2023年11月30日

【出版トピックス】注目! 2つの老舗雑誌が挑戦する新しい試み

「小説現代」に漫画245ページ収載
 「小説現代」(講談社刊)は、10月号で加藤シゲアキさんの小説「なれのはて」を大特集し、創刊60年になる同誌の史上3度目の完売を果たした。それに続いて同誌12月号(11/22発売)に、樺ユキ「画家とAI」の漫画作品を収録した。芸術・AI・戦争を描いた全編245ページの大作である。
 作品の概要は、「戦争の影が忍び寄る小さな国に生きる若き画家・モーリスが新種の生物ノームと出会い、そのノームの能力に感激するが、次第に自分たちの仕事がノームに奪われていく物語」である。
 もともとは漫画配信サイト「モーニング・ツー・WEB」で連載されていた。ここでの発表後、紙で読みたいという要望もあり、「小説現代」に掲載となった。同編集部では、「画家とAI」はウクライナやパレスチナでの戦争や生成AIが惹起している課題などを彷彿とさせる作品で、活字読者も読んでほしいと意気込んでいる。

雑誌「世界」25年ぶりのリニューアル
 敗戦後すぐに発売された(1945年12月)クオリティ雑誌「世界」(岩波書店 月刊)が、25年ぶりに2024年1月号(12/8発売)からリニューアルする。女性や若い世代をはじめ、幅広い読者と豊かなコミュニケーションの場がつくれるよう、身近で血の通った雑誌を目指し、アカデミア・社会運動・ジャーナリズムを繋ぐ雑誌を目指すという。
 リニューアルのポイントは、新デザイナーに須田杏菜さんを迎え、題字の書体を始め表紙や誌面のデザインを一新し、ジェンダーやAIなど、これまで大きく扱ってこなかったテーマにも積極的に挑戦、新しい書き手の登場、新時代の作家によるリレー・エッセイ、電子版の配信開始などに取り組む。
 編集長は堀由貴子さん:大阪府生まれ。2009年に岩波書店に入社し、2017年末まで「世界」編集部に所属。その後単行本編集部で坂上香『プリズン・サークル』、伊藤詩織『裸で泳ぐ』、榎本空『それで君の声はどこにあるんだ?』など担当。2022年10月より「世界」編集長に就任。
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2023年11月27日

【おすすめ本】茶本繁正『原理運動の研究』─統一教会の闇を暴く先駆的名著が復刊!=梅田正己(書籍編集者)

 統一教会問題を所管する盛山文科相は、「遅くとも1980年頃から被害があった」と述べた。
 だが単行本『原理運動の研究』(晩聲社)が出版されたのは1977年である。すでに、この教団の人心をもてあそんで破滅へ導く反社会的本質に加え、自民党中枢と結託して政治的影響力を培養してきた事実は、暴き出されていたのである。

 原理運動といっても、ピンとこない人が多いかもしれないが、1960年代後半、全国の大学を席巻した宗教運動である。アダムとエバの原罪を引き継いだ罪人の自覚とそこからの救済を原理≠ニして、全てをなげうっての献身を求めた。
 そのため「親泣かせの学業放棄と家出」が続出し、67年には「原理運動対策全国父母の会」が結成されていた。当時すでにソウルでの合同結婚式も行われていた。
 修練所での徹底した洗脳により、信者たちはノルマによる花売りや募金活動、人参茶や大理石の壺売りに没頭、教団の蓄財に貢献した。

 その莫大な財力を使って教団がつくり出したのがWACL=世界反共連盟だった。その日本版が勝共連合である。
 70年5月の「WACL躍進国民大会」には岸信介元首相、佐藤栄作現首相、福田赳夫現蔵相らが「花輪」を贈り、かつ岸は「重大な使命」を説くアピールを寄せた。
 以後、こうした催しを重ねて勝共連合と自民党の関係が深まり、各県連の幹部がWACL後援会長の座に就く。そのおスミ付きが統一教会の社会的信用と政治力を強め、信者獲得や集金力を高めていったのである。
 著者の茶本繁正さんは生前JCJ代表委員だった。存命なら、今どんな言葉が聞けるだろうか。(ちくま文庫840円)
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2023年11月23日

