2023年09月28日

【おすすめ本】若林 宣『B-29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代』─原爆投下機B-29に仮託して「日本人の体験史」を考察=前田哲男(ジャーナリスト)

 B-29について書かれた本は多い。初の原爆投下機、日本60余都市を焼き払ったシンボルなのだから当然でもある。
 しかし本書のサブタイトルに照らせば、著者の関心がB-29だけにとどまらないことに気づく。類書にない「野坂昭如とB-29」、「B-29は美しかったか」などの章と記述からも明らかだ。
 また対中国・重慶爆撃時の「爆撃照準器を覗き込む視点」から「照準器から覗き込まれる立場」に逆転した、という著者の指摘も重い。当時のメディア(新聞・雑誌・日記など)から、数多く引用しているのは、著者の問題意識がB-29に仮託した日本人論、メディア論にあるからだ。

 読み進んで「八幡初空襲」(現北九州市)に来たとき、それが私の幼い日の記憶と合致している事実に気づかされた。そのころ戸畑市に住んでいた4歳の私は、八幡製鉄所爆撃の光景を防空壕の中から見ていた。
 饐えた臭いと湿気に満ちた壕内から見上げた夜空。サーチライト(探照灯といった)によって切り裂かれた闇夜に浮かぶB-29の機影、それらを(ほぼ最初の記憶として)おぼえている。
 だが、そこからB-29への「体当たり攻撃」が始まったとは知らなかった。編隊に向かう迎撃機に「あれ友軍機?」と母親に尋ねたのは、私の声だったのだろうか、と自問した。
 そんな個人史もまじえながら本書を読んだ。若いジャーナリスト、とくに「火垂るの墓」の読者であった人たちに、「日本人の体験史」として本書をお薦めしたい。なによりB-29と日本人について考察する、初めての本なのだから。(ちくま新書980円)
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2023年09月25日

【JCJオンライン講演会】マスコミはなぜジャニーズ事件を暴けなかったか

 24年前に「週刊文春」が、ジャニーズ事務所の喜多川氏が、所属の少年タレントたちに性行為を強要している事実を追究し、記事を連載した。しかし、大手マスコミは黙殺し問題を放置してきた。喜多川氏の犯罪を増長させた「共犯者」と言っても過言ではない。
 ジャニーズ事件を明るみに出す引き金となった英BBCの報道取材に、全面協力した元朝日新聞記者の政治ジャーナリスト・鮫島浩さんが浮き彫りになったマスコミの「腐った体質」にメスを入れる。

講演:鮫島 浩さん(英国BBCの報道に協力したジャーナリスト)
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 1971年生まれ。京都大学法学部卒業後、94年に朝日新聞社入社。99年から政治部。与野党政治家を幅広く担当し、2010年に39歳で政治部次長。12年に調査報道に専従する特別報道部デスクとなり、翌年「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故を巡る「吉田調書」報道で解任される。
 21年に朝日新聞を退社してウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を開設。連日記事や動画を無料公開している。著書に『朝日新聞政治部』(講談社)などがある。

開催日時:9月30日(土)14:00〜16:00
参加費:500円
 参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0930.peatix.com/)で申し込む。先着100名が定員。JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に支部名を明記のうえ申し込みを。

 日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    電話03-6272-9781(月水金の13時から18時まで) https://jcj.gr.jp/
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2023年09月21日

【出版トピックス】紀伊国屋書店・CCC・日販3社が進める流通改善計画

23年間で1万店の本屋さんが消えた!
 人口減少やネット販売の浸透で、書店数は減り続けている。2022年度の日本の書店数は11,495店、1年間で477店が閉鎖に追い込まれた。1999年には22,296店あったのだから、なんと23年間で半減、約11,000店もの「町の本屋さん」が消えたことになる。また全国市区町村のうち4分の1を超える自治体が書店ゼロの市町村となっている。

書店が出版社から直仕入れ
 こうした書店をめぐる苦境を打開するために、ここにきて取次各社や書店業界が書店の利益率を増やすために、出版流通の改善計画を加速させている。その一つの動きが粗利率30%以上の取引拡大を図る紀伊国屋書店、「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、出版取次大手・日販の3社が設立した共同出資会社である。
 書店が主導して、出版社から直接に本を仕入れる流通スキームの構築を目指している。各出版社が発行する多種多様な出版物を、書店を通じて全国各地の読者に届けられる流通サイクルを作り出し、そのサイクルが持続可能になるように共同プロジェクトを進める会社だ。業界の成長に加えて日本の文化と社会の発展に寄与することも狙う。

