めている。いくつかの流れが合流して中東を激動させる。国際政治の構造変化を軸に歴史、宗教、民族から最新動向まで中東研究の第一人者が解説。
 著者は1974年に大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒。放送大学名誉教授、国際政治学者。中東問題に関する著書は数多い。

沢野ひとし『ジジイ、ふたたび山へ 』 山と渓谷社 3/18刊 1700円
「ジジイ、ふたたび山へ」.jpg ワニ目画伯こと沢野ひとしが登ってきた山々の思い出を、美しい水彩イラストと軽妙なエッセイで描く。高校生の頃に山に目覚め、近所の低山から丹沢、八ヶ岳、北アルプス、ヒマラヤ、中国の山など、世界の山々を股にかけた壮大な山行記。ここ数年は「ジジイにふさわしい」静かな低山登山に目を向けている。登頂したという証拠写真と、ともに登った仲間たちとの面白エピソードが満載。
 著者は1944年、愛知県生まれ。「本の雑誌」創刊号より表紙絵・本文イラストを担当。近著『ジジイの片づけ』『ジジイの台所』『ジジイの文房具』(集英社クリエイティブ)の「ジジイ三部作」が評判を呼ぶ。

村木厚子『おどろきの刑事司法━“犯罪者”の作り方』講談社現代新書 3/19刊 1200円
『おどろきの刑事司法』.jpg 約1分の勾留質問で164日間勾留、検事の作文で作られる供述調書、証拠改竄や捏造……。冤罪に巻き込まれた著者がみた驚愕の刑事司法の実態とは何か。法制審に参加した市民委員5人が戦慄した、抜け穴だらけの刑事司法改革。誰もが信頼できる刑事裁判のために、私たちにはなすべき事がある。取り調べの可視化、人質司法の解消、証拠開示制度・再審制度の見直しで、刑事司法は必ず変わる、必ず良くなると説く。
 著者は1955年高知県生まれ。元厚生労働事務次官。現在は全国社会福祉協議会会長。2009年「郵便不正事件」で逮捕・起訴されるも、2010年9月の裁判で無罪確定、1年3カ月ぶりに職場復帰。13年、厚生労働事務次官に就任。15年退職。

藤井克郎『百年映画館』 草思社 3/24刊 2200円
「百年映画館」.jpg 日本には100年続く「奇跡の映画館」があった。世代を超えて愛される昭和のシネマパラダイスを大公開! かつて映画館は街の至る所にあり、地域文化の心臓部だった。シネコンや配信サービスが主流となった今も、ひっそりと、しかし力強く生き続ける「百年映画館」を探して日本各地を訪れ、大正・昭和の面影を残す建物や、劇場の空気を守る支配人、そして映画館へ集う人々を丹念に取材の成果を盛り込む。
 著者は1960年、福井県生まれ。東京外国語大学卒業後、フジ新聞社入社。夕刊フジ報道部、産経新聞社会部を経て、同文化部で映画を担当。退職してリーランスの映画記者として活動。共著に『戦後史開封』など。

伊原勇一『弱虫逃げ腰山東京伝』郁朋社 3/24刊 1200円
「弱虫逃げ腰山東京伝」.jpg 上田秋成に“吾妻に京伝あり”と言わせたマルチ文化人、山東京伝! 希代の戯作者の波瀾万丈の半生を四季折々の江戸風物の中に描く。二度の吉原遊女との結婚、筆禍による手鎖五十日の処罰……蔦重、馬琴、歌麿、写楽、南畝、一九、鈴木牧之らとの交流を通じて厳しい時代を生き抜いた人気戯作者の本当の姿を活写する。
 著者は1953年、東京生まれ。早稲田大学卒。江戸の文芸・絵画についての研究を続け、第21回歴史浪漫文学賞・創作部門優秀賞を受賞。著書に『反骨の江戸っ子絵師 小説・歌川国芳』『喜多川歌麿青春画譜』『明治画鬼草紙』など。


青島 顕『未還の名簿━シベリア最下層捕虜・村山常雄の祈り』集英社 3/26刊 2000円
「未還の名簿」.jpg シベリア抑留死亡者46,300人の名簿を、たった一人で作った老帰還兵・村山常雄。彼を追って綴る執念と鎮魂の衝撃ノンフィクション。シベリア抑留死亡者の詳細は、長い間、人数も個人名も正確な事実が伝えられてこなかった。1990年代、ソ連などから日本へ死亡者名簿が届いた。だが記された名前は意味不明、ここから、正確な死亡者名簿作りが始まった。
先の見えない作業。孤独な日々。だが、無念を抱えて凍土に眠る無名の仲間を弔うために、そして生きて還ってきてしまった自分を癒すために、折れそうになる気持ちを奮い立たせた。その情熱は周囲の人々や日本政府関係者を動かし、ついに奇跡を起こした……!
 著者は1966年静岡市生まれ。早稲田大学法学部を卒業、毎日新聞社に入社。多摩総局長などを経て、現在は新聞研究本部に勤務。『MOCT━ 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人』で第21回開高健ノンフィクション賞を受賞。
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2026年03月09日

