都知事選挙が始まっても学歴詐称問題から逃げ回っている小池百合子候補。2期8年の小池都政は、大企業による再開発の推進や住民の暮しをないがしろにした政策、税金の無駄遣いなどやり放題だ。以下はその主なものだ。
◆イコモス(国際記念物遺跡会議)が「世界の公園の歴史において例のない文化的資源」と評価した明治神宮外苑の貴重な樹木を1000本近くも伐採する三井不動産らが手掛ける再開発計画を承認。
この地区に190メートルの高層ビルを始めとしたビジネス施設とスポーツ施設が建設される。ビル風、伐採による気候温暖化の助長、ビルからのCO2排出などを心配する住民の反対運動で、この「神宮利権」は一時ストップしている。しかし、小池候補が選挙で勝てば、自民党と直結した大企業ファーストを象徴するような、大規模再開発が動き出すだろう。
◆コロナ禍で大きな役割を担った都立・公社の病院を、強引に独立行政法人化した。それにより医師や看護師が退職し深刻な人手不足に陥っている。多摩メディカルキャンパス(旧都立府中病院)は休止病床が拡大し、救急車の受け入れを制限している。
また清瀬・八王子の都立小児病院と梅が丘病院を統合した小児総合病院センターでは、閉鎖の恐れがある病棟もあり、児童・思春期精神科の新規外来患者数が2010年から半減した。独立行政法人化は失敗したのは明らかで復活してほしいという声が高まっている。
◆都立高校入試における英語スピーキングテストの導入では、都と協定を結んだベネッセに委託されたが、公平性・透明性が担保されていないと裁判に持ち込まれている。この導入には43億円もの税金が投じられている。まさに「教育利権」そのものだ。子どもの学習と教員支援、環境整備に教育予算を使うべきだという要望が多い。
◆都庁などのプロジェクションマッピングに2年で48億円もつぎ込む。税金の無駄使いではないか。しかも、この事業は談合事件で指名停止中の電通のグループ会社に委託している。
◆これまで都知事が続けてきた関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺への追悼文を、小池都知事になってからは取りやめ、いまだに追悼文の拒否を続けている。
◆横田基地や工場が発生源とみられるPFAS(ピーファス、有機フッ素化合物)が原因の健康や環境への被害調査を、小池都知事はやらず国任せ。住民の健康調査への補助金もゼロだ。
小池候補の3選、許してはならない!
2024年06月24日
【レポート】米軍の性暴力と闘う国際女性ネットワークの歩み=宮城晴美(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会)
1945年3月末から沖縄諸島に上陸した米軍が居座り続けて、実に80年。その間、彼らは強奪した土地に広大な軍事基地を建設し、住民への強姦、強盗、殺人、ヘリ・戦闘機事故など、無数の事件、事故を繰り返してきた。
被害女性の人権は含められない実態 人権回復の要求
米軍を前に司法も警察も非力で、被害者はただただ泣き寝入りを強いられるだけだった。そんな占領者に対して、沖縄人は弾圧されながらも米軍基地の撤去を訴え、人権の回復を求めて立ちあがった。
しかしながら、そこには強姦被害の女性の人権は含められなかった。米軍事件のなかでもおびただしい数の犯罪であり、女性の尊厳を踏みにじる最悪の出来事であったにもかかわらずだ。
米軍上陸時の沖縄戦の混乱のなか、米軍は住民を救助する一方で女性を強姦した。時には男性も。場所、年齢、時間帯など関係なかった。収容所の野戦病院に入院中、農作業中、共同井戸で洗濯中、夫の目の前……、そして居住地にもどってからも、米兵は容赦なく民間地域に入り込んできた。
米軍基地が拡張されるなか、事件はその周辺で起こるようになった。朝鮮戦争下の50年には、行政による米兵の犯罪対策として歓楽街が設置されたが、事件が止むことはなかった。むしろベトナム戦争下では、バーやキャバレーで働く女性従業員が、強姦されたうえ殺害されるという事件が相次いだ。
米軍への刺激を避け犯罪件数は非公表
すさまじい頻度で起こり続けた米兵による強姦事件。それでも、沖縄の施政権が日本に返還されてなお、被害の実数が公的に記録されることはない。
当時の強姦罪が親告罪であったことや、加害者が特定できない、あるいはメディアを含め周りの目(被害者の落ち度論=jを意識して、訴えないといったケースもあろう。それ以上に「復帰後の外人事件の実数は、発生件数と検挙件数を同一数字として公表する警察庁の方針を採用。米軍関係を刺激しないよう未検挙の発生件数の公表は避ける」(「沖縄タイムス」1973年8月26日)との姿勢は犯罪的だ。もはや二の句が継げない。
警察の数字だけでは事件の深刻さは伝わらず、軍隊の構造的暴力としての性犯罪の実態調査に着手したのが「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」(高里鈴代・代表)だった。
1995年の米兵3人による少女への性暴力事件をきっかけに発足した団体で、その翌年2月、沖縄における米軍基地の駐留が、女性や子どもたちに及ぼしている様々な被害について、米本国の市民に直接訴えようと「ピース・キャラバン」を結成し、資料の一つとして「米兵による戦後沖縄の女性犯罪」を作成した。
「ピース・キャラバン」は、サンフランシスコをはじめワシントン、ニューヨークなどで国連職員や上下院議員スタッフ、研究者、学生などと交流し、意見交換を行った。
女性の国際的ネットワーク結成
この訪問をきっかけに1997年5月、米軍の駐留する沖縄・韓国・フィリピン・米国本土・日本本土の女性たちが沖縄に集い、国際女性ネットワークを結成。性暴力、アメラジアン、環境、地位協定問題をテーマに、それぞれの国の持ち回りで2年越しの国際会議を開催した。
