2023年09月28日

【おすすめ本】若林 宣『B-29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代』─原爆投下機B-29に仮託して「日本人の体験史」を考察=前田哲男(ジャーナリスト)

 B-29について書かれた本は多い。初の原爆投下機、日本60余都市を焼き払ったシンボルなのだから当然でもある。
 しかし本書のサブタイトルに照らせば、著者の関心がB-29だけにとどまらないことに気づく。類書にない「野坂昭如とB-29」、「B-29は美しかったか」などの章と記述からも明らかだ。
 また対中国・重慶爆撃時の「爆撃照準器を覗き込む視点」から「照準器から覗き込まれる立場」に逆転した、という著者の指摘も重い。当時のメディア(新聞・雑誌・日記など)から、数多く引用しているのは、著者の問題意識がB-29に仮託した日本人論、メディア論にあるからだ。

 読み進んで「八幡初空襲」(現北九州市)に来たとき、それが私の幼い日の記憶と合致している事実に気づかされた。そのころ戸畑市に住んでいた4歳の私は、八幡製鉄所爆撃の光景を防空壕の中から見ていた。
 饐えた臭いと湿気に満ちた壕内から見上げた夜空。サーチライト(探照灯といった)によって切り裂かれた闇夜に浮かぶB-29の機影、それらを(ほぼ最初の記憶として)おぼえている。
 だが、そこからB-29への「体当たり攻撃」が始まったとは知らなかった。編隊に向かう迎撃機に「あれ友軍機?」と母親に尋ねたのは、私の声だったのだろうか、と自問した。
 そんな個人史もまじえながら本書を読んだ。若いジャーナリスト、とくに「火垂るの墓」の読者であった人たちに、「日本人の体験史」として本書をお薦めしたい。なによりB-29と日本人について考察する、初めての本なのだから。(ちくま新書980円)
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2023年09月25日

【JCJオンライン講演会】マスコミはなぜジャニーズ事件を暴けなかったか

 24年前に「週刊文春」が、ジャニーズ事務所の喜多川氏が、所属の少年タレントたちに性行為を強要している事実を追究し、記事を連載した。しかし、大手マスコミは黙殺し問題を放置してきた。喜多川氏の犯罪を増長させた「共犯者」と言っても過言ではない。
 ジャニーズ事件を明るみに出す引き金となった英BBCの報道取材に、全面協力した元朝日新聞記者の政治ジャーナリスト・鮫島浩さんが浮き彫りになったマスコミの「腐った体質」にメスを入れる。

講演:鮫島 浩さん(英国BBCの報道に協力したジャーナリスト)
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 1971年生まれ。京都大学法学部卒業後、94年に朝日新聞社入社。99年から政治部。与野党政治家を幅広く担当し、2010年に39歳で政治部次長。12年に調査報道に専従する特別報道部デスクとなり、翌年「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故を巡る「吉田調書」報道で解任される。
 21年に朝日新聞を退社してウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を開設。連日記事や動画を無料公開している。著書に『朝日新聞政治部』(講談社)などがある。

開催日時:9月30日(土)14:00〜16:00
参加費:500円
 参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0930.peatix.com/)で申し込む。先着100名が定員。JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に支部名を明記のうえ申し込みを。

 日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    電話03-6272-9781(月水金の13時から18時まで) https://jcj.gr.jp/
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2023年09月21日

【出版トピックス】紀伊国屋書店・CCC・日販3社が進める流通改善計画

23年間で1万店の本屋さんが消えた!
 人口減少やネット販売の浸透で、書店数は減り続けている。2022年度の日本の書店数は11,495店、1年間で477店が閉鎖に追い込まれた。1999年には22,296店あったのだから、なんと23年間で半減、約11,000店もの「町の本屋さん」が消えたことになる。また全国市区町村のうち4分の1を超える自治体が書店ゼロの市町村となっている。

書店が出版社から直仕入れ
 こうした書店をめぐる苦境を打開するために、ここにきて取次各社や書店業界が書店の利益率を増やすために、出版流通の改善計画を加速させている。その一つの動きが粗利率30%以上の取引拡大を図る紀伊国屋書店、「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、出版取次大手・日販の3社が設立した共同出資会社である。
 書店が主導して、出版社から直接に本を仕入れる流通スキームの構築を目指している。各出版社が発行する多種多様な出版物を、書店を通じて全国各地の読者に届けられる流通サイクルを作り出し、そのサイクルが持続可能になるように共同プロジェクトを進める会社だ。業界の成長に加えて日本の文化と社会の発展に寄与することも狙う。

AI発注システムの活用
 3社の協議を通じて、書店と出版社が販売・返品について協議を重ねながら送品数を決定する、新たな直仕入れスキームの構築を目指す。粗利率が30%以上となる取引を増やすことで書店事業の経営健全性を高め、街に書店が在り続ける未来を実現させていきたい考えだという。
 新たな直仕入スキームの構築に際し、紀伊國屋書店・CCC・日販各社が保有するシステムやインフラストラクチャー、単品販売データなどを活用し、欠品による販売機会の喪失を最小化する。と同時に売り上げ増大と返品削減、環境に優しい流通を実現し、読者・書店・取次・出版社全員のメリットを向上させることを構想している。
 さらにAI発注システムを活用した、精度の高い需要予測に基づく適正仕入れや、適時適量かつESGに基づくサスティナブルな環境・働く人に優しい流通の実現を図る。ユーザーの利便性を向上させる努力で購入者の拡大・購入数の増加に向け、書店横断型サービス・共通アプリなども視野に入れた新たな販売促進施策やレコメンド施策を実施する。
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2023年09月18日

【2023年度 JCJ賞贈賞式と記念講演】9月23日(土)13時から東京・全水道会館〈zoomで生中継〉

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 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、1958年以来、年間の優れたジャーナリズム活動・作品を選定して、「JCJ賞」を贈り、顕彰してきました。今年で66回を迎えます。
 その贈賞式に先立ち、記念講演が行われます。反貧困への取り組みなど多彩な活動を続ける雨宮処凛さんです。注目の贈賞式では受賞者のスピーチをリアルタイムで聞くことが出来ます。

記念講演テーマ:貧困問題とジャーナリズム(仮題)
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講演者・雨宮処凛(あまみやかりん)さんのプロフィール
 作家・活動家。貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年・太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞受賞。近著には『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)がある。最新刊は『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社、2023年1月出版)。

開催日時:9月23日(土)13:00〜17:00(zoomにてオンライン、終了後動画配信アリ)
オンライン参加費:800円。Peatix受付ページ(https://jcjaward2023.peatix.com)から参加費をお支払いください。
贈賞式会場へのリアル参加希望者:参加費1000円。メールで来場予約のうえ会場受付でお支払下さい。会場は水道橋の全水道会館・4階大会議室。JR水道橋駅の東京より出口下車。
オンライン参加に関する問い合わせ:jcj_online@jcj.gr.jp
会場参加に関する問い合わせ:office@jcj.gr.jp
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2023年09月14日

【出版界の動き】<鵺(ぬえ)の政権>といわれる再改造内閣の狙い

第2次岸田政権の再改造内閣が発足した13日、朝日新聞政治部『鵺(ぬえ)の政権─ドキュメント岸田官邸620日』(朝日新書)が発売された。官邸の中枢や岸田首相の周辺を徹底取材し、その「状況追従主義」を浮き彫りにし、衆院解散・総選挙や総裁再選をめざす首相の動向も考察。
  「鵺」といえば、京極夏彦「百鬼夜行」シリーズの書き下ろし・17年ぶりの最新長編『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』(講談社ノベルス)も、14日に発売。累計部数1000万部を突破する同シリーズ。紀伊國屋書店では発売日から全店でオリジナルブックカバー1万枚を配布する。
 また黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』の続編が、42年ぶりの10月3日、講談社から刊行される。初めてアニメ映画化も決定し、12月8日(金)から全国東宝系にて公開される。
 『窓ぎわのトットちゃん』は、現在までに累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2500万部を突破。20以上の言語で翻訳され、世界中の人々の心を捉え、今もなお世代を超えて愛され続けている。

23年7月の出版物販売金額738億円(前年比0.9%減)、書籍388億円(同2.2%減)、雑誌350億円(同0.5%増)。月刊誌293億円(同3.2%増)、週刊誌56億円(同11.7%減)。返品率は書籍41.0%、雑誌42.9%、月刊誌42.0%、週刊誌47.1%。いずれも40%を超える高返品率が続く。

出版大手3社(講談社・小学館・集英社)が共同して、新刊コミックスなどに入れる「しおり」に、PubteX が供給するRFIDタグを埋めこみ、製本会社で本体に挿入作業をしたうえで配本する実証実験を、9月から一部の書店で開始している。その成果や問題点を把握し、流通や在庫管理などに応用する。
 さらにAIによる配本最適化ソリューション事業も進め、出版界のサプライチェーンを再構築していく予定だという。

2023年度新聞協会賞(9/6発表)は以下の通り。
▼読売新聞東京本社:<「海外臓器売買・あっせん」を巡る一連のスクープ>
▼神戸新聞社:<神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道>
▼毎日新聞西部本社:<「伝えていかねば」沖縄・渡嘉敷島 集団自決の生存者>
▼NHK:<「精神科病院で患者虐待や高い死亡退院率」の一連のスクープと調査報道>
▼西日本新聞社:<人権新時代>
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2023年09月11日

【おすすめ本】関口竜平『ユートピアとしての本屋 暗闇のなかの確かな場所』─なぜヘイト本を置かないか 書店は「安心できる場所」に=永江 朗(ライター)

 民族的ルーツなど変えられない属性について、憎悪と差別を煽る本をヘイト本という。ヘイト本に対する書店の態度は、主に3つに分かれる。
@何もしない。取次から配本された本を並べるだけ。買う人がいるのだから、売るのは当然だと考えている。このタイプがいちばん多い。
Aヘイト本をそれと対抗するような本と並べて陳列する。ジュンク堂書店の福嶋聡のいう書店=言論のアリーナ論である。
Bヘイト本は置かない。昨今増えている個人経営の小さな書店(独立系書店とかセレクト書店と呼ばれる)は、取次からの 見計らい配本を受けず、書店が独自に選んだ本だけを仕入れる。だから独立系書店でヘイト本を見かけることは、ほとんどない。

 千葉市幕張にある「本屋lighthouse(ライトハウス)」は、さらに一歩踏み込み、ヘイト本のみならず歴史修正主義的な本も扱わないことを掲げている。本書はこの書店の店主が、いかにして書店を始めるに至ったのか、なぜヘイト本や歴史修正本を扱うべきではないかを綴るエッセイである。
 著者の願いはひとつ。「書店は安心できる場所であってほしい」ということ。ところが昨今の多くの書店は違う。韓国や中国にルーツを持つ人にとって、ヘイト本は凶器のようなものだ。
 店内を歩くだけで嫌でも目に入る書名や帯の惹句は、自分の存在を否定し、生存を脅かす。それを「表現 の自由だから我慢せよ」というのは傲慢だ。ことは生存権にかかわる。
 著者が実践するのはヘイト本の排除だけではない。子供たちが安心して読書を楽しむための多様な仕掛けを、本屋内に設けている。こうした書店を買い支える読者になりたい。(大月書店1700円)
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2023年09月07日

【2023年度 JCJ賞】鈴木エイト氏の著書をJCJ大賞に選定。『自民党の統一教会汚染─追跡3000日』『自民党の統一教会汚染2─山上徹也からの伝言』(共に小学館)

 日本ジャーナリスト会議は6日、2023年度のJCJ賞受賞作を発表した。
 JCJ大賞は、統一教会の実態と自民党との関係を、20年の長きにわたって取材し、統一教会との孤独な闘いを続けてきたフリージャーナリスト・鈴木エイト氏の活動及び著作に対し贈賞となった。
 そのほかに5点が、JCJ賞に選定された。受賞作は以下の通り。

●琉球新報社の<台湾有事の内実や南西諸島の防衛強化を問う一連の報道>
●小山美砂『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)
●琉球朝日放送の<命(ぬち)ぬ水(みじ)─映し出された沖縄の50年> 
●NHK Eテレの<ルポ死亡退院─精神医療・闇の実態> 
●NHK Eテレの<市民と核兵器─ウクライナ 危機の中の対話>

 贈賞式は9月23日(土) 13:00〜 東京・全水道会館4階大会議室(JR水道橋駅・東京より北口下車) 詳細はhttps://jcj.gr.jp/future/6783/ をクリックして把握してください。

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2023年09月04日

【出版トピックス】紙雑誌と電子コミックの現在が示す出版の未来について

 メディアドゥの新名 新さんが、日本電子出版協会のJEPAニュース316号(8/31付け)に標記のタイトルで、一文を寄せている。その内容を要約して紹介したい。

驚異的な電子コミックの伸張
 いまや電子コミックの売上げは4479億円。いっぽう紙雑誌(コミックを除く)の売上げは2767億円。電子コミックが紙雑誌の1.6倍もの売り上げだ。雑誌扱いコミックや紙のコミック雑誌を加えてみても紙雑誌の売り上げは4795億円だから、ほぼ拮抗する。
 電子コミックの驚異的な伸びが、紙出版の売上げ減を補い、出版界の衰退をくい止めている勘定になる。

ビジネスモデルの革新
 電子コミックはなぜこんなに売上げが伸びたのか。
1)『鬼滅の刃』を始めとするヒット作に恵まれ、2)コロナによる引き籠もり特需も効果があり、3)アニメの製作数と放送(配信)枠が増えた─などなどが考えられる。
 しかし、電子コミックの流通におけるビジネスモデルの革新が、大きな理由のひとつだと考えている。ます合本によるまとめ買い、分冊による離し売り、読み放題のサブスクリプションモデル、一定期間まで待てば無料で読める連載、大胆な無料施策と価格政策、極めつけは縦スクロールという新しい形式の開発と導入である。

紙書籍の復権に向けて
 今後、雑誌の復権は無理としても、一般書籍がかつての輝きを取り戻すためには、この技術とビジネスモデルの革新が必要だと思う。それはNFTデジタル特典付書籍のような紙書籍の新しいビジネスモデルなのか、もしかすると技術革新ではなく、旧来の委託制と再版制の抜本的変革なのかもしれない。
 いずれにせよ、業界にとってある種の痛みを伴う改革の時が迫って来ているように思える。過去10年間、アメリカやドイツの書籍出版市場も、ほぼ横ばいで推移している。両国ともセルフパブリッシングが盛んなので、それを含めれば実際にはやや成長しているかもしれない。
 日本の出版市場が、欧米のような健全性を取り戻すためには、そろそろ痛みを引き受ける覚悟をしなければならないようだ。(まとめ・萩山拓)
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2023年08月31日

【マスコミ評・出版】維新批判の文春砲 はどこまで続く=荒屋敷 宏

 『週刊文春』の孤軍奮闘が目立つ。木原誠二内閣官房副長官の疑惑追及は独走状態で、今度は日本維新の会批判キャンペーンを始めた。岸田内閣の支持率低迷を受けて内閣改造のニュース報道が出始めた。
 文春砲≠ヘ8月10日号で「維新を暴く!改革政党≠フウソと暗部」の大特集を放ち、8月17日・24日合併号では「維新 馬場代表 社会福祉法人 疑惑の乗っ取りを告発」と連打した。維新の馬場伸幸代表は、気に食わない人物に対して選挙の公認をしないことで有名だという。一方、維新公認で多数の不祥事議員≠ェ出ている。パワハラ、セクハラで立憲民主党から離党に追い込まれた山本剛正衆院議員を維新が公認した例など、枚挙にいとまがない。

 身を切る改革≠竍政治資金の透明性≠掲げるが、維新は政党助成金を受け取った上に、インサイダー事件で逮捕された旧村上ファンドの村上世彰氏から、年間上限2千万円を上回る個人献金を受けていた。叩けばホコリが出る状態だ。神戸学院大の上脇博之教授は、維新議員が月100万円支給される文書通信交通滞在費(現・調査研究広報滞在費)を政党支部に横流しし、選挙を含む私的活動などに充て、公金の私物化をしていると批判している。
 日本維新の会は、不透明な政治資金で身を肥やし、ハラスメント根絶とは裏腹に被害者の声を軽視し、維新代表が社会福祉法人の理事長になるなど、疑問が多すぎる。維新批判の文春砲はどこまで続くだろうか。

 「安倍政治の決算」を特集した8月号が売り切れ続出で増刷した総合誌『世界』(岩波書店)は、9月号も興味深い。特集とは別に、防衛大学校教授の等松春夫氏「なぜ自衛隊に『商業右翼』が浸透したか 軍人と文民の教養の共有」と、ライターの木野龍逸氏「汚染水海洋放出は必要なのか」に注目した。
 等松論文は、「危機に瀕する防衛大学校の教育」という話題の論考を発表した経緯の説明である。人文・社会科学系の教養に欠ける幹部自衛官は陰謀論や商業右翼の言説を見抜けないという。『月刊WiLL』や『月刊Hanada』など極右誌への防衛省の現役・元自衛官の登場は常態化しており、見抜けないどころか、意図的ではなかろうか。
 木野論文は、岸田政権が強引に推進する東京電力福島第一原発の汚染水放出計画について、コスト節約のための放出という疑念が消えないと指摘する。反対する漁連に「丁寧に説明」(岸田首相)して解決する問題ではない。 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
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2023年08月28日

【おすすめ本】斎藤貴男『「マスゴミ」って言うな! やや辛口メディア日記』─ジャーナリズムへの叱咤激励=臺 宏士(ジャーナリスト)

 本書は「全国商工新聞」に連載した「メディアの深層」(2019年9月 〜23年3月)を主に収録。この時期は安倍晋三政権末期から菅義偉政権を経て岸田文雄政権に及ぶ。新聞・放送・出版の「マスコミ」と政権との関係を巡る著者の評価は「やや辛口」どころか、容赦なく厳しい。
 例えばこうだ。「五輪ビジネスのインサイダーに成り下がり、報道機関としての魂を売り飛ばしてしまっている現実を呪わずにはいられない」と。
 事実、新型コロナウイルスの感染拡大下にあった、21年の東京五輪・パラリンピックで中止を訴える社説を掲載した全国紙は朝日だけ。同紙を含む5紙とも五輪スポンサーだった。

 また菅氏の後任をめぐる自民党総裁選(21年9月)の新聞・テレビ報道ぶりを「政治権力によるジャック」と表現。岸田政権 は10月の衆院選で勝利。こうした状況を、
「この国の末期症状を見た。マスメディアは全面的に解体され、ゼロから出直すべき時期である」
 と喝破する。
 著者の評価基準は明確だ。権力を監視する役割を果たしているか否かにある。大半を占める酷評に、今のマスコミに絶望しているかに思えるが、2015年4月から8年余にわたってメディア批評を続けている理由も垣間見える。
 JCJ賞の選考委員を務める著者は、受賞者の思いに触れ「この国のジャーナリズムはまだ死んじゃいない。若い書き手・作り手たちも続いてくる。未来はきっと大丈夫だ」などと記している。
 タイトルの由来はこの辺りにあるのかもしれない。若いジャーナリストに一読を勧める。(新日本出版社1900円)
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2023年08月24日