AI発注システムの活用
 3社の協議を通じて、書店と出版社が販売・返品について協議を重ねながら送品数を決定する、新たな直仕入れスキームの構築を目指す。粗利率が30%以上となる取引を増やすことで書店事業の経営健全性を高め、街に書店が在り続ける未来を実現させていきたい考えだという。
 新たな直仕入スキームの構築に際し、紀伊國屋書店・CCC・日販各社が保有するシステムやインフラストラクチャー、単品販売データなどを活用し、欠品による販売機会の喪失を最小化する。と同時に売り上げ増大と返品削減、環境に優しい流通を実現し、読者・書店・取次・出版社全員のメリットを向上させることを構想している。
 さらにAI発注システムを活用した、精度の高い需要予測に基づく適正仕入れや、適時適量かつESGに基づくサスティナブルな環境・働く人に優しい流通の実現を図る。ユーザーの利便性を向上させる努力で購入者の拡大・購入数の増加に向け、書店横断型サービス・共通アプリなども視野に入れた新たな販売促進施策やレコメンド施策を実施する。
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2023年09月18日

【2023年度 JCJ賞贈賞式と記念講演】9月23日(土)13時から東京・全水道会館〈zoomで生中継〉

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 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、1958年以来、年間の優れたジャーナリズム活動・作品を選定して、「JCJ賞」を贈り、顕彰してきました。今年で66回を迎えます。
 その贈賞式に先立ち、記念講演が行われます。反貧困への取り組みなど多彩な活動を続ける雨宮処凛さんです。注目の贈賞式では受賞者のスピーチをリアルタイムで聞くことが出来ます。

記念講演テーマ:貧困問題とジャーナリズム(仮題)
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講演者・雨宮処凛(あまみやかりん)さんのプロフィール
 作家・活動家。貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年・太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞受賞。近著には『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)がある。最新刊は『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社、2023年1月出版)。

開催日時:9月23日(土)13:00〜17:00(zoomにてオンライン、終了後動画配信アリ)
オンライン参加費:800円。Peatix受付ページ(https://jcjaward2023.peatix.com)から参加費をお支払いください。
贈賞式会場へのリアル参加希望者:参加費1000円。メールで来場予約のうえ会場受付でお支払下さい。会場は水道橋の全水道会館・4階大会議室。JR水道橋駅の東京より出口下車。
オンライン参加に関する問い合わせ:jcj_online@jcj.gr.jp
会場参加に関する問い合わせ:office@jcj.gr.jp
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2023年09月14日

【出版界の動き】<鵺(ぬえ)の政権>といわれる再改造内閣の狙い

第2次岸田政権の再改造内閣が発足した13日、朝日新聞政治部『鵺(ぬえ)の政権─ドキュメント岸田官邸620日』(朝日新書)が発売された。官邸の中枢や岸田首相の周辺を徹底取材し、その「状況追従主義」を浮き彫りにし、衆院解散・総選挙や総裁再選をめざす首相の動向も考察。
  「鵺」といえば、京極夏彦「百鬼夜行」シリーズの書き下ろし・17年ぶりの最新長編『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』(講談社ノベルス)も、14日に発売。累計部数1000万部を突破する同シリーズ。紀伊國屋書店では発売日から全店でオリジナルブックカバー1万枚を配布する。
 また黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』の続編が、42年ぶりの10月3日、講談社から刊行される。初めてアニメ映画化も決定し、12月8日(金)から全国東宝系にて公開される。
 『窓ぎわのトットちゃん』は、現在までに累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2500万部を突破。20以上の言語で翻訳され、世界中の人々の心を捉え、今もなお世代を超えて愛され続けている。

23年7月の出版物販売金額738億円(前年比0.9%減)、書籍388億円(同2.2%減)、雑誌350億円(同0.5%増)。月刊誌293億円(同3.2%増)、週刊誌56億円(同11.7%減)。返品率は書籍41.0%、雑誌42.9%、月刊誌42.0%、週刊誌47.1%。いずれも40%を超える高返品率が続く。

出版大手3社(講談社・小学館・集英社)が共同して、新刊コミックスなどに入れる「しおり」に、PubteX が供給するRFIDタグを埋めこみ、製本会社で本体に挿入作業をしたうえで配本する実証実験を、9月から一部の書店で開始している。その成果や問題点を把握し、流通や在庫管理などに応用する。
 さらにAIによる配本最適化ソリューション事業も進め、出版界のサプライチェーンを再構築していく予定だという。

2023年度新聞協会賞(9/6発表)は以下の通り。
▼読売新聞東京本社:<「海外臓器売買・あっせん」を巡る一連のスクープ>
▼神戸新聞社:<神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道>
▼毎日新聞西部本社:<「伝えていかねば」沖縄・渡嘉敷島 集団自決の生存者>
▼NHK:<「精神科病院で患者虐待や高い死亡退院率」の一連のスクープと調査報道>
▼西日本新聞社:<人権新時代>
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2023年09月11日

【おすすめ本】関口竜平『ユートピアとしての本屋 暗闇のなかの確かな場所』─なぜヘイト本を置かないか 書店は「安心できる場所」に=永江 朗(ライター)