【出版トピックス】フリーカメラマンの労災認定─成果を広げよう

85日分の休業給付を決定
 労働組合「出版ネッツ」が取り組んだ、フリーカメラマンの労災認定を勝ち取る闘いで、東京・品川労働基準監督署は、会社の指揮下で働く労働者に該当するとし、10月に労災認定のうえ85日分の休業給付を会社に命じた。この決定について、11月15日、「出版ネッツ」は厚労省内で記者会見し公表した。
 フリーランス(個人事業主)の男性カメラマン(40)は、東京都内の広告写真関連会社と業務委託契約を結んで働いていた。昨年7月、車を運転してスタジオに向かう途中で追突事故に遭い、むち打ち症や足の指の骨を折るなどのけがをした。

 フリーランスは労災保険の対象外とされるが、会社がシフト表を作り、スケジュール管理するなど、会社の指揮監督で働く「労働者」にあたると、フリーカメラマンの男性と「出版ネッツ」は主張し、昨年12月、品川労基署に労災申請し認定に向け交渉してきた。その努力が実った成果といえる。
 しかし、会社は不服な点があるとして休業補償や治療費などの支払いを拒んでいるという。こうまでして拒む会社の態度に怒りがつのる。

成果を積み上げ広げよう
 都内で記者会見した男性は「同僚のカメラマンで仕事中に頭に機材が落ちてけがをした人もいて、命に関わる事故だったら、会社はどう対応するのか不安になった。フリーランスでも安心して働ける環境になってほしい」と語った。
 この9月、インターネット通販大手「アマゾン」で働くフリーランス配達員の負傷に対し、労基署は労災認定の判断を下し、治療費など会社に支払わせた。これに続く労災認定で、「出版ネッツ」の杉村和美さんは、「出版業界には今回のケースのように、事実上の労働者なのに業務委託で働く人が多い。労働者との認定に立って労災保険の適用がなされる意義は非常に大きい」と強調し、「フリーランスで働く人を守るためにも、こういった事例を積み上げていきたい」と語っている。

フリーランスの労災保険・特別加入へ
 あらためて労災保険という国の制度を確認しておきたい。「企業に雇われた労働者が仕事中に負傷した場合に治療費などが支給される」制度である。ところがフリーランスは「個人事業主」とみなされ、「企業に雇われた労働者」ではないとして、この適用から外されている。
 いまフリーランスで働く労働者は、日本全国で推計462万人。そのうち約6割の約273万人が、企業から業務委託を受けて働いている。業務委託された仕事上でこうむった傷害を、個人に負担させるなど時代遅れも甚だしい。救済するのは当たり前だ。
 やっと厚労省は重い腰をあげ、この20日、フリーランスが労災保険に特別加入できるよう制度を拡充し、これまで限られた職種のみ特別加入が認められていたが、企業から業務委託を受けて働く全てのフリーランスに広げる方針を決めた。来年秋までには運用できるよう目指すという。ただし加入は任意で、保険料は自己負担となる。自己負担の軽減など、さらなる拡充を望みたい。萩山拓(ライター)
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2023年11月20日

【焦点】インボイスによる緊急意識調査が明らかにした6つの問題点=橋詰雅博

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公取委などに要請書を手渡す「STOP!インボイス」の会(11月13日、衆院議員会館内)

 「インボイス制度を考えるフリーランスの会(略称STOP!インボイス)」は、10月1日からスタートしたインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度について10月20日から31日に行ったオンラインによる緊急意識調査の結果を11月13日に発表した。
 年間売り上げ1000万円以下の免税事業者、課税事業者、会社員、経営者などから11日間に寄せられた件数は約3000件。このうち「廃業・退職・異動も検討」「事業の見通しは悪い」の回答を合わせると約7割にも達し、同制度が仕事や暮らしに悪影響を与えていることが明らかになった。

