過酷事故を起こした東電福島第一原発の1号機から4号機は廃炉が決まっている。政府と東電は完了までに30年から40年と見込んでいるが、その程度の期間で済むのかと疑念を抱いていた。というのは、4号機を除く原発3基はいずれも炉心溶融いわゆるメルトダウンを起こし、溶け落ちた核燃料(デブリ)が格納容器内に落下し、極めて高い放射線を放出しているので、いまだに作業員はもちろん遠隔操作のロボットも入り込めていないからだ。
廃炉を進めるため必要なデブリがどこにどれだけあるのかがまったくわからない状態である。こんなことでは、デブリの回収を2021年末までに着手することは困難ではないか。JCJが3月10日に主催した「福島原発の深層」と題した講演会で講師を務めた元京大原子炉実験所助教の今中哲二さんもこう語った。
「事故から5年経過しても現場検証ができない。デブリがどこにあるのかなど一切、不明だ。これでは後始末に手をつけられない。30年から40年に廃炉と言っているが、実際は見通しがないのでとにかく期間を挙げただけ。エンジニアは自分の目の黒いうちに廃炉が完了するとは思っていないだろう」
1986年4月にメルトダウンを起こした旧ソ連のチェルノブイリ原発4号機は、建屋内に今もデブリが残る。30年たっても回収できていない。
日本テレビ解説委員時代にチェルノブイリ原発を取材したことある科学ジャーナリストの倉澤治雄さんによると、ウクライナ政府は、廃炉作業を急いでいない。その理由として@原発を熟知するベテラン技術者が不足A安全にデブリを取り出す技術が確立していない―などを挙げていた。
マンパワーが圧倒的に足りず、技術もあやふやでは、廃炉作業を大きく前進させられないのだ。
従って、政府は放射性物質が半減期に達するまでこのまま放置するのが得策としている。廃炉完了までに100年の歳月を覚悟している。
福島第一原発の場合、原発3基が同時にメルトダウンした人類が初めて遭遇した事態。廃炉作業を終了するには100年かかることもあり得る。原発は一度過酷事故を起こすと後始末に膨大な費用(福島原発はこの5年間だけで約26兆円の予算を投入)と時間を費やすのだ。この教訓がまったく生かされていない。
2016年03月13日
2016年03月11日
《短信》5年目の「3・11福島」に想う=守屋龍一
9日、大津地裁が下した「高浜原発─運転差し止め」の決定は、私たちにとって、大きな励みになるものでした。
福島原発事故の原因究明すら道半ば、こうした状況で、新規制基準の妥当性にも、疑問を投げかけ、さらには事故が起きた際の避難計画もズサンとの指摘は、誰しも頷く、まっとうなものです。「安全神話」が復活し、原発再稼働の動きが、大手をふってまかり通る風潮に、警鐘を乱打する内容です。
満5年を迎えた「東日本大震災」は、いまだにイチエフのメルトダウンした炉心の状態がどうなっているか、わかっていません。燃料デブリが、どこに、どれだけあり、どうやって取り出すか、そしてどこに持っていって処分するのか、まったく手を打てていないのが実態です。廃炉までの40年、私たちは、絶えず不安にさらされ続けます。
放射能汚染による健康被害も、いまだ続いています。被曝線量年間20ミリシーベルト基準にしても、日本全国の基準・年間1ミリシーベルトと比較したら、おかしな基準です。被災地の人たちには20倍の基準を強いてもいい、こんなダブルスタンダードは許されません。健康や命の重みに格差をつけるなど、許されません。
いまメディアは、さまざまな角度から、<東日本大震災5年>を特集しています。貴重なレポートもたくさんあります。傾聴に値する提言も多々あります。
しかし、どうしても気になるのは、「東京電力の責任」追及の弱さです。第1義的に、東電の製造者責任(PL)や管理責任は免れません。炉心溶融の判定基準を定めた社内マニュアルを見過ごし、事故発生後3日のうちに、対応できたにもかかわらず、5年もたって、東電社内で、見過ごしのあった事実を認め、やっと謝罪する体質は、あまりにもひどすぎます。まだ隠ぺいしている事実や資料が、たくさんあるのではと疑いたくなります。
もっともっと、東電の責任が追及されてしかるべきです。メディアがやるべき仕事でもあります。