『おすすめ本』木瀬貴吉『本づくりで世の中を転がす 反ヘイト出版社の闘い方 』━惰性に流れずヘイトに抗い出版の途を開拓した冒険譚=加藤直樹(ノンフィクション作家)

 副題に「反ヘイト出版社の闘い方」とある。そこから差別に反対する気骨ある出版社の生真面目な物語を想像すると間違う。これは出版を巡るワクワクするような冒険譚である。主人公の木瀬貴吉が、2人の仲間とともに、著者や書店に個性的な同志たちを見つけながら旅を続ける物語だ。
 リンゴが樹から落ちるように、世の中には「いい本を数百部だけ刷る良心的な出版社」と「悪い本(例えばヘイト本)を売りまくる出版社」という構図が確かにある。

 だが「『ころ』から車輪へ」という「パラダイムシフト」を掲げる「ころから」は、この構図を飛び越えて進んできた。惰性に流れず、それまでの慣習も段取りも疑って途を切り開いてきたのである。「ころから」がヘイトに「抗える」のは、まずはその出版過程そのものが抗いであり、冒険だからなのだ。
 例えば他社が出せなかった日本軍「慰安婦」を描いた絵本『花ばぁば』を、なぜ「ころから」は出せて、しかも三刷までできたのか。それは単に「良心的」だったからではなく、出版の過程で創意を大いに発揮しているからだ。

 この本は、だから出版の大変さとワクワクを伝える本である。いや、出版だけでなく、いろんな分野に「ころから」がいれば、世の中はもっと面白い方向に「転がって」いくだろう。
 実は、私もこの本の登場人物の一人だ。互いに全く無名だった時代に、「ころから」からの出版のオファーを受け入れたのは、サイトを見てピンと来たからだ。「この人たちとなら、冒険ができそうだ」と思った。そこから、私も「ころから」物語の登場人物の一人となり、冒険が始まったのである。(集英社新書1000円)
「本づくりで世の中を…」.jpg
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2026年03月05日

【JCJ声明】米国・イスラエルによるイランへの攻撃に抗議し即時停止を求める

 米国とイスラエルは、2月28日イランに対してミサイルや爆撃による軍事攻撃を開始し、イランの最高指導者ハメネイ師や多数の政府・軍幹部を殺害した。イラン南部の小学校も攻撃に遭い約100人の児童らが死亡したと報じられている。
 トランプ米大統領は攻撃の理由を「イランの核開発阻止」とするが、まさに核開発をめぐる協議の最中での電撃的、一方的な軍事侵攻だった。すでに核を保有するイスラエルはとがめず、共同して武力でイランの主権を侵す理不尽さは目に余る。国連安全保障理事会の決議もなく、国連憲章違反は明白だ。米国とイスラエルは即時にイラン攻撃を停止すべきである。
 イランも反撃し戦火は湾岸各国などに広がりつつある。世界の海上石油輸送の4分の1、日本の輸入原油のほとんどが通るホルムズ海峡は事実上封鎖された。今回の違法な攻撃が世界に及ぼす軍事的、政治的、経済的な悪影響は測り知れない。
 この暴挙を前に、日本政府は文字通りへっぴり腰だ。ウクライナを侵略するロシアに対し「力による現状変更の試みを許してはならない」と言った高市首相は、今回の米国などの攻撃には「その法的評価をすることは差し控える」と口ごもるだけだ。今月19日には日米首脳会談もある。姑息な二重基準でごまかすことはやめて、国連憲章など国際法に違反するイラン攻撃が決して許されることではないと、トランプ米大統領に明確に伝えるべきだ。
 日本は、イランとも米国とも友好関係を築いてきた平和国家である。中東、世界の混乱に手をこまねくことなく、心ある国々と声を合わせて、この愚行を止めなければならない。
 JCJは主権国家に対するいかなる武力攻撃も認めず、平和を脅かし市民のかけがえのない命を奪うことは許さないとする立場から、強い抗議を表し、攻撃の即時停止を求める。

2026年3月4日
日本ジャーナリスト会議(JCJ) 
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【焦点】「マドゥロ大統領の麻薬関与」は、トランプのでっち上げ━「国家元首」免責が裁判の争点=橋詰雅博