 フリーランスの会は集まった不安や実害の答えを6つの問題点として整理した。これらの問題点が是正されない限り、インボイス制度の当面の運用停止、中止・廃止を改めて岸田政権に要請するとしている。6つの問題点などは次の通り。

物価高騰下での消費増税
 事業継続への危機感を募らせる答えが多数あった。20代から40代の現役世代の回答が約8割占め、ライフプランや子育てへの影響を懸念する答えも多かった。インボイス制度の導入は消費税増税であり、この増税分を民間同士で押し付け合う不毛な仕組みを抜本的に改めることを求める。
値下げや取引排除が横行
 インボイス未登録事業者に対し、交渉の余地がない報酬カットや取引排除が相次ぐ。また「免税事業者を使うな」という企業もあり、暗黙の免税事業者切り≠ェ横行。免税事業者への速やかなセーフティーネットの整備を公正取引委員会に求める。
未登録者へのバッシング
 消費税を「預かり税」思い込んでいる人が多い。「脱税」といった誹謗中傷を受けた、「インボイスが発行できないなら値引きしろ」というカスタマーハラスメントのような仕打ちにあった。差別されない発信と周知を強く求める。

複雑な制度過重事務負担
 回答者の2人に一人は「経理事務負担」を感じ、3割超が「説明や交渉の負担」を訴えた。「経過措置」「緩和措置」「特例」といった複雑な建付けになっているインボイス制度を簡素な制度設計への見直しを要請する。
スキルの前に取引線引き
 提供する商品・サービス・スキルの前に「インボイスの有無」で取引の線引きが行われている。直ちに法整備を要請する。
誤った指導、相談窓口不足
 財務省が「消費税は預かり税ではない」と国会で表明しているにもかかわらず、「預かり税」とアドバイスする税務署職員、税理士が相当数いる。国税庁のコールセンターはつながらない状態が続いている。相談窓口不足と税の専門機関の理解不足の是正を求める。

 財務省、国税庁、公取委、中小企業庁にこれらの要請に対し22日までの回答をフリーランスの会は求めている。
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2023年11月16日

【私のオピニオン】平和を創り出すために─三つのメディア媒体から=大場幸夫

まずは「平和の敵」をしっかりと掴むこと
 今、岸田政権が強引に進めている戦争への動きに対して、私たちは平和の方向をより闡明(せんめい)に創り出さなければなりません。そのためには、進められている戦争政策を見つめ、それに抗う手立てを考え、みんなと論議し、ともに前に歩み出さなければなりません。時間も限られています。
 この間、平和を考えるヒントになる三つのメディア媒体による作品を、見つけましたので紹介します。作品の一つは、「しんぶん 赤旗日曜版」です。見出しはこうです。
 <核攻撃被害も想定  全国300自衛隊基地「強靱化」 防衛省が計画 /岸田政権の「敵基地攻撃」の危険>(しんぶん赤旗日曜版 2023年2月26日号)
赤旗日曜版.jpg これは赤旗日曜版による防衛省の内部文書のスクープです。ご存知のように、岸田政権は23年度の予算案を1月23日に提出し、大軍拡や原発回帰等の重大問題を国民と国会に対して何らの説明もないままに通しましたが、その提出1カ月前、22年12月と23年2月 にゼネコン40数社、建設コンサルタント50数社の担当者を集め、この計画についての意見交換会を行っているのです。
 この事は、その後成立した「軍事産業支援法」なども見れば、岸田政権がどこを向いているのかを明確に現しています。また、内部文書には「各種脅威に対する施設の強靱化」を図る自衛隊基地が、北海道から沖縄まで300挙げてあります。沖縄はそのうち16カ所です。
 全国どこでも核戦場となることを想定していて、いま沖縄南西諸島で進められている基地強化の「諸工事」が、なんと日本全国で進められていることが分かります。