その後、2006年の米軍再編で、沖縄の基地がグアムに移転することが公表されたのを機に、グアム、プエルトリコ、ハワイの女性たちが加わり、「軍事主義を許さない国際女性ネットワーク」の拡大結成となった。
沖縄では、米兵による性犯罪が今年も起きている。軍隊による暴力を断ち切るには、これまでの男性主導の軍事主義を、フェミニストの視点で問わねばならない。米軍駐留地域で生きてきた経験を通して、女性ネットワークは安全保障の脱軍事化と脱植民地化をめざして活動を継続している。
2024年06月20日
【余生私語録】第13回─今村翔吾さんの『海を破る者』および書店活性化への奮闘=守屋龍一
蒙古襲来750年の今
今年は蒙古襲来─<文永の役>から750年。そのタイミングをとらえ、直木賞作家・今村翔吾さんが、『海を破る者』(文藝春秋)を刊行した。日本史上最大の危機である「元寇」に立ち向かう没落御家人の葛藤と奮戦をたどる壮大な歴史小説だ。
かつては瀬戸内海の防備を固め、鎌倉幕府の源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われた伊予(愛媛)の名門・河野家。しかし今や一族の内紛で見る影もない没落ぶり。
その当主・河野六郎通有が、ある日、人買いに連れられて伊予にたどり着いた「るーし・きいえふ」出身の女性・令那と朝鮮半島・高麗出身の青年・繁を引き取った。はじめギクシャクしていた3人の関係もスムーズになり始めたところへ、またまた元軍が「日ノ本」に侵攻してくるという話が飛び込んできた。
同族の各家にわだかまる疑心を取り除き、河野家をまとめあげた六郎通有は、元の大軍を迎え撃つべく九州・玄界灘に向かう。六郎が率いる戦艦・道達丸を中心にして、元の大軍とのし烈な闘いは、<第六章 河野の後築地>から、本書の表題になった<第七章 海を破る者>のクライマックスにかけて一気に展開される。敵を打ち破る戦法の筆致は拍力満点、ページを繰る指も忙しい。
なぜ人と人は争わねばならないのか
だが本書は、これで終わるわけではない。闘い済んで日が暮れた後、六郎は驚くような行動を取る。海に溺れる敗残の敵兵に対し、一人でも救うために船を提供するのだ。そこには河野一族に連なる一遍上人の踊念仏が、六郎の胸中を占めていたのは間違いない。
この時代に爆発的に踊念仏が広がったのも、元寇による世情不安とも無関係ではないと思う。当時の疲弊した民の救いと希望であった一遍上人の踊念仏を、本書に描き込むのは、著者の訴えたい主題、「なぜ人と人は争わねばならないのか」への一つの答えを求めたからに違いない。
私はロシアに蹂躙されているウクライナの民への目線とも重なるのを感じ取りながら、本書を読み終えた。
書店復興に注ぐ熱意
さて今村翔吾さん、著書での活躍だけではない。町の本屋さんが消えていく現状を憂い、書店の活性化にむけて、獅子奮迅の努力を重ねている。4月27日、東京・神保町の書店街にシェア型書店「ほんまる」を開店した。これで3軒目。前に大阪府箕面市の「きのしたブックセンター」、佐賀県佐賀市の「佐賀之書店」を開いている。
このシェア型書店「ほんまる」は、個人や企業、自治体が本棚を借りて「棚主」となり、その棚に思い思いの本を並べて陳列し、販売する新しいスタイルの書店である。今後、棚主同士の交流会を開くほか、棚主から独立し書店開業を目指す人の支援にも力を入れるという。
ネットによる本の販売や電子書籍が浸透する現在、紙媒体の市場規模が急速に縮小し、とくに雑誌と紙コミックの売上げが低下、書店の経営に大きな影響を及ぼしている。全国で書店の倒産・廃業が進行している。
日本出版インフラセンターによると、2023年度の全国の書店数は1万918店、10年前と比べて約3分の2に減少。年間で500〜600店が閉店に陥っている。出版文化産業振興財団が2024年3月に行った調査では、書店のない市町村は482、全国の4分の1が「無書店自治体」となっている。
次世代のために書店を残す
こうした書店の危機を深刻にとらえ、今村さんは、自ら書店を開業するだけでなく、テレビ番組にも積極的に出演し、「書店の大切さ」を訴えている。さらに経産省が3月に設置した「書店振興プロジェクト」にもメンバーとして参加し、意見を述べ提言をしている。
6月12日に開催の2回目の会議では、「若者こそ、佐賀駅に書店が戻ってきた時に1番喜んでくれた。町の書店は若者のためにあるべきだと思う」と指摘。また、神田神保町に自らオープンしたシェア型書店「ほんまる」では、出展者の30%以上が企業の製品紹介に利用、行政からの引き合いもあると紹介。
「次世代のために書店を残すという、青臭いかもしれないが、この1点で出版界は繋がって変えていけなければ、滅んでも仕方ないのではないか。私は必ず今年が書店復活の元年になると信じている」と述べている。
この6月14日には東京駅構内のグランスタ八重洲(東京・千代田区)の地下1階に、グランスタ八重洲店がオープンした。売場面積72坪。営業時間は午前10時から午後9時まで。八重洲ブックセンターは、今年初め、阿佐ヶ谷駅前の書店「書楽」が閉店した時にも、すぐ同店を救済するため八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店を開店した。町の書店が消えてゆく流れをストップさせようと、書店業界としての努力を示そうとしている。
長年、出版社に勤務し本を作ってきた小生にとって、今村さんの奮闘には頭が下がる。何よりも「町の本屋さん」で本を選び買うのを楽しみにし、喜びとしていた者の一人として心から応援し、機会あるたびに私も「書店の大切さ」を訴えていきたい。(2024/6/20)
今年は蒙古襲来─<文永の役>から750年。そのタイミングをとらえ、直木賞作家・今村翔吾さんが、『海を破る者』(文藝春秋)を刊行した。日本史上最大の危機である「元寇」に立ち向かう没落御家人の葛藤と奮戦をたどる壮大な歴史小説だ。