 米軍によって連れ去られた南米ベネズエラのマドゥロ大統領は、ニューヨークの連邦地裁で1月5日に第1回の審理が行われた。次回は3月17日だったが、26日に延期された。
 マドゥロ大統領は、@麻薬輸入の共謀、A麻薬テロの共謀、B機関銃や破壊装置の所持、C機関銃や破壊装置の所持に関する共謀―この4つの罪で起訴された。麻薬に関しマルコ・ルビオ米国務長官は、「マドゥロは国を乗っ取った麻薬組織『カルテル・デ・ロス・ソレス』のリーダー」と言っている。

 しかし、この麻薬組織は存在しないと1月25日JCJオンライン講演に出演した南米研究者の新藤通弘氏は言う。
 「元国連薬物犯罪事務所(UNODC)所長のピノ・アルラッチ氏は、2025年8月にその存在を明白かつ詳細に否定。コロンビアのペトロ大統領も『ソレス・カルテルは存在しない。それは極右が政府を打倒するための架空の口実に過ぎない』と述べている。米ワシントン・ポスト紙も同様な報道をしている」。
 またベネズエラの麻薬マフィア「トレンデアラグア」は、昨年1月に治安当局によって壊滅された。「トレンデアラグア」はマドゥロ政権が運営していたとも言われたが、「最近機密解除された米情報機関の報告書では運営について指揮も支援もしていないと結論付けている」と新藤氏は語った。加えて機関銃絡みについても、新藤氏は「暗殺の危険性があるので所持は当然ではないか」と指摘した。罪というには無理があるのではないか。
 1回目の裁判でマドゥロ大統領は、「私は戦争捕虜だ」と傍聴席に向かって叫んだ。戦争捕虜は戦闘行為に参加したという理由だけでは、罪に問われることはないとジュネーブ条約で定めている。さらに「自分は今も大統領だ」と繰り返し強調した。国際法では、現職の国家元首には外国での訴追免除が認められている。

 「戦争捕虜」と「元首の免責論」が裁判の大きな争点になりそうだ。トランプ米政権はロシアと中国に対して、米国の西半球支配を誇示し、原油などの資源獲得を狙い、マドゥロ大統領の麻薬関与の罪をでっち上げたのではないか。
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2026年03月02日

【出版界の動き】3月 取次・書店をめぐるリストラおよび統合

3月3日はオーディオブックの日━読書の常識を変える
 ナレーターや声優が本を朗読した「聴く本」、すなわちオーディオブックを運営するオトバンクは、3月3日は「オーディオブックの日」にちなみ、「オーディオブック白書2026」を公開。
 この白書によると、ユーザーの7割以上が「移動・家事」を「読書」に変換し、平日・日中のスキマ活用が鮮明になった。オーディオブックユーザーと一般消費者の読書習慣を比較。読書の「時間」「場所」「目的」の違いから、オーディオブックが従来の読書スタイルをどのように拡張しているのかを明らかにしている。
 近年、スマートフォンやワイヤレスイヤホンの普及で音声コンテンツの利用環境が整ったことや、定額で様々な作品が聴き放題となるサブスクリプションサービス導入などを背景に、オーディオブックの利用者が急増。新しい読書のかたちとして、紙、電子書籍に続く、第3の書籍として広がりつつある。

トーハン、大西良文専務が新社長に合わせて早期退職者募集へ
 トーハンは取締役会で、「取次事業の見通しがきかず、抜本的な改革が求められている。自ら率先して組織を変えていく」ため、9人だった常勤取締役を6人に減員し、1代表制とし大西良文専務が新社長に。機構改革では、「支社制の廃止、支店統合」などを決めた。
 さらにトーハン本体に従事する50代の社員を対象に、早期退職者を募る。880人の社員数を700人台の体制にする。既存の早期退職優遇制度の対象年齢を従来の50代前半から、今回に限り50代後半に拡大して行う。今回に限定して従来以上の割増し退職金を支払い、再就職支援も実施する。また26年度から満57歳を迎えた役職者を対象に「役職定年制度」を導入する。

啓文堂書店の全20店舗が紀伊國屋書店へ屋号変更
 啓文堂書店 渋谷店が、「紀伊國屋書店 渋谷道玄坂店」としてリニューアルオープン。この屋号変更により、啓文堂書店の全20店舗の店名が「紀伊國屋書店」となった。リニューアルに際し、渋谷道玄坂店は同じく渋谷駅近隣で営業する「紀伊國屋書店 西武渋谷店」と連携したプレゼント施策などのキャンペーンを3月3日まで展開する。
 紀伊國屋書店の高井昌史会長は、旧啓文堂書店の各店舗が売上げを伸ばしてきた実績を報告した。また紀伊國屋書店グループ傘下の旭屋書店池袋店の屋号変更も示唆し、こうした対応は「本をしっかり売っていくのが、紀伊國屋の使命」だと語った。

