8月ジャーナリズムと嘲笑されても、戦争の惨禍を記録し、記憶し続ける本は書かれるべきだし、率先して読むべきであろう。
『世界』9月号(岩波書店)の特集「癒えない傷、終わらない戦争」は、「社会の荒廃と人間の破壊」である「戦争がもたらす長期的な影響」を直視するよう呼びかけている。
同誌の中村江里氏(上智大学准教授)「戦争のトラウマを可視化する」は、隠されてきた日本軍兵士の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究を紹介している。中村氏が指摘するように、「かつての戦争を正当化する『英雄の物語』や『被害者の物語』に安易に回収されないようにするためにも、被害国の側の語るトラウマと向き合い、対話を重ねていく」ことが重要だ。
ジャーナリストの布施祐仁氏「自衛隊と戦場ストレス」(同誌)にも注目した。イスラエル軍の予備役兵のエリラン・ミズラヒ氏はパレスチナ・ガザ地区の任務に就くように緊急召集令状を受け取った直後、妻と4人の子どもを残して自殺したという。ミズラヒ氏は昨年10月も緊急召集され、遺体の収容作業に従事し、軍事作戦にも工兵として戦闘に加わったそうだ。彼はPTSDと診断されたのに、再召集されたのだ。
布施氏は、10人を超えたというイスラエル軍兵士の自殺について、日本の自衛隊にとっても無縁ではないという。陸上自衛隊のイラク派遣の約2年間で22発のロケット弾や迫撃砲弾が宿営地を狙って撃ち込まれた体験や東日本大震災の災害派遣時の遺体回収など、自衛隊員が過酷な体験を強いられてきたことがわかる。躊躇なく人を殺す訓練などの結果、精神を病んでいくアメリカ軍兵士の体験を紹介しつつ、戦争が人間を破壊していく悲惨を強調している。
一方で、戦争を食い止める叡智を集めるどころか、『Voice』9月号(PHP研究所)は特集「戦後79年目の宿題」で、憲法改正や安全保障、日米地位協定などを挙げ、いわゆる戦後政治の総決算を思い出させる、戦争への道を提唱している。
それでいいのか? 土井敏邦氏『ガザからの報告 現地で何が起きているのか』(岩波ブックレット)は、虐殺されているガザの人々の「現場の生の声」が報道されていないことに警鐘を鳴らしている。土井氏の指摘に学び、戦争を食い止める叡智は、「現場の生の声」に隠されていると考えたい。ジャーナリストの仕事の重要性もそこにある。
2024年09月09日
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