【メディア時評】日本のメディア4団体が「生成AIに関する共同声明」を発表

自由利用の弊害
 8月17日、雑誌協会、書籍出版協会、新聞協会、写真著作権協会が連名で声明を出し、生成AIがもたらす負の影響について触れて、 「著作権法が目的とする文化の発展を阻害する恐れがある」と警鐘を鳴らした。
 いまチャットGPTなどは、現存するインターネット上の大量の記事や画像データを使い、文章や画像をつくりだし、既存の生成AIの訓練だけでなく新たな生成AIの開発に注力している。それができるのは、現在の著作権法で謳う<「著作権者の利益を不当に害する場合」を除き、著作権者の許諾を得ずに利用できる>を活用しているからだといわれている。
 だが、「著作権者の利益を不当に害する場合」の解釈があいまいで、著作権者の利益が還元されないまま、大量のコンテンツが生成されている。

AI利用と著作権保護
 声明では、@海賊版などの違法コンテンツをAIが学習してしまう。A元の作品に類似した著作権侵害コンテンツが生成・拡散される。BAI利用者自身が意図せず権利侵害という違法行為を行う可能性がある。C学習利用の価値が著作権者に還元されないまま大量のコンテンツが生成されることで、創作機会が失われ、経済的にも著作活動が困難になる。
 などの懸念を挙げ、著作権保護策が改めて検討されるべきだと主張している。
 海外でも、生成AIにどう対応するか、メディアの動きが始まっている。米国ニューヨーク・タイムズ紙は8月3日、利用規約を改定し、自社の記事や写真をAIの訓練のために無断で利用することを禁止すると明記した。また、米国AP通信は7月、チャットGPTを運営するオープンAIと記事提供や技術活用に関する協定を結んでいる。萩山拓(2023/8/24)
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2023年08月21日

【オンライン講演会】映画「福田村事件」公開直前企画:森達也監督が思いを語る 8月27日(日)午後2時〜

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 ちょうど100年前の1923年9月6日、関東大震災5日後の大混乱と流言蜚語が飛び交う中、香川県から来た薬の行商団が千葉県東葛飾郡福田村(現・野田市)で地元の自警団によって9名が殺害された。
 「行商団一行の話す方言(讃岐弁)が、千葉県の人には聞き慣れず、ほとんど理解できなかった」「千葉県の人との意思疎通の際に話す標準語も発音に訛りがあり流暢でなかった」などを理由に朝鮮人と見なされてしまったからだ。
 関東大震災のあと、治安維持の名の下に軍隊や在郷軍人、自警団が関わった殺傷事件が多発し、朝鮮人の虐殺、社会主義者の弾圧が大規模に行われた。
 「日本はむしろ自分たちの失敗から目を背けたがっているように思える。それを個と集団の相克から検証し続けることは、僕のライフワークです。だから福田村事件にも必然的に引き寄せられていったのかもしれない」と語る森達也監督。
 公開を前にどんな言葉が、このオンライン講演で紡がれるのか、注目! ぜひ参加・視聴してください。

森達也監督:プロフィール  
 1956 年、広島県呉市生まれ。95年の地下鉄サリン事件発生後、オウム信者たちを被写体とするテレビ・ドキュメンタリーの撮影を始めるが、所属する 制作会社から契約解除を通告される。
 しかし、めげずに映画『A』のタイトルで 98 年に劇場公開する。ベルリン国際映画祭など多数の海外映画祭に招待されて世界的に大きな話題となる。
 99 年にはテレビ・ドキュメンタリー「放送禁止歌」を発表。2001 年には映画『A2』が山 形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。著作には『死刑』 (角川文庫)、『すべての戦争は自衛から始まる』(講談社文庫)などがある。近著は『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)。

日時:8月27日(日)14:00〜16:00(zoomにてオンライン)
参加費:500円
 このオンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0827.peatix.com/)で参加費をお支払いください。
 JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に支部および氏名を明記の上、申し込む。
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2023年08月17日

【出版界の動き】漫画『はだしのゲン』50年─今に生きる貴重な叫び

23年6月の出版物販売金額792億円(前年比8.1%減)、書籍420億円(同4.7%減)、雑誌371億円(同11.9%減)。月刊誌313億円(同11.7%減)、週刊誌58億円(同15.0%減)。返品率は書籍41.5%、雑誌48.4%、月刊誌41.6%、週刊誌48.4%。いずれも40%を超える高返品率が2カ月続く。

23年3月末時点で、日本にある書店は1万1149店(前年比457店減)。だが一定の坪数がある書店に限ると8478店(同328店減)に減る。1960年代には2万6000店あったので、4分の1になってしまった。
 4月には鳥取の老舗書店・定有堂の閉店に続き、6月までに書店閉店は62店と続出。TSUTAYAの大型店7店、西友の9店、トップカルチャーが不採算の10〜20店を閉店、7月末には名古屋のちくさ正文館が閉店。八重洲BCの赤字1.9億円も伝えられ、書店の窮状は深刻だ。

インボイス制度を考えるフリーランスの会(STOP!インボイス)が、10月に実施を強行する政府に、1カ月前の9月4日、インボイス制度の延期を求める緊急提言(案)と実施強行に反対する署名を提出する。いまだに免税事業者の登録は1割にとどまっており、不安と混乱の声が日に日に増えている。
 9月4日(月)13時〜14時半 衆議院第1議員会館 多目的ホール(予定)

大修館書店が『無礼語辞典』を8月に刊行。同書は、昨年7月に刊行された『品格語辞典』の姉妹編。相手に「無礼」と受け取られる600語を取り上げ、解説に加え例文・言いかえ表現を収録。また人気漫画家・いのうえさきこさんの挿絵、1コマ漫画、「無礼マップ」も収録。書店からの注文が多いため、すぐに2刷8000部を増刷した。

8月12〜13日に東京ビッグサイトで開催のコミックマーケット(コミケ)102は、2日間で26万人が来場。コロナ禍により、2020年から2021年夏までコミケ開催はなく、2021年冬からはチケットを事前抽選販売し、入場者数を制限する形で行われてきた。
 今回は、午後からであればリストバンド型参加証を、当日購入しての入場も可能。多種多様な創作コミック、同人誌、グッズ、音楽などの展示即売ブースに、熱心なマニアが群がり競って購入するなど熱気に包まれた。

広島原爆の惨状を描いた漫画「はだしのゲン」が今年、雑誌の連載開始から50年を迎えた。単行本(汐文社、中公文庫など)になってからも読み継がれ、累計発行部数1,000万以上。世界24カ国でも翻訳され原爆の恐ろしさを伝えている。
 にもかかわらず、戦後78年を迎えた今年2月に、広島市教育委員会は、平和教育副教材から漫画「はだしのゲン」を削除すると決めた。こうした対応に批判が広がっている。こうした事態を深く捉え、8月12日(土) 7:30〜の「TBS報道特集」で、<「原爆ってやつは、大事な大事なおふくろの骨まで…」漫画『はだしのゲン』が伝えた被爆の実相とは>を放映した。たいへん内容の濃い好企画であるだけに、未視聴者にはYouTubeなどで視聴してほしい。
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2023年08月14日

【紙魚の独り言】怪物『ハンチバック』と紙の本=#去R 拓

初めての当事者小説
 芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋)を、紙の本で読んだ。発売後40日にして23万部のベストセラーだという。まず本書の冒頭にド肝を抜かれる。
 いきなりWEB記号 の英字が飛びこんでくる。すぐ改行され、WEB記号つきの『都内最大級のハプバに潜入したら港区女子部と即ハメ3Pできた話(前編)』WEB記号とくる。また改行され、WEB記号がついて<渋谷駅から徒歩10分。>WEB記号と続く。
 なんだナンダこれは。WEB記号つき5ページに及ぶ話の展開に驚く。本書の主人公・井沢釈華(しゃか)は、バイト仕事として風俗探訪・店紹介の連載記事をアップしている。その原稿なのだ。
 しかも、彼女は先天性ミオパチーで背骨がS字に曲がり、人工呼吸器と電動の車いすを利用する重度障害者。体が自由に動かせず、外を出歩くこともままならない。女性向けの官能ライトノベル(TL小説)をはじめ、ネット情報による「こたつ記事」をWEBサイトにアップするなどして、いくばくかの収入を得ている。

驚きのストーリー
 その後の展開に、また驚かされる。彼女が使うTwitterの零細アカウントでは、「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」の投稿を固定ツイートにしたうえ、<妊娠と中絶がしてみたい><私の曲がった身体の中で胎児は上手く育たないだろう><普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です>などと、呟いている。
 3分の2まで読み進めていくと、なんと彼女は通ってくる男性ヘルパーに衝撃的なパフォーマンスを仕掛けるのだ。その展開に読み手のショックは、またまた増大するばかり。
 著者自身が「父は破廉恥さに激怒しました」(受賞者インタビュー)と答えているように、本書のストーリー展開は、読み手の想像を超える。