2025年コミック市場、6925億円(1.7%減)に
 2025年(1〜12月期累計)の紙と電子を合わせたコミック市場は、6925億円(前年比1.7%減)となった(出版科学研究所発表)。7年連続のプラスで過去最高を更新した前年から、一転してマイナスとなった。出版市場におけるコミック(紙と電子)のシェアは前年同率の44.8%。
 紙(コミックスとコミック誌の合計)の売り上げが1652億円(同14.0%減)。その内訳はコミックスが1260億円(同14.4%減)、コミック誌が392億円(同12.7%減)。また電子コミックの売り上げは5273億円(同2.9%増)。引き続き伸長したものの伸び率の鈍化が鮮明となった。

矢部太郎さんが刊行した『光子ノート』
 お笑い芸人「カラテカ」、そして漫画家である矢部太郎(48歳)さんは、『大家さんと僕』シリーズ(新潮社)で有名だが、このほど彼は1人出版社「たろう社」を立ち上げた。「たろう社」の社名は「小さい頃、絵本や新聞をつくって父と遊んでいました。いつも発行元はたろう社でした。そのたろう社を実際につくってみました」と、自身の過去の記憶からつけたという。
 刊行1作目は、今も健在の父で絵本作家・やべみつのり(84歳)さんが綴ってきた、未発表のオールカラー絵日記『光子ノート』(3500円)。本書は矢部さんの姉・光子さんの誕生と成長の日々を、父のみつのりさんが残した38冊分のノートを、矢部自身がスキャニングして、厳選のうえ編集したもの。なんと992ページ、厚さ約6センチ、重さ約1キロになったという。
 光子さんが3歳だった75年1月から、矢部さんが生まれた1977年6月30日後の10月まで。矢部を絡めた子育て中に起きた極めて個人的な記録とはいえ、親になった喜びや「昭和という時代」の描写が、今もなお私たちの共感を呼びおこす。購入などの情報は、https://www.tarousha.com

講談社の決算、減収増益に 売上高1.1%減の1691億円
 講談社の第87期(2024.12.1〜25.11.30)売上高は1691億6900万円(前年比1.1%減)、当期純利益は111億8800万円(同19.4%増)。売上高の内訳は、「デジタル収入」861億9100万円(同8.0%増)、「ライツ収入」285億4000万円(同11.8%減)、「広告収入」69億2900万円(同2.6%減)、「不動産収入」30億0800万円(前年と同水準)。
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2026年02月26日

【出版トピックス】フリーランスの春闘━報酬10%アップのオンライン署名にご協力を

 出版ネッツが、「フリーランスの春闘宣言2026」を発表している。その内容は以下の通りだ。
<フリーランスの編集者、ライター、カメラマン、デザイナー、イラストレーター、校正者などのクリエーターの多くが、紙とデジタルとを問わず、数十年にわたって低廉な報酬で仕事をし、生活をしています。私たちの報酬は、安ければ安いほど良い「コスト」として、据え置かれています。
 賃上げから取り残されている私たちフリーランスの現状の周知をはかり、報酬アップの機運を高めていきましょう>

 出版ネッツでは、2022年以来、毎年、「フリーランスの春闘宣言」を発表し、1990年代からまったく上がっていないコンテンツ産業で働くフリーランスの報酬を上げようと、取り組みを行なっている。そのうえで、今年はフリーランスの春闘の可視化を目指し、オンライン署名に取り組み、こう呼びかけている。
<今のままではコンテンツ制作の技能だけでなく、産業の継承そのものが難しくなるのではないかと、私たちは危機感を持っています。報酬10%アップのオンライン署名に賛同をお願いします!
 産業を代表する働き手であるフリーランスの報酬を上げる機運を作るべく、周知ご協力をお願いいたします。
 フリーランサーの皆さまは、ぜひ、この宣言を仕事先に示して報酬アップを交渉してください>
 以下をクリックするとオンライン署名のページに飛びます。
https://c.org/RsPF6xXNYB
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2026年02月23日

【おすすめ本】鈴木宣弘『もうコメは食えなくなるのか━国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』━地域の農と食と暮らしを強化する自給圏づくりの提唱=栩木 誠(元日経新聞編集委員)