彼らがやろうとしていることは? それに対抗するには?  
 作品の二つは、太田昌克・兼原信克・高見澤將林・番匠幸一郎『核兵器について、本音で話そう』(新潮新書 2022年3月20日刊)です。これは 21年9月に行われた座談会の記録です。 参加者は、共同通信編集委員、元国家安全保障局次長、元軍縮会議日本政府代表部大使、元陸上自衛隊西部方面総監の肩書きを持った人たちで、現政権の核政策を主導してきたメンバーに、ジャーナリスト1人を加えた形です。
「核兵器について…」.jpg 核問題についての座談会の主要な目的は、「核兵器や核抑止について、座学や抽象論を排し、我々を取り巻く具体的な現実に即して話し合うこと」として、本書の章立ては、「核をめぐる現状」、「台湾にアメリカの核の傘を提供すべきか」、「北朝鮮の核」、「ロシアの核」、「サイバーと宇宙」、「日本の核抑止戦略」、「核廃絶と不拡散」とあり、ほぼ主要なテーマが網羅されています。
 各々の論点についての批判は頁の都合上ここでは避けますが、この座談会をかなりざっくり表現しますと、核抑止論の立場からの核廃絶論への批判と非難が大半で、それに抗する「具体的積極的政策提起」 が少し光ると言ってよい内容です。私には、ああそうか、空疎な言葉で飾った基本隠蔽ばかりの政府の核政策には、このような考えが反映していたのかと、「敵」の正体が分かる気がしていますが、核廃絶論からの「本音」が不足しています。
 そしてこの政府の核政策を具体的に跳ね返すには、かなりの力業が必要だと思いました。核廃絶論を訴える場合、もっと具体的政策を論議し提示しない限り、スローガンを叫んでいるだけになって、相手の胸に届かず、味方も増えません。
 私は反核運動や核兵器禁止条約の世界的拡大推進運動に賛成する立場から、様々な集団を一堂に集めて、この本にある章ごとの分科会を提起し、この中で紹介されている具体的積極的政策を、さらに膨らまし広げる論議ができないか、と思いました。
 核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用という3本柱に付け加えて、NPT問題(核拡散防止条約)についても分科会の一つに加えるべきでしょう。太田昌克・共同通信核取材班『「核の今」が分かる本』( 講談社+α新書 2011年7月20日刊)で、太田氏が指摘しているように、この問題も私たちは「人類は核のパワーと共存していけるのか」という現代社会がどうしても避けて通れない重大な問いに答えようとすることですから。 (続く)
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2023年11月13日

【出版界の動き】本の危機を打開する創意あふれる意欲的な取り組み

今や日本全国の自治体の4分の1以上が本屋のない「無書店自治体」と言われる。身近に本が買える環境を、どう作り維持するか模索が進んでいる。そのユニークな取り組みの一つを紹介する。
 岩手県西和賀町は、過疎化が進む人口約5千人の町、そこを通るJR北上線「ほっとゆだ」駅から近い「湯本屋内温泉プール」のロビーに、「本屋」が20年ぶりに復活した。約3千冊の小説や絵本、漫画が売られている。
 いわゆる新刊書店とは異なり、町と「ブックオフ」が協定を結び、住民側が運営する「ふるさとブックオフ」の1号店としてスタート。本はブックオフ側が選び、施設の指定管理者である西和賀町水泳協会に委託し1冊100〜300円で販売する。1冊売れるごとに販売価格の10%が同協会に支払われる。
 いま紅葉の名所として観光客も訪れる「ほっとゆだ」駅、「湯本屋内温泉プール」に浸かった後、ロビーで本に出合い楽しめる粋な取り組みとして注目されている。