読書文化のマチズモ
 だが主人公と同じ障害を持つ著者だけに、衝撃的なストーリーや描写を通して、重い障害を抱えて生きる困難と願望を伝えんとしたのだ。下記に挙げる主人公の呟きも、とりわけ出版界に籍を置いた身として心が痛む。
 「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢さを憎んでいた」(27P)
 「本に苦しむせむし(ハッチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像したことがないのだろう。こちらは紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰れていく気がするというのに、紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣(のたま)い電子書籍を貶める健常者は呑気でいい。(中略) 紙の匂いが、ページをめくる感触が、左手の中で減っていく残ページの緊張感が、などと文化的な香りのする言い回しを燻(くゆ)らせていれば済む健常者は呑気でいい。出版界は健常者優位主義(マチズモ)ですよ」(34〜35P)
 健常者の鈍感さを衝き、「健常者優位社会」を告発する筆致は鋭い。

本当の主人公は誰か
 終わりに近い83頁の*が付いた以降のストーリーを読み終えて、『ハンチバック』の主人公は、いったい誰なのか。ふと首を傾げた。どうもWEBのアカウント名にしている紗花(しゃか)≠ェ、「井沢釈華」の物語を紡いでいるのではないか。著者が仕掛けたかもしれないダブル・ミーニングを解くのは容易ではない。
 末尾ながら本書は電子書籍化されているが、もし視覚障害者のためにリーディングサービスの労をとるとなったら、極めて困難な問題が生じるかもしれない。なにしろ文中のWEB記号だけでなく、♡はどう音読すべきか。さらに文字に振ってあるルビには、ひらがな・英字・カタカナが混在しているから、ルビをどう扱うか悩むだろう。(2023/8/14)
ハンチバック.jpg
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2023年08月10日

【緑陰図書】関東大震災・朝鮮人虐殺を再照射する3冊=石丸次郎(アジアプレス・インターナショナル)

 9月1日で関東大震災発生から100年を迎える。 地震直後から多数の朝鮮人・中国人が殺害されたが、その主体は治安機関だけでなく、流言蜚語に煽られパニックに陥った日本の民衆であった。
 標的になった朝鮮人は、なぜ当時<不逞> と称され、怖れ蔑まれていたのか。その理由も合わせて再照射してくれる三冊を紹介したい。
 歴史は記憶と記録の集積だ。写真はファクトを強く刻印する重要な記録資料だが、朝鮮人虐殺についていえば、関連するものが少ない上、日時や場所、撮影者が不明なものが多い。

『関東大震災に描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』.jpg 元専修大学教授の新井勝紘は、関連する絵の発掘に長く努めてきた。『関東大震災に描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』(新日本出版社2022 年)で、新井は小学生からプロの画家までが描き残した関連画を丁寧に紹介している。
 目を引くのは著者がオークシヨンで落手して間もない「関東大震災絵巻」だ。虐殺の現場、光景を彷彿とさせる絵に釘付けになる。この絵巻は東京大久保にある高麗博物館で12月 24 日まで公開されている。

『関東大震災 朝鮮人虐殺を読む─流言蜚語が現実を覆うとき』.jpg 当時の文筆家たちも体験、目撃談などを書き残している。劉永昇(リュウエイショウ)『関東大震災 朝鮮人虐殺を読む─流言蜚語が現実を覆うとき』(亜紀書房8月下旬刊行予定)は、作家の日記や手記、小説などに綴られた朝鮮人虐殺に関連する文章を、丹念に拾い集めている。
 志賀直哉や野上八重子、中西伊之助らの一文から震災直後の殺伐とした空気を伝えてくれる。

TRICKトリック.jpg 当時の新聞メディアが、デマをもとに荒唐無稽な誤報をまき散らしたことはよく知られている。「不逞鮮人 一千名と横浜で戦闘開始 歩兵一個小隊全滅か 」「屋根から屋根へ鮮人が放火して廻る」(新愛知9月5日号外)が、その一 例。 新聞は民衆の憤怒と恐怖を煽り、殺りくに駆り立てる一因を作った。
 これら誤報の山を「朝鮮人による略奪や襲撃からの自衛だった」と歪曲・矮小化するための「文書資料」として活用する人たちがいる。加藤直樹『トリック─ 朝鮮人虐殺をなかったことにしたい人たち』(ころから2019年)は、典型的な歴史修正本の言説を、ひとつひとつ精緻に検証・論破して、その「トリック」を暴いた貴重な仕事だ。
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2023年08月07日

【焦点】五輪選手村控訴審 住民側敗訴「不当判決」 2つの理由で上告へ=橋詰雅博

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裁判後の原告団の報告集会=8月3日、弁護士会館会議室


 東京五輪選手村用地として晴海の都有地13.39fを公示価格の10分の1以下の1290億6千万円で売却したことに対し、都民29人がその違法性及び土地の適正価格との差額相当の損害賠償を、小池百合子都知事らに求めた住民訴訟の控訴審判決が、8月3日にあり、東京地裁に引き続き東京高裁も原告の請求を棄却した。住民側は上告する。

 原告弁護団は「不当判決」の主な理由を2つ挙げている。一つは東京都が個人施行(地権者、施行者、認可権者の三役兼ねた)による再開発事業の裏付けとした都市再開発法108条2項の適用を高裁も認めたことだ。そもそも同法2項は竣工後の保留床の処分に関する規定であり、自治体の土地処分に適用されるものではない。これがまかり通ると地方自治法による規制が免れ、脱法的な自治体の財産処分が横行しかねないのである。

 もう一つは土地の評価。「選手村」要因という一般には理解しがたい理由で正式な不動産鑑定が行われずに用地が投げ売りされたことを高裁が平然と認めた。これは都民の財産を著しく毀損したことになる。
 「このような都の行為は再開発制度の濫用、不動産鑑定評価への不信につながるものである。これを司法が追認したことは、その役割を放棄したと言わざるを得ません」と原告弁護団は指摘した。
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2023年08月03日

【出版の現場】岩波書店・創業110年で単行本110点を電子書籍化

上半期の電子出版7%増
 今年2023年・上半期(1〜6月)における出版物の推定販売金額が発表された(出版科学研究所)。紙と電子を合わせた推定販売額8024億円(前年同期比3.7%減)。紙の出版物5482億円(同8.0%減)、電子出版物2542億円(同7.1%増)となった。
 紙の出版物の内訳は、書籍3284億円(同6.9%減)、雑誌2197億円(同9.7%減)。雑誌では月刊誌1839億円(同9.6%減)、週刊誌358億円(同10.6%減)。週刊誌の落ち込みが激しい。
 電子出版物の内訳は、電子コミック2271億円(同8.3%増)、電子書籍229億円(同0.4%減)、電子雑誌42億円(同8.7%減)。相変わらず電子コミックの伸長が著しい。

核廃絶に向けた熱い訴え
 電子書籍への需要も無視できない現状を踏まえ、岩波書店も「広辞苑」の電子出版化以降、急いでの電子出版化を控えていたが、この8月に創業110年を迎えるのを機に、話題作110点を精選して電子書籍化し、創業記念の8月5日から年末にかけて順次配信する。
 主として21世紀に刊行された単行本から、読売文学賞、大佛次郎賞、サントリー学芸賞、毎日出版文化賞などの受賞作や、読者から多くの支持を受けた名著を電子出版する。
 第1弾:8月5日配信開始(18点30冊)とし、その1点にサーロー節子、金崎由美『光に向かって這っていけ─核なき世界を追い求めて』を加える。いま緊急となっている核廃絶に向け、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞授賞式でスピーチを行った「意志と行動の人」の決定版自伝に注目が集まる。
 第2弾:8月24日配信開始(15点23冊)。以降、毎月配信開始予定。配信書目の目録を各電子書籍ストアにて公開中(無料)。なお詳細は下記をクリックする。
https://www.iwanami.co.jp/news/n53090.html
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2023年07月31日

【余生私語録】第6回─奪うな「健康保険証」 マイナンバー強制STOP!=守屋龍一

かかりつけ医院にある箱
先日、毎日服用しているコレステロール降下薬がなくなったので、処方してもらうため、かかりつけ医院へ診察を受けに出向いた。受付で保険証と診察券を出し、診察の順番を確認し待合室に行く際、受付カウンターの隅に、見慣れない不透明なプラスチック箱があるのに気づいた。「操作は各自で行ってください」との張り紙もある。
受付の人に聞くと、ここにあるのはマイナ保険証のカードリーダーだという。この4月から義務づけられ、トラブルが起きないか、苦情が寄せられないか、不安が募るとも言う。幸いここに来る受診者は高齢者が多いので、ほとんど使われていないそうだ。
 私はマイナンバー登録をしていないし、もちろんマイナ保険証など使う気もない。いや根本的にマイナンバー制度に疑問を持ち強制に反対する一人だ。その署名にも協力している。

入力ミス2436万件の可能性
とにかく今のマイナンバー問題はひどすぎる。入力ミスは続発し、個人情報の流出に加え、別人登録や他人の情報が閲覧できるなど、全国各地で深刻な被害が広がっている。
 国が付与するマイナンバーには、一人当たり29項目のデータ入力が必要となる。これが1億2000万人分となれば、入力ミスは避けられない。通常、入力ミス発生率は0.7%といわれる。それを考慮にいれれば2436万件という膨大なデータの入力ミスが起きても、不思議ではない。
それなのに拙速なマイナンバーの導入に躍起となり、登録すれば最大2万円の「マイナポイント」を付与するという特典まで付けたが、思うように導入率は上がらなかった。
 国会でも野党から「ここに投じた税金は2兆円。この額を生活困窮者支援に回せば、どれだけ喜ばれたか。また国立大学の授業料を無償化でき、学生たちに返済不要の十分な奨学金を給付できる」などと指摘され、「天下の愚策」と批判された。
 その「愚策」の上に、河野太郎・デジタル庁大臣は、健康保険証をマイナンバーカードと紐づけ一本化して、来年の秋には健康保険証を廃止するという、脅迫めいた策へ乗り出した。