福島原発事故の原因究明すら道半ば、こうした状況で、新規制基準の妥当性にも、疑問を投げかけ、さらには事故が起きた際の避難計画もズサンとの指摘は、誰しも頷く、まっとうなものです。「安全神話」が復活し、原発再稼働の動きが、大手をふってまかり通る風潮に、警鐘を乱打する内容です。
満5年を迎えた「東日本大震災」は、いまだにイチエフのメルトダウンした炉心の状態がどうなっているか、わかっていません。燃料デブリが、どこに、どれだけあり、どうやって取り出すか、そしてどこに持っていって処分するのか、まったく手を打てていないのが実態です。廃炉までの40年、私たちは、絶えず不安にさらされ続けます。
放射能汚染による健康被害も、いまだ続いています。被曝線量年間20ミリシーベルト基準にしても、日本全国の基準・年間1ミリシーベルトと比較したら、おかしな基準です。被災地の人たちには20倍の基準を強いてもいい、こんなダブルスタンダードは許されません。健康や命の重みに格差をつけるなど、許されません。
いまメディアは、さまざまな角度から、<東日本大震災5年>を特集しています。貴重なレポートもたくさんあります。傾聴に値する提言も多々あります。
しかし、どうしても気になるのは、「東京電力の責任」追及の弱さです。第1義的に、東電の製造者責任(PL)や管理責任は免れません。炉心溶融の判定基準を定めた社内マニュアルを見過ごし、事故発生後3日のうちに、対応できたにもかかわらず、5年もたって、東電社内で、見過ごしのあった事実を認め、やっと謝罪する体質は、あまりにもひどすぎます。まだ隠ぺいしている事実や資料が、たくさんあるのではと疑いたくなります。
もっともっと、東電の責任が追及されてしかるべきです。メディアがやるべき仕事でもあります。
2016年02月23日
◎短信/植村氏が要望、朝日の慰安婦問題検証記事=橋詰雅博
日本軍による慰安婦問題で「ねつ造記者」と烙印をおした文藝春秋と東京基督教大学の西岡力教授への名誉棄損を訴えた元朝日新聞記者の植村隆さん(57)の4回目の口頭弁論が17日に東京地裁で行われた後、16時から参院議員会館で報告集会が開かれた。
第2部のフリージャーナリスト・青木理さんとの対談で、植村さんは2014年8月5日付朝日新聞が掲載した慰安婦問題検証記事について、実は自ら朝日新聞に検証してほしいと要望し、それが実ったことを明らかにした。
「記事をねつ造したとしたら、私は犯罪者になります。従ってそうではないと関係資料を持参し朝日新聞を訪ねて検証記事の掲載をお願いした。朝日側も吉田証言や慰安婦、植村記事を交通整理しようと考えていた時期だったようで、私の要望が検証に踏み出すひとつのきっかけになったと思う。検証記事では、植村の記事は事実のねじ曲げはないと結論づけたわけで、期待していた通りで無罪となり安心した。ところが逆に植村バッシングが激しさを増し、非常勤講師を務めていた北海道札幌市の私立北星学園大に植村を辞めさせろという抗議がたくさんきた。検証作業はよかったが、結果は予想外でした」
植村さんは当初、孤立無援で闘っていたが、TBS報道番組「ニュース23」が植村バッシングを取り上げたことに感動したという。
「番組アンカーの岸井成格さんの『このバッシングの背景には歴史を否定する勢力がいる』と指摘したコメントは、素晴らしかった。勇気をもらいました」
そして今の言論状況に植村さんの危惧は募る一方だ。
「自由にものが言えない社会に傾いている。言論の不自由時代に入っている。どん底から這い上がった私は、元気になったが、メディアの委縮が進んでいる風潮にすごく心配しています」
植村さんは、バッシングと闘った手記「真実 私は『捏造記者』ではない」を岩波書店から26日に刊行する。なお、北星学園大の非常勤講師を退職した植村さんは、3月から韓国ソウル近郊の私立カトリック大の客員教授として東アジアの平和と文化についてペラペラの韓国語で講義する。
2016年02月16日
◎短信/「日韓合意」「朴大統領の外交戦略」など語るハンギョレ東京特派員=橋詰雅博
韓国の「ハンギョレ」新聞(1988年創刊、日本語で『ひとつの民族』の意味)と言えば、朝鮮日報、中央日報、東亜日報の3大紙に次ぐ有力全国紙だ。政府に最も批判的な論調で知られ、日本語版もYAHOO!ニュースで読める。その東京特派員の吉倫享(キル・ユンヒョン)さんが、昨年12月末の日本軍による慰安婦問題に関する日韓合意などについて1月28日、都内で講演(アジア記者クラブ主催)した。
