韓国の「ハンギョレ」新聞(1988年創刊、日本語で『ひとつの民族』の意味)と言えば、朝鮮日報、中央日報、東亜日報の3大紙に次ぐ有力全国紙だ。政府に最も批判的な論調で知られ、日本語版もYAHOO!ニュースで読める。その東京特派員の吉倫享(キル・ユンヒョン)さんが、昨年12月末の日本軍による慰安婦問題に関する日韓合意などについて1月28日、都内で講演(アジア記者クラブ主催)した。
日本に赴任して2年の吉さんは「こんなに早く慰安婦問題で日韓が合意するとは思わなかった」と前置きした上で、こう語った。
「訪韓した岸田外相の記者会見に出ていたが、外相が合意文書を読み上げただけでした。この問題で日韓が4年間ケンカしていたのに、これで終わりとガックリきた。安倍首相が頭を下げるシーンもなく、東大名誉教授の和田春樹先生が『韓国が安倍政権の奇襲攻撃にやられた』と言っていましたが、会見を振り返ってみると、まさにそんな感じでした。合意内容は日本の10億円拠出(元慰安婦への償い事業に使う)は別にして、『強制連行=法的責任=戦争犯罪』を認めず、今までの安倍政権の立場を改めて確認したのに過ぎません。それなのに朴槿恵(パク・クネ)大統領が合意を受け入れたのは、対中国を意識し日韓関係改善を望むアメリカが圧力をかけたからだと思います。しかし、日韓両国は信頼を深めていません。冷たい協力関係です」
10億円拠出の前提条件とされるソウルの日本大使館前につくられた少女像の移設について、吉さんは「韓国では4月に総選挙が行われます。日本の政治状況と同じように与党セヌリ党が強い。与党が選挙に勝てば、少女像の強制撤去はあり得ます」と推測する。
日本に法的責任はないと書いた世宗大の朴裕河(パク・ユハ)教授の著書「帝国の慰安婦」問題も、韓国内で関心が高い。
「韓国の検察が彼女を刑事起訴したことに国内では芳しいものではないという意見が強い。もともと彼女は文学者。夏目漱石などの著作を韓国語に翻訳して出版している。ひとつの見方だが、慰安婦関係資料からはそうした主張に至らない」
朴大統領は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の暴走にブレーキをかけるため後ろ盾の中国に急接近する対中戦略を積極的に進めたが、結局、失敗に終わった。
「北朝鮮は中国にさえ事前通告せず1月に4回目の核実験を実施した。それでも中国は北朝鮮への制裁に動かない。韓米日の3角同盟で北朝鮮の封じ込めを図ると、中国と対峙する。韓国にとって国益になるのか。それより北朝鮮と対話する太陽政策で北朝鮮に変化を促すのがいいという声は根強い。3角同盟に走るのか、太陽政策を復活させるか、朴大統領の決断にかかっている」
金第一書記に揺さぶられる朴大統領は政策の大幅修正を迫られている。