かつては瀬戸内海の防備を固め、鎌倉幕府の源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われた伊予(愛媛)の名門・河野家。しかし今や一族の内紛で見る影もない没落ぶり。
その当主・河野六郎通有が、ある日、人買いに連れられて伊予にたどり着いた「るーし・きいえふ」出身の女性・令那と朝鮮半島・高麗出身の青年・繁を引き取った。はじめギクシャクしていた3人の関係もスムーズになり始めたところへ、またまた元軍が「日ノ本」に侵攻してくるという話が飛び込んできた。
同族の各家にわだかまる疑心を取り除き、河野家をまとめあげた六郎通有は、元の大軍を迎え撃つべく九州・玄界灘に向かう。六郎が率いる戦艦・道達丸を中心にして、元の大軍とのし烈な闘いは、<第六章 河野の後築地>から、本書の表題になった<第七章 海を破る者>のクライマックスにかけて一気に展開される。敵を打ち破る戦法の筆致は拍力満点、ページを繰る指も忙しい。
なぜ人と人は争わねばならないのか
だが本書は、これで終わるわけではない。闘い済んで日が暮れた後、六郎は驚くような行動を取る。海に溺れる敗残の敵兵に対し、一人でも救うために船を提供するのだ。そこには河野一族に連なる一遍上人の踊念仏が、六郎の胸中を占めていたのは間違いない。
この時代に爆発的に踊念仏が広がったのも、元寇による世情不安とも無関係ではないと思う。当時の疲弊した民の救いと希望であった一遍上人の踊念仏を、本書に描き込むのは、著者の訴えたい主題、「なぜ人と人は争わねばならないのか」への一つの答えを求めたからに違いない。
私はロシアに蹂躙されているウクライナの民への目線とも重なるのを感じ取りながら、本書を読み終えた。
書店復興に注ぐ熱意
さて今村翔吾さん、著書での活躍だけではない。町の本屋さんが消えていく現状を憂い、書店の活性化にむけて、獅子奮迅の努力を重ねている。4月27日、東京・神保町の書店街にシェア型書店「ほんまる」を開店した。これで3軒目。前に大阪府箕面市の「きのしたブックセンター」、佐賀県佐賀市の「佐賀之書店」を開いている。
このシェア型書店「ほんまる」は、個人や企業、自治体が本棚を借りて「棚主」となり、その棚に思い思いの本を並べて陳列し、販売する新しいスタイルの書店である。今後、棚主同士の交流会を開くほか、棚主から独立し書店開業を目指す人の支援にも力を入れるという。
ネットによる本の販売や電子書籍が浸透する現在、紙媒体の市場規模が急速に縮小し、とくに雑誌と紙コミックの売上げが低下、書店の経営に大きな影響を及ぼしている。全国で書店の倒産・廃業が進行している。
日本出版インフラセンターによると、2023年度の全国の書店数は1万918店、10年前と比べて約3分の2に減少。年間で500〜600店が閉店に陥っている。出版文化産業振興財団が2024年3月に行った調査では、書店のない市町村は482、全国の4分の1が「無書店自治体」となっている。
次世代のために書店を残す
こうした書店の危機を深刻にとらえ、今村さんは、自ら書店を開業するだけでなく、テレビ番組にも積極的に出演し、「書店の大切さ」を訴えている。さらに経産省が3月に設置した「書店振興プロジェクト」にもメンバーとして参加し、意見を述べ提言をしている。
6月12日に開催の2回目の会議では、「若者こそ、佐賀駅に書店が戻ってきた時に1番喜んでくれた。町の書店は若者のためにあるべきだと思う」と指摘。また、神田神保町に自らオープンしたシェア型書店「ほんまる」では、出展者の30%以上が企業の製品紹介に利用、行政からの引き合いもあると紹介。
「次世代のために書店を残すという、青臭いかもしれないが、この1点で出版界は繋がって変えていけなければ、滅んでも仕方ないのではないか。私は必ず今年が書店復活の元年になると信じている」と述べている。
この6月14日には東京駅構内のグランスタ八重洲(東京・千代田区)の地下1階に、グランスタ八重洲店がオープンした。売場面積72坪。営業時間は午前10時から午後9時まで。八重洲ブックセンターは、今年初め、阿佐ヶ谷駅前の書店「書楽」が閉店した時にも、すぐ同店を救済するため八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店を開店した。町の書店が消えてゆく流れをストップさせようと、書店業界としての努力を示そうとしている。
長年、出版社に勤務し本を作ってきた小生にとって、今村さんの奮闘には頭が下がる。何よりも「町の本屋さん」で本を選び買うのを楽しみにし、喜びとしていた者の一人として心から応援し、機会あるたびに私も「書店の大切さ」を訴えていきたい。(2024/6/20)
2024年06月17日
【出版界の動き】「本の魅力」を伝え書店振興へ地道な模索が進む
◆KADOKAWAは、6/8に起きたシステム障害について、その経緯と調査の進捗、今後の対応などの報告を15日発表した。「ニコニコを中心としたサービス群を標的として、当社グループデータセンター内のサーバーがランサムウェアを含む大規模なサイバー攻撃を受けたものと確認された」としている。
サーバーのシャットダウンという緊急措置を講じたため、ウェブサイトだけでなく、基幹システムの一部にも機能停止が発生し、書籍の流通に影響が出ている。完全な回復は6月末となる。
◆経産省が進める「書店振興プロジェクト」の方針に、書店の減少を食い止めるため、書店と図書館との連携による文字・活字文化の振興、および書店活性化が盛り込まれる見通し。12日に開催の第2回「車座会議」で外務相や文科相、また書店や作家からも発言があり、いかにして本の魅力を伝え、書店の活性化を図るか、活発な議論が展開された。
齋藤・経産相も注目すべき事例として、東京都狛江市で昨年閉店した啓文堂書店が、市民有志グループが起こした「エキナカ本展」などに呼応するため、6月27日に再度出店することになった事例を紹介した。
