小塚かおる
冒頭から私自身の話で恐縮だが、今年10月に刊行の拙著『安倍晋三vs.日刊ゲンダイ』を執筆する中で、<忘れないで記憶にとどめる><忘れないように語り続ける>ことの大切さと、それを記録として残すという記者の大事な仕事を、改めて意識した。そんな観点で2作品を挙げたい。
青木美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)は、福島第一原発事故後の被災地・被災者の実情や原発政策を追い続けている彼女の3冊目の単著だ。本書では、ゴーストタウン化して名ばかりの「復興拠点」となっている避難解除地区を丹念にルポするとともに、歴史を俯瞰し、研究者や官僚、政治家など多数の当事者を訪ね「原発が止められない理由」に迫って行く。
ハッとさせられたのは、原発事故を受けて政府が発令した「原子力緊急事態宣言」が、12年を経た今も解除されていないという事実だ。ややもすると「復興」という政府広報に不都合な真実は覆い隠されてしまう。政官業学と共に「原子力ムラ」 の一角を占めるマスコミも加担しがちだ。そんな中で「忘却」に抗う彼女の存在は大きい。
『がんばりょんかぁ、マサコちゃん』(全3巻、原作・宮ア克、漫画・魚戸おさむ、小学館)は、フィクションの形を取ってはいるが、森友学園をめぐる財務省の公文書改ざんで自死した公務員の妻、赤木雅子さんの闘いを描いている。
マンガ本の良さは、主人公の人柄や心情に、すうっと入っていけることにある。雅子さんは「闘って」いるが、もともと闘いなどしたいわけではない。物語を読み進めるほどに財務省が改ざんさえ指示しなければ、今も幸せな夫婦の日常があっただろうと、ますます憤りが込みあげる。
国を訴えた裁判は国側が負けを認める「認諾」で終結した。当時の理財局長との控訴審も12月19日の判決で、改ざんに至る「真実を知りたい」という雅子さんの願いは叶わずだ。「無理が通れば道理が引っ込む」とさせないためにも、彼女の闘いを忘れてはならない。