マイナ保険証を巡るトラブル
もともと国民はマイナンバーカードにメリットを感じていない。しかもマイナンバーの登録は任意で強制できないにもかかわらず、誰もが持つべき健康保険証と一体化するのだから無理がある。マイナ保険証は、まずマイナンバーカードを作り、利用登録しないといけないから、まさに強制ではないか。
しかも受診者が病院や薬局に行き受付をする時に、マイナ保険証をどう操作してよいのか戸惑う。受付に置いてあるカードリーダーにマイナンバーカードを奥まで入れ、顔認証または暗証番号(数字4桁)を入力し、本人確認を行わなければならない。その操作でエラーが発生し、医療機関の窓口職員が対応に追われるケースも数多く発生していると聞く。子供や体の不自由な人は、操作に手間取るのは間違いない。
 さらにマイナ保険証を紛失したら新規発行に最大2カ月はかかる。この間、病気などになったら無保険の扱いで診療を受けなければならなくなる。こんな厄介で迷惑なモノはない。

個人情報の営利的利用
ますますマイナ保健証への不信感が広まり、岸田内閣の支持率は28%と急降下する一方だ。これまで政府は、マイナ保険証を取得していない人には、健康保険証の代わりに有効期限1年の「資格確認書」を発行するから安心せよと説明してきた。しかし批判や反対の声が強まる中、政府は有効期限や自己申請についても見直さざるを得なくなった。
もし各自の申請がなくても「資格確認書」を一律に配るとすれば、現行の健康保険証との違いはほとんどない。しかも政府の言う「資格確認書」を発行するには、新たに234億円のコスト増が見込まれる。こんなムダな出費は不要だ。「来年秋の健康保険証廃止は止めよ」との声が強まるのも当然だ。
それでもなお政府がマイナンバーカードの普及に躍起となるのは、国民の個人情報を集約して、行政の効率化と事業への活用のみならず、民間企業にもマイナポータルを通して、国民の個人情報をビッグデータとして提供できるからだ。経団連が使わせろというのも頷ける。
 もう健康保険証の廃止は中止し、マイナンバー強制は行うな!(2023/7/31)
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マイナ保険証を巡る報道と請願署名
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2023年07月27日

【おすすめ本】山岡淳一郎『暴言市長奮戦記 』と泉房穂『政治はケンカだ! 明石市長の12年』─暴言の背後に弱者への共感の涙=鈴木耕(編集者)

 同時期に、同一人物を扱った本が2冊刊行された。それだけ対象人物に注目が集まっているのだろう。その人物は泉房穂(前明石市長)。破天荒な政治家として人気を博す一方、2度の暴言でマスメディアの指弾を浴び、自らあっさりと市長の座を降りたという人物だ。この2冊、著者や聞き手の色が、強く出ていて読み比べると面白い。

写真A『暴言市長奮戦記』.jpg 『暴言市長』(世界書院1500円)は、泉の言葉だ けではなく、周辺取材を綿密に行い、社会状況まできちんと書き込んであるので肉付けが厚く、泉の政治的立場や思想も含め理解が行き届く。
 幼いころの家庭状況や家族への想いも伝わってきて、一つの物語になっている。東大在学中に学生運動から学んだもの、師事した政治家の言葉も記され読者の胸をうつ。読んでいくと泉は「暴言市長」ではなく「感涙市長」だと分かってくる。
 泉の暴言の裏側には、弱者に対する共感の涙があるのだ。それがすぐに感情的になる泉という政治家の真情なのだ。

写真B「政治はケンカだ!」2.jpg 『政治はケンカだ!』(講談社1800円)は極 めて丁寧なインタビュー集。聞き手は元朝日新聞・政治記者の鮫島浩氏で、質問の内容も「闘いの日々」「議会論」「政党論」「役所論」「宗教・業界団体論」「マスコミ論」「リーダ ーシップ論」と、広範な内容におよび、かなり政治的な突っこみが展開されている。
 特にマスコミ批判は鋭い。新聞の凋落を二人で嘆いているのも面白い。市役所内の権力争いや、労組や宗教団体との絡みも赤裸々に語り、「ケンカ市長」の面目躍如である。ページのそこここから肉声が聞こえてきて、その場に立ち会っているようだ。
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2023年07月24日

【焦点】神宮外苑事業取り消し訴訟 自治会長が示した損害発生3つのケースとは=橋詰雅博

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6月29日の裁判後の報告集会

 東京・明治神宮外苑再開発工事の取り消しを求めた住民訴訟の第1回口頭弁論は6月29日に東京地裁で行われた。103号大法廷の傍聴券は抽選となった。原告59人を代表して米国人コンサルタントのカップ・ロッシエルさん=写真中央=に加えて北青山一丁目住宅自治会の会長である近藤良夫さんの2人が意見陳述した。
 各メディアはこの反対運動に火をつけたカップさんの陳述を大きく報じていたので、本稿では近藤さんの陳述を取り上げる。

都が指針突然変更
 近藤さんが神宮外苑再開発計画を知ったのは2018年11月下旬だ。青山の自治会・町内の各会長や商店街会長らが集まった港区赤坂総合集会所において「東京2020大会後の神宮外苑地区まちづくり指針」に基づき東京都は、老朽化した神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えて、その間を広場にすると説明した。この再開発内容を聞いた人たちは都が策定した指針を、再開発事業者が順守するよう指導してくれると信じた。
 ところが都は、この指針を突然変更したとして2021年12月中旬に「神宮外苑地区に関する都市計画変更(案)」を都立青山高校体育館で説明した。参加住民は変更した理由を都に求めたが、「賑わいと活力のあるまちづくり」を実現するためという答えに終始した。
 高さ制限の撤廃、眺望景観の大幅変更、市民が楽しめるスポーツの場所の消失などについて納得できる説明は一切なかった。要するに再開発事業者が描いた事業計画が容易にできるように都が指針を変更したのだ。

過ち正してほしい
 近藤さんは、この再開発事業によって重大な損害が発生する恐れがあるケースを3つ挙げた。
 第一は新球場の騒音被害だ。新球場の騒音について銀行内(59dB)や郵便局内(60dB)より低い55dBと「影響評価」を作成した事業者が書いているが、その根拠は全く示されていない。新球場から半径300b以内に約900世帯の住宅と中学校があり、最も近い住宅まで約80b。プロやアマを問わず年間500を超える試合やイベントを新球場で開催される予定だ。新たな騒音被害者が生まれるのは明白である。
 第二は風害問題。現在、風の強い日には高さ90bの伊藤忠本社ビルによって、大人も歩くことが困難なビル風が起きている。190bに高層化されたら、建物の風が受ける面積が今の倍以上になる。風の影響はほとんど変わらないというのでしょうか。風量をコントロールできるのでしょうか。はなはだ疑問だ。
 最後は人流変化に伴う被害だ。新球場の最寄り駅は外苑前駅と青山一丁目駅の2つ。これら駅に乗降客が集中する。事業者は混乱を避けるため警備員を配置して人流を抑制すると説明したが、地下鉄駅の2駅は入口もホーム狭く、拡張するのも難しい。地元住民は、将来にわたって、駅利用を制限されかねません。
 この3つの重大な損害を避けるために自治会メンバーの全員は東京都の過ちを裁判所に正してもらいたいと提起したのだ。
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2023年07月20日

【出版界の動き】波紋を呼ぶツイッター社の凍結対応と混乱

●23年5月の出版物販売金額667億円(前年比7.7%減)、書籍366億円(同10.0%減)、雑誌311億円(同4.9%減)。月刊誌252億円(同6.1%減)、週刊誌58億円(同0.7%増)。返品率は書籍40.8%、雑誌45.9%、月刊誌46.3%、週刊誌44.3%。いずれも40%を超える高返品率が続く。

●日販からトーハンへの帳合変更が激しさを増す。10月1日からトップカルチャー59店舗の帳合がトーハンへ変更される。日販は未来屋とトップカルチャー2社を合わせ、700億円以上の売上を失う。
 この事態はトーハンによる日販の一部吸収合併と見なされてもおかしくない。なお未来屋の決算は最終損益9億2800万円の赤字、トップカルチャーの第2四半期の営業損益は1億6600万円の赤字。この赤字2社の取引がトーハンにどのような影響をもたらすか、注目される。

●22年度の日書連加盟書店は2665店(前年比138店減)。1986年のピーク時には1万2935店だから5分の1。東京は前年より13店減の264店。22年の公共図書館は全国で3305館。それををはるかに下回る。公共図書館は2006年以降3000館を超えている。

●「チャットGPT」などを開発した生成AI企業への訴訟が米国で相次ぐ。原告は著作権やプライバシーの侵害を訴えており、同様の訴訟が続く可能性が高い。オンライン上で大量のデータを収集する生成AIに対するルール作りが急務となっている。すでにEUでは6月、著作権への配慮を盛り込んだAI法修正案を採択している。米国や日本でも規制に向けた議論が進む。
 とりわけ教育現場では深刻な事態が進んでいる。教員たちからは「生成AIでレポートを書かれたら、見分けがつかない」の声が挙がり、のちに盗作の疑いありとして訴訟でも起こされたら対応できないという。