◆政府のクールジャパン戦略が5年ぶりに改訂され、これまで5兆円の予算を2033年までに20兆円に引き上げるという。その骨子のうち知的財産については、海外向けの作品流通と海賊版対策を2本建てにして展開、それにともなうクリエイター支援の実施が揚げられている。
特にマンガ(出版)については、スマートフォンの普及により日本マンガの人気は高まっている。海外での電子コミック売上げは約 3,200 億円(2022 年)と大きく増加、今後も拡大傾向が見込まれる。ただし現地版の発刊にタイムラグが生じるため、海賊版が横行する原因になっている。それへの対策が急がれる。
◆文化通信が6月17日から「こどものための100冊」キャンペーンを始める。子育て中の著名人や書店員、図書館員が選んだ<子どもの本100冊>を収載した冊子を、書店や図書館、保育園、子ども商品の通販などを通して15万部配布する。キャンペーンは今回で4回目。父兄や書店から好評で、子どもに本を与えるための参考になり、かつ書店の売上につながる好循環が歓迎されている。
◆「文学フリマ」って、知っていますか。文学好きが自分たちで作った作品を展示即売するイベントである。毎年、主要都市で開催されている。その来場者の多さと熱気はビックリするほどだという。文化通信の星野渉さんが、次のような一文を寄せている。
<老若男女が集まり、手作り感満載の冊子を販売。人気の書き手には行列もできる。今年12月に開く「東京39」は、出展応募の増加に対応して、これまでの東京流通センターから東京ビッグサイトに会場を移す。
「文学」でこれだけ人が集まるのかと思わされる。出版社社長は、本を読む人は一定数いるのに届いていないのではないか、と感想を漏らした。いろいろなチャンネルで本の情報を届ける大切さを感じる>
◆有名人を登場させ、勧誘や取引を促す詐欺的なSNSやWEBが社会問題になっている。出版においても悪質な出版 Web サイトが見つかっている。出版のあっせんや販売の方法などを紹介する詐欺から身を守ることが肝心となっている。
著者と出版者の保護に取り組んでいるAmazonは、詐欺的手法について警鐘を鳴らし、アドバイスをしている。まずKindle ダイレクト・パブリッシングと、詐欺的なりすましサイトの違いを特定し、詐欺から身を守るために、KDP Community にアクセスしてくださいとのこと。
◆講談社 本田靖春ノンフィクション賞 最終候補作品
大森淳郎『ラジオと戦争─放送人たちの「報国」』 NHK出版
春日太一『鬼の筆─戦後最大の脚本家・橋本忍之栄光と挫折』文藝春秋
木寺一孝『正義の行方』 講談社
宋恵媛+望月優大+田川基成(写真)『密航のち洗濯 ときどき作家』 柏書房
乗京真知『中村哲さん 殺害事件実行犯の「遺言」』 朝日新聞出版
森合正範『怪物に出会った日─井上尚弥と闘うということ』 講談社
サーバーのシャットダウンという緊急措置を講じたため、ウェブサイトだけでなく、基幹システムの一部にも機能停止が発生し、書籍の流通に影響が出ている。完全な回復は6月末となる。
◆経産省が進める「書店振興プロジェクト」の方針に、書店の減少を食い止めるため、書店と図書館との連携による文字・活字文化の振興、および書店活性化が盛り込まれる見通し。12日に開催の第2回「車座会議」で外務相や文科相、また書店や作家からも発言があり、いかにして本の魅力を伝え、書店の活性化を図るか、活発な議論が展開された。
齋藤・経産相も注目すべき事例として、東京都狛江市で昨年閉店した啓文堂書店が、市民有志グループが起こした「エキナカ本展」などに呼応するため、6月27日に再度出店することになった事例を紹介した。
◆政府のクールジャパン戦略が5年ぶりに改訂され、これまで5兆円の予算を2033年までに20兆円に引き上げるという。その骨子のうち知的財産については、海外向けの作品流通と海賊版対策を2本建てにして展開、それにともなうクリエイター支援の実施が揚げられている。
特にマンガ(出版)については、スマートフォンの普及により日本マンガの人気は高まっている。海外での電子コミック売上げは約 3,200 億円(2022 年)と大きく増加、今後も拡大傾向が見込まれる。ただし現地版の発刊にタイムラグが生じるため、海賊版が横行する原因になっている。それへの対策が急がれる。
◆文化通信が6月17日から「こどものための100冊」キャンペーンを始める。子育て中の著名人や書店員、図書館員が選んだ<子どもの本100冊>を収載した冊子を、書店や図書館、保育園、子ども商品の通販などを通して15万部配布する。キャンペーンは今回で4回目。父兄や書店から好評で、子どもに本を与えるための参考になり、かつ書店の売上につながる好循環が歓迎されている。
◆「文学フリマ」って、知っていますか。文学好きが自分たちで作った作品を展示即売するイベントである。毎年、主要都市で開催されている。その来場者の多さと熱気はビックリするほどだという。文化通信の星野渉さんが、次のような一文を寄せている。
<老若男女が集まり、手作り感満載の冊子を販売。人気の書き手には行列もできる。今年12月に開く「東京39」は、出展応募の増加に対応して、これまでの東京流通センターから東京ビッグサイトに会場を移す。
「文学」でこれだけ人が集まるのかと思わされる。出版社社長は、本を読む人は一定数いるのに届いていないのではないか、と感想を漏らした。いろいろなチャンネルで本の情報を届ける大切さを感じる>
◆有名人を登場させ、勧誘や取引を促す詐欺的なSNSやWEBが社会問題になっている。出版においても悪質な出版 Web サイトが見つかっている。出版のあっせんや販売の方法などを紹介する詐欺から身を守ることが肝心となっている。
著者と出版者の保護に取り組んでいるAmazonは、詐欺的手法について警鐘を鳴らし、アドバイスをしている。まずKindle ダイレクト・パブリッシングと、詐欺的なりすましサイトの違いを特定し、詐欺から身を守るために、KDP Community にアクセスしてくださいとのこと。