 日本の農業と生産者に‟塗炭の苦しみ“を味合せてきた、安倍農政の継承を標榜する市政権の登場で、「日本のコメ作り」は今や、その生命線すら絶たれようとしている。歴代自民党政権が進めてきた「米国への胃袋の従属化」の動きに、警鐘を鳴らし続けてきた著者の危機感が、本書のタイトルに見事に凝縮されている。
 国連機関が「飢餓国の仲間国入りした」とする日本で、いま深刻化する「令和のコメ問題」。生産コストなどへの所得補償、供給先の出口調整など、生産者が希望を見い出せる農業政策の再構築がない限り、コメの作り手の退場は続く。だが農業軽視の政府の無策は続く。本書は「2030年までの5年間が正念場」と、指摘する。

 こうした日本農業の絶対危機のなかでも、「一条の曙光」となるのが、「半農半X」など担い手の多様化、全国各地で進む生産者と消費者の連携による取り組みだ。世田谷区などの有機米給食や「14戸の作り手を900人の食べ手が支える」宮城県・鳴子温泉鬼首地区の試み、生協の供給圏づくりなど、創意工夫を凝らした「未来への希望の灯」が、燎原の火のように拡がりつつある。
 「胃袋からの独立」を 実現するために、著者はこう呼びかける。
 「自分たちが自分たちの地域から自分たちの力で地域の農と食と暮らしを強化して、『みんなで 作ってみんなで食べる』自給圏づくりを進めることが大切だ」と。
 「コメが食えなくなる」社会の到来を防ぎ、日本農業を再興していくために何より重要なのは、私たち自身の自覚と具体的行動なのだ。(講談社+α書新書950円)
「もうコメは食えなくなるのか」.jpg
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2026年02月19日

【焦点】日本が見向きもしない質の悪いベネズエラ原油を欲しがるトランプの打算=橋詰雅博

 日本が世界一の原油埋蔵量を抱える南米ベネズエラから、原油を恒常的に輸入していると思ったが、そうではなかった。2017年以降、ベネズエラ原油を輸入していないことを、石油連盟の木藤俊一会長(出光興産会長)が記者会見で明らかにした。

 中東の原油とは性質が違い、ベネズエラ原油は重質で硫黄分が多く、いわば質が悪い。このため原油から蒸留・分解装置でガソリン、灯油、軽油、重油などの製品をつくる製油所では、新たに脱硫能力を高めた設備が必要で、コストの負担増になる。
 木藤会長は「中東でよほどのことがない限り使うことはないだろう」と語り、米国がベネズエラ原油の増産をしようといている点について、「米国の管理下で増産しても日本で使うのは難しい」と指摘した。
 そのうえ国営ベネズエラ石油産業の生産設備が老朽化し、多大な投資をしなければ稼働しない状態なのだ。英紙ファイナンシャルタイムズ(FT)1月7日付電子版(提携の日経新聞翻訳版1/29付)によると、「壊滅的な状況」で原油貯蔵設備の3分の1程度は休止している。

 それなのにトランプ米政権は、米軍を投入しマドゥロ大統領夫妻を拘束し米国に移送までして、ベネズエラ石油利権を獲得したのはなぜなのか。
 1月6日付記事配信「Wedge(ウェッジ)」<ベネズエラ石油にトランプがこだわる大きな理由>の筆者・山本隆三氏はその謎を解いている
 2000年後半のシェールガス革命で米国は世界最大の産油国にのし上がったが、品質にむらがあり、国産原油だけではガソリンなどの製品を低コストで精製することは困難。ベネズエラ産原油を入手すれば、真の自給率100%が達成され、石油の安全保障を担保できる。
 しかも米国の製油所は、シェール革命前に米国で産出された原油の多くが重質油だったので、それ向けに設計されている。実に7割の製油所は重質油でより効率的に稼働でき、軽質油のシェールガスを使うと、コスト増になり結局ガソリン価格などが上昇する。

 多くの米国の製油所は、ルイジアナ州からテキサス州のメキシコ湾岸に建設されている。輸入原油の受け入れに便利だからだ。海上輸送距離が短いベネズエラ産原油は、コスト減で価格競争力がある。米国産シェールガスオイルの補完も可能だ。
 これがベネズエラ産原油にこだわるトランプの主たる理由ではないか。米国の石油大増産を成し遂げる見返りとして、トランプは業界からの多額の献金と11月の中間選挙での集票を見込む。
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2026年02月16日

【JCJオンライン講演会】スパイ防止法は国家の情報管理を目指す=講師:足立 昌勝(関東学院大学名誉教授)