●月刊誌「世界」(岩波書店)の公式ツイッターアカウントが、ツイッター社の判断で7/18付で凍結され、憶測が広がっている。ツイッター社からは「プラットフォームの悪用とスパム(迷惑行為)を禁止するルールに違反している」とのメールが届いただけ。
 「世界」のアカウントが凍結されたのは初めてなので、当該編集部は「思い当たる節はない。ツイッター社のサイトを通じ異議申し立てをしている」という。
 7日発売の8月号で「特集:安倍政治の決算」を組み、総点検かつ課題を論じている。19日昼時点で、「世界」8月号はアマゾンなどのネット書店で購入できない状況になっている。

●Instagram や Facebook で有名な Meta社が開発した独自のアプリ「Threads(スレッズ)」が、日本でも使えるようになった。このアプリはイーロン・マスク氏率いるTwitter社からユーザーを奪うことを目指して設計され、Twitter社との競争に参戦する。
 マスク氏が買収して引き継いで以降、Twitter社は人員整理や利用システムの変更など、混乱から抜け出せない状態にある。しかも1日に閲覧できるツイート数の制限などに、不満を抱くTwitterユーザーを取り込もうと、多数の競合サービスが登場しているが、Twitterを凌駕する決定的なアプリはなかった。
 しかし、Meta社が開発した「Threads」は、Twitter社に深刻な脅威を与えている。、Meta社は30億人のFacebookユーザーと23億人を超えるInstagramユーザーを擁し、「Threads」へ切り替える可能性は大きい。Instagramのアカウントがあれば、すぐ利用できる。ゼロから始める必要はない上に、同アプリは無料で30を超える言語で提供されるとあって、あっという間に登録者数が7000万人を超えた。
 なお、Meta社のマーク・ザッカーバーグCEOは、ユーザーが10億人規模に達したら収益化を考えると表明。しばらくは広告のない状態で利用できる。広告まみれで閲覧数まで制限のTwitterとは好対照。
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2023年07月17日

【おすすめ本】稲泉 連『サーカスの子』─サーカス村で暮らした著者が元団員の人生を丁寧に追う=大島幹雄(サーカス学会会長)

 1986年に刊行された久田恵『サーカス村裏通り』(JICC出版局)は、4歳の子供と共にキグレサーカスの賄いとして働いたシングルーマザーの奮闘ぶりと、サーカスの舞台裏を活写、後にテレビドラマ化され、大きな話題になった。
 本書の著者は久田の息子。サーカスで一年あまり暮らした「サーカスの子」である。本書はそれから40年ほど経って、かつて共に過ごした元団員たちを訪ね、彼らのサーカス時代はもとより、サーカスを去って以降についてもじっくりと聞き出し、その後の生きざまを丁寧に追った、重厚な人間ドキュメントである。

 これはサーカスの子でしか書けないものだ。元団員たちが取材を快く応じているのは「どんな短い期間であっても、同じ釜の飯を食った仲間は、一生仲間であり続ける」というサーカスで生きる人たちの不文律に従っているからだろう。元団員たちは、ありのままの人生をふり返り、それに対する今の思いを素直に語っている。
 仮に同じ人たちに私が「サーカス学会会長」としてインタビューを試みても、本書のように腹を割って語ってはくれなかったろう。
 最初に登場する元団員が、「サーカスで生まれ育った人たちがサーカスを出たあと、どんな思いを抱き、どんな苦労をするか、そういうことも知って欲しい」と著者に問いかけているが、本書はそれに十分答え、丹念にその後を追っている。

 彼らがふり返るサーカスの世界は夢の世界であり故郷だった。しかし、彼らの生きたキグレサーカスは、23年前に倒産し存在しない。故郷もまた夢の世界になってしまったのだ。本書はサーカスの世界を見事に描ききった力作である。(講談社1900円)
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2023年07月13日

【JCJオンライン講演会】講演:斎藤貴男さん<民主主義に不可欠──メディアはくたばらず!>=7月22日(土)14:00〜16:00

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 「マスゴミ」っていう言葉が世間で言われ出して何年たつのか。国民の知りたいことを報じない、権力者を批判せず、そのまま情報を垂れ流すマスコミに、腹立ちまぎれに罵声を浴びせた表現が言い得て妙なので拡散してしまった。
 しかし、マスコミはそこまで落ちぶれてはいないはずだし、民主主義を健全に機能させる重要な役割を担っているのは変わらない。気骨あるジャーナリスト・斎藤貴男さんが安易なレッテル貼りに抗い、メディアと国民に辛口ながらも愛情あるエールを送る。
 近著に『「マスゴミ」って言うな!─やや辛口メディア日記』(新日本出版社)がある。

斎藤貴男(フリージャーナリスト)
 1958年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。日本工業新聞記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経て独立。
 主な著書に『カルト資本主義』『機会不平等』『ルポ改憲潮流』『空疎な小皇帝─「石原慎太郎」という問題』『消費税のカラクリ』『民意のつくられかた』『戦争のできる国へ─安倍政権の正体』『「マイナンバー」が日本を壊す』など。
コーディネーター:橋詰雅博(JCJ運営委員)
講演日時:7月22日(土)14:00〜16:00(zoomにてオンライン講演)
参加費:500円
 参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0722.peatix.com/)参加費をお支払いください。
 (JCJ会員は参加費無料:jcj_online@jcj.gr.jp に別途メールで申し込む)

主催:日本ジャーナリスト会議
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2023年07月10日

【焦点】「水素利権」15兆円に群がる政・官・民・学の思惑─電気分解で水素エネルギー製造は電力のムダ使い!=橋詰雅博

 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出削減をめざす、脱炭素社会の電力源・燃料として水素エネルギーは有力だという。燃やしてもCO2を出さないが最大のウリ。さらに多様なものから作れて、貯蔵も効くため切り札≠ニ持ち上がられている。これに関する新聞報道が目立つ。ざっとこんな具合だ。

日本が主導して
▼岸田政権は官民合わせて、この先15年間で15兆円の投資を計画。
▼米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEFアイペフ)」の閣僚会合では、水素エネルギーの導入拡大に向け、各国間での技術協力や供給網(サプライチェーン)構築の推進に合意。立ち上げる水素技術で協力する「域内水素イニシアチブ」を日本が主導する。
▼水素と空気中から取り込んだ酸素を化学反応させて、電気エネルギーに変える燃料電池搭載タクシー(燃料電池車は、走行中は水のみ出る、EVより長い距離を走れる)用の水素ステーションを、産業ガス世界最大手の仏エア・リキード社が国内で展開。
▼山梨県は甲府市の米倉山に世界的な水素・燃料電池開発のイノベーション拠点づくりを、産・学・官からなる「水素社会実現戦略会議」で具体的に検討する。
▼全国最多の15の原発が立地する福井県南部に、水素の製造・供給施設の建設を県が計画。
▼液体水素が燃料のトヨタ自動車のエンジン車が富士スピードウェイ24時間耐久レースを完走。トヨタは水素エンジン車(燃料電池車)の市販化へ。
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疑問を指摘する記事は見当たらない

 「水素エネルギー社会」の到来近しというイメージが植え付けられそうだが、そもそも水素は石油・石炭・天然ガスの化石燃料や風力・太陽光などの再生可能エネルギーなどの一次エネルギー(原子力も含む)を加工して得られる。この二次エネルギーの現実的な製造法として、2種類があげられる。

CO2貯蔵は困難
 天然ガスなどから抽出したメタンを加工(水蒸気改質と言う)して水素を得る方法が一つだ。安価な水素を製造できるが、メタンを燃やした時と同じ量のCO2が発生するのがネックとなる。
 これでは脱炭素社会の構築には役に立たない。そこで発生したCO2を回収・圧縮し地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)方式が検討されている。エネルギー問題に詳しい工学博士の松田智氏(元静岡大学工学部准教授、化学環境工学専攻)は、こう解説する。
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 「CCSを脱炭素の切り札的手段とマスコミはもてはやしているが、CO2固定・貯留には、コストがかかるし、電力も消費するので、さらにCO2排出が増える。実際、大口発生源の火力発電所で、いまだ実現できていないのは、CCS方式を使うと発電単価の上昇が避けられないからです。しかもCO2を埋めればいいというが、そう簡単ではない。CO2がもれない石油・天然ガスの廃坑とか堅ろうな場所が必要になる。CCS方式の実用化は極めて困難です。現に、経産省の資料でも、実用化開始は2030年度からとなっていますが、コストや埋立規模などは明記されていません。<絵に描いた餅>に近いと言えます」
 もう一つは再生エネ電力を使い、水を電気分解して水素を作る方式。製造過程でCO2が発生しないので「グリーン水素」と呼ばれ、日米欧を中心にこの水素製造技術や活用する燃料電池の開発に躍起なのだ。

64%も電力ロス
 「ここでの大きな問題は水の電気分解(水素の生産)と燃料電池による発電(水素の消費)を経ると、エネルギー効率は概算で36%まで落ちること(各段階の効率が約60%なので)。いくら貯えられても製造プロセス段階で、すでに64%もの電力をロスしている。実際には水素の輸送・貯蔵で、さらにエネルギーを使う。こんな電力の無駄使いをやるより再生エネ電力をストレートに使う方が最も効率的だ」(松田氏)
 問題はさらにある。日本でつくる再生エネ利用のグリーン水素は高くつくので、海外の安価な再生エネ由来の水素を、専用船で大量輸入する計画を政府は立てているが、輸送方法に手間がかかる。