◆講談社 本田靖春ノンフィクション賞 最終候補作品
大森淳郎『ラジオと戦争─放送人たちの「報国」』 NHK出版
春日太一『鬼の筆─戦後最大の脚本家・橋本忍之栄光と挫折』文藝春秋
木寺一孝『正義の行方』 講談社
宋恵媛+望月優大+田川基成(写真)『密航のち洗濯 ときどき作家』 柏書房
乗京真知『中村哲さん 殺害事件実行犯の「遺言」』 朝日新聞出版
森合正範『怪物に出会った日─井上尚弥と闘うということ』 講談社
2024年06月13日
【おすすめ本】乗京真知『中村哲さん殺害事件 実行犯の「遺書」』─深い闇を暴く調査報道の成果=高世仁(ジャーナリスト)
中村哲医師は5年前、武装集団に襲われ亡くなった。その真相はいまだ深い闇だが、朝日新聞記者の著者は、独自取材で国際謀略ともいうべき事件の構造に迫る。
実行犯の中心はパキスタンの反政府武装勢力のメンバー。当時はアフガニスタン側に潜伏し、犯罪を請け負って金を稼いでいたが、その彼に中村さん襲撃を依頼したのは、パキスタン治安機関の密命を帯びた人物。背景には水を巡る隣国同士の確執があった。
中村医師はアフガニスタンを襲った大干ばつによる飢餓を救おうと、大規模灌漑に乗り出し、65万人の暮しを支える沃野を蘇らせた。灌漑の水は、パキスタンを源としアフガニスタンを流れて、再びパキスタンに下るクナール川から引いている。上流で水を分岐させる事業は、下流のパキスタンには水量減となる。
パキスタンは近年、地球温暖化による洪水と干ばつの甚大な被害を受けて、水の安定確保は最大の懸案となっていた。クナール川上流の“脅威” の除去を狙って中村医師襲撃は決行された。
事件の真相は、複雑な両国関係や政治的思惑で、覆い隠されようとしていた。著者の調査報道は、事件の深い闇を暴く世界的スクープだが、取材の困難さは想像に余りある。
「ちまたに銃があふれるアフガニスタンで犯人を捜すことは、自分だけでなく助手やその家族を危険にさらすことでもあった」(本書)。
近年、マスコミ企業は危険地での取材を避ける傾向にあるが、本書に記された貴重な取材方法は、ぜひ学んでほしい。(朝日新聞出版1600円)
実行犯の中心はパキスタンの反政府武装勢力のメンバー。当時はアフガニスタン側に潜伏し、犯罪を請け負って金を稼いでいたが、その彼に中村さん襲撃を依頼したのは、パキスタン治安機関の密命を帯びた人物。背景には水を巡る隣国同士の確執があった。
中村医師はアフガニスタンを襲った大干ばつによる飢餓を救おうと、大規模灌漑に乗り出し、65万人の暮しを支える沃野を蘇らせた。灌漑の水は、パキスタンを源としアフガニスタンを流れて、再びパキスタンに下るクナール川から引いている。上流で水を分岐させる事業は、下流のパキスタンには水量減となる。
パキスタンは近年、地球温暖化による洪水と干ばつの甚大な被害を受けて、水の安定確保は最大の懸案となっていた。クナール川上流の“脅威” の除去を狙って中村医師襲撃は決行された。
事件の真相は、複雑な両国関係や政治的思惑で、覆い隠されようとしていた。著者の調査報道は、事件の深い闇を暴く世界的スクープだが、取材の困難さは想像に余りある。
「ちまたに銃があふれるアフガニスタンで犯人を捜すことは、自分だけでなく助手やその家族を危険にさらすことでもあった」(本書)。
近年、マスコミ企業は危険地での取材を避ける傾向にあるが、本書に記された貴重な取材方法は、ぜひ学んでほしい。(朝日新聞出版1600円)
2024年06月10日
【焦点】知る権利とプライバシー侵害 経済安保新法 秘密保護法と一体運用 身辺調査拒めば不利益も=橋詰雅博
特定秘密保護法(2014年施行)の経済安保版といわれる「重要経済安保情報保護法案」は、国会の情報監視審査会での報告・公表など多少の修正が加えられただけで成立。この経済安保新法は、国民の知る権利を制限し、秘密情報にアクセスできる権限がある人は、身辺調査される。秘密保護法との一体運用で、監視統制はさらに強まる。
恣意的に件数増大
特定秘密保護法は、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野のうち安全保障に、「著しい支障」がある政府保有情報は特定秘密に指定。その数は昨年末までで751件。
今度の経済安保新法はこうなる。電気、ガス、鉄道、航空、放送、通信といったインフラ分野、宇宙開発、サイバー攻撃、AIなど先端技術分野、半導体、鉱物などの重要物資分野などの中で、安保に「支障」がある政府保有情報は、「重要経済安保情報」として秘密指定される。
件数は「初年度は数十件から100件程度」と高市早苗経済安保相は国会で答弁したが、秘密指定の定義があいまいで、恣意的なものが入り件数は膨れ上がる可能性がある。
同法案に詳しい秘密保護法対策弁護団事務局長の海渡双葉弁護士(写真)は、「秘密保護法では安全保障に『著しい支障』がある情報を特定秘密にしたが、経済安保新法は『支障』だけ残し、『著しい』を外した。これは秘密指定の範囲を相当に広げる狙いがある」と指摘した。秘密指定の増大は、国民の知る権利が狭められる。
特定秘密情報を取り扱う人物は「適性評価」調査の対象だ。その適性評価対象者約13万人のうち9割超は防衛省、自衛隊、防衛施設庁の公務員が占めた。
適性評価(新法ではセキュリティー・クリアランスと名付けた)調査は、新法の秘密情報に接する人物も対象。経済分野ゆえに民間人が多くなる。国が秘密情報の取り扱いを認定した企業、大学、研究機関などで働く人たちも含まれる。
数千の民間人調査
内閣府が主導する適性評価調査の手順はこうだ。企業など事業者は、対象者の同意を得た候補者名簿を、所管する省庁に提出。内閣府は30ページの質問書を対象者に配布する。