 民族的ルーツなど変えられない属性について、憎悪と差別を煽る本をヘイト本という。ヘイト本に対する書店の態度は、主に3つに分かれる。
@何もしない。取次から配本された本を並べるだけ。買う人がいるのだから、売るのは当然だと考えている。このタイプがいちばん多い。
Aヘイト本をそれと対抗するような本と並べて陳列する。ジュンク堂書店の福嶋聡のいう書店=言論のアリーナ論である。
Bヘイト本は置かない。昨今増えている個人経営の小さな書店(独立系書店とかセレクト書店と呼ばれる)は、取次からの 見計らい配本を受けず、書店が独自に選んだ本だけを仕入れる。だから独立系書店でヘイト本を見かけることは、ほとんどない。

 千葉市幕張にある「本屋lighthouse(ライトハウス)」は、さらに一歩踏み込み、ヘイト本のみならず歴史修正主義的な本も扱わないことを掲げている。本書はこの書店の店主が、いかにして書店を始めるに至ったのか、なぜヘイト本や歴史修正本を扱うべきではないかを綴るエッセイである。
 著者の願いはひとつ。「書店は安心できる場所であってほしい」ということ。ところが昨今の多くの書店は違う。韓国や中国にルーツを持つ人にとって、ヘイト本は凶器のようなものだ。
 店内を歩くだけで嫌でも目に入る書名や帯の惹句は、自分の存在を否定し、生存を脅かす。それを「表現 の自由だから我慢せよ」というのは傲慢だ。ことは生存権にかかわる。
 著者が実践するのはヘイト本の排除だけではない。子供たちが安心して読書を楽しむための多様な仕掛けを、本屋内に設けている。こうした書店を買い支える読者になりたい。(大月書店1700円)
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2023年09月07日

【2023年度 JCJ賞】鈴木エイト氏の著書をJCJ大賞に選定。『自民党の統一教会汚染─追跡3000日』『自民党の統一教会汚染2─山上徹也からの伝言』(共に小学館)

 日本ジャーナリスト会議は6日、2023年度のJCJ賞受賞作を発表した。
 JCJ大賞は、統一教会の実態と自民党との関係を、20年の長きにわたって取材し、統一教会との孤独な闘いを続けてきたフリージャーナリスト・鈴木エイト氏の活動及び著作に対し贈賞となった。
 そのほかに5点が、JCJ賞に選定された。受賞作は以下の通り。

●琉球新報社の<台湾有事の内実や南西諸島の防衛強化を問う一連の報道>
●小山美砂『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)
●琉球朝日放送の<命(ぬち)ぬ水(みじ)─映し出された沖縄の50年> 
●NHK Eテレの<ルポ死亡退院─精神医療・闇の実態> 
●NHK Eテレの<市民と核兵器─ウクライナ 危機の中の対話>

 贈賞式は9月23日(土) 13:00〜 東京・全水道会館4階大会議室(JR水道橋駅・東京より北口下車) 詳細はhttps://jcj.gr.jp/future/6783/ をクリックして把握してください。

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2023年09月04日

【出版トピックス】紙雑誌と電子コミックの現在が示す出版の未来について

 メディアドゥの新名 新さんが、日本電子出版協会のJEPAニュース316号(8/31付け)に標記のタイトルで、一文を寄せている。その内容を要約して紹介したい。

驚異的な電子コミックの伸張
 いまや電子コミックの売上げは4479億円。いっぽう紙雑誌(コミックを除く)の売上げは2767億円。電子コミックが紙雑誌の1.6倍もの売り上げだ。雑誌扱いコミックや紙のコミック雑誌を加えてみても紙雑誌の売り上げは4795億円だから、ほぼ拮抗する。
 電子コミックの驚異的な伸びが、紙出版の売上げ減を補い、出版界の衰退をくい止めている勘定になる。

ビジネスモデルの革新
 電子コミックはなぜこんなに売上げが伸びたのか。
1)『鬼滅の刃』を始めとするヒット作に恵まれ、2)コロナによる引き籠もり特需も効果があり、3)アニメの製作数と放送(配信)枠が増えた─などなどが考えられる。
 しかし、電子コミックの流通におけるビジネスモデルの革新が、大きな理由のひとつだと考えている。ます合本によるまとめ買い、分冊による離し売り、読み放題のサブスクリプションモデル、一定期間まで待てば無料で読める連載、大胆な無料施策と価格政策、極めつけは縦スクロールという新しい形式の開発と導入である。

紙書籍の復権に向けて
 今後、雑誌の復権は無理としても、一般書籍がかつての輝きを取り戻すためには、この技術とビジネスモデルの革新が必要だと思う。それはNFTデジタル特典付書籍のような紙書籍の新しいビジネスモデルなのか、もしかすると技術革新ではなく、旧来の委託制と再版制の抜本的変革なのかもしれない。
 いずれにせよ、業界にとってある種の痛みを伴う改革の時が迫って来ているように思える。過去10年間、アメリカやドイツの書籍出版市場も、ほぼ横ばいで推移している。両国ともセルフパブリッシングが盛んなので、それを含めれば実際にはやや成長しているかもしれない。
 日本の出版市場が、欧米のような健全性を取り戻すためには、そろそろ痛みを引き受ける覚悟をしなければならないようだ。(まとめ・萩山拓)
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