直木賞作家の今村翔吾さんが、JR佐賀駅に新しい「佐賀之書店」を12月3日にオープンする。7年前に今村さんが「九州さが大衆文学賞」を受賞したのを縁に、佐賀市在住の「カリスマ書店員」本間悠さんを店長にして、「様々な形で出版の光を絶やさないよう模索していく」と意気込んでいる。今村さんにとっては、21年11月に大阪府箕面市で書店を事業継承した「きのしたブックセンター」に次ぐ書店経営になる。

日販が運営する「ほんたす ためいけ」溜池山王メトロピア店(店舗面積15坪)も注目されている。完全なる無人書店。ここに入るにはLINEミニアプリを活用し、決済はキャッシュレス決済のみ。
 これからの無人書店の活用を想定すれば、大学周辺では学術書・専門書を並べ学生・研究者をサポート。各種スタジアム近くでは球技やスポーツ、音楽やアーティストらの関連書。山深い地方のサービスエリアではアウトドア関連書、大病院内には健康増進書・入院患者の心休まる書物など、場所や施設の特徴を視野に、その場所にあった顧客のニーズに応える本を揃える、無人書店の設置が考えられるという。巨額な設備投資や書店員を確保しなくとも、一定の収益が得られるのは出版界にとっても大きい。

黒柳徹子『続 窓ぎわのトットちゃん』(講談社、10/3発売)の発行部数が、発売1週間で30万部を突破。国内で800万部、世界では2500万部超のベストセラーとなった『窓ぎわのトットちゃん』の42年ぶりの続編ということもあり、書店からの注文が殺到している。
 12月8日に公開のアニメ映画「窓ぎわのトットちゃん」(監督・脚本:八鍬新之助、配給:東宝)に合わせて、『映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック』(本体1500円)を11月に刊行する。

「秋の読書推進月間」が10月27日から始まったのを機に、「第31回神保町ブックフェスティバル」が28日〜29日に開催された。初日の売上げ4200万円、2日目3300万円、計7500万円(前年比18%増)。来場者は2日間で推定13万人、前回の10万人から3割増えた。出店した出版社は156社(前回14社)。決して本が見放されているわけではない。ニーズに合わせた企画の大切さが鍵となっている。

23年9月の出版物販売金額1078億円(前年比2.6%増)、書籍668億円(同5.3%増)、雑誌409億円(同1.6%減)。月刊誌353億円(同0.1%増)、週刊誌55億円(同11.1%減)。返品率は書籍29.3%、雑誌39.4%、月刊誌37.8%、週刊誌48.0%。
 書籍・雑誌を合計した販売金額が前年比プラスは21年11月以来、書籍の前年比プラスは22年1月以来となる。
 23年度の推定販売金額は、1兆570億円前後と試算されている。ピーク時の1996年には2兆6564億円の販売金額があったのだから、なんと27年間で半分以下の40%にまで落ち込んでしまったことになる。
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2023年11月09日

【余生私語録】第8回 ガザ市民へのジェノサイドを許すな=守屋龍一

ガザの悪夢は人類の危機
 ガザ市の瓦礫に立つ10歳くらいの男の子が、泣きながら「なにも悪いことはしていないのに…」と叫んでいる。日本の種子島ほどのガザ地区に、イスラエル軍はミサイルを撃ち込み、地上では戦車とブルドーザーが奔りまわる。その映像を目にして、私は言葉も出ない。
 イスラエル軍とイスラム組織「ハマス」間の大規模衝突から1カ月が経過した。ガザ地区の死者は子ども4237人を含む1万328人に及ぶ。国連のグテーレス事務総長は、「ガザが子どもたちの墓場になりつつあり、まさにガザの悪夢は人類の危機である」と、“停戦”を呼びかけている。
 しかし、イスラエル首相は「停戦には同意せず、今は戦争の時」とガザ攻撃をエスカレートし、イスラエルの閣僚は「核爆弾も選択肢の一つ」とまで発言した。
 イスラエルによるガザ攻撃は、いまや明白な国際人道法に背くジェノサイドと言ってよい。世界各地で「ガザでのジェノサイドを許すな!」と、抗議の行動が広がっている。