 日本の軍事化へのアクセルを加速させている高市政権。スパイ防止法や国家情報局の設置などにも前のめり。法案の国会提出などが予想される。日本を戦前へ引き戻し、民主主義と平和を脅かすような動きを、私たちは阻止していかなければならない。
 JCJでは、こうした危機感から、今後スパイ防止法などの問題を掘り下げる有識者の話を聞き、共に考えていくオンライン講演会を連続して開催する。

 第1回は、秘密保護法や共謀罪などに反対する活動を続けてきた、関東学院大学名誉教授の足立昌勝さんにスパイ防止法と、その先にある国家情報局をめぐる動きについて講演していただく。
 足立さんはスパイ防止法が市民を萎縮させ、表現の自由が脅かされると指摘。スパイ防止法・国家情報局へと向かう高市政権の狙いは何なのか、ジャーナリズムや市民はどう対抗していけばよいか、述べていただく。
講演者プロフィール:足立昌勝さん
 1943年生まれ。静岡大学法経短期大学部教授を経て、1992年関東学院大学教授、2014年同大学名誉教授。現在、救援連絡センター代表、日弁連刑事法制委員会助言者。
開催日時:2月21日(土)14:00〜16:00(zoomにてオンライン 記録動画の配信有り)
参加費:500円
 参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0221.peatix.com/)で参加費をお支払いください。(JCJ会員は参加費無料。JCJ会員MLからアクセスURLが送られます。参加にあたり連絡は不要です。)

主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
   03–6272–9781(月水金の13時から17時まで) https://jcj.gr.jp/

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2026年02月12日

【Bookガイド】2月に出る“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

武井彩佳『ホロコースト後の機能不全━ドイツ、イスラエル、犠牲と加害の関係』角川新書 2/10刊 980円
「ホロコースト後の機能不全」.jpg なぜドイツはイスラエルを批判できないのか? イスラエルのガザ攻撃はホロコーストの記憶とも結びつけられる。ドイツによるイスラエル支援は、補償にとどまらず武器供与まで及んだ。イスラエルへの安全保障は「国是」となっていた。ナチズムの克服は、より良い世界をつくるためではなかったのか。ドイツとイスラエルの特殊な関係を明確に分析し、ガザ紛争を防げなかった世界構造のねじれを解く。
 著者は1971年、愛知県生まれ。早稲田大学比較法研究所助手などを経て学習院女子大学教授。専攻はドイツ現代史、ホロコースト研究。著書に『歴史修正主義』(中公新書)など。

高橋信雄『裁かれた<偽りの科学>━原爆訴訟判決文から見えた真実』 花伝社 2/10刊–2700円
「裁かれた偽りの科学」.jpg この国は、被爆者たちとどのように向き合ってきたのか。国の被爆者対策として成立した被爆者援護法。しかし援護申請は一方的に却下されるようになり、また残留放射線による被爆も認められず、被爆者たちは不合理に沈黙を強いられることになる。司法に正義を求め、国との裁判に挑んだ被爆者たち。〈科学〉の名の下に被爆者の訴えを退けようとした国は、いかにして裁かれたのか。救済を求めて闘った、被爆者たちを追うドキュメンタリー。
 著者は1950年生まれ。九州大学経済学部卒。元長崎新聞論説委員長。現在はノンフィクション作家。著書に『鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義』など。

松谷満『「右派市民」と日本政治━愛国・排外・反リベラルの論理』朝日新書2/13刊 870円
「右派市民と日本政治」.jpg 突然の<自己チュウ解散>そして総選挙の顛末に現れているように、異形の右派勢力が日本を動かす!? 安倍政権を熱狂的に支持した「岩盤保守層」。安倍氏の死後、かれらがよりどころにしたのは高市氏やトランプ氏。さらには参政党、日本保守党といった新たな右派アイコンの台頭だった――。いま日本政治を左右する、新しい「右派」の実像に迫る。
 著者は1974年、福島県生まれ。名古屋大学文学部を卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科で博士課程修了。中京大学教授。共編著に『外国人へのまなざしと政治意識』など。

平田オリザ『寂しさへの処方箋━芸術は社会的孤立を救うか』集英社新書 2/16刊 960円
「寂しさへの処方箋」.jpg いま日本は他国とは違う独特の「寂しさ」「いらつき」「不安」に覆われている。終わりの見えない不況、アジア唯一の先進国からの転落と国力の衰退などが、その背景にある。いかにして克服できるか、「日本再生のカギは芸術文化立国をめざすところにある!」と提案し、その試みを現代に合わせてさらに進化させ、モノが飽和しコトの消費が求められる時代に芸術と観光が果たせる役割、社会的孤立を救うための文化による社会包摂の動き、教育や地方が実現可能な少子化対策など、新しい処方箋を再提案する。
 著者は1962年、東京都生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長、青森県立美術館館長。著書に『新しい広場をつくる 市民芸術概論綱要』など。