補助金ねらいと税金食い物に
 松田氏は「可燃性の水素の爆発リスクを避けるため、有機物を反応させて安全な液体状態にして運び、日本で水素に戻す方式と、現地でアンモニアに変えて、そのまま燃やす方式を検討しているが、いずれの方式でも電力ロスは約80%。コストも相当かかる。結局、単価は5倍以上にハネ上がる。現地の発電単価が安くてもこれでは間尺に合わない商売になる」「商売ベースでは多分成立しない。補助金ありきの政策です」と指摘した。
 問題山積みで水素エネ社会の実現が疑わしいのに、水素政策に走る背景について松田氏は「水素利権≠ノ群がる政・官・民・学が税金を食い物にしようというよこしまな思惑がある」と断罪した。まさに新たな利権への巨額な税金の投入が始まった。
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2023年07月06日

【余生私語録】第5回─わが庭で鳴く「ホーホケキョ」に感激!=守屋龍一

あちこちで「ホーホケキョ」
この4日、朝10時ごろだったろうか、2階の机でパソコンを開きメールへの返信作業などをしていたら、わが庭で「ホーホケキョ、ホーホケキョ…」と鳴く声がする。風を通すために開けた窓越しに、そっと庭を見回すが、声はすれども姿は見えず。探すのはあきらめて、しばしウグイスの鳴き声に聞きほれた。
そういえば約1週間前、多摩湖へと通ずる遊歩道を散歩していたとき、多摩湖線・八坂駅近くの遊歩道沿いに繁る大きなシイの樹のテッペンあたりで、ウグイスが鳴いているのを耳にした。歩く人たちと一緒に立ち止まって、姿を探すが見つからず。
 そして3日ほど後、所用の外出で自宅から萩山駅に向かって歩く途中、地元が名づけた<ざわざわ森>のケヤキの樹でも、その隣の<萩山四季の森公園>でも、ウグイスが鳴いていた。

今年はウグイスの「あたり年」?
今年はウグイスの「あたり年」か。これまでわが家の庭にウグイスが来て鳴いたことはない。ところが数日のうちに移り来たりて、「ホーホケキョ、ホーホケキョ…」と、鳴いてくれるとはうれしい限り。まさに貴重な体験だ。
調べてみたら、すべて鳴くのはオス。縄張りを守るため1日に何百回も「ホーホケキョ」と鳴き、子育てのメスに安全を告げる。危険が迫ると「ケキョ、ケキョ」と鳴くそうだ。一夫多妻、子育てには一切かかわらずメス任せ。まさにオス天下。こればかりは時代遅れ!

餌台にくる野鳥
さて、わが庭によく飛んでくるのは、スズメは別として、体の小さいメジロやシジュウカラが多い。樹に吊るした餌台にあるカボチャの種や麻の実を食べにくる。メジロは薄緑色をして目の周りが白く縁どりされ、開花したウメやモモの木によく留まる。
 用心深いのだろう、ヤマボウシやハナミズキ、ボウガシの樹間を縫って、素早く枝渡りする。ウグイスと見間違えるが、実際のウグイスは茶褐色をしている。
いっぽうシジュウカラは頭が黒く、目の下の頬が白く、胸には黒いネクタイを締めたような姿をしている。見つけやすい。「ツツピー、ツツピー」と小さく鳴きながら、餌台からカボチャの種をくわえ、近くの木の枝に脚で押さえつけ、首を左右に振りながら皮をつつき、実をほじくりだす。
ときには一まわり大きいムクドリも庭に下りてくる。虫でも探すのか黄色い脚を伸ばし、首を上げ下げして地面をつつく。先日、小さなトカゲを追いかけ、橙色のくちばしにくわえて飛び去るのを目撃した。
 またくすんだ灰色のヒヨドリも、「ヒーヨ! ヒーヨ!」と甲高い鳴き声を発し、高い電線から大きな羽根を広げ急降下し、モモやミカンの木の間を、すっ飛んでいく。

満開のセンリョウ
モモといえば、昨年は実をつけても小さいままで全滅だった。ところが今年は、野球のボール大にまで育って紅く色づいている。その中から選んで袋掛けをした。もう少したったら、孫と一緒にモモ狩りでもしようか。農園家ではない近所の家でも、今年はモモがいいという。
目を下に向ければ、庭のあちこちでセンリョウが、ケシの実ほどの小さな黄色い花を一斉に咲かせている。こんなにうれしいことはない。
 実は昨年、マンリョウは例年通り花も実も葉の下につけたのだが、どうしたのかセンリョウだけは、花も咲かず実も結ばなかったのだ。だが今年はセンリョウが、こんなに一杯も花を咲かせている。心配が吹っ飛んだ。
秋にはヒイラギに似た葉の上に見事な赤色や黄色の実を、たくさんつけて私たちを喜ばせてくれるだろう。今から期待が膨らむ。(2023/7/6)
庭で咲くマンリョウ(左)とセンリョウ(右).JPG
わが庭で開花するマンリョウ(左端)とセンリョウ(右)
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2023年07月03日

【おすすめ本】五野井郁夫+池田香代子『山上徹也と日本の「失われた30年」』─過酷な人生に思いを馳せ絶望に追いやった社会への批判=安田浩一(ジャーナリスト)

 <オレを殺したのは誰だ>─。安倍晋三元首相銃撃事件の山上徹也被告はツイッターにそう書き込んだ。事件の2年前だ。
 そう、彼は、生きながらにして殺されていた。幼いころに父親が自死、中学生の時に母親は統一教会に入信した。家庭は一挙に破綻に向かう。
 統一教会へ献金するために借金まみれとなり、自宅も売却された。有名進学校に進みながらも、大学進学を諦めざるを得なかった。病弱だった兄も自死した。事件の2カ月前に、彼はこんなツイートを残す。
 <何をどうやっても向こう2〜30年は明るい話が出て来そうにない>

 自分を「殺し」、家族を破滅に導いた「本当の敵」を探し続けた彼が、 辿り着いた地平に、統一教会と関係の深い元首相の姿があった。
 山上被告とは何者だったのか。まるで我がことのように必死で答えを探るのは、山上被告と同じロスジェネ世代、宗教2世でもある五野井郁夫さんと日本社会のファッショ化に警鐘を鳴らし続けてきた池田香代子さん。

 二人は山上被告のツイートを詳細に掘り起こし、彼が生きた時代の風景を炙りだす。事件に便乗し浮薄なコメントを垂れ流すだけの「山上論」とは違い、誠実で真摯な議論が印象的だ。寄り添うわけではない。けれども突き放すだけで済まない山上被告の過酷な人生に思いを馳せ、絶望に追いやった「報われない社会」を厳しく批判する。
 五野井さんは言う。絶望から人を救うのは「誰も取り残されない社会」「尊厳や搾取を許さない社会」だと。そこに私は小さな希望を見出す。(集英社インターナショナル1600円)
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2023年06月29日

【月刊マスコミ評・出版】 自民党と公明党 ケンカの底流=荒屋敷 宏

 自民党と公明党の選挙協力が解消 されると次の総選挙はどうなるか? 次期衆院選の小選挙区10増10減をめぐり、公明党が東京で自公選挙協力を解消したことが政界に激震を引き起こしている。
 『週刊ポスト』6月18日号は、内部資料スクープ入手と銘打って、「『創価学会票』消滅で落選危機の自民議員20人」との記事を掲載した。

 同誌が入手したのは、自民党選挙対策本部が分析した「第49回衆議院議員総選挙結果調」の表題がある164ページの資料だ。全国289選挙区で公明党依存度≠ェ最も高かったのは、東京都八王子市を主な選挙区とする東京24区だった。
 東京24区選出の萩生田光一自民党政調会長は、同党の東京都連会長で、4万3736票も公明党に依存しており、次期は「接戦」となる確率が高いという。八王子市は、創価大学や創価学会東京牧口記念会館、東京富士美術館など学会の施設が多い。激戦の沖縄3区、島尻安伊子衆院議員も3万9091票を公明党に依存しており、次期は「落選危機」という。

 『サンデー毎日』6月18日号では、鈴木哲夫氏が「自民党とケンカした公明党の深謀 震源地は東京より大阪」と指摘している。東京で自民と公明がもめるのは「いつものこと」らしい。
 舞台裏は、公明が大阪で日本維新の会に敗れる可能性があるため、東京で議席を一つ確保したいというのが今回のケンカの発端だという。公明党にとって、総選挙の前哨戦で敗れたかたちとなったから、面白かろうはずがない。
 党利党略に明け暮れる公明党の党勢の衰えには、長期にわたって賃金が上がらず、経済成長をしない中、決して裕福とは言えない創価学会員にも消費税増税や社会保険料値上げ、憲法9条破壊の軍備拡大を押しつけてきたツケが回ってきたというべきかもしれない。
 同じ『サンデー毎日』誌に掲載された「『国民負担率』48% 稼ぎの半分がブンどられる増税ビンボーから脱出する家計再建の秘策」の記事を、公明党支持者はどんな思いで読むだろうか?

