2020東京五輪汚職事件をスクープした読売新聞社会部による取材記録。汚職事件の発端から容疑者逮捕、さらに間をおかずに談合事件に至る取材に奮闘した記者たちの動きを追体験でき、あわせてこの事件の全貌を俯瞰できる良書である。
改めて強く感じたのは、東京五輪とはまさに「電通の、電通による、電通のための大会」であったことだ。汚職事件の中心人物として元電通専務だった高橋治之氏の名が再三登場し、談合事件の記述でもまた、中心となった電通の名前が繰り返し登場する。
私は10年以上前から電通の寡占問題について発言してきて、東京五輪は必ずや電通がその横暴の限りを尽くすだろうと予測してきた。だから個人的には、第4章『電通「一強支配の歴史」』を中心とする電通に対する記述が面白かった。電通の強欲ぶりに対する記者たちの驚きや怒りが素直に伝わってきたからだ。巷間囁かれるメディアの電通に対する忖度を微塵も感じさせない記述に、爽快感さえ覚えた。
あえて注文をつけるとすれば、それは政界ルートに対する記述がないことである。高橋氏は自身の権力を誇示するために、スポンサーたちとの会合に森喜朗元首相や自民党の政治家を頻繁に同席させていたことが分かっている。
はたして彼らへの利益供与は全くなかったのかについて、多くの国民は疑問に思っているのではないか。結局、その森氏をはじめ政治家は一人も逮捕されなかったが、取材班の取材ルート上に、森氏や政治家の関与は浮かんでこなかったのか。あったとしてもどんな障壁が逮捕を阻んだのか。その点についての記述もあれば、満点だったのではないかと感じた。(中央公論新社1600円)
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