パレスチナ住民への弾圧・排除
 イスラエルは1967年以降、パレスチナ自治区として認められたヨルダン川西岸地区とガザ地区を占領し、パレスチナ住民を強制的に排除しながら入植を拡大してきた。とりわけガザ地区には2005年から、封鎖の「ゲットー化」政策をとり、強大な壁を境界線に添って張り巡らし、「天井のない監獄」と呼ばれる非人道的状態を作り出してきた。
 パレスチナに加えてきた、これらの歴史的無法行為は棚上げにし、「自衛権」を振りかざしてジェノサイド攻撃を加速させることは許されない。

欧米におけるユダヤ問題
 早稲田大学教授の水島朝穂さんが、この惨状に触れて「イスラエルによる国際法違反の一方的殺戮という現実に、国際社会が一致して非難できないもどかしさがある」(11/7)と述べている。
 特にドイツでは、かねてからイスラエル批判は反ユダヤ主義ということで、イスラエルの暴虐を十分に非難できないできた。先週、ブレーメン市警察はパレスチナ支援のデモに規制を加えたのも、プラカードの表現がイスラエルの「存立の権利」を疑問視しているとの理由からだ。他の国々でも、イスラエルへの過度の忖度が、歪んだ対応につながっているという。

<ホロコーストの根>
 ユダヤといえば、私には今から7年前の9月末、ポーランドを旅しアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所を訪ねた時のことが思い出される。ガイドの中谷剛さんは、ナチス・ドイツ軍によって、ユダヤ人ら130万人が虐殺された収容所内の遺品の数々、拷問部屋、ガス室、死体焼却炉などについて丁寧な解説をしてくれた。
 しかも彼は、単に過去の「負の遺産」として捉えるのでなく、いま世界に広がる難民排斥、「イスラム国」のテロ、さらにはイスラエルのガザ地区侵攻やパレスチナ問題にまで触れ、傍観していれば<ホロコーストの根>につながっていくと指摘された。
 ひいては南京事件が象徴する日本軍の中国人虐殺など、日本にとっても過ちを繰り返さないためにどうすればいいか、それを多くの人に考えてもらうためにも、事実を伝えていく使命感があると述べられた。
 それを聞いていた日本人旅行者で高齢男性が、「あの人はアカだね」と私に呟いたのにはビックリ。こういう御仁が、まだ日本にいるのが実際なんだと気づかされた。

『南京事件と新聞報道』の意義
 こうした思い出が浮かんだのも、上丸洋一『南京事件と新聞報道』(朝日新聞出版)を、ちょうど読み終えたばかりだったからだ。本書は1937年12月13日に起きた、日本軍の「南京占領」の実相を明かすため、今から80数年前の新聞記事を全国・地方を問わず国会図書館などで閲覧し、「記者たちは何を書き、何を書かなかったか」を追究した労作である。
 著者は<終章 記者たちの戦争責任>の項で、「『事実を伝える』という本来の使命を果たさず、事実を伏せることによって記者は侵略に加担した」と、身を切るような文章を綴る。我が身に照らして、この指摘の重さに沈思黙考するばかりだった。(2023/11/9)
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アウシュビッツ収容所でガイドする中谷剛さん(2016/9/30)
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2023年11月06日

【おすすめ本】矢部 武『年間4万人を銃で殺す国、アメリカ 終わらない「銃社会」の深層』─「銃社会」米国に潜む不安と恐怖の病巣を抉る=半沢隆実(共同通信 論説委員)

