「カジノ開業ほぼ確実に大阪IR運営事業者、解除権破棄へ調整」(「毎日新聞」9月7日付)
不評が渦巻き、開催反対の声が高まる一方の大阪万博の陰に隠れるかのように、2030年秋の開業に向け、着々と準備が進められている大阪IR(統合型リゾート)の大きな動きが、こう報じられた。万博と同様、世論の強い反対を無視しての強行策だが、カジノ問題の実態の解明を試みた、本書は時宜を得た1冊である。
闇カジノで足をすくわれた友人の存在が、「カジノ取材の原点」とする著者の取材は、大阪市をはじめ市民の力で撤退した横浜市、不認定の長崎市、アジアの代表的IRのシンガポール、マカオなど内外各地に及ぶ。
豊富な取材を通じて、描き出そうとしたのが、一般にはあまり知られていない「IRの真の姿」。そして、「ギャンブル依存症の日本人がこれから大量に生み出され」ようとしている、「ギャンブル大国」日本の現実だ。
ただ、大阪市や横浜市などで、当事者の生の声を丁寧に聞き取り、紹介することに重きを置いているためか、カジノ問題への本質的な切込みには、やや弱さを感じる。その中でも、着目すべきは、未だ消えぬ「東京カジノ構想」の1章である。
小池都政の下、いくつかの「カジノ予定地」が構想されるなど、都民に直接目に触れない水面下で、“東京IR”の動きが、うごめいているのである。構想の現場を歩き、関係者や反対運動の市民らから丹念に取材した著者のレポートは、大阪が決して「対岸の火事」でないことを実感させる。(集英社新書1100円)