その項目は@家族やテロとの関係、A犯罪や懲戒の経歴、B情報の取り扱いに関する違反行為、C薬物乱用、D精神疾患、E飲酒の節度、F経済状況―。配偶者や子ども、父母や兄弟姉妹、配偶者の父母や子ども含む家族関係、同居人、国籍、借金の理由と総額、精神疾患のカウンセリング歴・症状などの7項目は、詳細に書くことが求められる。
加えて面接もあり質問書をもとに、内閣府担当者は根掘り葉掘り尋ねる。対象者には内緒で上司も聞かれる。身辺調査された個人情報は役所に握られる。目的以外に利用しないというが、外部からは分からない。情報が洩れればプライバシー権が侵害される。
身辺調査の結果をもとに適性の有無を評価した担当省庁は、事業者と対象者に「合否」を伝える。
初年度の身辺調査対象者は「数千人」と高市経済安保相は言っているが、大きく増えるかもしれない。重要情報を漏洩した違反者は、5年以下の拘禁刑などで処罰される。
人生設計狂うかも
これまで身辺調査をめぐり問題は浮上していないが、新法では大勢の民間人が身辺調査の対象になる。問題は起きないのか。
「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」(海渡弁護士)
新法の恣意的な利用で「第二、第三の大川原化工機事件(警視庁公安部がでっち上げたと東京地裁は被告の社長らを無罪とし、東京都に賠償を命じたが、原告、被告とも控訴)は起こり得る」と海渡弁護士は警鐘を鳴らす。
これから何をしたらいいのか。
「反対運動を拡大させることが重要です。(法成立後、閣議決定する)運用基準についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって、使いづらい法律に変えることはできます」(海渡弁護士)
諦めてはダメだというのだ。
恣意的に件数増大
特定秘密保護法は、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野のうち安全保障に、「著しい支障」がある政府保有情報は特定秘密に指定。その数は昨年末までで751件。
今度の経済安保新法はこうなる。電気、ガス、鉄道、航空、放送、通信といったインフラ分野、宇宙開発、サイバー攻撃、AIなど先端技術分野、半導体、鉱物などの重要物資分野などの中で、安保に「支障」がある政府保有情報は、「重要経済安保情報」として秘密指定される。
件数は「初年度は数十件から100件程度」と高市早苗経済安保相は国会で答弁したが、秘密指定の定義があいまいで、恣意的なものが入り件数は膨れ上がる可能性がある。
同法案に詳しい秘密保護法対策弁護団事務局長の海渡双葉弁護士(写真)は、「秘密保護法では安全保障に『著しい支障』がある情報を特定秘密にしたが、経済安保新法は『支障』だけ残し、『著しい』を外した。これは秘密指定の範囲を相当に広げる狙いがある」と指摘した。秘密指定の増大は、国民の知る権利が狭められる。
特定秘密情報を取り扱う人物は「適性評価」調査の対象だ。その適性評価対象者約13万人のうち9割超は防衛省、自衛隊、防衛施設庁の公務員が占めた。
適性評価(新法ではセキュリティー・クリアランスと名付けた)調査は、新法の秘密情報に接する人物も対象。経済分野ゆえに民間人が多くなる。国が秘密情報の取り扱いを認定した企業、大学、研究機関などで働く人たちも含まれる。
数千の民間人調査
内閣府が主導する適性評価調査の手順はこうだ。企業など事業者は、対象者の同意を得た候補者名簿を、所管する省庁に提出。内閣府は30ページの質問書を対象者に配布する。
その項目は@家族やテロとの関係、A犯罪や懲戒の経歴、B情報の取り扱いに関する違反行為、C薬物乱用、D精神疾患、E飲酒の節度、F経済状況―。配偶者や子ども、父母や兄弟姉妹、配偶者の父母や子ども含む家族関係、同居人、国籍、借金の理由と総額、精神疾患のカウンセリング歴・症状などの7項目は、詳細に書くことが求められる。
加えて面接もあり質問書をもとに、内閣府担当者は根掘り葉掘り尋ねる。対象者には内緒で上司も聞かれる。身辺調査された個人情報は役所に握られる。目的以外に利用しないというが、外部からは分からない。情報が洩れればプライバシー権が侵害される。
身辺調査の結果をもとに適性の有無を評価した担当省庁は、事業者と対象者に「合否」を伝える。
初年度の身辺調査対象者は「数千人」と高市経済安保相は言っているが、大きく増えるかもしれない。重要情報を漏洩した違反者は、5年以下の拘禁刑などで処罰される。
人生設計狂うかも
これまで身辺調査をめぐり問題は浮上していないが、新法では大勢の民間人が身辺調査の対象になる。問題は起きないのか。
「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」(海渡弁護士)
新法の恣意的な利用で「第二、第三の大川原化工機事件(警視庁公安部がでっち上げたと東京地裁は被告の社長らを無罪とし、東京都に賠償を命じたが、原告、被告とも控訴)は起こり得る」と海渡弁護士は警鐘を鳴らす。
これから何をしたらいいのか。
「反対運動を拡大させることが重要です。(法成立後、閣議決定する)運用基準についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって、使いづらい法律に変えることはできます」(海渡弁護士)
諦めてはダメだというのだ。
2024年06月06日
【オピニオン】「セクシー田中さん」問題を考える─著作者人格権への視点=萩山拓(ライター)
日本テレビが昨年秋に放送した連続ドラマ「セクシー田中さん」の原作者である漫画家・芦原妃名子さんが、今年1月末に急死した。この「セクシー田中さん」問題を巡り、原作漫画を出版している小学館が、6月3日、86頁に及ぶ調査報告書を公表した。
★小学館:報告書の概要
その主な内容は、日テレからドラマ化の相談を受けた昨年6月当初から、芦原さんは小学館の担当編集者を通して、「必ず漫画に忠実に」することをドラマ化の条件として伝えていた。その後、原作にはないオリジナルとなる最後の第9、10話の脚本を巡って、日テレ側と食い違いがあった。結局2話は、芦原さん自らが脚本を執筆。