上月豊久『プーチンの歴史認識━隠された意図を読み解く』 新潮選書 2/18刊 1650円
「プーチンの歴史認識」.jpg 権力者にとって歴史は「政治の道具」そのもの! 決して頭の中を覗かせない男の本音は、彼が発表してきた論文やスピーチの中にある。ロシアの成り立ち、正教の役割、統治の基本概念――難解とされる彼の論文の数々に、何が省かれ、歪曲されているのか。プーチンの「洗礼の十字架」とは何か。なぜ「大動乱の時代」を嫌悪するのか。前ロシア大使が独裁者の「内なる思考」を浮き彫りにする。
 著者は1956年、東京都生まれ。外務省欧州局長などを経てロシア連邦駐箚特命全権大使を務める。現在、東海大学平和戦略国際研究所所長・国際学部教授。

大塚真祐子ほか『書店員の怒りと悲しみと少しの愛』knott books 2/20刊 1900円
「書店員の怒りと…」.jpg 出版不況といわれて久しい。売り上げがピークの半分になっても、いまだ改善する兆しは見えない。書店員のやる気を削ぐような無駄や理不尽がまかり通っている。いまどれほど書店の現場が疲弊しているか、書店員が何を考えて仕事をしているのか、何に怒っていて、何に不満があるのか、知られざる実態を明かす。さまざまな立場の書店員による、書店の苦境や書店員であることへの思い、出版業界の不満や出版社への不信感、本や読者への思いを一人称で綴った怒りと悲しみと愛の記録である。
 著者・大塚真祐子のほかに、水越麻由子/篠田宏昭/前田隆紀/笈入建志/モーグ女史/小国貴司/嶋田詔太の7人による現場からレポート。

江原由美子『フェミニズム』岩波新書 2/25刊 1060円
「フェミニズム」.jpg いったい「フェミニズム」とは何なのか。どのように生まれ、何を主張してきたのか。「女性である」という「普通」のことに差別や抑圧を見出すという「常識外れ」な主張は、どのように生まれ、いかなる変革を成し遂げてきたのか。共感と反感の嵐にさらされながら、多様な展開を生んでいる思想・運動。そのあゆみを長期的な視点から振り返り、フェミニズムとはいったい何なのか、わかりやすく語りかける。
 著者は1952年、神奈川県生まれ。東京都立大学名誉教授。神奈川人権センター理事長。日本のフェミニズム理論に大きな功績をあげる。著書に『持続するフェミニズムのために』など。
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2026年02月09日

【声明】生成AIにおけるクリエイター保護へ適切な法規制を求める

2026年2月1日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)

 生成AI開発や利活用が急速に進展しています。生成AIはイラストや動画、文章などを手軽に出力できる一方で、著作権の侵害やディープフェイクの拡大など大きな問題をはらんでいます。2025年5月、AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が成立し、同年12月、政府はAI基本計画を閣議決定しました。AI法や基本計画には、「イノベーション促進とリスク対応の両立」がうたわれていますが、リスク対応は後回しにされ、バランスが崩れているのが現状です。

 このような状況下、多くのクリエイターが無断で自身の創作物を生成AIに利用され傷つき苦しんでいます。作家狙い撃ちの生成AIによる嫌がらせにあっているという声も寄せられています。さらに多くのクリエイターが著作者としての権利と生計(仕事の継続)への脅威と不安を抱いています。他者の権利を侵害して生成される画像や動画、テキストが野放しになってしまってはコンテンツ産業に未来はありません。

 私たちはイラスト、マンガなどコンテンツ産業に携わるフリーランスのユニオンとして、生成AIについての法規制を求めます。AI規制法(仮)の基本方針として、基本的人権と著作者としての権利の保護を明示し、透明性、公正性、さらに説明と合意を担保することが求められます。また、実効性確保のために、違反行為を申告できる窓口、申し出があった場合の是正措置や罰則を定めることも必要です。すでにヨーロッパや韓国などではAI規制法が施行されています。
 クリエイターの権利保護は、喫緊の課題です。

 上記基本方針に基づき、具体的に策定するルールとして、以下の4点を求めます。
1 学習データの開示義務化
 生成AIは著名なコンテンツを含む多くの表現を無断で取り込んでいます。どの著作物を学習させてつくられたのか、その権利関係情報を含む透明性の確保が必要不可欠です。学習データの開示がされないと、自分の作品が学習されているかどうかを確認することができず、権利侵害の有無の確認やオプトアウト(事後の不同意)したり公正な収益還元のためのアクションを起こすこともできません。