 学校や教会といった市民生活の最も安心できるはずの場所で、凶弾が飛び交う。それが米国の日常となって久しい。悲劇が繰り返されされても、銃を手放せない米国人。毎年4万人もの命が銃で奪われているという。本書はこの不可解な現実の原因を探りながら、現代の米国が抱える本質を解き明かしている。
 「国民が武器を所有し、携帯する権利はこれを侵してはならない」とする合衆国憲法修正第2条の存在は、よく知られたところだ。さらに米国最強のロビー団体「全米ライフル協会」が豊富な資金力を背景に政治家への強力なロビー活動を行っている。1994年の中間選挙では、銃規制法案に賛成した民主党議員に対し、報復としての批判キャンペーンを大きく展開し、大量の落選者を出したエピソードを紹介している。

 特筆すべきは、本書がこうした政治的な側面に加え、「個人の自由と権利、憲法などへの異常なほどの執着、こだわり」を持つ米国人の本質まで踏み込んだことだ。
 米国を熟知した国際ジャーナリストである筆者の探求はそこにとどまらず、もともと心の中に不安や恐怖を抱えた人が多いという米国の姿も捉えている。さらに隣国メキシコからの移民が標的となった乱射事件の背景には、白人至上主義を擁護し活気づけたトランプ前大統領の存在があると指摘する。
 現代の米国が抱えるある種の闇へと迫ったうえで、差別や陰謀論などがはびこる理由の一端もあぶり出した。銃問題を入り口に、米国とは何かを考える機会を、読者に与えてくれている。(花伝社1500円)
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2023年11月02日

【マスコミ評・出版】ジャニーズという名の資本主義=荒屋敷 宏

 「読書の秋」である。今年は、これまでにナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(江口泰子訳、ちくま新書)や大西広『「人口ゼロ」の資本論─持続不可能になった資本主義』(講談社+α新書)、デヴィッド・グレーバー&ウェングロウ『万物の黎明─人類史を根本からくつがえす』(光文社)、ジェイソン・ヒッケル『資本主義の次に来る世界』(野中香方子訳)など、大きな視角から現代を問う本が次々と出版されている。豊作といってよいかもしれない。

 『週刊エコノミスト』は、10月3日号から100周年企画と銘打って、経済学者・都留重人氏(2006年逝去)が2003年に発表した論文「ゼロ成長でも生活豊かな社会−21世紀資本主義の行方」を3回にわたり再掲載している。
 都留氏は、@世界人口の動態 A資源や環境の制約条件 B科学技術の進歩 の三つを21世紀の資本主義の規定要因と考えた。かつては資本にとり「外部」であった科学が資本に包摂されて「内部化」される過程が進み、科学=産業革命の時代が到来した。
 都留氏によると、働く人たち一般が社会的存在であることを通して技術革新の媒介役を果たしているという。それをマルクスが「社会的個体の発展」と呼んだという。熟練工の技術がデータ化され、機械に置き換えられ、機械の監視と統御が拡大している動向は日々、目撃するところである。

 ジャニーズ会見で特定記者を指名しない「NGリスト」の存在がNHKのスクープで明らかになった。企業の「組織防衛が働いている」「日本の企業の抱える『ガバナンスの未成熟』」「売り上げ至上主義」(『AERA』10月6日号)と指摘されるなど、ジャニーズ問題は日本型資本主義そのものである。

 テレビ局のジャニーズ担当者に編成や制作の権力が集まり、事務所の意向を社内に伝えて優遇され、役員にまで登用される「ジャニ担」の構造にも日本のメディアの弱点が集約されている。
 「結局、日本のメディアには調査報道をする力もなく、視聴率や売り上げが上がれば、不正や内部統制の抜け穴など気にしないという経営幹部が多数いた結果、『沈黙』は起きたのだろう」(『週刊エコノミスト』10月17日号で稲井英一郎氏)との意見には、一部を保留した上で賛成したくなる。
 調査報道の役割は、重みを増しており、働く人たちはメディアの活躍を願っている。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
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