防衛省は、東京から1900キロも離れた日本最南端の小さな島、南鳥島(小笠原村の一部)に、陸上自衛隊が保有する「12式地対空ミサイル」の射撃場を整備する。
このミサイルは地上から海上の艦艇に攻撃するもので、射程100キロを超える射撃場の整備は国内で初めて。すでに小笠原村へは計画を説明済みで、2026年以降、年に数回の訓練を実施する見込み。
実はこの南鳥島は、核のゴミを地層処分する最適な候補地に挙げられたことがある。3年前、文化庁芸術祭優秀賞を受賞したドキュメンタリー番組「ネアンデルタール人は核の夢をみるか─核のごみ≠ニ科学と民主主義」を制作した北海道放送報道部デスクの山ア裕侍氏は、2022年1月号のJCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」の寄稿で、こんな秘話を明かしている。
あるイベント会場で顔を合わせたルポライターの鎌田慧さんが、「核のゴミの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるのを知っているかい?」と山アさんに尋ねた。山アさんが初めて知ったと答えると、数日後、鎌田さんがファックスで送ってくれたのは、南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。
番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)が、その提案を蹴ったことを明らかにした。
もう一つは筆者が、2023年6月号JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」に掲載した記事だ。
東京の都道府県会館で5月末に開かれた関東地方知事会議で、静岡県の川勝平太知事が核のゴミの最終処分場として南鳥島を候補地に検討すべきだと、小池百合子都知事に提案した。
静岡県には浜岡原発(5基のうち1、2号基は廃炉。3、4、5号基は長期停止中)がある。核のゴミに関心を持つのは当然だけれども、唐突感は否めない。川勝知事がこんな提案をした理由は、同県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)と、同県発行の雑誌での対談が引き金になっている(今年1月の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)。
対談で平所長はこう述べている。
「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6キロの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数キロほどボーリングして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」
川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
この川勝提案に対し小池都知事は「国がしっかりと対応すると考えている」と、そっけない答えだった。
核のゴミの地層処分計画を進める政府は、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で、文献調査を進めている。
地震大国・日本には、10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われている。こうした状況下で、南鳥島にスポットライトが当たった。さっそく平所長に取材を申し込んだが、残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。
いま進む陸自の地対空ミサイル射撃場の整備は、結果として南鳥島の核のゴミ最終処分地説を幻に終わらせることになる。
2024年08月05日
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