2 生成AIの利用有無のラベリング義務化
 生成AIを利用した制作物であるにもかかわらず、それを伏せて公表するケースがこれまで多く見られました。たとえば、生成AI利用を伏せた制作物がコンペに応募されれば公正な審査ができなくなります。また写真の場合は、実際にあるものなのか、生成AIでつくられたものなのかが一目でわからないと混乱をきたします。
 生成AI事業者や利用者には、 生成AIを利用してつくられた制作物なのかどうかを明示する義務を課す必要があります。同時に、SNSのプラットフォーム企業にもラベリングが適切に行われているか管理・監督を行う責任を課すことを求めます。

3 オプトイン、オプトアウトの義務に関するルールの策定
 クリエイターにとって著作権は非常に大事な権利です。無断で自分の著作物が短時間に大量に模倣されてしまうことは、数多のクリエイターによって支えられているコンテンツ産業の裾野を確実に衰退させます。生成AI事業者からクリエイターへのオプトイン(事前の同意)の義務化、クリエイターからのオプトアウト(事後の不同意)方法策定の義務化は、今後のコンテンツ産業の健全な発展のために必要不可欠です。
 とりわけ著作物の利用にあたって、著作権者に許諾を得ること(=オプトイン)は、著作権法の原則です。現行の著作権法では、著作物を生成AIの学習データとする場合のような情報解析を目的とする利用であって、著作物に表現された思想や感情を享受することを目的としない場合には、原則として許諾不要とされています(第30条の4)。しかし、その後の生成AI技術の急速な進展により、状況が大きく変化しています。今一度この条項の見直しを含め、著作権侵害を容認しないという原則の確認が必要です。

4 ディープフェイク画像・動画・テキスト生成への罰則規定の導入
 生成AIには著作権以外にも問題点があります。それはディープフェイクの問題です。災害時や選挙期間などにおける政治的ディープフェイクの拡散は、人権侵害を引き起こすだけでなく、民主主義の基盤を危うくし、人々の「知る権利」を阻害します。とりわけ性的ディープフェイクの被害は深刻です。しかし、現在これを規制する法律はありません。早急な対応が求められています。

 現状では、生成AI画像の「類似性」が認められたとしても、フリーランスのクリエイターやディープフェイクの被害者が個人で裁判などを起こすことは非常に困難です。権利侵害を予防するためにも、法的な規制と相談・申告できる窓口が必要です。 著作権法上の権利と対価(報酬)は、クリエイターであるフリーランスの創作の源泉であり、ひいては文化的価値を生み出す源泉です。クリエイターの権利保護と創作環境の整備・維持のために、AI規制法の制定を強く求めるものです。
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2026年02月05日

【おすすめ本】荻野富士夫『治安維持法と「国体」』=いま日本で急速に進む 「新しい戦中」前夜の危機=藤田廣登(治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟顧問)

 昨年は治安維持法成立100年を迎え、治安維持法暴圧を告発する人々の運動が盛り上がりをみせた。同時に同法の研究も顕著な進展があった。
 その一つが、荻野氏の『検証・治安維持法―なぜ「法の暴力」が蔓延したのか』(平凡社)であり、さらに本書である。
 前著の末尾で、荻野氏は「戦前を席巻した『国体』はまだ出現していないが国際緊張の暴発、排外主義の沸騰は『新しい戦中・新しい国体』を発現」すると警告していた。
 治安維持法は第一条で「国体を変革するために結社を組織・加入」を犯罪とした。その「国体」とは「大日本帝国憲法」に規定される天皇絶対の専制支配権力である。
 本書の第一部は、どのようにして「国体」が治 安維持法の根幹に据えられ、拡張されて行ったのかを、三つの論考で解明し、社会変革を進める運動を抑え込むだけではなく、思想・学問を統制し 戦争遂行体制構築に結びついた、と結論する。
 第二部では、日本共産党が「君主制」・「天皇制」をどう捉え、闘かっ たか、に焦点を当てる
 荻野氏は、「新しい戦前」という表現を、タモリ氏発言(2022年) より4年も早く使って,わが国の軍事大国化とそれに並行する現代版治安維持法体制の構築に警鐘を乱打し、本書では「新しい戦中」前夜と表現している。
 いま進む高市極右政権の危険性と参院選で躍進した参政党が、大日本帝国憲法と教育勅語をベースに、「国体」を盛りこんだ「新日本憲法」(構想案)を掲げているだけに、本書は広く読まれてほしい。(大月書店2800円)
「治安維持法と国体」.jpg
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