 国民の所得に占める税金や社会保障の割合である「国民負担率」は、47.5%(2022年度)になる見込みだと財務省が発表した。「10万円稼いでも手元に残るのは5万2000円。どんなに一生懸命働いても、半分近くは徴収されてしまう」(森永卓郎氏)というから、もはや、江戸時代の年貢だ。これで岸田政権を支持しろという方がおかしい。 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号より
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2023年06月26日

【出版の現場】出版フリー労働者の実態アンケート結果から見えてきたもの

「出版ネッツ」の3カ月に及ぶ調査
 出版ネッツが主体となって取り組んだ、出版社などに出向いて働くフリーランス(常駐フリー)の実態調査結果が6月半ばに公表された。出版ネッツのホームページにアンケート調査フォームを掲載し、2022年12月16日から2023年2月20日までの3カ月、インターネット調査への回答者は42人。
 ここでいう出版界で働く常駐フリーとは、出版社と業務委託契約や請負契約を結び、出版社に出向いて社員の指示のもとに働き、1 社で1 週間 20 時間以上、または月 80 時間以上就業し1 カ月以上の業務継続が見込まれる人を指す。

「定額働かせ放題」
 集計結果から見えてきた実態は、まず月額固定給の弊害が挙げられる。報酬の形態を尋ねた設問では、「月額固定給・年俸」という回答が最も多かった。月額固定給とは、1 日 8 時間以上働いても報酬額は変わらず、それ以上働いた分は、割増どころか無報酬である。
 これは2018 年頃より、「労働者性の判断基準」にある「報酬の労務対償性があるか否か」を意識して 時給から月額固定給に改変するケースが増えている結果と推測される。「定額働かせ放題」は大きな問題である。
 労働者かどうかを判断するには「労働者性の判断基準」が用いられるが、なかでも「業務遂行上の指揮監督があるか」は、「諾否の自由があるか」「時間的・場所的拘束性があるか」 と並び、重要な判断要素とされている。

現実に合わない「労働者性の判断基準」
 これに対する設問項目として「業務上の指示」についての問いには、「どの仕事をするかを含め、自分の判断で決められる」は5人(11.9%)と少数である。「自分の判断では決められない」が11人(26.2%)。
 また「どの仕事をするかは指示されるが、仕事の進め方などは自分で決められる」「どの仕事をするかは指示されるが、最初にやり方を教えてもらい、あとは自分の判断で進めている」の合計が20人(47.6%)と約半数を占める。  
 こうした実態からみても、社員からの細かい「業務上の指示」がないから「業務遂行上の指揮監督がない」ので、フリーランス(常駐フリー)は労働者でないとみなすのは無理がある。
 これらの実態を踏まえ、出版ネッツは「1985 年に作られた古くて狭い<労働者性の判断基準>に当てはめて判断するのではなく、働き方の実態や仕事の性質を丁寧に見て、その業界の仕事の性質や労働実態にあった<判断基準>を作成するよう求めていくことが必要だと思われる」とまとめている。萩山 拓(ライター)
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2023年06月22日

【焦点】神宮外苑事業取り消し訴訟・第1回口頭弁論:6月29日(木)午前11時〜 地裁103号法廷=橋詰雅博

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 東京・神宮外苑再開発再開事業をめぐり周辺住民や学者、研究者ら約62人が、東京都が認可した事業取り消しと判決確定までの認可執行停止を求め東京地裁に提訴した第1回口頭弁論が今月29日(木)、午前11時から東京地裁103号法廷で開かれる。103号法廷は傍聴者が100人近く入る大法廷。ぜひ満席にして裁判官にプレッシャーをかけましょう。なお傍聴希望者が多い場合、抽選になる可能性もあり。

 2月28日に提起された主な訴えの内容は以下の通り。
@神宮外苑再開発事業が行われることにより、いちょう並木をはじめとした景観が大きく阻害され、多様な生態系や神宮外苑の環境を大きく毀損する。
A認可に先だって行われた環境影響評価は、事業者の不十分な情報公開、虚偽の報告のままでの環境影響評価など重大な瑕疵が認められる。
B再開発事業を可能にしているまちづくり指針による再開発事業は、都市計画法の本旨を逸脱又は認容されたものであり違法である。
C神宮外苑の歴史的価値・文化的価値が毀損され、景観利益、騒音や風害や日照権など、周辺住民に様々な被害がもたらされる。また13年にも及ぶ工事期間は住民生活を長期にわたり不便、不利益を与える。

 取り消し訴訟を起こした主要なメンバーは、ロッシェル・カップ(オンライン署名発起人・経営コンサルタント)、ロバート・ホワイティング(野球スポーツライター)、明日香壽川(東北大学教授・気候変動)、斎藤幸平(東京大学大学院准教授・経済思想家)、竹内昌義(建築家・東北芸術工科大学教授)、小野りりあん(ファッションモデル・気候アクティビスト)、原有穂(高校生・FFF Yokosuka)、外苑周辺住民。当日はカップさん=写真=らが意見陳述を行う。

 裁判終了後、午後3時30分から衆院第二議員会館1F多目的会議室で報告集会を5時30分まで行う。2時45分から会館入り口で入館証を配布。 
■ 第1回弁論の報告
■「神宮外苑再開発の問題点」岩見良太郎氏(埼玉大学名誉教授=都市工学)講演(報告集会はオンライン参加もできます)
*詳しくはこちらまで
https://www.savejingugaien.com/%E7%A5%9E%E5%AE%AE%E5%A4%96%E8%8B%91%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E3%81%AE%E9%96%A2%E9%80%A3%E8%B3%87%E6%96%99/問い合せ先:訴訟団事務局 2012t.road @ gmail.com (長谷川)(送信の時、スペースを消して下さい)
https://www.savejingugaien.com/
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2023年06月19日

【余生私語録】第4回─大山高原を巡る旅に老骨の身も心も洗われて=守屋龍一

霧や雲に覆われる大山
日本海に面して横に長い鳥取県、その西部地域にある大山(だいせん)高原を巡る旅に出て、久しぶりに英気を養った。私の誕生日12日と“父の日”18日を合わせ、子供・孫たちからの慫慂と援助がきっかけである。一人では心もとないので妻と共に6日間のパックツアーに参加した。
宿泊するホテルの窓ごしに標高1709メートルの大山が、まさに<伯耆富士>の名にふさわしく、美しい山嶺を見せて迫ってくる。だが高原を巡る道のりの途中で仰ぎ見ても、梅雨期に入ったせいか、すぐに霧や雲に覆われ姿を隠す。
 周辺の森はアカマツやコナラに占められ、空高くツバメが飛び交う。ときどきセグロセキレイが横ぎる。地図を見ると、大山登山口にあたる大山寺があり、さらにホテルからすぐのところに大成(おおなる)池がある。
さっそく大成池まで歩く。湧出する大山の伏流水を水源とする溜め池で、「全国ため池百選」に入っているという。農業用の灌漑水としても使われている。1周徒歩20分、池にはでかい鯉が泳いでいた。

大野池から木谷沢渓流へ
次は大山の北側・山麓にある大野池。着いたとたん、あの東山魁夷が描く御射鹿池を思わせる光景に出っくわす。池を取り巻く森の中、白い花が咲くヤマボウシの下を歩き、足元の赤い山ツツジを見ながら池の周りを半周した。これまた農業の灌漑用水としても使われる、ため池だという。
そこから西の方へ下って、佐陀川のほとりにある名水の里「地蔵滝の泉」ヘ行く。かつては湧き水が高さ5メートルほどの滝になって川原に落下していたのだが、昭和34年の伊勢湾台風で崩壊し消滅してしまった。
 ここに祀られている地蔵菩薩は、大山寺の地蔵信仰や牛馬市と重なって、参詣者がお参りするだけでなく、博労・牛馬も立ち寄って冷たい湧き水で喉を潤し、気力回復して大山寺をめざしたという。
足元の川を見ると、バイカモみたいな水草が流れに揺れている。その川淵にはクレソンやセリが群生している。灌漑用水としても利用され、この地で生産される「八郷米」は良い味だと高く評価されているそうだ。
水ときたから、奥大山に位置する木谷沢渓流の散策も触れておこう。ここは豊かな伏流水が、ブナやミズナラ、ケヤキなどの巨木の間を縫うように滝や川の流れを作る。周りには清浄な空気が満ち新緑が輝く。その美しい自然に身も心も洗われる。
 モリアオガエルが木の枝の葉に、白い泡状の卵を生みつけ、下の池の縁にはオタマジャクシがへばりついている。今にも倒れそうなササグルミの巨木の脇を歩き、空が透けて見えるオオモミジを仰ぎ、約1時間、オゾン一杯に吸い込んだ森林浴の散策を堪能した。

<だんだん>の意味が分かって
さて中日、雨も降りしきるのを押して、米子へ足を延ばす。予約した小さな屋形舟に乗っての「加茂川・中海遊覧」も、天候により中止となる。残念無念、仕方がない。
 米子城址へ登るのも展望が利かないと判断し諦める。代わりに<だんだんバス>を、従来コース・歴史コース・まちなかコースと3回も利用して、米子の景観・旧跡・寺町などを窓ごしに望んだ。1コース150円、充分に満足した。
降り際に運転手に<だんだんバス>の意味を聞くと、<だんだん>とは「ありがとう」という意味だそうだ。後でホテルの女性に聞くと、主に島根で使われ、鳥取では西部地域だけ、今の若い人たちは使わなくなっているそうだ。

郷土料理「いただき」
さて旨いものについても、私の印象に残ったものは挙げておきたい。朝食に用意されたホテルのバイキングに、「いただき」と名づけられた1品があった。油揚げに飯と野菜などが詰められている。
 これも説明を受けて分かったのだが、大きな油揚げの中に生のお米・野菜を詰めて、だし汁でじっくり炊き上げた鳥取県西部地方に古くから伝わる郷土料理だそうだ。家庭ごとの味があるという。東京にはない乙な味だ。
 後は「牛骨ラーメン」、値段は高いが鳥取和牛のステーキ、大山放牧場の新鮮な牛乳、今でも食べ飲みたくなる。(2023/6/19)
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北谷沢渓流に注ぐ奥大山からの伏流水

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