ところが放送終了後に、脚本家が、その経緯の「困惑」をSNSに投稿し、それに芦原さんがブログで反論。
こうした経緯の背景には、日テレが、芦原さんの意向を脚本家に伝え、原作者と脚本家との間を調整するという役割を果たしていない可能性があり、日テレ側が「原作者の意向を代弁した小学館の依頼を素直に受け入れなかったことが、第一の問題であるように思われる」と記した。
一方で、報告書は小学館側の非にも言及。企画打診から半年間でのドラマ化について、「芦原氏のように原作の世界観の共有を強く求める場合には、結果として期間十分とは言えなかったと思われる」と指摘し、かつメールと口頭で映像化は合意されたものの、その条件にあいまいな要素があったとした。
今後の指針として、版元作品の映像化の許諾を検討するに当たり、作家の意思や希望を確認し、その意向を第一に尊重した文書を作成し、映像制作者側と交渉するなどとした。さらに契約書締結の早期化や交渉窓口の一本化、危機管理体制の充実、専門窓口やサポート体制などの周知を挙げた。
★日本テレビ:報告書の概要
すでに日本テレビは5月31日に「セクシー田中さん」問題について、調査報告書を公表している。報告書によると、同局側は昨年6月までに小学館を通じ、ドラマ化に向けた芦原さんの意向を確認し、その意図を最終的にすべて取り入れたとしている。
しかし、芦原さんの意向や要望が、同局側には提案程度と理解され、脚本家にも伝わっていなかった。しかも同局側は芦原さんと直接面会せず、その後も意思疎通が不十分なまま、改変の許容範囲や撮影のやり直しなどを巡り、芦原さんが不信感を募らせ、脚本家にも否定的な印象を持つようになったという。
今後のドラマ制作について、報告書は制作側と原作者との直接の面談の必要性などを提言。連載中の作品のドラマ化では、最終回までの構成案を完成させ、オリジナル部分を明確にすることが望ましいなどとした。トラブル回避に向けては「原作者及び脚本家との間で可能な限り早期に契約を締結する」としている。
報告書に目を通した有識者からは、「日テレは当事者としての猛省がない」と批判されている。まず報告書が「本件原作者の死亡原因の究明については目的としていない」とし、「芦原さんの死に対する哀悼、およびこうした事態に至った経緯への反省が感じられない」などの声が挙がっている。
★欠ける著作者人格権の順守
さて両社の調査結果から見えてくるのは、原作の改変をめぐって、当初から原作者とドラマ制作側との間で、認識の違いが明確になったことである。
その背景には、ドラマの制作現場では、人手や制作費が少ない現状がある上に、オリジナル脚本によるドラマ化よりも、原作の評判にオンブして脚本・ドラマ化すれば視聴率が稼げるという計算である。こうした原作モノに頼りがちな映像メディアの事情に、さらに脚本家の意欲や野心なども絡んでくるから複雑になる。
また出版社側もテレビ・ドラマ化により販売部数が飛躍できるという、売り上げ効果を望む背景がある。どっちもどっちで、それぞれの思惑を秘めながら自分に都合のよい解釈が横行する。
原作者の意向や要望、はては著作者人格権まで踏みにじっていることすら気づかなくなる。日テレ報告書に対して「芦原さんの死に対する反省を第一に記すべきだった」と、識者から言われるのも無理はない。小学館の報告書には「芦原氏は独立した事業者であるから、小学館の庇護は必要としないかもしれない」という文言が記されている。
小学館も日テレも、芦原さん本人任せにして、著作者人格権が脅かされているにも関わらず、事態を見守る状態を続けてしまったのではないか。「小学館の社員個人はできるだけのことをしたと思うが、芦原さんが問題を一人で背負い込んでいなかったか、組織として守るために何かできなかったのか。そこに小学館の責任がある」と、影山貴彦(同志社女子大教授)さんは指摘している(「毎日新聞」6/3付)。
著作者人格権:著作者の財産的利益ではなく人格的利益(精神的な利益)を守る趣旨で設けられている。勝手に著作物を公表や改変されないこと、著作物が著作者の名誉を害するような方法で使われないこと、著作者名の表示・非表示の権限を持つこと、などが著作者人格権にあたる。
★小学館:報告書の概要
その主な内容は、日テレからドラマ化の相談を受けた昨年6月当初から、芦原さんは小学館の担当編集者を通して、「必ず漫画に忠実に」することをドラマ化の条件として伝えていた。その後、原作にはないオリジナルとなる最後の第9、10話の脚本を巡って、日テレ側と食い違いがあった。結局2話は、芦原さん自らが脚本を執筆。
ところが放送終了後に、脚本家が、その経緯の「困惑」をSNSに投稿し、それに芦原さんがブログで反論。
こうした経緯の背景には、日テレが、芦原さんの意向を脚本家に伝え、原作者と脚本家との間を調整するという役割を果たしていない可能性があり、日テレ側が「原作者の意向を代弁した小学館の依頼を素直に受け入れなかったことが、第一の問題であるように思われる」と記した。
一方で、報告書は小学館側の非にも言及。企画打診から半年間でのドラマ化について、「芦原氏のように原作の世界観の共有を強く求める場合には、結果として期間十分とは言えなかったと思われる」と指摘し、かつメールと口頭で映像化は合意されたものの、その条件にあいまいな要素があったとした。
今後の指針として、版元作品の映像化の許諾を検討するに当たり、作家の意思や希望を確認し、その意向を第一に尊重した文書を作成し、映像制作者側と交渉するなどとした。さらに契約書締結の早期化や交渉窓口の一本化、危機管理体制の充実、専門窓口やサポート体制などの周知を挙げた。
★日本テレビ:報告書の概要
