原発新増設の費用を電気料金から上乗せ徴収
経済産業省は、2024年度中に策定する第7次エネルギー基本計画(エネ基)に、原発新増設の建設費などを電気料金に上乗せする、新たな原発支援制度を盛り込む方針だ。
これまで利用者が支払っていた電気料金は、基本料金+使用量に応じた電気量料金+再生可能エネルギー発電普及のための賦課金の3階建て。これに原発建設費、維持費、廃炉積立金などを含む原発料金が加わると4階建てに。まだ稼働していないのに市民は料金を支払わされる。背後に何があるのか。
エネルギー安定供給とCO2排出抑制を口実に、原発を最大限利用に方針を転換した岸田文雄政権は、2030年度の発電量に占める原発比率の目標を20〜22%とした。実現には27基ほどの稼働が必要だ。現在動いているのは12基で、全発電量の5.5%に過ぎない。目標クリアには再稼働だけでは足りず、原発新増設は不可欠である。
米国では13基閉鎖
しかし電力会社は、新増設に踏み切れない理由がある。高騰する建設資材や人件費、膨れ上がる事故対策費などで原発コストが爆上がり≠オているのだ。
米国投資コンサルタント会社ラザードの2023年調査では、原発コストの平均値は、陸上風力や太陽光の再生エネルギー発電の平均の3倍以上。そのうえ建設資材や人手不足で建設期間は大幅に延長が欧米で常態化している。
米国では2011年以降、13基が「収支は赤字」という理由で閉鎖された。フランスの新型原発は12年も遅れでこの9月4日に稼働。その建設費は当初予定の4倍になる132億ユーロ(2兆1千億円)に激増した。
日本の原発建設費用も1基あたり1兆から2兆円。このため「原発事業に未来はない」と川崎重工業や住友電気工業など、20社が原子力事業から撤退した。
国際環境NGO「FoE Japan」が8月19日に開いた緊急オンラインセミナーに出演した、原発問題に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授(写真)は「日本の電力会社にも原発は重荷になっている」「原発事業の継続に新増設は欠かせない、そのため支援の資金メカニズムが必要と電力業界は主張した」と指摘している。
費用回収スキームの巧みな導入
この電力業界の主張に同意する日本政府は、支援策として英国考案の「RAB(ラブ)」モデルに目を付けた。制度が複雑なRABモデルを簡潔に説明すれば、建設工事費用などを消費者から回収するスキーム。
これまで英国の公共工事(水道・ガスなど)やヒースロー空港の第5ターミナル建設に適用された。さらに原発をRABモデルの対象にするため原発融資法を、2022年に制定した。その第1号が、英国政府とフランス電力公社が折半出資して建設中のサイズウェルC原発である。
日本でも、あらかじめ建設費を始め諸費用を電気料金に加え、費用の回収に目途をつけてから新設予定の原発工事が着手されるだろう。
都合の良い具体策
英国環境団体などが強く反対するRABモデルの問題点について、大島教授は@建設増大・遅延コストのリスクを市民に転嫁、A費用の確実な回収は電力会社のコスト意識を低下させる、B電力自由化に逆行、C再エネ・省エネの拡大を妨げる―などを挙げた。
大島教授は日本版RABモデル≠「究極の原発延命策」と名付けた。モデル導入という文言だけを、第7次エネルギー基本計画(エネ基)に入れ、制度設計はその後に行う見込み。経産省と資源エネルギー庁は作り上げた既成事実に基づき、国や電力業界にとって都合のいい具体策を取り入れるのではないか。
電気料金の大幅値上げを強いる理不尽な新原発支援制度に対し、市民は断固反対しなければならない。