日本に赴任して2年の吉さんは「こんなに早く慰安婦問題で日韓が合意するとは思わなかった」と前置きした上で、こう語った。
「訪韓した岸田外相の記者会見に出ていたが、外相が合意文書を読み上げただけでした。この問題で日韓が4年間ケンカしていたのに、これで終わりとガックリきた。安倍首相が頭を下げるシーンもなく、東大名誉教授の和田春樹先生が『韓国が安倍政権の奇襲攻撃にやられた』と言っていましたが、会見を振り返ってみると、まさにそんな感じでした。合意内容は日本の10億円拠出(元慰安婦への償い事業に使う)は別にして、『強制連行=法的責任=戦争犯罪』を認めず、今までの安倍政権の立場を改めて確認したのに過ぎません。それなのに朴槿恵(パク・クネ)大統領が合意を受け入れたのは、対中国を意識し日韓関係改善を望むアメリカが圧力をかけたからだと思います。しかし、日韓両国は信頼を深めていません。冷たい協力関係です」
10億円拠出の前提条件とされるソウルの日本大使館前につくられた少女像の移設について、吉さんは「韓国では4月に総選挙が行われます。日本の政治状況と同じように与党セヌリ党が強い。与党が選挙に勝てば、少女像の強制撤去はあり得ます」と推測する。
日本に法的責任はないと書いた世宗大の朴裕河(パク・ユハ)教授の著書「帝国の慰安婦」問題も、韓国内で関心が高い。
「韓国の検察が彼女を刑事起訴したことに国内では芳しいものではないという意見が強い。もともと彼女は文学者。夏目漱石などの著作を韓国語に翻訳して出版している。ひとつの見方だが、慰安婦関係資料からはそうした主張に至らない」
朴大統領は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の暴走にブレーキをかけるため後ろ盾の中国に急接近する対中戦略を積極的に進めたが、結局、失敗に終わった。
「北朝鮮は中国にさえ事前通告せず1月に4回目の核実験を実施した。それでも中国は北朝鮮への制裁に動かない。韓米日の3角同盟で北朝鮮の封じ込めを図ると、中国と対峙する。韓国にとって国益になるのか。それより北朝鮮と対話する太陽政策で北朝鮮に変化を促すのがいいという声は根強い。3角同盟に走るのか、太陽政策を復活させるか、朴大統領の決断にかかっている」
金第一書記に揺さぶられる朴大統領は政策の大幅修正を迫られている。
2016年02月09日
<短信>昨年政府の要請で延期の国連「表現の自由」調査官が4月来日
国連人権理事会が任命した「報道の自由」を調査する特別報告者の米国人デービッド・ケイさんは、昨年12月1日から8日の日程で訪日し、調査を行う予定だったが、直前の11月に日本政府から延期の要請があり、取りやめたのは記憶に新しい。
ケイさんは「失望した」とコメントし、彼と面談して情報を提供することになっていたNGOなどは「まるで独裁国家。民主主義国家ではありえない」と政府を強く批判した。そしてNGOは政府に早期の訪日実現を求める行動をとったのだ。
これが功を奏したのか、ケイさんの訪日が決まったと、ヒューマン・ライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士や秘密保護法対策弁護団の海渡雄一弁護士などが公表した。時期は4月12日から19日だ。この間にケイさんは、@秘密保護法の実施状況Aメディアの自由と独立性をどのように実施しているのかB市民の知る権利がどう担保されているのかC個人が公共の場やインターネット上で自由に発言できているか否か―などを調査する。
伊藤弁護士らは「表現の自由に関する状況の改善に確実につながる機会とな るよう、日本政府が特別報告者の調査に誠実に協力するよう求める。また、私た ちも政府機関とも協力し、公正かつ十分な調査が実現できるようにしたい」と述べている。
今年夏には参院選挙が行われる。もしかしたら衆院選挙もあり得る。国政選挙前に日本の「報道の自由」がどのレベルに位置しているのかをぜひ知りたい。ちなみに世界のジャーナリストの人権を守るための組織「国境なき記者団」が公表した2015年「報道の自由度」ランキング(対象180カ国)では、日本は14年の59位からさらに2つ下げ61位と大きく後退。これは秘密保護法成立と施行がもたらした結果だ。
ケイさんの調査が注目される。(橋詰雅博)