すでに日本テレビは5月31日に「セクシー田中さん」問題について、調査報告書を公表している。報告書によると、同局側は昨年6月までに小学館を通じ、ドラマ化に向けた芦原さんの意向を確認し、その意図を最終的にすべて取り入れたとしている。
しかし、芦原さんの意向や要望が、同局側には提案程度と理解され、脚本家にも伝わっていなかった。しかも同局側は芦原さんと直接面会せず、その後も意思疎通が不十分なまま、改変の許容範囲や撮影のやり直しなどを巡り、芦原さんが不信感を募らせ、脚本家にも否定的な印象を持つようになったという。
今後のドラマ制作について、報告書は制作側と原作者との直接の面談の必要性などを提言。連載中の作品のドラマ化では、最終回までの構成案を完成させ、オリジナル部分を明確にすることが望ましいなどとした。トラブル回避に向けては「原作者及び脚本家との間で可能な限り早期に契約を締結する」としている。
報告書に目を通した有識者からは、「日テレは当事者としての猛省がない」と批判されている。まず報告書が「本件原作者の死亡原因の究明については目的としていない」とし、「芦原さんの死に対する哀悼、およびこうした事態に至った経緯への反省が感じられない」などの声が挙がっている。
★欠ける著作者人格権の順守
さて両社の調査結果から見えてくるのは、原作の改変をめぐって、当初から原作者とドラマ制作側との間で、認識の違いが明確になったことである。
その背景には、ドラマの制作現場では、人手や制作費が少ない現状がある上に、オリジナル脚本によるドラマ化よりも、原作の評判にオンブして脚本・ドラマ化すれば視聴率が稼げるという計算である。こうした原作モノに頼りがちな映像メディアの事情に、さらに脚本家の意欲や野心なども絡んでくるから複雑になる。
また出版社側もテレビ・ドラマ化により販売部数が飛躍できるという、売り上げ効果を望む背景がある。どっちもどっちで、それぞれの思惑を秘めながら自分に都合のよい解釈が横行する。
原作者の意向や要望、はては著作者人格権まで踏みにじっていることすら気づかなくなる。日テレ報告書に対して「芦原さんの死に対する反省を第一に記すべきだった」と、識者から言われるのも無理はない。小学館の報告書には「芦原氏は独立した事業者であるから、小学館の庇護は必要としないかもしれない」という文言が記されている。
小学館も日テレも、芦原さん本人任せにして、著作者人格権が脅かされているにも関わらず、事態を見守る状態を続けてしまったのではないか。「小学館の社員個人はできるだけのことをしたと思うが、芦原さんが問題を一人で背負い込んでいなかったか、組織として守るために何かできなかったのか。そこに小学館の責任がある」と、影山貴彦(同志社女子大教授)さんは指摘している(「毎日新聞」6/3付)。
著作者人格権:著作者の財産的利益ではなく人格的利益(精神的な利益)を守る趣旨で設けられている。勝手に著作物を公表や改変されないこと、著作物が著作者の名誉を害するような方法で使われないこと、著作者名の表示・非表示の権限を持つこと、などが著作者人格権にあたる。
2024年06月03日
【おすすめ本】丸山美和『ルポ 悲しみと希望のウクライナ 難民の現場から』─戦禍に生きる人々・支援する仲間 ウクライナで育つ「いのちの連帯」=木原育子(「東京新聞」特別報道部記者)
ロシアによる長引くウクライナ侵攻。両国の情勢や戦況を伝えるメディアが多い中で、著者の視点は戦禍に生きる生活者としてのウクライナ人に据えられている。戦争で日常を奪われ、傷ついた幾人もの生身の「人間」が、いずれも今の姿を包み隠さず、切々と語っている。
本書の文章を追い続けるうち、まるでウクライナの荒野に、もしくは戦場に立たされているかのような、臨場感に襲われる。間近で見て触れて、感じてきた者でしか描けない渾身のルポルタージュと言ってよい。
著者はポーランド在住のジャーナリストで、国立ヤギェウォ大学の非常勤講師も務める。侵攻直後からポーランドに逃れてきた人々の支援に奔走し、ウクライナにも19回入り、人々の「声」に耳を傾けてきた。
放置された無人の焼け焦げたベビーカー、誰かに踏み付けられたように崩れた乳児院…。著者のスマホに撮りためた幾万枚もの写真は、ウクライナの痛みそのものだ。
ただし本書には支援者たちの懸命な活動も紹介されている。タイトルに「希望」の言葉を込めたのはそのためだ。支援者が肩を寄せ合い奔走する姿は、拱手傍観しているとも思える日本社会に、警鐘を鳴らしているように取れる。
著者自身、紆余曲折を経て46歳で単身ポーランドへ。「人は支え合わないと絶対に生きられない」と繰り返す。著者が体現してきた思いとともに、本書に描かれた多くの人の人生模様と「いのちの連帯」が、読む者の心を揺さぶる。今、手に取るべき至極の1冊だ。(新日本出版社2000円)
本書の文章を追い続けるうち、まるでウクライナの荒野に、もしくは戦場に立たされているかのような、臨場感に襲われる。間近で見て触れて、感じてきた者でしか描けない渾身のルポルタージュと言ってよい。
著者はポーランド在住のジャーナリストで、国立ヤギェウォ大学の非常勤講師も務める。侵攻直後からポーランドに逃れてきた人々の支援に奔走し、ウクライナにも19回入り、人々の「声」に耳を傾けてきた。
放置された無人の焼け焦げたベビーカー、誰かに踏み付けられたように崩れた乳児院…。著者のスマホに撮りためた幾万枚もの写真は、ウクライナの痛みそのものだ。
ただし本書には支援者たちの懸命な活動も紹介されている。タイトルに「希望」の言葉を込めたのはそのためだ。支援者が肩を寄せ合い奔走する姿は、拱手傍観しているとも思える日本社会に、警鐘を鳴らしているように取れる。
著者自身、紆余曲折を経て46歳で単身ポーランドへ。「人は支え合わないと絶対に生きられない」と繰り返す。著者が体現してきた思いとともに、本書に描かれた多くの人の人生模様と「いのちの連帯」が、読む者の心を揺さぶる。今、手に取るべき至極の1冊だ。(新日本出版社2000円)