2024年06月20日

【余生私語録】第13回─今村翔吾さんの『海を破る者』および書店活性化への奮闘=守屋龍一

蒙古襲来750年の今
「海を破る者」.jpg 今年は蒙古襲来─<文永の役>から750年。そのタイミングをとらえ、直木賞作家・今村翔吾さんが、『海を破る者』(文藝春秋)を刊行した。日本史上最大の危機である「元寇」に立ち向かう没落御家人の葛藤と奮戦をたどる壮大な歴史小説だ。
 かつては瀬戸内海の防備を固め、鎌倉幕府の源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われた伊予(愛媛)の名門・河野家。しかし今や一族の内紛で見る影もない没落ぶり。
 その当主・河野六郎通有が、ある日、人買いに連れられて伊予にたどり着いた「るーし・きいえふ」出身の女性・令那と朝鮮半島・高麗出身の青年・繁を引き取った。はじめギクシャクしていた3人の関係もスムーズになり始めたところへ、またまた元軍が「日ノ本」に侵攻してくるという話が飛び込んできた。
 同族の各家にわだかまる疑心を取り除き、河野家をまとめあげた六郎通有は、元の大軍を迎え撃つべく九州・玄界灘に向かう。六郎が率いる戦艦・道達丸を中心にして、元の大軍とのし烈な闘いは、<第六章 河野の後築地>から、本書の表題になった<第七章 海を破る者>のクライマックスにかけて一気に展開される。敵を打ち破る戦法の筆致は拍力満点、ページを繰る指も忙しい。

なぜ人と人は争わねばならないのか
 だが本書は、これで終わるわけではない。闘い済んで日が暮れた後、六郎は驚くような行動を取る。海に溺れる敗残の敵兵に対し、一人でも救うために船を提供するのだ。そこには河野一族に連なる一遍上人の踊念仏が、六郎の胸中を占めていたのは間違いない。
 この時代に爆発的に踊念仏が広がったのも、元寇による世情不安とも無関係ではないと思う。当時の疲弊した民の救いと希望であった一遍上人の踊念仏を、本書に描き込むのは、著者の訴えたい主題、「なぜ人と人は争わねばならないのか」への一つの答えを求めたからに違いない。
 私はロシアに蹂躙されているウクライナの民への目線とも重なるのを感じ取りながら、本書を読み終えた。

書店復興に注ぐ熱意
 さて今村翔吾さん、著書での活躍だけではない。町の本屋さんが消えていく現状を憂い、書店の活性化にむけて、獅子奮迅の努力を重ねている。4月27日、東京・神保町の書店街にシェア型書店「ほんまる」を開店した。これで3軒目。前に大阪府箕面市の「きのしたブックセンター」、佐賀県佐賀市の「佐賀之書店」を開いている。
 このシェア型書店「ほんまる」は、個人や企業、自治体が本棚を借りて「棚主」となり、その棚に思い思いの本を並べて陳列し、販売する新しいスタイルの書店である。今後、棚主同士の交流会を開くほか、棚主から独立し書店開業を目指す人の支援にも力を入れるという。
 ネットによる本の販売や電子書籍が浸透する現在、紙媒体の市場規模が急速に縮小し、とくに雑誌と紙コミックの売上げが低下、書店の経営に大きな影響を及ぼしている。全国で書店の倒産・廃業が進行している。
 日本出版インフラセンターによると、2023年度の全国の書店数は1万918店、10年前と比べて約3分の2に減少。年間で500〜600店が閉店に陥っている。出版文化産業振興財団が2024年3月に行った調査では、書店のない市町村は482、全国の4分の1が「無書店自治体」となっている。

次世代のために書店を残す
 こうした書店の危機を深刻にとらえ、今村さんは、自ら書店を開業するだけでなく、テレビ番組にも積極的に出演し、「書店の大切さ」を訴えている。さらに経産省が3月に設置した「書店振興プロジェクト」にもメンバーとして参加し、意見を述べ提言をしている。
 6月12日に開催の2回目の会議では、「若者こそ、佐賀駅に書店が戻ってきた時に1番喜んでくれた。町の書店は若者のためにあるべきだと思う」と指摘。また、神田神保町に自らオープンしたシェア型書店「ほんまる」では、出展者の30%以上が企業の製品紹介に利用、行政からの引き合いもあると紹介。
 「次世代のために書店を残すという、青臭いかもしれないが、この1点で出版界は繋がって変えていけなければ、滅んでも仕方ないのではないか。私は必ず今年が書店復活の元年になると信じている」と述べている。
 この6月14日には東京駅構内のグランスタ八重洲(東京・千代田区)の地下1階に、グランスタ八重洲店がオープンした。売場面積72坪。営業時間は午前10時から午後9時まで。八重洲ブックセンターは、今年初め、阿佐ヶ谷駅前の書店「書楽」が閉店した時にも、すぐ同店を救済するため八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店を開店した。町の書店が消えてゆく流れをストップさせようと、書店業界としての努力を示そうとしている。

 長年、出版社に勤務し本を作ってきた小生にとって、今村さんの奮闘には頭が下がる。何よりも「町の本屋さん」で本を選び買うのを楽しみにし、喜びとしていた者の一人として心から応援し、機会あるたびに私も「書店の大切さ」を訴えていきたい。(2024/6/20)
posted by ロバの耳 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 余生私語録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック